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酔イ踊レ乱舞

夏成国王と対面し、七夕祭りを楽しむ夜に寒露はある作戦を立てる。一方で蟄と葉楓は何気ない会話の中である事に気がつき疑念を抱くのだった...

= まさかのご対面 =


ドンドン、ドンドン

「すいません!助けてください!」

寒露が診療所の扉を叩き必死に声を出すと、診療所の奥から足音が近づいてくる


「急病ですか?」

白衣を着た女性が心配そうな顔で、寒露、白露、葉楓の顔を見た

「はいっ。私の友人が急に腹を痛がり、声も出せないほど苦しみだしました。」

寒露は白露に演技するようにと指示を送るかのように白露の背中をつねる


「痛いっ。」

思わず声を出す白露は歯を食いしばりながら両手を腹に当てて、うずくまり下手な芝居を打つ


「中にお入りください。医師の六花は先に来た患者さんの手当てをしています。少しお待ちになられるかと…奥の台に横になられていて下さい。」

白露の下手な芝居にも親身に対応してくれる事に胸が痛む白露。


「まずは中に入れたわ!」

寒露が寝台に白露を寝かせる


「本当にこんな事をしていいのだろうか…バレるだろ…演技もイマイチだった…」

葉楓はソワソワしはじめる


「何言ってるのよ!もう少しで、かぐやに会えるかもしれないのよ!」

寒露が小声で怒りだす


「だが、勿忘草わすれなぐさを処方してもらえるとは思わない…」

弱気な白露の顔はどこか青ざめていた


「顔色が悪いけど…大丈夫か?」

葉楓が心配そうに白露を見た


「水が飲みたい…」

白露の顔色は徐々に悪くなる


「俺、水もらってくる」

葉楓は足早に部屋を出ると水場を探し歩き回ると薬草庫の前で足を止めた


〝 勿忘草わすれなぐさがあるかもしれない… 〟


葉楓はいけない事だと分かりつつも薬草庫の中へと自然と足が進んだ


「俺は今、水場と間違えてここにいる…だけ…」

葉楓は自分に、そう言い聞かせながら薬草庫の棚一面に綺麗に小分けされ保管された瓶や木箱に書かれた名前を読み勿忘草を探した。


脂汗が葉楓の額に流れる


〝 あった! 〟

葉楓は木箱の蓋を開けた時、物音がしてサッと木箱を棚に戻す


「君はこんな所で何をしているのかな?」

芒種の父でありこの診療所の医師である六花が、驚いた表情で葉楓を見た


「す、すいません、あの先程、僕の友人が具合が悪くなりここへ来たのですが…み、水を飲みたいと…」

葉楓は必死に〝気〟を整えた


「水場はこの部屋を出て左に曲がった所だよ、君の友人をすぐに診てあげられなくてすまない。今、診てる患者に薬を処方したらすぐに行くよ。」

六花は葉楓を安心させるかのような顔で微笑んだ


「はい…ありがとうございます…」

葉楓は自分の愚かさを恥じながら薬草庫を出た



「水、持って来た…やっぱり嘘は良くない、こんな事はやめてもう帰ろう」

葉楓は下を向きながら水を差し出した


「葉楓!遅かったじゃない、白露が本当に具合が悪そうなの!」

寒露の顔が青ざめている


「演技ならもうやめよう、それに勿忘草を飲んでないって事はツツジ先生も俺らがここにいる事に気がついてるはずだ…もっと違った形で白露とかぐやを会わせてやろう…」


「葉楓、演技じゃないの、白露の息遣いがおかしいわ」


葉楓が白露に視線を向けると白露は背中いっぱいで息をし、喉はゼェゼェと音を鳴らし始めた


「白露、大丈夫か?!」

葉楓は白露の背中をさする自分の指先の爪に勿忘草がついているのを見てハッとする


白露はぴたりと息を止めて全身の力が抜けたように倒れた


「嫌だ、白露、白露!」

寒露は両手を口に当てて震え出す


葉楓は咄嗟に自分の爪に残る勿忘草を白露の口に含ませた


「あなた達、何をやっているの!?」

白露が横たわる寝台にツツジ先生が血相を変えてやってくる


「あの…私が…あ、あの…」

寒露の声が上ずる


「私がなんとかします。今すぐ、この部屋から出ていきなさい!早く!」

ツツジ先生の〝気〟のこもった声に葉楓と寒露は反抗する事なく部屋を出た。


「ギリギリだったわ…」

ツツジが白露の喉元に手を当てて脈を測ると白露の顔色は血色を戻し少しずつ少しずつ、白露の顔は、かぐやへと変わっていった。


「白露とかぐや二人が決して会えない理由はこれなのよ。寒露、葉楓…ごめんなさいね。今はまだ教えてあげれないのよ。」

ツツジは切なそうに、かぐやの顔を撫でた



葉楓と寒露が肩を落として診療所を歩いてると蟄に呼び止められる


「あれ?葉楓と寒露どうした?」


「私の作戦のせいで…ヒィッ…」

寒露が泣き始め、葉楓は寒露の頭を撫でる


「白露の具合が悪くなってさ…蟄は何でここに?」


「私は、西瓜先生と夏成国の森林調査をしていた…西瓜先生が怪我をしてな。私は軽傷で済んだのだが…白露の具合は大丈夫なのか?」


そこへ、立春、柱、清明が来る


「あれ?葉楓に寒露どうした?」

柱がぶっきらぼうに聞く


「白露の具合が良くないそうだ」

「白露も心配だけど寒露も大丈夫?」

清明が心配そうに声をかけると寒露は清明の胸へと抱きつき泣き出した


「そんなに白露の具合が悪いのか?」

立春が心配そうに葉楓を見ると、医師の六花がそっと葉楓の肩を叩いた


「君の友人はもう大丈夫だよ、後でツツジ先生にしっかりと叱られなさい。西瓜先生も心配ない、大丈夫だよ。今日はもう宿舎へお帰り」


六花の言葉に肩の力が抜けてホッとする葉楓の耳元で六花が囁く


「しっかりと手を洗うように。勿忘草は強力だからね」

その言葉に震える自分の手を握り締める葉楓なのであった。






=  足音  =



西瓜が目を覚ますとツツジがうたた寝をしていた。

西瓜はツツジの寝顔にそっと触れるとツツジが目を覚ます


「いけない、眠ってしまったわ。駄目ね。」

ツツジの顔は少し疲れていた。


「こんな所でどうした?今夜は白露が、かぐやになる日だろ。」


「さっき見届けたから大丈夫よ。でも、危なかったわ…あの子達に知られる所だったわ…私、教師失格ね…」


「…いずれわかる事だ…今日…森で、モネに会った」


西瓜の思いもよらない言葉に顔を顰めるツツジ


「モネはあの地震で死んだわ…」


「遺体は見つかってなかっただろ…」


「…あの地震で死ななかった方が奇跡よ。」



西瓜の様子を見に六花がやってくる


「西瓜さん、大丈夫かな? この蜘蛛の毒は強力だ。一緒にいた蟄くんをよく守りましたね…ここに来るのが数分でも遅れていたら助かりませんでしたよ」


「…俺が守ったわけではなく、蟄が虫使いの天能力を持っていたからだ。運が良かった。だが…あの蜘蛛は確かにモネだった。」

西瓜が頭を抱える


「ここは夏成国よ、モネは春成国にいたはずよ…きっと違うわ…」

ツツジが西瓜を慰めるような眼差しを向ける


「…モネさんで間違い無いでしょう。毒の中に春成国特有の花びらが混ざっていました。モネさんは植物使いの天能力があったかと…春成国の言霊使は夏成国では生きてはいけない。縛りを破ればツクモガミの毒に犯され人ではなくなるのです。最後に西瓜さんに話かけたとなれば死の間際に旧友に会えた事で記憶が蘇ったのでしょう。」


六花が椅子に座りため息をつく


「あの時、確かにモネは春成国にいたわ!」

ツツジが感情的になる


「地震後モネは、夏成国へ来たのではないか…モネは…ヒクイナを愛していた。」

西瓜が悲しげな瞳をした


「私たちは言霊使よ、他国の言霊使とは決して一緒にはいられないの!モネは私たち…春成国を捨てないわ!」



「捨てたわけじゃないと思いますよ。モネさんは自分の死が近い事を悟り、最後に一目だけヒクイナ様にお会いになられたかったのでしょう。夏成国へ来た時には天能力も消え、おそらくですがあの森で数日してツクモガミの毒に晒されたのでしょう。ツツジさんも天能力がなければ夏成国では数日しか生きれない。」


六花の言葉に顔を覆い涙を流すツツジ


「あの子たちは本当に双成国を守り、この縛りを無くすことができるの?私たちは何のために音図を…」

ツツジの本音に西瓜は何も言えずに目を瞑った


「先生方、今日はもうお休みになられて下さい。明日は地震の犠牲者の鎮魂の祈り日です。」


六花は疲れた声を出し頭を下げると部屋をあとにした。




日が明けると昨日までのお祭りが嘘のように夏成国は静まり返り、地震発生時刻の四時四十六分になると人々は鐘の音と共に東を向いて静かに手を合わせた。

この日、双成国の〝気〟が一つになり平和を祈った。




= 酔イ踊レ乱舞よいどれらんぶまであと2ヶ月  蟄と葉楓  =


西瓜と共に森林調査をしていた蟄は、あの巨大蜘蛛が最後に言葉を発し、明らかに意思を持ち西瓜に話かけていた事が気にかかり、先生達は何かを隠している事を悟る。

蟄は宿舎の花壇の前で花を見つめていた。

そんな蟄の姿を見つけ声をかける秋成国の葉楓


「珍しいな、蟄も花が好きなのか?」


「あぁ、葉楓か…お前は相変わらず土いじりが好きなのだな。」


「土に手を当てると暖かくて優しい気持ちになるんだ。何ていうか、土と会話してると嫌な事も忘れて、あぁぁ、生きてるなぁ!ありがとうなぁ!って心が明るくなれるんだ」


「土と会話か…俺も虫と会話する事がある」


蟄と葉楓は互いの顔を見て笑った


「蜘蛛の化け物に会ったんだろ?怪我はないのか?」


「…軽く足を怪我したが大丈夫だ。白露は大丈夫なのか?」


「…あぁ。仮病を使ってまで白露にかぐやを合わせてやりたかったが、作戦失敗だな」


「白露が仮病…固く真面目な奴だと思っていたが…」


「確かにな。まぁ、仮病作戦を思いついたのは寒露だ。」


少し納得して笑う蟄。


「戦いたくないなぁ。こうして笑う蟄を見ていると国の覇権なんて大人たちの都合でしかないと思うし、そもそも俺たちの姿を大人達は酒を飲みながら見て楽しむ。何で俺は言霊使なんぞに生まれたのか!」


葉楓の嘘がない言葉は、言霊使に生まれた事に誇りを持ちながらも蟄も一度は感じた事のある気持ちに共感した、葉楓の真っ直ぐな言葉は蟄にとっては新鮮なものであった。


「そんな事、口に出したら怒られるぞ?」


「蟄も真面目だな!なぁ思った事ないか?言霊使が祈りを日々捧げても地震が起きた」


「…………自然には逆らえないという事だな」


「あの地震を起こしたのは、言霊使だろうな」


葉楓の台詞に驚く蟄


「蟄、〝気〟が乱れてるぞ? お前もそう思っていたのか?」


「……実は中等部へ入る前に俺の親父から聞いて知っていた、あの地震を起こしたのは、言霊使だと。そして…その言霊使が双子だったと…」


「へぇ、やっぱりそうかぁ!双子だったとは驚きだが、俺は自分の天能力を自覚したあの時から確信していた。その言霊使はきっと俺と同じ天能力だろうな。」


「何故、地震を起こしたのかは親父さんからは聞いてないのか?」


「理由までは聞いてはいないが、その言霊使が煉獄堂で生きてるのは確かだ。」


「…大人達は何かを俺たちに隠してる事があると思った事はないか?」


蟄の脳裏にはあの巨大蜘蛛が焼きつていた。


「森で会った蜘蛛は死に際に西瓜先生に話かけていた。明らかに意思を持った人に見えた。」


「へぇ…その話さ、子供の頃に小暑から聞いた事なかったか?ほら初めての合宿が夏成国であった日の夜...」


「あぁ、あの日の事はよく覚えている、立冬と睡蓮が花火をやろうとしてお仕置き部屋に入れられた夜だろ…」


「あの夜は、なかなか眠れなくて小暑が本を読んでくれただろ?何て本かは忘れたけど…古い分厚い本で中身の字がヘンテコで小暑しか読めなかった。その中で蜘蛛がスイカを食べようとしてスイカに殺される話…スイカに殺される蜘蛛の話が面白くてみんなで笑った記憶がある」


「…懐かしいな、俺は月の双子の話を覚えている、月の双子は体が一つしかなくて昼と夜で体を交換しているという話がどこか可哀想で…」


蟄と葉楓が目を合わせて唖然とし三秒ほど沈黙し頷くと小暑を探した。




=  ヒハシの書  =



蟄と葉楓は小暑の姿を見つけると騒めいた〝気〟を落ち着かせながら詰め寄った


「あの夜、俺たちに話てくれた、あの本何ていう本だ、今その本はどこにある?」

葉楓の慌てた様子に驚く小暑


「あの夜とはいつの夜のことだ??」


「初めての合同合宿があった夜のことだ」

蟄が真剣な表情をする


「あぁ、九つの時のお仕置き部屋事件の合宿の夜かぁ、あの時好きだった本は…確か言霊白書だろ」


「今、その本はどこにある?」

興奮する葉楓


「言霊白書なら実家にあるが、何冊か、かけていて揃ってはいないんだ。言霊白書がどうかしたのか?」

小暑が困惑した顔をする


「作者は誰だ?」


「水仙堂ヒハシという作者だ。」


「その作者は言霊使ではないのか?」

蟄の言葉に言霊が籠る


「どうしたんだ、急に…水仙堂ヒハシが言霊使かは私には分からん」


小暑の顔に蚊が数匹止まる


「蟄、この蚊をどうにかしてくれないか?言霊を吐くほど知りたい事なのか?」


「すまない、〝気〟が動転している…小暑、言霊白書はもしかすると予言書なのかもしれない」


「えっ?それはどういう事だ?」

小暑は益々困惑する


「白露とかぐやは同一人物かもしれないんだ」

葉楓の顔は青冷めていた


「お前達は一体、何を言っている。」


困惑する小暑に蟄は森林調査での出来事と言霊白書の一説が重なっている事を説明し、月の双子の話と白露とかぐやが重なっているのではないかと仮説をたてた。


「たまたまであろう、白露とかぐやは性別も違う、一つの体を分け合う事などいくら言霊使でも不可能だ」

小暑が蟄と葉楓の仮説を否定した。



「では小暑は疑問に思った事はないか?音図が盗まれても開催される乱舞、今回は獣国の要人たちも見えるらしい。それに立春と柱は双子だ。言霊使の双子は禁忌とされているのに乱舞に参加させれば二人が言霊使の双子だと皆に気がつかれてしまう。」


蟄の言葉にハッとする小暑


「…言霊白書、〝モモ狩り〟…最後のモモの実が狩られ酔いしれた人々は本当の姿になり それは始まりの合図だと」

小暑の顔が少しこわばる


「その〝モモ狩り〟とは春成国の桃の木学長の事ではないのか?」

蟄が詰め寄る


「待ってくれ、まず〝モモ狩り〟の話は言霊神伝から引用した物語だ、つまり言霊白書は架空の話であってそれらが実際に起こるとは考えにくい」

小暑が少し笑いながら頭をかく


蟄は何かを思い出したかのようにハッとする


「言霊神伝  第九章 地獄の門が開く時、世界が揺れ大地が割れ水に呑まれん時、十三年の時を待ち、再び約束の地に兄弟たちが出会う」


「その〝言霊白書〟の元になった〝言霊神伝〟とはどんな話なんだ?」

葉楓の顔がいつになく真剣である 


「かなり古い書物であり、言霊使の始まりが記された書とも言われていたが、今となっては難解であり、いつしかこの書は偽書だと言われ始め、読まれなくなったと聞いている。」

小暑が葉楓にわかりやすく説明をした。



「九つの魂を天に還し、三つの双子の魂降りて、六つの世界は一つとなりて、七の時代が風となる」


蟄は言霊神伝を口にした


「何だ、蟄も言霊神伝を知っているのか?」

小暑が少し驚いた顔をした。


「桃の木学長の葬儀の時に、春成国の言霊使は立春の家に集まり話をした。その時、梅光様と蓮角様が少し口論をした。〝また繰り返すのか〟と。その時は何の話かは、立春も清明も柱も全く分からず、ただ、今確信した事がある、大人たちはこれから起こる事を知っている、そして、これから音図を集めハクビシンを呼び、双成国の平和を願う代わりに言霊使の魂を捧げる事になる…そして最後に山茶花様が、言った……」


「何て言ったんだ?」

葉楓と小暑が真っ直ぐに蟄を見る


「山茶花様は〝友を信じなかったと…先見視力の天能力を持つ〝ヒハシ〟という男を。と」


「ヒハシ…」


「点が線になりつつある、ヒハシとは水仙堂ヒハシで間違いないだろう、ヒハシは声帯を取られて獣国で人質として生きている。今回の酔イ踊レ乱舞に獣国の要人と一緒にヒハシも来るのではないか?」


蟄が更に確信をついたように話す


「言霊神伝には続きがある… 辰年生まれの閏言霊使の未熟な驚異の力でハクビシンを呼ぶと」


「つまり俺らってことか?」

葉楓が難しい顔をいた


「まだ、話がつかめない。しかし蟄は言霊神伝を何処で読んだのだ?」

小暑が蟄に問いかける


「幼い頃に眠る前に親父から聞いてた。物語だと思っていた。」


「なるほど…葉楓は初耳なのだな?」


小暑の問いかけに葉楓は無言で頷く


「おそらくではあるが、親や親族に言霊使がいる家庭で育った場合、意図的にこの話をしていたとすれば、遅かれ早かれこの事に気が着くと考えたのだろう。葉楓や芒種、柱や清明は、言霊神伝を知らないはずだ」


「なんで初めから予言の書があると教えないんだ?初めから教えれば良いだろ?」


葉楓の眉間にシワがよる


「学仙でこの物語を習わなった理由は、〝お前らは双成国の為に必ず死ぬ〟と悟られないためだろう。つまり、言霊使になる前に誰かが死ぬと言う事だ。甲辰年生まれを最後に冬成国は言霊使が生まれていない、九つの魂を天に還すとは少なくとも九人は死ぬ、未熟な驚異とは言霊使の卵という意味だ。つまり言霊神伝の予言書通りならば、次の酔イ踊レ乱舞で何かがあるかも知れない…」


しばし考え込む三人の沈黙を葉楓が破る


「けどよ、…三つの双子魂降りてってどう言う意味だよ、立春と柱の他に双子はいないだろ」


「確かに、だがこうは考えられないか? 白露とかぐやは母親が違うが父親は一緒だ。仮に二人が同一人物だとしても双子にならないか?それに睡蓮と海は同じ年の従兄弟だ、双子と言っても過言ではない」

蟄が葉楓を諭す


「いや、睡蓮と海の場合は従兄弟とはいえ、父親も母親も別の人間だ、双子とは言えない、可能性があるのは冬成国の三人ではないか?冬成国は親を知らないで育つ、大寒、立冬、大雪の誰かが同じ日に同じ親から生まれたと考えれば、双子は三組存在する」

小暑が真剣な顔をする


「ハクビシンを呼ぶ為に、立春と柱、白露とかぐや、大寒と立冬と大雪が死ぬと言うことか?」

葉楓の顔に怒りが滲む


「まだ、そうと決まった訳ではない、言霊神伝と言霊白書を読み、これから起こりうる事を知ろう、回避できる事もあるかも知れない、小暑の実家に行って本を探そう」

蟄が前向きな提案すると三人は小暑の家へと向かった。






= 書館堂 =



「言霊白書はあるが言霊神伝は保管庫の中だ、さっき保管庫の鍵をお祖父様から借りた一緒に探そう」

小暑が保管庫を開けると三人は言霊神伝を探した


「あったぞ!」

蟄が分厚い本を手にとり、葉楓と小暑は身を乗り出す


蟄がそっと本を開くと、記号のような字体で読むことができない


「クソ、読めねぇ 誰だよこんな本書いたのは…」

葉楓が肩を落とす


「読めるだろう、言霊神伝の筆者は…」

小暑はスラスラと読みページを優しくめくると驚きの表情をする


「筆者は、初代夏成国王朝 舜天王様だ。」


「何?!」


「舜天王様は、王であり言霊使だった、天能力がヒハシと同じ先見視力の持ち主であったと仮定すれば、これは間違いなく予言書だろう。だが酷く虫に喰われていて読めん…」

小暑が残念そうにする


「これは虫食い祝詞だ、虫の言霊を感じる。古いというのもあるが誰かがわざと読めなくしたのではないだろうか…」

蟄が本から出る虫の〝気〟を感じとる


「虫使いの天能力でどうにか出来ないか?」

葉楓が蟄をみた


「やってはみるが、うまくいくかは分からないぞ」

そう言うと蟄は〝気〟を練り、集中し指先に言霊を込めた


「カミクイムシ ヨ、イマイチド コノショ ニ モドレシ メザメヨ」


蟄の言霊と共に蟄の指先から小さく光る白い虫が溢れ、穴の空いた紙の上に移動し溶けるように姿を消すと穴はたちまち塞がり文字が浮かび上がる


「凄いな!」

小暑と葉楓が驚く


「蟄、ありがとう。この書を読むには半日はかかる、言霊白書と読み比べるとなると数日はかかる」

小暑の言葉に頷くと、蟄と葉楓はこの事を、他の仲間と共有するかは待つ事とした。

まだ予言書とも決まったわけではない上に変に気を困惑させてしまうかもしれいと小暑が読み終えるのを待つことにした。



その三人の姿を陰から見るのは小暑の祖父であり夏納である日照であった


「時が来るのか…」





= 唄うたいの祝詞 =



酔イ踊レ乱舞まであと数日となっても書の解読に頭を悩ませていた小暑は少し疲れた顔で乱舞への練習に取り組んでいた。

そんな姿に気が付く夏成国の同志たちは心配いそうに小暑をみた


「小暑、最近元気ないけど大丈夫なの?最近は肩身離さず難しいそうな本読んでるみたいだけど…」

睡蓮が小暑の手提げ袋をみた


「何でもない、ただの読書だよ。」


「そういえば、朝織も特別に乱舞を見にくるらしいぞ?俺の親父が言ってたな」

芒種が小暑の肩を叩いた


「あ、あ朝織も来るのか? それは負ける姿を見せるわけにはいかない!」

小暑の顔が一気に明るくなる


「テンニ オモイノ ネガイコメ イツカフタリハ ムスバレル」

海が小暑を元気つけようと〝想い祝詞〟を歌うと手提げ袋の中の本が鼓動を打つように一瞬震えたのであった


「みんな、ありがとう。酔イ踊レ乱舞は必ず優勝しよう」


小暑は友から力をもらい笑顔が溢れた



その夜 寝床で本を開くとパージが入れ替わっている事に気が付く

小暑は海の言霊祝詞によって、この本の封印が完全に解かれたと悟り、時間が経つのも忘れて解読を終える頃には外は明るく日差しが窓に差し込み今日という一日の始まりを告げていた。


〝何てことだ…これがこれから本当に起こる事なのか?〟


小暑は両手で顔を覆った



小暑は実家に蟄と葉楓を呼び、自身の解読を二人に聞かせた


「これは、私が独自に解読した内容だ…どこまでが真実になるかは分からない…」


蟄と葉楓は無言で頷く


「まず、言霊神伝は舜天王様がお生まれになってからと死後、数百年分の歴史的分岐点の出来事が書かれていると思われる。 そして言霊白書と重なる部分が数節ほどある、ヒハシが書いた言霊白書はこれから起こるであろう歴史的分岐点となりうる事柄やヒントのような物が物語風に書かれていた。

一つわかっていることは、双成国は無くならない。だが、私たちの後世には言霊使は形だけ存在はしているが、誰かの手で制限されるような形で機能していない、人々の半分は眠り、半分の人々は管理して生きてるようなことが書かれている。」


「つまり、俺らはこれからどうなるんだ?」


葉楓が目を上にして考える


「それが私にも、正確にはわからないが、今、私たちが生きている時間歴は恐らく、言霊神伝の終わり頃、言霊白書で言うと中盤といったところだ、話を照し合わせると、今がここの部分になる」

小暑が二つの本を広げ指をさす


「すまない、俺らには文字すら読めん」

蟄が頭を下げる


「いや、いいんだ、言霊神伝と言霊白書はある章から、内容が似てはいるが全く合わないのだ、どちらが正しいのかは分からんが、私が思うに、ヒハシは自分の天能力を使って見えた世界線を変えようとしているのではないかと思う。

つまり、言霊神伝では九つの魂を天に還すとあるが、ヒハシはそれを避けようとした。

見えている世界線を変える事を信じ、仲間と実行しているのではないかと」


「仲間って誰だよ」

葉楓が頭をかく


「私が思うにヒハシは、庚辰閏年生まれの言霊使だと推測するのが無難だ。山茶花様や、蟄のお父様と同じ年生まれの言霊使の仲間と今も尚、計画を実行しているのではなかと。あの地震は計画して行われたとしか考えられない」


初めは予言書などと信じていなかった小暑だったが二つの書を読むにつれて自分の鼓動が疼くのを日々感じていた。



「それで、白露とかぐやは同一人物なのか?」


「葉楓、すまない…確信は持てないが同一人物であると思う」


「ハァァ…」


葉楓のため息が蟄と小暑の耳にしみる



「それで…小暑は、次に起こりうるであろう記実は、どう解釈している?」

蟄は少し葉楓に気を使いながら奥歯を噛む


「言霊神伝と言霊白書が重なる部分で最も近い未来に歴史的分岐点となる事柄は、数日後に行われる〝酔イ踊レ乱舞〟で人々が恐怖に包まれるとある。しかし、言霊白書には回避方法だと思われる一節があった」


「回避方法? それはどうしてそう思うのだ?」

蟄が少し疑うように聞く


「すまない、これは単に私の解釈に過ぎないが、言霊白書を読めば読むほど、ヒハシの声が文字となり私に訴えているかのように思うのだ。〝どうか、信じてほしい〟と。」


小暑の表情を見た、蟄と葉楓は少し戸惑うのであった。



「…その回避方法とはどのようにすれば良いんだ?」

蟄は少しため息混じりで下を向く


「………それは、盛大な八百長をしてでも乱舞で秋成国に勝ってもらう」


小暑の思いもよらない言葉に驚く蟄と葉楓

「そんな事出来るわけがないだろう、これは国の覇権がかかっているのだぞ!」


蟄は少し怒り混じりな目線を向けた


「酔イ踊レ乱舞は客人に酒が配られる、その酒は秋成国の白露とかぐやの実家で作られている。これは昔も今も変わらない決まりだ、今回の乱舞で振舞われる酒に何者かが毒が仕込み乱舞が荒れると予想される」


「それが何で秋成国を優勝させなければならない理由になるんだ?」

葉楓も疑問に満ちた表情でいっぱいだった。


「秋成国が優勝した時のみに振舞われる、ツキノ酒には酔い覚ましの言霊が込められているからだ。つまり解毒されるとみた。

春成国が勝てば、キビ団子が振舞われる

夏成国が勝ては、ユキ塩が振舞われる

秋成国が勝てば、ツキノ酒が振舞われる

冬成国が勝てば、アサヒ林檎が振舞われる、これは数百年続く決まりだ」


小暑の話の途中で蟄が反論する


「しかし、いくらツキノ酒が酔い覚ましの効力があるとしても毒を消せるかも分からない、そもそも秋成国から来る祝いの酒に誰が毒を入れる?何の為に?」


「秋成国の振舞った酒に毒が入っていたとなれば、秋成国はそれなりの責任を負う事になる、ましてや獣国の要人もおられるのだ、秋成国には双成国全域の穀物や野菜を賄えるほどの農作物がある、まずそこが差し押さえになれば沢山の民が飢える事になる、それは同時に大農家である葉楓の実家が潰れる、白露とがぐやの実家は毒酒を振舞った罪に問われ神酒が消える、最後に寒露の実家である満月神社は秋納様が全ての責任を負う事になる

今後の知恵授かりの儀ですら後世に伝えることが一時的に途絶える、そして…秋成国圏内である淡島も何かしらの処罰を受ける事になる、つまりは秋成国を潰すのが一番の近道で双成国が滅ぶと考える者がいるという意味だ」


小暑が悔しそうに話す顔を見た蟄と葉楓は言葉を失った。


「…一体、誰が双成国を滅ぼしたいのだ…」


葉楓が涙を流す


「すまない、分からないのだ…」


小暑がその場で立ち尽くすと突然、蟄が笑いだした。


「各々の国の覇権など、どうでもいい、結局言霊使になったとて全ての民が幸せとも限らない」


蟄の口からでた言葉は普段からは想像もできなきほど、尖っていた。


「八百長か… 俺は今まで、ふざけた事もした事もないし、曲がった事もした事がなかった、初めて柱を見た時、こいつが立春の双子の弟かと正直幻滅した、刻印が現れた方が煉獄堂へ収監されると聞いた時、一瞬だが刻印は柱に現れてほしいと思ったのが本音だ、俺は言霊使を志ながら黒い心を持っている…だが、柱と日々を過ごし柱の良い所がわかってくると、こいつも俺らと同じ国で生まれ、同じ閏言霊としての天命を与えられた者だと思い、いつしか柱も大切な仲間だと思うようになった。乱舞で優勝すれば、煉獄堂に収監されずとも良い方法があるのではないかと本気で思っていたのだ。 それなのに……八百長など…」


蟄の頬を伝う涙に誘われ、蝶々が三人の頭上を舞った。



「この話を他のみんなにも話すべきだと私は考えている、国の覇権よりも双成国の方が大切だからだ、蟄の気持ちは計り知れない、同じくらいに冬成国の三人もこの提案を受け入れがたいだろうな」


小暑が拳を握る



「みんなに話すのはよそう」


葉楓が真っ直ぐ二人を見た


「八百長などせずに、秋成国が勝てば良いだけの話だ、簡単ではないが…」


小暑は下を向いたまま何かを言いずらそうにしたいた


「きっと、神伝にも白書にも秋成国ではない国が勝つ事が書かれているのを読み解いたのだな小暑は。」


葉楓の言葉に小さく頷く小暑は膝から崩れ落ち二人に頭を下げた


「どうしたら良いと思う?…」


「立冬を呼ぼう、冬成国だけ誰もこの話を知らないでいるのは間違っている、それに……冬成国は強いからな」


蟄は涙を吹いて小暑と葉楓の肩を叩いた




= 早く大人になりたかった少年  =



小暑に実家の書館堂に呼ばれた立冬は、少し疲れた顔をしていた。乱舞に向けて、訓練を誰よりもしているのが伝わってくる。



「蟄に葉楓もどうした?」


立冬は三人の顔を見て暗い雰囲気を察す



「何かあったのか?」



小暑は重い口を開き一連の事を話すと、酔イ踊レ乱舞では秋成国が勝つようにして欲しいと立冬に頭を下げた。


「…小暑が頭を下げる事はないよ。話はわかった。…ただ、二つだけ教えてほしい」


立冬の瞳は青白く訴えた


「何だ?」


小暑が頭を上げ、立冬を見た



「その小暑が言う歴史的分岐点だっけ?未来がわかる予言書は過去の事も書かれているはずだ、冬成国の冬納様が眠ったまま氷つけになっているのは何故だ?」


「私が解読した限りだが、子供を産み眠ったとある。だが、おそらくもう亡くなっているのではと…冬成国と自分の子の未来を案じ、子孫が途絶えたとて国が滅びぬように冬納の永遠象徴として今も…眠っている事になっていると…」


立冬は少し無言になり落ち着き放った様子で口を開いた


「…そうか……俺は早く大人になり言霊使になって冬成国を豊かにしたい。納様を眠りから覚まし冬成国を立て直したいと思いながら今まで生きてきた。

同じ双成国でも、夏成国や秋成国、春成国の豊かさに圧倒された。それと同時に嫌な物も肌で感じた。清明や立春とでは生きてきた環境が違い、貧富や身分の差がある事を知った。金の概念も知った。俺の中の本当の豊かさが初めて天秤にかけられ揺らいでいた時、俺が冬成国で生まれた意味を考えた。

答えは一つだ、国を守ることだ。」


立冬の祖国を思う気持ちが痛いほど感じられ、蟄、小暑、葉楓はまともに立冬を見ることができないでいた。


「二つ目の質問だ、予言書では本当ならどこの国が乱舞で優勝する?」


立冬の質問に、小暑が小さなため息をつくと立冬は手をそっと上げた


「言わなくもいい。すまなかった。お前たちの思いはわかった。次の乱舞での八百長に俺は同意しない。」


立冬の言葉に奥歯を噛む小暑


「立冬の気持ちはわかる! だが、秋成国が優勝しなければ、双成国が滅ぶのだ…」


小暑も悔しそうな顔で膝の裾を握る



「実力で、秋成国が勝てば良いだけの話しだ。」


立冬は真剣な眼差しで訴えた


「俺は八百長はしない。」


立冬の透き通った言葉に、こちら側がどんな言葉をかけても揺らぐ事がない事が伝わった



「それで行こう。お互いに本気で乱舞で勝負するのだ。」


葉楓は真っ直ぐに立冬を見ると蟄は頷き、小暑はそっと左手を床に添えた。


「契りの言霊を結ぼう」


小暑が覚悟を決めた声で〝気〟を込める


「契りには二つの意味がある。一つは男女が約束をし通ずる事。もう一つは前世からの因縁。を意味する。俺らはもしかすると前世でも共に時間を過ごした仲だったのかもしれない、今契りを結び来世に繋げよう。そうする事で双成国の未来を繋げよう。決して滅びる事がない事を祈って。」


立冬、葉楓、蟄はそっと左手を床に添え、〝気〟を高め同時に言葉を放つ。


「我、ココニ、契リヲ結ブ」


立冬、葉楓、小暑、蟄の四人は魂の繋がりを感じ互いに信頼を寄せた



「小暑は、これで良かったのか?契りの言霊は一生に一度しか使えない。それはつまり、朝織とは結ばれない事を意味する」


蟄の言葉は悲しみを帯びていた


「これで、良いのだ…秋成国圏内にある淡島が守られるのであれば、朝織も幸せに暮らせる…それに、今ここで契りを交わしたお前らも今後誰とも契りを結べない、つまり結婚できない事が決まったのだ。」


ハハハハハハハ…


立冬、葉楓、蟄、小暑は自然と笑い声を上げた


「来世でも双成国で、また会おう」


立冬の声は四人の結束を強くした。



春夏秋冬 契りを交わし


酔イ踊レ乱舞 開幕

次回、月食

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