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第三話 思念


「――残留思念って知ってるか?」


 湖のそばの宿営地で、二人の補給隊員が作業しながら世間話をするように話し始めた。


「残留思念? ……呪いだとか、地縛霊だとか、そういうものか?」


「いいや、そういうのじゃない。()()んだ、実際。――迷信とか、都市伝説とか、スピリチュアルなものとか、そういうのではなく。自然現象としてな」


「自然現象……?」


「――いや、自然、っていうのは間違いか。そこには確かな〝意思〟があるからな」


「どういうことだ?」


FRAN(フラン)、だ。()()も立派なFRAN。――FRANが無念にも人に倒される時、強い脳波を発するらしい。……人間ども、許さないぞ!ってな。

 その脳波が微細な静電気に少しずつ記録されて、それがどんどん集合していくと、電気の塊になって、人に襲いかかるらしい……!」


「ふっ、なんだそれ。なんかのホラーか?」


「本当なんだよ! 有名な研究者もそうやって発表しているんだ! もし、そいつに見つかると、どこまでも襲いかかってきて、死ぬまで感電させられるらしいってな!」


 話しながらも、その眉唾な話におかしくなり、お互いふざけ合い始めていた。



          ***



 ――ミリスは、湖に沿った森の中、木々に挟まれた細い道を歩いていた。


 レインは後ろからミリスの肩に抱きつくようにくっつき、きょろきょろと辺りを見回していた。その表情はおびえた小ねずみのようだった。


「……ねえミ、ミリス、あそこでガサガサっていってる……っ」


 そう言って、草木が揺れている所を指差す。


「大丈夫だよ、レイン。さっきみたいな大きなスネイクは、ここらへんにはあんまり出てこないから」


「あんまり……って」


 そうつぶやくと、ぎゅ、と肩を掴む手に力を入れた。

 そんなレインの不安をよそに、ミリスは平然とした顔で歩を進める。


 ミリスは見知った道を歩くように、慣れた足取りだった。


 コルトレイクは人々の生活に密接に関わる水源のため、FRAN(フラン)討伐に関係する任務がたびたび発令される。


 新米戦闘士官たちは、まず、コルトタウンに派遣され、湖周辺の警備から始まると言われている程、戦闘士官たちにとっても深く関わる街である。


 戦闘士官の一人であるミリスも、その例に違わず湖の警備は何度か経験していた。




 ――しばらく歩いていると、ミリスは突然歩を止め、つぶやく。


「木が倒れてる……」


 目の前に、道をふさぐように木が数本倒れていた。


 ミリスは屈んで、倒れた木を見回す。


「も、もしかして、正体不明のFRAN(フラン)っていうのが切り倒したのかな……?」


 レインが後ろから、震えた声で言った。


「……うん、そうかも……。木に大きな爪痕のようなものがついている、スネイクがやったわけじゃなさそうだ……。この先に何かいるかもしれない」


 一人で納得したように、意気込んで立ち上がる。


「……ちょっとまってっ! この先にいくの?」


 倒木の根本の先には、いかにも整備されていない獣道が続いていた。

 レインの確認する言葉に、ミリスはやはり平然と答える。


「そうだけど?」


「あぶないよ……! 他の人と協力してもらったりとか、しないの……?」


「レインって意外と心配症なのね」


「ミリスが大胆なだけー!」


 ミリスの飄々(ひょうひょう)とした態度に、ムッとしてすこし声を荒げる。


(……わたしのことは、無理するな、って言うくせに、自分がやることは無茶ばっかり!)


 ――スネイクとの戦闘の時でもそうである。対峙していた隊員の前に出て、わざとスネイクたちに注目させたのだ。遠くから、水弾で狙えば安全に攻撃できたかもしれないのに。


 ただ、それを外せば、スネイクの怒りを買い、隊員たちに襲い掛かる可能性があったのは理解できるが……。


 しかしだからといって、自分の危険を顧みない行動には違いないのだ。


 ――そんな心の中の抗議に、ミリスは気にも留めず、


「レインは私の後ろにくっついてて、私が守るから」


 と、言って、ためらいもなく、草木を分けて進み出す。

 無理に通るものだから、腕や足に枝がひっかかって傷がつく。それでも構うことなく突き進む。


 レインは不満そうな顔をしていたが、それを見ると、肩の力が抜け、


 (――この暴れん坊は、わたしが守らないと……〉


 と、心の中で軽く誓った。



          ***



 獣道の先を進むと、一本のさらさらと細く水が流れる沢に出た。


 水で冷やされた澄んだ空気が、透き通っていくように鼻孔を抜け、爽やかに気持ちにさせる。




「ミリス、向こうに人がっ! 男の子だよっ!」


 沢を見るやいなや、唐突に声を上げるレイン。


 ミリスは、はっとして向こう岸に目をやると、岩の影で屈む少年が見えた。

 ――あれは、ライオじゃないか!


「……あ! 幽霊憑きのおねえちゃん⁉」


 ライオも、こちらに気付いたようで声を上げる。


 よく見ると服は泥だらけで、焦げた跡もみえる。

 なにかあったの? ――そう問いかける前に、


「――そこに()()()()! 逃げてっ!」


 ライオが先に叫んだ。

 

(……なんのことだ? しかし、今はとにかく、ライオのケガの様子を見なければ――〉


 沢を飛び越えようと岩場に足をかけた、――その時、横目で何かが見えた。


 それに顔を向けると、流れる沢の上で、光るものが、浮かんでいる。


 そして()()から、ピシッ、ピシッ、と空中がひび割れるように、細かい稲妻(いなずま)がはじけている。


 (――聞いたことがある〉


 自然の中で発生する〝静電気〟が密集し、そのエネルギーが増幅して出来たプラズマ体のような存在。


 (――ウィスプと称されるFRAN(フラン)を……! しかし、何度かこの湖に来ているが、こうして実物を見るのは初めてだ〉



 “バチィィ――――ッ”



 その姿を確認したと同時に、激しい音とともに腕に強烈な熱と痺れが一度に走る。

 稲妻が放たれた――と、気付いたのはその身に受けてからだった。


 勢いよく腕が弾かれ、ミリスはそのまま倒れこみ、岩場に叩きつけられる。


「――ミリスっ‼」


「ぐっ……来ちゃダメだっ! レインっ! ――ライオを連れて遠くへっ‼」


 そう叫ぶと、すぐに膝で立ち、水弾を固め、射出する。


 一発――二発、三発――と、矢継ぎ早に、凝縮と射出を繰り返す。


 そのたび、


 〝バシュッ! バシュッ!〟


 と、音を立てて、水弾はウィスプの体を突き抜ける。


 抜けた部分は煙となり、ぽっかり穴が開く――が、一切ひるむことなく、こちらに向かって前進してくる。


 (――効いてないっ?〉


 だが、すぐに思い直す。


 (――いや、ちがうっ! ――こいつは〝自動(オート)〟だっ! 人を襲う、自然そのものだっ! 警戒も恐怖もなにもないっ! 人の存在への反応だけで動いているっ!〉



 “バチィイイイ――――ッ”



 再び、激しい稲妻が、雷音とともに放たれた。


 だが、――稲妻は前に()()()()()()()()()()に命中していた。


「――うっ!」


 レインは短く声を上げ、体が弾かれる。


「――レイン! なんでっ!」


 ミリスはレインを抱きとめ、距離をとるため後ろに飛ぶ。


「わあああ――――っ! おねえちゃんたち、にげてえぇ――っ!」


 対岸からライオが叫び、ウィスプに向かって小石を何度も投げつける。


 小石はウィスプの体を通り抜けて、沢に落ちて水が跳ねるだけだった――。


 当然ウィスプの動きは止まらない。

 再び、その体に電気を充填するように稲光を帯びる。

 水弾で開けた穴も、すでに電流で埋め尽くされ、元に戻っていた。


「う……ぅん……っ」


 腕の中で、レインは体を丸めて苦しんでいる。


 ここでレインを抱えて逃げれば、今度は近くにいるライオに向かっていくだろう。

 ――それも容赦なく。


 ライオはまだ小石を投げている――が、もはやウィスプには届かず、手前の水を跳ねるだけだった。

 ウィスプは、水の飛沫(しぶき)を受け、ぶすぶすと煙を上げていた。


(――煙……? ――これは……、水が蒸発しているだけじゃない?〉


 ミリスは目を凝らしてウィスプの姿を見張る。


(ウィスプの体が、――()()()()()()()()が、削れている――!)


 ウィスプの体は小さな飛沫のサイズそのままの小さな穴がぽつぽつとあった。


 (――私の凝縮水弾の()でも煙となって穴が開いた。

 水で? ――いや、そうじゃない! ()()()()()()()()ことだ――!〉


 ミリスは指先に水弾を構える。


 (ウィスプは、電気による熱エネルギーの増幅体……! つまり、――それを〝()()()〟とっ! その増幅活動を、停止させられるっ!〉


 水弾に、さらに〈凝縮〉を加える。さらに、強く、さらに――。


 すると、水弾の周りの空気が冷やされ、(きり)がただよう。


 〝凝縮〟とは、()()()()()ことだ。

 ――水が氷になるのと同様に、空気が冷やされ凝り固まると、水となるのだ。



 “バシュウゥゥ――――ッ”



 そして、――射出した。〈()()()()()()()。――〝冷気〟を宿しながら。


 ウィスプの体を貫き、穴をあける。


 ――そこから煙を上げ、徐々に穴が広がってゆく……。

 その体を結ぶ電流が散り散りになっていき、――やがて、すべてが煙となって、消えた――。


あとがき


ここまでお読みいただきありがとうございます、


「プラズマ」は冷やすことで、活動をおさえられるらしいです。

たとえば、発電所の熱暴走を抑えるために海水をドバドバ入れて冷やす、あれみたいな感じ。


で、結局、凝縮ってなんなの?って話ですが、冷えることで起きる現象=(つまり〉=「冷気」を発生させるってイメージです。

じゃあ、最初から冷気のプリムスでいいじゃん!って突っ込みたい気持ちはとてもわかります。

でも、「冷気」だけだと発展に限界があるのです。「凝縮」でなければできない能力の活用法を描いていきたいです。


この作品に少しでも気になっていただけれ

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