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第一話 任務


 岩場を挟んだ坂道を重い足取りで登ってくる人影がひとつあった。


「――はぁ、はぁ……」


 息を切らし、大きく呼吸するたびに、ゆるくカールのかかった紫色の髪がゆったりと肩で揺れる。


(はぁ……、こんな急な丘の上だとは思わなかった……。寝坊なんてしなかったら……、輸送車に乗れたのになあ)


 後悔しながら歩を進め、――ようやく坂を登りきったところで息を整え、あたりを見回す。

 丘の上では、隊員たちが(せわ)しなく各々の作業をしていた。


〈あ、いた……あの人、かな〉


 そんな隊員たちを横目に歩いていくと、宿営用テントの入り口付近にいる、ひときわ背が高く、どっしりと構えた男性を見つけると、そそくさと前へ出ていった。


「……んぐっ、一等戦闘士官ミリス・ヴェスタ、――ただいま到着しましたっ!」


 唾を飲み込み、すっかり乾ききった喉を濡らしながら、辛うじて声を出す。


 声をかけられた男はミリスを一瞥(いちべつ)してから、(かたわら)に置かれたタブレット上の電子名簿を確認して口を開く。


「……ん、ヴェスタ士官――か、遅かったな。ほかの士官はすでに任務を開始しているぞ」


 厳しい表情をしていたが、起伏のない穏やかな口調だった。


 ミリスは現地の少佐官に指示を仰ぐように言われていたため、男の腕の階級証を見て、とりあえず駆け寄ったが、どうやら彼が任務の指示役で正解だったらしく、少しほっとした。


 ミリスは謝罪しようと息を整えて姿勢を正したが、かまわず男は話し出す。


「現在の状況を確認しておく……。

 この先の炭鉱跡で救難信号が発信されたが、――いぜん発信源を発見できず。

 さらに奥には〝FRAN(フラン)〟どもが巣食っていて進路を阻まれている状況だ。

 ――戦闘士官である君は、先行している捜索隊らに合流し、進路の安全確保と要救護者の捜索に参加すること」


「…………」


 淡々とした必要最低限の説明に意表を突かれ、頭の中で整理するのについ間が空く。


「……聞いているのか? ヴェスタ士官」


「――あっ、は、はい! 了解、しました!」


 ミリスは、しまったというような表情で慌てて返事をした後、「失礼します!」とだけ投げかけて、丘の奥手にある炭鉱跡の洞窟の方へ、早足で歩き出した。



          ***



〝――ボタッ〟


 洞窟内の入り口付近は、すでに人影がなく、がらんとしていた。

 どこかで雫が垂れ落ちる音だけが響いており、少し肌寒い。かすかな硫黄(いおう)の匂いが鼻をついたが、少し歩くとすぐに鼻が慣れた。


〈――オグテ炭鉱洞窟跡、だっけ。中は入り組んでそうだな……〉


 ――この炭鉱は百年以上前に貴重な鉱石がいくつか採掘され、国を潤していたらしいが、それも一時のこと――、今ではすっかり掘りつくされ、この丘の上で洞窟ごと放棄されてしまったという。


 内部は通路に沿ってレールが敷かれ、その道中で通路がいくつも枝分かれしており、炭鉱作業の痕跡が今でも残されている。

 しかし、そのレールは何か所も途切れていて、散乱した道具類は錆つき、すっかり廃墟の様相をしていた。


〈でも、ライトが設置されてる……!〉


 古びた風景の中でも、真新しい照明具が明るく周囲を照らしていた。捜索隊らが設置したであろう簡易サーチライトが宙に浮かんでいる。……これを辿れば先行隊に合流できるだろうか。


 そこまで状況を確認できたら、「はぁ……」と、一呼吸。


 ミリスはとぼとぼと歩き出しながら息を整える。


〈任務の前に疲れてたら世話ないな……。さっきもついボーっとしちゃったし)


 ここまでの道中で、すでにミリスは足が棒のようになっている。

 疲れていたとはいえ、先ほどの上官の前でのあわてっぷりは自分でも情けない。

 

 ミリスは歩を進めつつも、気を取り直すために装備の確認を始める。


 腰のベルトには軍支給の短剣――〝T-29式ブレード〟(テルキス社最新型モデル)が一丁。


 刃渡り四十センチ程の大型ナイフで、ハンドル部はしっかりと滑り止め加工がされ、順手と逆手を持ち替えやすいように程よく手に収まるサイズに設計されている。


 (さや)はベルトの後ろ側に横にして取り付けられていた。


 ミリスは、引っ掛かりがないか確認するように何度か刃を出し入れする。

 途中でくるりと持ち替え、軽く構えてから鞘に収めた。


〈……武器は、よしっ〉


 胴体には胸から脇腹までを覆うボディアーマー。

 ――胸部のみに白銀色のプレートが装着されており、あとは強化繊維で加工された黒地の不織布がぴっちりと体にフィットしている。


 その上から赤い丈の短いジャケットを羽織り、下は深手のポケットが付いたショートパンツだ。


 胸のプレートの中心あたりに〝プロテクトシンボル〟と呼ばれる〝衝撃緩和壁展開装置〟が取り付けられており、それがこの最低限な軽装備を可能にしていた。


 〈炭鉱内で何が起こるかわからない。プロテクトを起動しておこう……〉


 ミリスはプレートの上から親指を数秒沿わせると、


〝――ブゥン〟


 と、いう音とともに目には見えない電磁波が体に張りめぐらされる。

 この特殊な電磁波は受ける衝撃を和らげ、身体へのダメージを大きく軽減する、

 ――究極的に軽いフルアーマーと言われる軍装備だ。




 そうしている間に、炭鉱の中腹あたりまで進んだミリスは、先行していた戦闘士官たちと合流する。




あとがき


ここまでお読みいただきありがとうございます、


主人公はミリスという女性です。19歳。


ミリスは戦闘士官で、FRANフランという、いわゆるモンスターと戦う役目をもっています。武器はナイフ。防具は胸のプレートだけですが、プロテクトシンボルという全身を守る電磁波を纏って戦います。


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