旧友
酔イ踊レ乱舞二回戦目が終わり、ヒハシが書いた通りに未来が進んでいない事に気が付くヒハシ。
ヒハシと同じ天能力を持つ者が密かに話を書き換えている事に気が付くヒハシは酒に毒を入れた共犯者として旧友に拘束される。
獣国で長い間人質に囚われていたヒハシは敵か、味方か...
= 久しぶりの再会 =
春成国、蟄の父である参時がヒハシの前に現れる
ヒハシが声帯を取られ出ない声で参時に話かける
「ひさ…ぶりだ…、さ…じ」
「お前の目的は立春か柱だな?」
参時を見て、にっこりと笑うヒハシ
「悪いが、春成国の大切な言霊使を誘拐されるのは、いくらお前でも見逃せないな。」
首を傾げてにっこりと微笑むヒハシ
「山茶花と居待がお前を探してる、見つかればどうなるか分かるな?」
首を傾げ困り顔をするヒハシ
「お前がいくら物語を書き換えても、獣国との統一は許さない。それに、失った仲間達は二度と戻らない。歴史に争うな、お前は自分の天能力を自己の野望の為に使っている。
あの子達が音図を使い、ハクビシンに願うのは、黄泉返りでも、統一でもない。あの子達はこれから自分たちの命を全うにして、双成国の平和を祈る。変わる事はない。」
「…同級生とは戦いたくないなぁ」
声が出ないはずのヒハシがはっきりと言葉を放ち、驚く参時。
「お前、いつから話せる?」
「獣国にはね、優秀な錬金術使がいるんだよ。すごいでしょ。でも借り物の声だから言霊を上手く使えなくて困るよ。」
「誰かの声帯を移植した、と。でも言うのか?」
「そう、双成国では決して許されない行為だね。でもどうだろう?本当に悪い事かなぁ。国の為に一生祈り、ただ死んでいく。それは正しいの? 国の為にお前の息子も死ぬかもしれないのに、それは許せるの? だったら、どっちが狂ってるの?おあいこだよね?」
そこへ、山茶花と居待が現れる
「久しぶりっ、同級生はいいね。懐かしいよ。」
ヒハシが言葉を放ち驚く、山茶花と居待
「お前…人質生活が長くて獣国の奴らに情でも湧いたか?桃の木学長もお前の仕業か?」
山茶花が〝気〟を放つ。
「3対1かぁ。これは敵わないや。僕はね、変えたいんだよ。この世界を。僕が持って生まれた天能力で、全て書き換えてやる。刻印の力は頂くよ。僕を信じてくれないの?その為に〝菜の葉〟に双子を産ませる物語にしたのに」
「ふざけるな!あの地震で、どれだけの人が亡くなったか、なぜ、大命にやらせた。どうして書き換えた…」
「国の為に祈るより、自分自身に祈りたいのさ、僕は。お前達は古臭いよ。」
「獣国と統一すれば、双成国は滅ぶ。そうなれば、この世界が滅ぶ事を意味する。」
居待が強い目でヒハシを見た。
「居待は昔から怖いなぁ。白露はきっと毎日寂しい思いをして暮らしているんだろうね。でも、白露とかぐやの二人が一緒の人間なのは僕が書いた物語ではないよ。僕と同じ天能力を持つ先人の言霊使が書いた物語、私を責めないでね。」
「ヒハシ、どうやって音図を盗んだ?」
参時の台詞に吹き出して笑うヒハシ。
「忍びの家系なのに爪が甘いよ、本当に。僕にはね、僕を慕ってくれる信者がいるんだ、双成国に。」
驚く、山茶花、居待、参時。
「まさか、あの子達の先生を使って…」
「正解。人はね、身近な人たちが死んでいくと強くなる。結束する。君たちみたく。でもね、当時まだ未熟な言霊使の卵達は恐怖する。そこをつくんだよ。君たちは強いから。弱い下の世代に呪文をかけた。あの子達が僕を崇拝するように書き換えた。」
「お前は何がしたい?」
「『眠り世』だよ。分かるかな? 人はやがて言霊を忘れ信じなくなる。そして不死を叶え、夢の世界で好きな人と結ばれ、好きな仕事をし、好きな場所に住む。想像の世界で夢を見ながら、思い通りに自分を操作するのさ。これが一番の平和と調和なんだよ。」
「空想の中で生きて何になる?」
参時が煙草に火をつけた。
「今いるこの世界だって、僕が書き換えようと動いてる。これも誰かの空想の物語なのかもしれないよ。だから僕は全てが嫌になった。みんなが幸せな世界で生きれるのさ。死んだ仲間にも毎日夢で会える!夢ならば…」
「天能力を使って歴史を変え、錬金術で人を人ではない者となる。お前の罪は重いな。」
参時が煙草の煙を吐く
「他人の声帯だと上手く気練りができなくてね…そうだ、ドクダミ先生に診て貰おうか…それとも芒種か…」
「お前が書いた〝書〟は声帯を取られる前の物…だがその書を読める言霊使は死んだ、お前が願う『眠り世』とやらになるはずの一歩が崩れたか…〝気〟が動転してるようだ」
山茶花がヒハシ冷酷な目で見た。
「…嫌だねぇ。同じ閏言霊使は、何でも感じとる。山茶花…どうか怒らないでおくれ。私は最善を尽くしている。…まぁ信じては貰えそうにないか…
私と同じ天能力の言霊使がいる。この試合も書き換えられてる。どこまでの力がある者かは分からないが、幼ければ幼いほど、今後の展開が悪くなる所までは読んでいるか、知らないのか…一度書き換えれば未来が歪む、誰かは分からないが、きっと今焦っているだろうねぇ。」
ヒハシの目は何処か悲しみに満ちていた。
「ヒハシ、お前を拘束する。」
参時がヒハシの腕を縄で縛ると、イユが殺気にを立てて声をだす。
「イユ、やめておきなさい。この人たちは強いから。」
= 幼き 言霊 =
第一試合の終わりに夏成国の会場外の出店に心躍らせるながら歩くのは秋成国から来た寒露の弟のモズ。
モズは夏成国の熱気と人の穏やかさに自然と笑みが溢れていた。
人混みの中、モズは一人の少女とぶつかってしまう
「すいません、大丈夫ですか?」
「大事ありません、其方は秋成国の者ですか?」
「あ、はい。でも、どうして私が秋成国の者だとお分かりに?」
「香りと気迫です。申し遅れました、私は文月小照です。」
「あぁ、君は小暑さんの妹さんか。私は満月寒露の弟の満月モズだ」
「やはり、この本は…」
小照は大切に抱えた本に目をやる
「うん?大丈夫か?」
小照の青冷めた表情を見たモズは小照の顔を覗くと本から放つ強烈な香りに眩暈を起こす。
「私よりも、モズさんの方が大丈夫ですか?」
「あぁ、私は生まれつき鼻が効く特性を持っているだけだ…大事ないが…その本は一体何なのだ?」
「分かりました!」
小照はモズの手を引くと本を大切に抱え走り出した。
「ちょ、どこへ行く?」
「モズさんならできるかもしれません!」
「何の話をしている?」
「時間がありません、私を信じて一緒に来てください!」
「だが、第二試合が… 」
小照はモズの手を引き走り出すと、乱舞会場から少し離れた小高い丘へ向かった。
「ここは…」
モズが丘の上から見た景色は言葉では言い表せないほど美しく、神秘的な場所であった。
「なんと美しい…」
「モズさん、時間がありません!私を信じてください!」
小照の言葉にハッとするモズ
「小照…一体どうしたと言うのだ?」
「モズさんは言霊神伝をご存知か?」
「知ってはいるが、実際に読んだ事はない、それがどうしたと言うのだ?」
「やはり、秋納様のお孫さまです!今私が持っている本が言霊神伝です!」
「…そのようだな…確かに実在するのだな?」
モズは言霊神伝という本はある事は知っていたが、モズにとってはただのおとぎ
話が詰まった本くらいの認識である
「モズさん、よく聞いて下さい、言霊神伝は予言書です。初代夏成国王 舜天王様がお書きになられた書物です。」
「本当なのか? 王様であり言霊使でもあったという?」
「そうです!舜天王の天能力は先見視力書記です。このところ兄はこの本を肩身離さずに持ち少し変でした。」
「…小暑さんが…いや、ただ読み込んでいただけではなのか?」
「風呂やお便所にまで持ち歩き、兄が寝ている隙にこの本を手に取りわかってしまったのです。この本に書かれてる事は全てこれから起こる事が書かれていると」
「まさか、何百年も前の物だぞ。それに読めるのか?当時の文字を?小照には、まだ難しいと思うが…私でも読めないであろう。」
モズは頭をかきながら歩きだす
「次の試合は秋成国だ、姉様も出るんだ。悪いがもう行くよ」
「このままでは、秋成国は負けてしまいます!」
「何を言っている…」
小照は手に持っていたもう一冊の本をモズに見せた
「これは言霊白書です、この作者も舜天王と同じ天能力を持つ者と思います、この作者である 水仙堂ヒハシは言霊神伝を書き換えて未来を変えようとしています!」
「まさか、その本に秋成国が乱舞で負けると書かれているとでも言うのか?」
モズは小照の話を信じずに大笑いする
「信じて下さい、何者かが、乱舞で振る舞われる酒に毒を入れるのです!」
「あはははは!ありえん、秋成国の酒に毒? 」
「信じて下さい!このままでは夏成国を含め、乱舞会場にいる人の大勢が大変な事になるのです!!」
小照の小さな体から〝気〟が溢れ出ていた
「小照…落ち着いてくれ。急に言われても私はどうしたら良いのだ?」
「力を貸して下さい!」
小照の真剣な顔はどこか大人びていた
「…どうしてこの本が予言書だと思うのだ?」
「私が書いたからです。」
「言っている、意味がわからないんだが?」
「私には前世の記憶があります。断片的に成長とともに薄れてはいますが、私はこの本を書いた記憶があるのです、ですが今世ではまだ知恵授かりの儀を受けておりません、今世の天能力が前世と同じ先見視力書記とも分かりません、ただこのままでは
乱舞が大変な事になります!」
「つまりは小照は舜天王の生まれ変わりだと? 何と申せば良いのか…小照の言う事を信じたとして、私にどうしろと?それになぜもっと早くに日照様に言わなかったのだ?」
「私にも確信が持てませんでした、ですが読み解くうちにやはりこれは間違いないと先ほどの試合を見て確信に変わり、キツネ様の元へ向かい走っていたところにモズさんとぶつかり手が触れた時に確信したのです。この人だと!」
「何を確信したのだ?」
「モズさん、今ここで知恵授かりの儀を私にして下さい!」
「何を言っている、小照も私も知恵授かりをする年齢になっていない、それに知恵授りの儀をできる者は…満月家の当主であるお祖父様だけだ」
「違います、満月家次期当主はモズさんです。できます。」
「バカバカしい、そんな訳がない、お父様もいるのだ。まだ私たちは自分の天能力も自覚していない未熟者だぞ。」
「ならば、モズさんのお祖父様が亡くなられた場合、お父様が家を継ぐとお考えか?」
「…それは…父は学仙の教師としての道を選ばれた、家を継ぐのは…私だと思ってはいるが…」
「キツネ様も鼻が効くお方です、モズ様も。これはただの生まれもった特性ではなく満月家当主に相応しい者の証です。そう本にも記されてます。」
モズは少し考えた顔をした
「私はまだ信じられない。知恵授りの儀には大幣と榊と酒がいる それに神社で執り行う どれも揃ってないぞ」
「この場所は夏成国神社中央の丘です、そしてこのガジュマルの木の葉を使いましょう、酒はこの神社に祀られている物を使いましょう」
「…私にできるだろうか…お祖父様がしている所を毎回見ているだけで、とてもできるとは思えん…」
「小照はモズさんを信じます!」
「……」
モズは小照に言われるがままガジュマルの葉を手に取り自身の〝気〟を集中させた。
モズは知恵授り儀を思い出し小照に向け葉をそっと小照の頭に撫で下ろすと小照はそっと酒を口にした。
僅かな数分の祈りと空間が過ぎると小照の顔が別人のようになり、懐にしまってあった筆をとり無心に字を書き始めた。
モズは体から汗が吹き出し息を整える
「一体これは…」
モズは書物に字を書きこむ小照の姿を見て初めて確信をする、小照の話は真実だと。
= ヒハシの誤算 =
縄に縛られたヒハシは大人しく参時に従う
「私を縛ったところで何も解決しない事くらいお前ならわかるだろうよ、参時」
参時は黙ったまま煙草に火をつける
「相変わらず、煙が好きなんだね」
「ヒハシ、お前も落ちたな。生まれ持った天能力を間違って使って…」
山茶花が冷たい目でヒハシを見た。
「間違った…か…では聞くが、正しい天能力の使い方を教えてはくれないか?」
ヒハシが〝気〟を荒立てる
「利己的ではなく利他的に使え」
山茶花が吐き捨てるように言うとヒハシは声を枯らして笑いだす
「アァハハハハハハハハハッ、本当にめでたい奴だ。俺が何の為に声帯を取られてまで獣国の人質になったかわかるか?獣国の王は次の試合で仕掛けるぞ、狼を。」
「今夜が満月で狼族がいたとしてもここは双成国、夏成国だぞ、狼族は変化する事など不可能だ。」
参時が煙草の煙を吐き出す
「馬鹿だね、思い込みと奢りは紙一重何だよ、参時。獣国は双成国との統一を今か今かと狙っている、平和協定などという紙切れ一枚の口約束をいつまでも通せると思うなよ」
ヒハシがイユを見て悲しい顔をする
「すまないイユ。私はやはり双成国の人間だ。」
「嘘だ、裏切るのか?」
ヒハシは優しく微笑みかけるとイユは膝から崩れ落ちる
「イユ、私は初めからこちら側(双成国)の者だ。少し誤算が生じてるが…イユは獣国側につくか?まだ私を信じてくれるかい?」
「わからない。ただ、私は人になりたいのだ」
「生まれ持った螺旋を君の力で変えることができたとしても心まで変わるには、この国で赤子から育たなければ難しいだろうね」
イユの目からは青い涙が流ていた。
「二人の間に何があったかは知らないが、ヒハシお前は煉獄堂に収監かどうなるかはこれから決める」
参時の煙草の煙がヒハシの顔にかかる
「嫌いだ、昔も今も。」
ヒハシはどこか悲しげな目をした。
「参時、山茶花、居待。信じて欲しい、狼族を止めてくれ。でなければ世界大地震の比にならない程の死者が出るぞ、戦争が始まってしまう。」
山茶花と参時、居待が目で会話をする
その時、最終試合のドラの音が会場外にも響き渡り決勝戦が始まるのであった。
狼族が襲いかかる足音が無音で迫る中、山茶花と参時と居待はヒハシの言葉を信じる事ができるのだろうか。
一方、未熟な力で天能力を使った小照とモズは丘の上で倒れていた。
次回、決勝戦 夏成国 対 秋成国
次回 酔イ踊レ乱舞決勝戦 夏成国 対 秋成国