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ヒハシと小照

幼ない小照は自身の天能力を使い、試合結果を書き換えてしまう。その罰として小照に協力したモズもお仕置き部屋に入れられる。

夏成国は今、リル王からの奇襲を受け、朱雀が死にナオイク王の命さえも揺らぐ事態に、一刻も早く無くなった音図回収をし東西南北の神山にいる四季神に会うべく命をかける覚悟の言霊使の卵たち。

一方、同じ天能力を持つヒハシと小照は初代夏成国王である舜天王の墓の前で話合う事に。

舜天王もまた、未来が見える天能力を持ち言霊神伝を書いた言霊使であった。

= ヒハシと小照 =



夏成国・王宮外の玉陵タマウドゥン 


ヒクイナ、ヒハシ、小照は初代夏成国王 舜天王の墓である玉陵へ向かう事となった。


幼い小照は、ヒクイナとヒハシの顔を見て二人に投げかけたい質問を必死に抑えていた。

そんな小照の空気を読み取りヒハシは優しく微笑んだ。


「私も、君に沢山質問したい。」

小照の心をお見通しのヒハシの声は何処か遠くにあった。


ヒクイナが足を止め、左手を太陽にかざすと、指先から光がさし三点の光が地面を照らした。


「ヒハシと小照は光の上に」

ヒクイナの指示に従うよりも先にヒハシと小照の足は光に導かれるように動いた。


ヒクイナがそっと手を下ろし、地面に膝をつき静かに腰を下ろした。

「私も二人に聞きたい事が沢山あります。」


ヒハシと小照も地面にそっと膝をつき静かに腰を下ろし三人は互いの顔を見た。


「さて、誰から…」

ヒクイナの言葉に小照が一番に手を上げた。


「私は… 一つ、どうしても分らないのです。ヒハシ様の思想に賛同されたヒクイナ様世代の言霊使たちは皆がその思想に賛同されたのでしょうか? 私はヒハシ様と同じ天能力を持っていますが、次の世代に自身の思想を植え付けてまで未来を変えようとは思いません。」


「…さすが、日照様のお孫様だ。幼いのに賢いな。」

ヒクイナの口元が少し微笑んだ。


「私たちにとって、ヒハシ様の存在は異質であった。と同時に言霊使として圧倒的な力を持っている事は周知の事実だった。特にあの世代は…。何せよ未来が見えるのだ、その天能力を持っていた事があるのは舜天王以来の事。それは同時に言霊神伝の続きが分かると言う事…」


「まだ、話が分らないのですが…」

小照は純粋な顔で眉間に皺を寄せた。その顔を見てヒハシは悲しい眼差しを小照に向けた。


「少し昔話をしよう。私は自分の天能力を自覚したのは物心ついてすぐの事だった。何故か確信してしまう、母が若くして死ぬ事やこれから起こる災害などが分かった。だが、全てが見える訳でもない。幼かった私は見えた未来を軽々しく口にするようになった。例えば、『三件先の叔父さんは馬車の轢かれて片足を失う。』『あの子の家のお婆さんは雨の日に葬式だ。』など、初めは大人たちは誰も信じず私は父によく叱られた。だが、私が口にした事が本当になると両親は気が付いた。自分の息子は未来が見える天能力があるのではないかと。そして私は九つの時に結界樹竹の森に保護という名の隔離をされる事になった。

幼かった私は両親に捨てられたと思い、父と母が迎えにきてくれる事を祈った。毎日毎日、朝、昼、晩とね。でも、二度と私を迎えに来ることはなかった。

学仙の友人だけが心の拠り所だった。早く中等部へ行って誰かと息をして、誰かとご飯を食べたかった。

そして知恵授かりをした十三歳の日に私は未来が見えたんだ。

双成国がなくなり、言霊使は消え、皆が死ぬ。

私は、どうしても同期の仲間達を守りたかった。私にとって、同期の彼らだけが僕を周りの大人たちとは違う綺麗な目で見てくれた。

そこで、私は考えた。私が見えた未来を違った未来する事を頭で想像し念じる事で、未来を書き換えらるのではないかと。

天能力を私利私欲に使う事は禁忌。天罰が下る事は承知だった。

私は、この双成国の人々にかけた。

どうせ無くなるのなら、他者を攻める事ができない自然災害、地震を起こし世界に同じ種を蒔き、その後の人々の感情や想いが憎しみに向くのか、他を責めずに前を向き生きて行くのか。私はこの双成国の人々を信じていた。

表向きは声帯を取られて人質になった者とされているが、正しくは声が出なくなった。という事。言霊使が声を出せないのは、祈りの力が発揮できないに等しい。

私は未来がぼんやりと見える無力な言霊使になり、他国の錬金術師に仮の声帯を移植してもらった。

 ただ、私が起こした地震のせいで多くの人が死んだ。罪は重い。双成国、獣国にもただ平和に生きる者達がいるというのに。私は人も獣もあまり変わりがない事を悟ったのは獣国へ人質として過ごすうちに、彼らは彼らなりの言い分や歴史があり、多くの者は家族を想い、自分を見つめ孤独を感じる者や何者か(人)になりたいと願う者、腹が減れば食べ眠る。だが、私は双成国の人間だ。この天能力を持って生まれた意味をただ…ただ。恐れていたのかもしれない。小照の言う通り皆が私の思想に快く賛同した訳ではない。まだ幼かったヒクイナ世代の言霊使に私が書いた言霊白書を読ませ、賛同するように仲間が動いた。ただ、それだけだ。つまり、同志の天能力の力を使い洗脳に近い状態にした。何故、私がここまでするか分かるかい? 全ては未来に血を繋ぐため。双成国の血が途絶えぬようにと。私は舜天王がどんな気持ちで言霊神伝を書いたかは分らない。だが、未来が見えると言うのは良いものではないと言うことだけは分かるのだ。

小照?君は未来が怖くないのかい?」


「怖いです。何故なら私は、自分が獣国王に食われる未来が見えます。ですが私もこの国の人々を信じています。国がなくなり、言霊使が消えても、魂は消えない。」


「どうして、怖くないんだい?」


「無くしたものが返ってくる。私たちは物理的に死んでも、この心だけが無くせない。そう信じています、怖くはありません。私はこの人生での自分の役目を全うします。そして、また夏成国に生まれたいのです。」


「僅か、七つの子が言う事ではないな…」

ヒクイナとヒハシは目を合わせた。


「はい。私は、物心がついた時から前世の記憶があります。」


小照の言葉に驚いた表情のヒクイナとヒハシ


「今、何と言った?」

ヒクイナが思わず聞き返した。


「私は、初代夏成国王、舜天王の記憶があります。徐々に忘れてはいきますが。」


「その事を日照様や朱雀様は知っているのかい?」

ヒハシの驚いた表情は少し何処か納得していた。


「いいえ、知りません。この事は口にしてはならないと自然と思っておりました。」


「舜天王は何故、見えた未来を書に残し、後世に残したのであろうか…言霊使が消える未来などを…どうして。私ならば少しでも幸せな未来を嘘に変えて書いてしまう。現に私は書き変えた結果がこの有様だ。後悔はしてないが…」


ヒハシの伏せた眼差しは泥みかかった水のようである。


「舜天王も、ヒハシ様と同じお気持ちだったのではないでしょうか。見えた未来が信じ難いものであったと思います。だから、わざと書いたのです。」


「わざと?」


「舜天王もまた、全てが見えていた訳ではなかったのです。時を超えて自分を理解してくれる者に託した書。同じ天能力を持つ者に続きを書いてほしいと祈り舜天王は短い生涯を終えました。彼もまた、孤独だったのです。

未来が見える天能力は王の力を持っても変える事はできないのです。

ヒハシ様と自らを煉獄堂に行くことを決意された大命様。 舜天王の気持ちは届いたています。時代の転換期がきたのです。 この日をずっと待っていた。

『ありがとうヒハシ』」


その時の小照の顔は凛とした青年の顔つきに見えた。それはまるで舜天王が微笑みかけているようであった。


数秒だけ小照の目を見つめたあと、静かに深々とヒハシは小照に頭を下げた。


『ヒクイナ姫よ。夏成国を頼みました。』

小照が低い声で囁くと、その場で小照は我に返ったように瞬きをした。


そして、玉陵上空に大きな虹がかかったのであった。七色に光り、天に伸びる虹の橋は時空を越え先人の言霊使たちが微笑みかけて静かに消えて行く光景に見えた。

それはまるで舜天王の魂を垣間見た美しさであった。


「どうか安らかにお眠り下さい。」

ヒクイナは額を深く下げたまま、一雫の涙を流した。


その日を境に、小照は舜天王だった頃の前世の記憶が全く思い出せなくなった。

それは小照の孤独の試練の始まりであった。

前世の記憶がない今の小照は、ただの七つの女の子。自分が獣国王に食べられる未来が見え、これから何人も人が死ぬ事、そして見えた未来を書かなければならない事。

全てが一気に押し寄せ震えていた。


「小照、其方を決して一人にはしない。私の命あるがぎり君を孤独にはしない。」

ヒハシは強く小照を抱きしめた。


「ヒクイナ様。小照と私を結界樹竹へ隔離していただけませんか?」


「分かった。一つ約束をして下さい。二人が今後どのような未来を描くかは私は関与しません。決してどんな未来であっても未来を書き換えようとはせずに。この子はまだ知恵授かりすらしていない幼い子です。例え、小照が獣国王の犠牲になる未来が見えたとしても、私たちはできる限り、この子をお守りましょう。」



舜天王の記憶がない小照の顔はとても幼くヒハシはそっと強く言霊を吐いた。


「大丈夫ですよ、小照。私がいますから。」


小照は大粒の涙を流しヒハシの胸元を濡らした。



その頃、冬成国へ向かう、立冬、睡蓮、葉楓、蟄の四人は玄武神に会うべく蝦夷本山へと着実に足を進めていた。



次回、冬成国 = 玄武編 約束の花火 =


次回、冬成国 = 玄武編 約束の花火 =


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