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月食

= 酔いしれて =



 酔イ踊レ乱舞の会場は人々で賑わい会場に入れず外に人が溢れるほど、この大会を楽しみにしていた大勢の人で埋め尽くされていた。


開会式の笛が空高くなり雲一つない青空に太陽と昼の月が今日という日を祝福しているようである。


美しい歌と三線がなると会場西方向の特別席に人々が注目する


「獣国御一行様がお入りになります。」

司会進行の美しい声と共に獣国の要人たちが乱舞会場に姿を現すと皆は拍手で出迎えた。

その中には、一際美しく微笑むヒハシの姿があった。


獣国の要人達が席に着くと会場は静まり琵琶の音色と共に本日の主役、言霊使の卵達が入場する。


会場北門からは、冬成国、立冬、大雪、大寒

会場東門からは、春成国、立春、蟄、清明、柱

会場西門からは、秋成国、葉楓、寒露、かぐや

会場南門からは、夏成国、睡蓮、芒種、小暑、海

それぞれの方向から同時に会場に姿を見せると割れんばかりの拍手と共に声援がこだまし紙吹雪が宙を舞う


「これより酔イ踊レ乱舞、開会式をはじめます。会場の皆様はご起立ください。」

会場は席を立つ足音だけが静かになった


会場中央には夏成国王のナオイクがこの世の者とは思えぬほどの神聖な〝気〟を放ち会場中の人々が息をのむ。ナオイクが深く頭を下げると皆は一斉に頭を下げる


「今日という日が皆様と共にあり、言霊使の卵たちの魂を皆と共有し双成国の繁栄を願い、これより酔イ踊レ乱舞を開始とする。」


ナオイク王の声が会場中を包むと太陽の光が一筋にナオイク王を照らし神秘的な空気と共に乱舞が始まる。


「皆様、着席願います。」

静かに席に着く音が風のようになり鐘の音がなる


一回戦目は、春成国 対 夏成国 二回戦目は 秋成国 対 冬成国となった。

勝ち抜き戦の為、一回戦敗退の場合は優勝は無くなる。

団体戦で戦い、どの国の言霊の団結力が強いかが勝敗を分ける事になるのだ。


一回戦目から自国開催の夏成国が出る為、会場は熱気に包まれた。



会場では祭りの酒が振る舞われ皆が喉を潤し気持ちを高揚させた


蟄、小暑、葉楓、立冬は目を合わせると、すぐに自分へと気を集中させた。


その姿を見たヒハシは穏やかに微笑んだ。

〝 契りの結束をしたようだね 〟ヒハシは心の中で呟いた。


春成国、夏成国の言霊使の卵たちは前に出て、向かい合うと、呼吸で共鳴を始める



ドラの音が会場に響くと共に試合が始まる


春成国は立春を中心とし柱、蟄、清明の四人は 〝春の言霊〟を唱え始めると桜吹雪が会場を埋め、観客達は桜の花びら浴びる

透き通るような〝気〟に意識を吸い込まれそうになる。


夏成国は小暑を中心とし、睡蓮、芒種、海の四人は〝デイゴの花唄〟を唱え始めると夏の海風のように強い風が渦を巻いた。それはまるで会場の夏成国の民の願いを包み込むような見事な渦巻きを宙に舞わせた。


偶然か、どちらも風の言霊でぶつかり合う。


双方、言霊の力はどちらも同等だが、中でも春成国の柱の〝気〟と夏成国の海の〝気〟が異質を帯びバランスが取れているように思えた。


〝さぁ、どの言霊を使うかな?〟 ヒハシをはじめ、先生方や各国のおさめは目を細める


団体戦の場合、言霊は皆が同じ言葉を吐く事で力を調和させ〝喜怒哀楽〟や〝一心不乱〟などの四文字を放つ、その熟語の意味合いによっては攻撃は全くの無効となる場合もある

例えば、〝意気投合〟や〝以心伝心〟など同じ意味を持つ熟語はぶつかり合うことは無く混ざり合い調和する。その場合はもう一度、共鳴をし気練りを同気させて次の技を考えるが、〝気〟を消耗する為、攻撃を与える四字熟語を放ち、相手を少しでも早く消耗させる事が先手必勝となる。


どちらも距離を保ち、相手の表情から思考を読み取り呼吸の速度、力のバランス、瞳の奥に秘められた心情を、解釈したのちに、四人は阿吽の呼吸で仲間がどの四字熟語を放つか思考伝達させて自分のチームが放つ熟語を決めるのだ。この思考伝達がしっかりできていないと負けが確定する。


春成国、夏成国共に頭がきれる者を中心とし、難しい熟語が放たれる事を意とした作戦だろう。だが、立春も小暑もどちらも頭が良く気の質も似ている。


「これは良い勝負だ!」 小暑の祖父の日照が奥歯を噛む



立春と小暑が互いの目を真っ直ぐ見る。まるで会話をしているかのように。



〝デイゴの花唄〟から読み解くと普通なら〝嵐、自然、悲しみ〟などの意味を持つ。自国開催で何故わざわざ、この技を選んだかを考えた時、これから起こる強さを象徴してると相手に思わせる。つまり、陰の言霊の気で熟語を放つであろう、だが、夏成国にとって必ずしも〝デイゴの花唄〟が悲しみの前触れを意味するとも限らない、自然を愛し自然が知らせてくれる事に感謝する国民性の夏成国だ。陰でくるか、陽でくるか…

立春の思考が微風のように、柱、蟄、清明の頭に流れこんでくる。




小暑は立春の瞳から推測を立てる

〝春の言霊〟を選んだ理由は、〝命・始まり・刹那〟を意味する

それに何よりも春成国らしい、〝礼儀〟を重んじている。会場中の人々の心を一瞬で掴むほどの挨拶だ。見事な計らいだ。春成国は十中八九、陽の言霊を放つ。正々堂々としてやがる。気持ちが良い。実に春成国らしい。裏がない。であるならば、こちらが陰の言霊を放つ事を読んでいる。となれば…

睡蓮、芒種、海の頭に小暑の思考が波風のように流れ込んでくる。



会場中が息をのみ、今か、今かと手を握る


瞬きほどの無音の後に双方が一気に言霊熟語を放つ



「疾風怒濤」(どとうしっぷう)

春成国は陰の言霊を放った。


「豪放磊落」(ごうほうらいらく)

夏成国は陽の言霊を放った。


陰と陽の言霊のぶつかり合い、怒涛疾風は言葉通りに激しい風が波になり勢いを増して夏成国の三人に向けられると、豪放磊落の力が発動し、おおらかにで自由に相手の言霊を包み込むと両者とも〝気を〟消耗しながらもあまりに洗練された言霊に言霊使ではない会場の人々までも言霊の光を目の当たりにし観客達は声にならぬ声を漏らす


〝これはまるで、あの時の私たちのようだね…〟 ヒハシは自分が書いた予言書通りに事が運ぶかを真っ直ぐに見ていた。



「なるほど、完璧な挨拶と礼儀のあとで陰の言霊を放つとは…春成国は本気だな。負陰の力が強い立春の性質と清明の芽吹きの性質、虫使い特有の循環、そして、柱の数霊特性をしっかり生かして四人が調和をとっている…」

会場で見守る、立春の父である山茶花の拳に力が入ると、自分の念が伝わる事がないように、酒を飲み干した。  


〝そうですよ山茶花、この酒には意味があるのです。 言霊使や会場の人々の気持ちや念が試合を左右しないように、酒を飲む事で念を飛ばさないようにしているのです。〟

ヒハシは久しぶりの双成国の雰囲気に心が高揚していた。

そんなヒハシの姿を、獣国から共に来ていた〝イユ〟は切なそうな眼差しを向けた。


「ヒハシ、随分楽しそうじゃないか…やはり故郷はいいものか?」

イユの言葉にヒハシは静かに微笑みを返す。


すると何処からともなく鼻歌のような音が風に流れると観客を含め、皆が音のする方へと耳を傾けると夏成国の四人の呼吸がまるで歌のように聞こえてくる。


「これは祝詞使いの性質を持つ、海に合わせ、睡蓮の火の特性が愛の熱になり小暑の言霊を具現化する事を得意とする特性に加え、仲間が抱える痛みを取り除く治癒の力を持つ、芒種。四人が見事なまでに理解信頼しきっている技…」

孫の成長に胸が熱くなる露草と日照は一気に酒を飲み干す。


会場中がほろ酔いの空気になると、この瞬間が言霊使の卵たちの決め所となる。

会場の念が調和された瞬間に最後の力を込めて放つ言葉は同じである

春成国、夏成国と共に最後の言霊を放つ

「ヨイ、オドレ!!」


双方の言霊が闘技場中央で光に包まれ爆発すると、会場中の桜が海水の雫に変わり人々に降り注いだ。


「勝者、夏成国!!」

審判の蓮角の声が響くと、会場中、歓声がドッと沸いた。


「ありがとう、御座いました。」

「ありがとう、御座いました。」


春成国の四人、夏成国の四人、双方とも清々しい顔で挨拶をすると、会場は拍手で覆い尽くされた。


双方、知能戦を超えた見事な戦いであった。



一回戦目が終わると、各国の余興が始まり酔イ踊レ乱舞は熱気に包まれ笑顔に溢れる会場の人々の波長は凄まじいものだった。


「これが、双成国…波長がとんでもないわ…互いを認め合って争いもせず、文句も言わない、酔っ払っているのにも関わらず、自分本位にならず、これが〝人〟という者なの?」

イユは初めて見る双成国の人々の波動の高さに〝信じられない〟といった表情をした。


獣国の王は唇を舐め回すと振る舞われた酒を一気に飲み干した。


獣国の要人達は目を合わせ震えた。


イユは獣国の錬金術族でヒハシの見張り番を何年もしている。イユの相棒のスグスも双成国の人々の親切な振る舞いに戸惑う。


「聞いていた話とは違う人々のようだ…」

スグスがイユに目を向ける

「酒のせいよ…」

イユが捨て台詞のように言うと、ヒハシは穏やかに微笑む


一方、酒の樽に忍びよる三人の刺客がいた。


〝予定通りか…〟 ヒハシが刺客に近づくと静かに深く頷き、三人は酒樽に近づき自身の血液を少量注ぎ何事もなかったようにその場を去る。

「こんな事して、本当に私達は〝人〟になれるの?」

刺客の一人、ヘビ族のサラが仲間のケラとカゲに問いかける


「ヒハシを信じよう。俺らも〝人〟になれるんだ。」

ケラの言葉は重かった。


「しかしこんなにも賑わって酒も飲んでいるのに会場にゴミ一つ落ちていない、酒樽の場所を聞けば、何の疑いもなく、知らない人が道を案内してくれた…少し親切すぎはしないか?」

カゲも初めての双成国の人々に触れ戸惑っているように思える。


「昔、ヒハシが言ってたよな?財布を落としても必ず持ち主に返ってくるって。本当かどうか試してみようぜ?」

カゲは懐から財布を出すとスッと落として歩き出す


「やめておきなよ、ヒハシの作り話だよ。あんたは他国で一文なしだね」

ケラが笑うと、誰かがそっとケラの袖を引っ張る


「あの、これ落としましたよ?」

一人の男がケラに財布を渡すとお辞儀をしてその場を去る姿にケラは頬を赤らめた。


「信じられない、あの男どう見ても身分の高い奴ではない…」

ケラがカゲに財布を渡すとカゲはもう一度財布を落とした。


「たまたまだろう、双成国の精神性が高いとか、ヒハシの話を聞くのが前から少し嫌だったんだ、俺は信じない!」


「あ、あの…これ落としましたよ?」

今度は子供がカゲに財布を渡すとお辞儀をして去っていく


「も、もう一度だ!!」

ムキになるカゲだったが何度やっても落とした財布はすぐに手元に戻りヒハシが言っている事が証明された瞬間だった。


サラ、ケラ、カゲの三人は自分たちは本当にこのような〝人〟になれるのかと自問自答し心が震えた。

「双成国は悪…俺らはそう言われて生きてきただろう?簡単に信じるかよ」

カゲの言葉にサラとケラは頷く事しかできなかった。

「そろそろ、二回戦目が始まる戻ろう。」

ケラが歩き出すと三人はどこか寂しげに歩き出した。



= 昼の月 =



「まもなく、酔イ踊レ乱舞二回戦目が始まります。」

会場に笛の音がなり、人々は席に座り闘技場中央に注目する



秋成国の葉楓、寒露、かぐや

冬成国の立冬、大雪、大寒が静かに向かい合い一例をするとドラの音がなり試合が始まる


秋成国は葉楓を中心に〝気を〟共鳴させ、ただならぬ空気をまとっていた。


「これは…言霊の卵とは思えない、おさめレベルの〝気〟だ…一体どうなってる」

寒露の父であるトンボが冷や汗をかく

「最初で決める気だろう、この試合に勝てたとしても、次のことは考えてないくらいの意気込みだな…」

寒露の祖父のキツネが酒に口をつけると、酒の味に異変を感じ側近に耳打ちをしその場を去る

「父上?」

急に立ち上がったキツネに驚くトンボにキツネが耳打ちをするとトンボもその場を立とうとしたがキツネがそっとトンボの肩に手をおいた。

「娘の晴れ舞台をしっかりと見ろ、私は勤めを果たす」

キツネが、かぐやの父である居待を連れてその場を去ると、会場にいた各国のおさめがそっと立ち上がる


「すべてが書の通りに行くと思うな、ヒハシ。」

春成国の納の山茶花は殺気立つ〝気〟を抑えながら静かに歩き出した。


〝さすがですね、一口も飲まずに異変に気が付くとは…老いてるとはいえ、やはり納様レベルにはすぐにバレましたか。でもそうやって、あなた方が席を立っている間に大切な二回戦目が始まりますよ。あと数分で月食です。いいのですか…かぐやが白露になってしまいますよ。見ものですね…〟

ヒハシが冷淡な目を漂わせた。

そんなヒハシに優しい念を送る冬成国のカイに気が付く、ヒハシは溢れそうになる涙を堪えた


〝やめて下さい、カイ様…〟


昼の空に浮かぶ月がこれから始まる乱舞を嘲笑っているようだった。


次回、本当の事

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