(Ⅰ)
「レイン、その格好で寒くない?」
ミリスはレインが眠る病室の中にいた。ベッドのそばの椅子に座りながら、〈霊体〉のレインのほうを見て体調を気遣うように尋ねる。病室は小さな個室になっており、他人の目には映らない霊体に向かって遠慮なく話すことができた。
レインは自分の体を見るのに抵抗があるのか、ベッドからすこし離れたところにいた。床に座り込んで、おなじく〈霊体〉の犬――リックとじゃれていた。
レインはリックの鼻先に小さな手のひらを広げ、ちょっとまってね、という仕草をしてからミリスのほうを見る。
「んー、あついさむいとか、なんとなくは感じるけど……それが快適とか、つらいとかって感覚にはならないかなあ。やっぱり実際の体じゃないからかなあ」と、答えて、
「あ、でも、この帽子とケープはつけてたいかな。せっかくミリスにもらったんだもん」と付け加えた。
「そんなお古じゃなくて、レインが望むなら、好きな服とか買ってあげるよ?」
「ううん、これでいい。ミリスと繋がりができる気がするから」
レインは少し目を伏せて言った。
――レインにとって見知った人との繋がりが、心の拠り所といっていいかもしれない。
家族や知人の記憶がなく、その幽体の姿のようにぷかぷかと〝心〟が宙に浮きっぱなしなのかもしれない。
世間や人とつながる鎖は、時に枷にもなり得るが、その実、自身の存在をつなぎとめる楔ともいえる。大袈裟かもしれないが、アイデンティティの喪失は存在の消滅にほかならないのだ。レインのさみしい顔を見るたびに、そう実感させられる。
……だから決めたのだ。この子の繋がりにならなければ、と。
「ミリス? どうしたの?」
「……ううん、なんでもない。何か体調に異変があればすぐ言うんだよ。
気温のことだけじゃなくて、頭痛いとか、おなか痛いとか……」
「もー、心配しすぎだってばー」
レインはそう言ってオーバーにうなだれた。
「レインがすぐ無茶するからでしょ?」
「ミリスだって」
間のない言葉のラリーに、お互いムッとした顔を見せつける。
……反抗期なのかな?
「――じゃ、私は任務報告書、提出してくるよ。すぐ戻るから!」
と言い捨てて、ぷいっと振り返って立ち上がり、ドアノブに手をかける。
「すぐ帰ってきてよ!」
とレインもふくれっ面で吐き捨てるように言った。




