(Ⅳ)
「そんなことより、リリロロは商売リロ。士官さんはたぶん難しく考える癖があると思うリロ。だから、これで癒されるリロ」
「別に難しくは考えないけど……これは?」
「アロマポット、リロ。豊かな自然の香りでぐっすり眠れるリロ! リリロロにはわかるリロ。士官さんはなにか心配事で悩んでるリロ。香りの力でリフレッシュして自分を見つめなおすのをおすすめするリロリロン!」
そう言って、ぐいとポットをミリスの鼻先まで突き出す。
こいつ……散々古代古代と言っておきながら、出してきたのは古代技術に関係ない普通に今ある火で焚くアロマポットだ。
しかし、私の悩みってのが――どうせ適当言ってるんだろうけど――ちょっと当たってるのがくやしいな。
「アロマか……」
レインの枕元に置いてあげたら、すこしは悪夢というのもマシになったりしないだろうか。そうでなくても、ちょっとでも気持ちの癒しに繋がるなら……あってもいいのかもしれない。
「……じゃあ、それもらおうかな」
リリロロはその言葉をまってましたとばかりに満面の笑みを浮かべ、万歳した。
「お買い上げありがとーリローっ! 士官さんがはじめてのお客さんリローっ! 初お買い上げおめでとーリローっ! 士官さんが買ってくださったリローっ! ドンドン! ぱふぱふ!」
リリロロは、ぱふぱふ言いながら、パフパフラッパを鳴らして、ミリスに向かってクラッカーを放った。その騒がしい音がロビー中に響きわたる。いや、わざと響き渡らせるように騒いでいる。明らかに。
普通の人ならば、その惨事に恥ずかしくて顔を赤くしてしまうだろう。
「でも、別売りのアロマオイルの値段が高いんだけど、ちょっとおまけしてくれない? はじめて記念ってことでさ」
だが、ミリスは冷静だった。幾多の騒音を鋭くかいくぐり、その言葉の切っ先で眉間を貫くように交渉に入った。
そして、ふいに眉間を貫かれたリリロロは沈静化した。
「……わりと、がめついリロね」
「なにか?」
「な、なんでもないリロ! お安くしますから、これからもごひいきにーリロ! ウヘヘリロ!」
と、リリロロは両手を重ね、お願いするように……いや、あからさまなゴマすりをするように言った。
そして、ひとしきり値段交渉したあと、ミリスは包んでもらったアロマポットを手に立ち上がる。
「……ところでさ、ずっと気になってたんだけど、言葉の最後にリロリロ言ってるのは、なんなの?」
立ち去る前になかなか言い出せなかった質問を、思い切ってした。
「語尾リロ。リリロロのアイデンティティに関わる重要なファクターであり、個人主義のメタファーたりえるイデオロギーの体現なのは言うまでもないリロ」
と、ドン引きするほどの早口で答えた。
「あ、そ……」
ミリスは、なんだこいつ、と思った。




