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異端児

春成国  平人の異端児 



慎ましく佇む平屋から外に聞こえるほど鼾がにわとりの鳴き声に混じる。

二付家は何処にでもある庶民の家である


「柱、早よ起きぬか!」

母のナズナが威勢よく息子を起こす声で一日が始まる

「はぁぁ、腹へったぁ〜」

「朝はおはよう! 早よ顔を洗って来なさい!」

「へいへい」

「返事は〝はい〟です。」

大きな斧を持ったナズナが目を光らせる

「はいはい!い、今やります!」

柱は顔を洗うと庭に出て、慣れた手つきで薪を割っていく

〝めんどくせぇ作業だ〟

「一気に割れろ!」大きく斧を振り上げた瞬間、薪が勝手に割れたのだ。

思わず手を止める柱。

「うん?」

もう一度振り上げ

「割れろ」と言うと勝手に薪が割れてしまう

〝気味悪りぃ〟

割れた薪を積み上げて家に入る

「もう終わったの?」

「勝手に割れた!」

「そんな訳ないでしょう、早よ食べ?遅刻しますよ」

「いただきます!」

朝取りの産みたて卵の目玉焼きを一口で食べ、たくあんを玄米にのせ口へかきこみ

味噌汁で流し込むと

「ご馳走様!」

手を合わせ忙しなく元気に家を出る

「行ってらっしゃい、気をつけて」

ナズナは柱の先ほどの言葉が気になり薪を見に庭へ

「全部、割れてる…」

ナズナは手ぬぐいを強く握りしめる

 = 春成国  七十二校 = 




二付柱ふづき はしらは人気者であると勝手に思っている。

悪戯っ子で授業中の昼寝は毎日。休み時間は友人と駆け回り遊ぶ何処にでもいる少年である。

「柱!柱!これを解いてみろ!」

先生に起こされ問題を解かされる事もしばしば…。

そんな柱の様子を教室の外で眺める山茶花は十二年前に手放した息子の姿をただ見つめている

柱の天能力が現れる年齢を過ぎていた為、定期的に授業という名目で柱の様子を伺いに来ていたのだ。

「次の授業は〝春納〟様である山茶花様による木の観察だ、外に出るように」

柱の担任が大きな声で生徒達を外へ誘導する

「春納様にお会いできて嬉しいわ…」

女子達が笑顔で話している一方で柱は面倒くさそうに外へ出る

「木の観察とか眠すぎるだろ」

大きなあくびをする柱。皆、一列に並び山茶花に挨拶をする

「こんにちわ。山茶花様 」

山茶花は静かに口を開く

「こんにちわ。では授業としよう」

その声に皆が魅了される

「これは梅の苗木である、花は散り春の訪れを静かに待っている。」

山茶花は梅の苗木の小さな鉢を生徒、一人一人に渡す

「この苗木に日々、優しい言葉をかけるとどうなると思う?」

山茶花の言葉に生徒の一人が答える

「美しい花が咲くと思います」

「その通り。ただ言葉だけではなく本当に咲いてほしいと願い、咲いた時を想像し気持ちを込めて言葉をかけるのだ」

山茶花は毎日声かけをするようにと課題を出した

生徒達は大切そうに鉢を抱いた。

柱は腕の中の苗木を見て

「切られたのか、可哀想に…」そっと枝に触った

その瞬間、苗木の枝に次々に梅の花が咲く。思わず手を離す柱

「柱くん凄い!最初から咲いていたの?」

皆が驚く

山茶花は柱に近づき

「いつからできる?」と尋ねる

「……初めてこうなった…こんなん出来た事ない」

そう言う柱に僅かな言霊の〝気〟を感じた山茶花

「この枝を見てどう思ったのだ?」

「ただ俺は…この枝がこうなる前の姿に戻ればいいのにとしか思ってない」

「咲いて欲しいとは思わなかったのか?」

山茶花の声に気がこもり空気が張り詰める

首を横に振る柱

「今日の授業はここまでとする」

山茶花はそのまま平然を装いその場を後にする

〝何という事だ…多少の天能力はあるのは覚悟はしていたが…力が強すぎる

柱の能力はおそらく 〝 時使い 〟使い方を誤れば一国が滅ぶ。やはり双子は禁忌か…〟




 = 夕刻 = 

  

 二付家



「ただいまぁ」

ナズナの返事がない

「母さーん?」

玄関には立派な草履が並んでいる

「誰か来てるのか?」

居間には涙を拭うナズナと山茶花の姿が

「‥何かあったのか? なんで山茶花様がわざわざうちに…」

「お前を迎えに来た。柱。」

全く理解できない柱

「今朝、お前が割った薪を見せてもらった。全てが小枝になっている何を思い、何と言って割った?」

「面倒だと思った…」

「他には?」

「俺はただ面倒だから、こんな大きくなる前の枝に戻れと思った。そしたら割らなくて済むと…それに…斧は使ってない、ただ勝手に割れた…]

「やはり天能力だ」

ナズナが口を開く

「ですが、柱は言霊使いとしての何の教養も受けておりません、こんな事があるのですか?」

「私の読みが甘かった」

二人の会話に入れない柱

「ナズナ、こうなる事は心にとめていたはずだ、柱はこのまま平人としては生きられない。

時が満ちたのだ、柱を四季学仙校中等部へ入れる。」

「…はい」

ナズナの声は震えていた

固まる柱。

「この様子だと自分が何者か聞かされていないとみた…。 ナズナよ、十二年間大変ご苦労であった、ありがとう。」

頭を下げる山茶花

「頭を上げてください、兄上…私が赤子の柱を抱いた時、お義姉様からの贈り者だと

〝大切に育てる〟と決め、十二年間親になる事ができました。有難うございました。」

「どういう事だ…?」

気が乱れる柱に山茶花が片手を上げる

「それ以上思った事を口にするな、今は。」

山茶花は気を高め言霊術を放つ

「 マガモ 」

その言霊術を受けた柱は不思議に平常心になる

「ナズナよ、あとは母と子として二人で話すと良い」

その場を去る山茶花

「柱、全てを話します」

ナズナは覚悟を決め、柱と向かい合い座る

柱も落ち着いてナズナを見つめる

「山茶花様は私の兄です。十二年前の嵐の日、兄の妻、菜の葉様は男の子をお産みになられた。

私がとりあげ、春成期と言う事もあり大変めでたき事と喜んだのも束の間でした。菜の葉様は苦しみ出し…もう一人赤子を産みました。それが柱、あなたです。言霊使の双子は禁忌、目の前の子を殺さなけれだいけない状況になり二人の赤子を抱いた菜の葉様は我が子に保護呪文をかけた。私に柱を託し、言霊還しをし、兄と私に看取られました。このことはすぐに言霊使たちに伝わり、二人の赤子を安らかに天に還そうと試みましたが、菜の葉様が命がけでかけた保護呪文に跳ね返されてしまった。そうして双子の兄、立春が兄の元で柱は私が育てる事になった。双子は

表裏一体、二人を引き離す必要があったのです」

「つまり…俺は…春納様が父で、立春という兄がいると…」

頷くナズナ

「そうです、柱。そしてあなたは〝言霊使〟です。」

言葉を聞いた柱の右腕に激しい痛みが。

ナズナは慌てて立ち上がり柱の袖をまくり隅々まで腕を見る

〝まさか、刻印が…〟

刻印が現れていない事に安堵するナズナ

「柱…あなたの体に刻印が現れた場合、お前は一生を煉獄堂で過ごす事になる」

泣き崩れるナズナの背中に手を当て柱はゆっくりと、ただゆっくりと背中をさすった。

柱の頬には涙が流れていた。

〝マガモ〟の効力が残っているおかげか、酷く冷静だった。


この日を境に柱は七十二校へ行くのをやめ、家でナズナと残りの時間を過ごすようにした。

思い返せば幸せな十二年間だった。

父は遠くにいると聞かされ、父親がいない生活だったがナズナとの暮らしは笑顔に溢れ、何よりも愛されているのを感じていた。遠くにいた父は何度も学校で会っていたのに、気が付かなかった。だが、あの日〝マガモ〟の言霊をあびた時なぜか心地良く懐かしさを感じのだ。

〝立春は俺と似ているのだろうか…〟会いたいようで会いたくない。



別れの朝、ナズナはいつもと変わらぬ笑顔で柱を送り出す

「気をつけて」

「ありがとう、行ってきます」

柱はこの言葉を最後に言葉に気持ちを込めるのをやめた。

〝前を向け、振り返るな。だって母さんが泣いているだろうから〟

〝だからさ、母さんも体には気をつけて。〟


       = 異端児 柱 編 =



 ※気をつけての日本語の意味を理解できたであろう

 ※『マガモ』とは鳥言葉で平常心


    次回、四季学仙校中等部編へ続く

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