第二話 捕縛
――コルトレイク。
面積538 km²、最大長66 km。コルトタウンから南に位置し、周囲はすべて森に囲まれ、壮大な自然の景観をもつ。細長いヒョウタンを横にしたような形が特徴の大きな湖である。
湖に向かう前の森の入り口に、小屋が並んだ軍用の宿営地が設置されている。
ミリスは、その小屋の一室で、常駐の士官の話を聞いていた。
「応援に駆けつけてくれたミリス・ヴェスタ、か。着任ごくろうさま。
改めて任務内容を確認させてもらうぞ?」
ミリスは、はい、とうなずくと常駐士官は続ける。
「……数日前に、このコルトレイク周辺に、これまでのデータに合致しない特徴をもった、未確認FRANが人を襲う事件が発生した。未確認ゆえに危険性が予想できず、早急な討伐を目的に任務として発令した次第だ。――先に士官らを何人か、捜索に当たらせている。ヴェスタ士官も、湖周辺の捜索に加わってもらいたいのだが、よいかな?」
「了解です」
ミリスははっきりした声で答えると、小屋を後にする。
「……ミリスっ、わたしにできることがあったら、言ってね! がんばるからっ!」
傍らで口を閉じていたレインが小屋を出た途端、張り切った声を上げた。
――しかし、ミリスは、そのレインのやる気に不安しか感じない。
……レインを一人にしないために、任務に同行させた、とはいえ、FRANと真っ向から戦わせるわけにはいかない。
ただでさえ、実際の体は病室で衰弱して眠っているのだ。霊体が無理をして、何が起こるかわからない。
あくまでレインには、周囲の警戒や偵察を任せるつもりである。
――やる気になってるレインには、まだはっきりとは言ってないけど……。
「……うん、手伝ってほしい時は言うから、それまではおとなしくしててね?」
とだけ、お茶を濁すようにして返した。
小屋から少し歩いたところで、突然一人の男が走って向かってくるのが見えた。
「――あ、あんた、戦闘士官か? FRANが出てきたんだ! こっちへ来てくれ!」
「えっ!」
その切羽詰まった大声が自分に向けられたとわかって、少し戸惑った声が出た。
「戦闘できる奴が全員出払っていて、いねえんだ! まさか宿営地にFRANが近づいてくるなんて!」
それだけ言って、男は踵を返して走っていく。
ミリスは、呆気に取られていたが、すぐに慌ててあとを追いかけた。
***
湖に向かう前の森の入り口――木々に挟まれた細い道。
そこには巨大なヘビの姿をしたFRANが二匹。――人の顔程の大きさの頭を浮かせ、細長い舌をチロチロさせながら道を塞いでいた。
その前には二、三人の補給隊が対峙している。
――補給隊とは、こうした宿営地の管理や戦闘士官の装備調達をする部隊で、非戦闘員である。
追い払おうと長い槍を構えるが、攻めあぐね、ただFRANと睨み合いになっていた。
ミリスは、その様子を確認したら、走って声を上げる。
「――スネイクだっ! 皆さんは下がってっ! ――レインも下がってて!」
湖の周辺に頻繁に出没するFRANで、何度も戦闘経験のある相手だ。
対峙していた隊員の間を抜けて、ブレードを逆手で抜く。
――すると、左右に離れて一匹ずついるスネイクが同時にこちらを睨みつけてきた。
少し睨み合ったあと、足元にあった小石を、右側のスネイクに向かって蹴り飛ばす。
すると、小石に反応するように、体をひねって避ける。
こちらの攻撃の意思を察知したスネークがそのまま、ミリスに向かって飛び出してきた。
“シャアァァ――――ッ”
と鉄を切るような音を上げ、眼前まで迫り来る。
牙が届く前に――ブレードを振り抜き、スネイクの胴体を切り裂いた。
宙でのけぞったスネイクに、返す手で大きくひらいた口内にブレードを突き刺し、頭部を貫く。
そのまま振り払い、ブレードが抜けた勢いで地面に叩きつけた。
――その行動が終わる前に左にいたスネイクがすでに飛びつき掛かってきていた。
ミリスは、左足を垂直に振り上げ、頭部を蹴り飛ばす。
蹴られたスネイクが宙で体をひねりながら体勢を立て直して着地。そして一瞬の間もなく、再び顔を向け飛び掛かろうとしたところで、
“バシュッ――――”
凝縮して固めた水弾を射出した。
一直線に飛んだ水弾は、スネイクの頭部を貫く。
撃たれた衝撃でのけぞり、そのまま後ろに倒れこんだ。
――空気中から水分を取り出し凝り固めて射出する、それがミリスの〈凝縮〉のプリムス能力である。
ミリスは、スネイクが力尽きたことを確認して、一息をつく。
「――ミリスっ! うしろっ!」
突然のレインの大声――。ミリスはとっさに振り向こうとしたが、
木の影から、三匹目のスネイクが飛び出し、すでにミリスの背後から首元にかぶりつこうとしていた。
(――反応が遅れたっ! 間に合わない! 腕をかませるか? ――急所に食らいつかれるよりはマシ!)
と、頭を巡らせる。
――が、スネイクは空中でガクン、と突然勢いをなくし、そのまま、ぼとりと地面に落ちた。
状況がつかめないまま、地面を見下ろすと、スネイクは身を反り返らせ、悶えるように息を切らしていた。
すると、小さな声で、
「……ミリス……、わたしが、とめたよ……!」
――レインがすこし離れた場所で両手を重ね、なにかをつかんでいた。
「……そいつの、魂を、いま、つかんでいるよっ!」
レインはそう言いながら苦しい表情を顔に浮かべていた。
その両手は、赤くなるほど握りしめられている。
ミリスは予想外の出来事に目を丸くした。
(これが……レインの能力? 洞窟の中でもFRANを追い返していた、というのはこの力か……!)
――レインの〈霊体〉のプリムス能力は、自身の魂を実体化させるだけではない。
街へ来る前にレインから聞いていたことがある。
『……魂の色、とか、形? みたいなものが見えてね……それを、遠くからでも感じ取れるの。――もちろん、ミリスの魂も。だから、はぐれたりしないから、安心してね』
そう言って、他者の魂を視認することもできる、というのまでは知っていたが……。
まさか、魂そのものに触れて、掴むことができるのか……?
――魂を握りしめられたスネイクは、その場に縫い付けられたように動けず、息も絶え絶えに弱っていた。
ミリスは、地面に倒れるスネイクの頭部に向かって、ブレードを突き立てた。
しばらく痙攣していたスネイクが力尽きるのを見守ってから、顔を上げる。
「……レイン、ありがとう。無理してない?」
と、声をかけると、レインも安心したように、ふぅ、と息を吐いて笑顔で答える。
「大丈夫だよ! これぐらい、へいきっ! それよりー、わたしが使えるってわかったでしょっ?」
「わかった……けど、だからって無茶はだめだからね」
レインは少しムゥとした顔をした。
それを、なだめるようにベレー帽の上からぐりぐりと撫でる。
***
ミリスは、宿営地にある調理場に立っていた。
調理台の上には、先ほど戦ったスネイクが横たわっていた。
それを後ろから覗き込んでいたレインが、思いっきり怪訝な顔で訊ねる。
「ミリス……何してるの? もしかして、だけど……それ、食べるの?」
「そうだよ」
ミリスの当たり前だとでもいうような答え方に、レインは少し身を引く。
「……なんで……?」
「なんでって……。レインは現代っ子だなあ。生命を頂くって、こういうことなんだよ?」
「そーゆーもんだいじゃない……」
“――ドスッ”
ミリスは、ぶっといスネイクの首を、出刃包丁で力いっぱいに切り落とす。
勢いで頭部が調理台から飛び出し、地面に落ちて転がる。
そしてそれは、頭だけになってもしばらくビチビチと痙攣していた。
レインはそれを見下ろすと、真っ青になり、泣きそうな顔になった。
ミリスはかまわず、皮をびーっと剥ぎとり、水道水で軽く洗ったあと、肉を輪切りにする。
切り終えると、輪切り肉を二枚、油を引いたフライパンの上に乗せ、酒とスパイスを振りかける。
じゅううう、という音とともに、肉の香りを乗せた煙が、もわりと立つ。
「香ばしくて、おいしそう! レインも食べる?」
「……いらないです」
――そのあと、スネイクの肉をおいしく頂いている間もレインは眉をひそめ、冷ややか目を向けていた。
あとがき
ここまでお読みいただきありがとうございます、
この世界、牛とか鶏とか食料になる動物たちは大体FRAN化してます。とても飼育できません。
そいつらの肉を食べるには、戦闘できる人間が狩りをしなければいけません。
ヘビ型FRANは比較的弱いので、手頃に食べられる食料になります。
旧時代には土や海水から作られる人口合成食料が一般的でしたが、今となってはその技術はほとんど失われています。
食っていくのに見た目とか気にしてられません。…といっても私たちの現実でもお店に並ぶ前のお肉とかって結構グロいですよね。
この作品に少しでも気になっていただけれ
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