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恋心

氷に覆われてしまった大雪だったが夏成国の王様の力で氷は溶け無事であった。

一方、秋成国の白露たちは遅れて夏成国へ向かい中等部の仲間達と合流をするのだが、白露とかぐやの接触は未だに禁止されたままであった。

= 秋成国の合流 =


秋成国以外の中等部の皆は先に乱舞開催国である夏成国に入り乱舞へ向けての合宿生活をしていたが、秋成国の白露たちが夏成国入りを許されたのは皆が合宿生活を初めてから数週間後の事であった。

白露とかぐやの接触は認められず、先に白露、葉楓、寒露は夏成国へと入り、かぐやは後で入国する事に決まり四人での乱舞出場は難色を示していた。


不貞腐れる葉楓を横目に寒露はこの事に違和感を感じていた。


〝大人たちは何かを隠している…〟

ここまでして接触させない理由が他にあるはず。

それに音図が無くなり結界を行使した葉楓は死にかけた。

春成国の桃の木学長の突然死、生き別れ隠されてた双子の言霊使

早すぎる朱雀継承

冬成国の言霊使が生まれない理由…

そもそも世界大地震前の双成国を私は知らない…

誰かが真実を隠し嘘を真実のようにしている可能性はないのかしら…

例えば…誰かの言霊の力で記憶を消したり忘れさせたとか。でも、この双成国のすべての人の記憶を改ざんするほどの言霊使なんていないわ…仮にいたとしてもそんな罪深い事をしたら煉獄堂行きは間違いないわ…

「あぁああああ!もうわかんなーい!」

寒露の叫び声に白露と葉楓がなんとも言えない表情で寒露を見つめた。

「もう夏成国に着くぞ?寒露大丈夫か?三日後には王様にお会いする事になっている…七夕祭りもあるらしい。」

白露はかぐやが一緒ではない事を申し訳なく思い、葉楓と寒露に気を使い普通に振る舞う

「絶対、四人で酔イ踊レ乱舞に出ようぜ。」

葉楓が白露の肩を叩き場を和ませた。

夏成国の暑い潮風を浴び三人は強く頷くのだった。






= 七夕の夜に =



大雪が氷から目覚めた数日後、夏成国は七夕祭りで賑わっていた。



合宿所の食堂で朝食をとりながら皆は乱舞に向けて日々の訓練に少々疲れ気味である

そんな中、小暑はいつになくソワソワしている。


「今日の小暑は少し変ではないか?」

白露が芒種に問いかける


「あぁ、一年に一度七夕の日に、小暑の従兄弟が淡島から来るんだよ」


「淡島…は、秋成国圏になるよな?」


「あぁ、遠い遠い島からわざわざ七夕祭りを楽しみに来るんだよ。」


「気のせいかもしれないが…芒種はその小暑の従兄弟が苦手な様な口ぶりだが…」


「お前も会えばわかるさ」

芒種は大雪の姿を心配そうに見ている


「大雪は大変だったらしいな?」

大雪を見る芒種に白露が問いかける


「あぁ…凍った大雪を見て、俺も大寒も立冬も相当焦ったよ」


「王様が助けてくれたと聞いたが…王様との対面の挨拶の儀がこれからだ。どの様なお方なのか気になるのだ。言霊使の王様は何でも伝説の書に出てくる王様以来だと聞いた。」


「〝朱雀と王〟か。小さい頃によく読んだな。 本の中で書かれた事が本当かは分からないが、ナオイク王は王様であり言霊使だ。」


「楽しみだ」

秋成国には王がいない為、白露は夏成国王に会うのを楽しみしていた。


「大雪、大丈夫か?」

大寒と立冬が大雪を囲みスプーンで朝食を食べさせていた。


「自分で食べれるから大丈夫だよ、ありがとうう。」

過保護な大寒と立冬に少し困り顔の大雪


「大雪は愛されてるわねぇ!まるで妹が熱出した時みたいね。」

寒露が眉を八の字にして微笑む


「聞いた話だが、冬成国は自身の親を知らないで育つらしい、分け隔てなく大人達みんなで子供を大切に育てるそうだが、大寒と立冬と大雪は赤子の時から、一緒の家で過ごした為に兄弟も同然なのであろう。それに氷ついたとなると焦ったであろう…冬納様のようになるのではと…」

立春が冬成国の三人を見つめる。


「冬納様のように?」

寒露が問いかける様な顔を立春に向ける


「私と大寒と芒種は部屋が一緒な為、冬成国の話を大寒から聞いた事がある。何でも冬納様は氷に覆われたまま何年も眠られているらしい。同国の言霊使の祝詞でも溶かす事ができないと言っていた。」


「…そうなんだ。でも納様の祈りは自国にとっては絶対よ?私のお祖父様は秋納だけど、1日でも〝納祈り〟を欠かせないと言っていたわ。その祈りがないと衰退してゆくと…」

寒露が難しい顔をする


「だからだろう、大寒を最後に冬成国に言霊使が生まれてないのは。」

芒種が確信をついた事を言い、白露、立春と寒露が目を合わせる


「そういう事ね。それなら、早く一人前の言霊使になって冬納になる他に道はないという事ね。乱舞にかける意気込みも違うわけか…はぁ、毎日毎日、言霊を磨き、乱舞への訓練、言霊使になる為の心得に空霊拳の練習…言霊使への道は鍛錬、練習、修行…正直クタクタな毎日よ。でもね?今日はね!七夕祭り!!他国での七夕祭りに参加するのは初めてでワクワクが止まらまいのよ!!」


明るく話す寒露に立春、白露、芒種は笑顔で頷くとそこへ、葉楓が見かけない女の子に手を引かれ食堂へやってくる


「ここですの?小暑様がいらっしゃるのは?嘘でしたら淡島の塩で塩漬けにして差し上げるわ!」

葉楓の手を引き強気な言葉で話す女の子は、瞳は青黒く少し癖のある髪を靡かせた可愛らしい小柄な子である


「小暑!いるなら早く来てくれ!!助けてくれ!」

葉楓が小暑を見つけると指を差しながら大きな声を出す


「いた!あそこだ!!」


「まぁ、本当でしたのね!小汚い方でしたので少し疑ってしまいましたわ!ごめんあそばせ!」

葉楓に僅かに頭を下げる女の子。その姿を見て机の下に隠れる芒種。


「皆様、ごめんくださいませぇ。私は小暑様の許婚の朝織あさおりに御座いまーす。」


「許嫁???」

清明の顔が赤らむ


「朝織!ひひひひ、久しぶりだ。これを君に。」

小暑は着物の袖に入れていたハイビスカスの花を朝織に差し出す


「まぁぁ、小暑様ったら。」

長いまつ毛を見せつけるように瞬きを高速でする朝織

小暑は顔を赤らめる


「あぁ〜ん、美しき海に、お転婆な睡蓮、お久しぶりねぇ。小暑様に恋心など感じたら許しませんわよぉ〜あれ?あの嫌味でイケすかない男、芒種の姿が見られませんけどぉ。言霊使になる事をお諦めにでもなられたのかしらぁ?」

片手を頬に当てながらわざとらしい困り顔をする


「誰が、嫌味な男だよ!この高飛車女め!」

芒種が机の下から這い出てくる


「あぁら、いらっしゃったのぉ? ふん。 少しいいかしら?お食事中ごめんなさいねぇ。未来の言霊使のみなさん、ご機嫌よう。先ほども申しましたが私の名は天野朝織あまのあさおりに御座います。以後お見知りおきを。」


一同、呆気に取られながら頭を下げる


「私の名は大寒、よろし…」


「キャァ、熊かと思いましたわ! 失礼。」


大寒の目が点になる


「俺の言ってた意味がわかったか?」

芒種が白露を見る

男子達は小暑と朝織の顔を交互に見た。


「申し訳ございませんが、女性の方は一列にお並びになって?」

言われるがままに並ぶ女子たち


「私より美人がいなくてホッとしましたわ。あなた方は好きな方はいらっしゃって?」

唐突すぎる質問に固まる女子たちに、聞き耳を立てる男子たち


「まぁ! 誰も恋をしていないだなんて女子力に欠けますわよ?言っておきますね。小暑様は私と相思相愛ですので、小暑様に恋心を抱かぬように。」

「はい!抱きません!」

女子一同声を揃えた


「小暑様、今夜の七夕祭りもご一緒に過ごしましょう。では、日照様にご挨拶に参りますので失礼。」

朝織は食堂をあとにした。


「あの女の何処がいいんだよ!俺が合宿所の畑に水やりしてたら、突然現れてあの態度だぞ?」

葉楓が真剣に小暑に問う


「可愛いではないか…」

小暑が小さな声で呟く


「はっ?大寒なんて熊に間違われたんだぞ?」


葉楓の言葉は小暑には届いていない


「さぁ、早く食べて王様に会う準備をしましょう? そして七夕祭りよ。」

海はチラッと立冬を見る


「そうだな。」

立冬は大雪を救ってくれたお礼を王様にしたいと考えていた。






= 夏成国 宮殿  桜雪おうせつの間 =



春成国 立春 柱 清明 蟄 の四人は正装をし胸元に龍のブローチをつけて気を高める

夏成国 睡蓮 海 芒種 小暑の四人は正装をし胸元に朱雀のブローチをつけ気を整える

秋成国 白露 寒露 葉楓 の三人は正装をし胸元に麒麟のブローチをつけて気を鎮める

冬成国 立冬 大雪 大寒 の三人は正装をし胸元の亀のブローチをつけて気をまとう


同伴のツツジと西瓜も同様に正装をしブローチを光らせた



桜雪の間は 雪のように舞う桜の絵がふすまに描かれ広い空間に季節の終わりと始めを感じさせた。


王様の側近、大犀鳥おおさいちょうが先に部屋に入り皆に頭を下げる

「王様がお見えになります。」


静かに桜雪の間に入る王様は足音一つ立てずに瞳を閉じて歩いているようだった。


皆は一斉に頭を下げる


「表をあげて下さい。」


一同。そっと顔を上げる


「私は夏成国王 ナオイク。このたびは若き言霊使が我が国で開催される酔イ踊レ乱舞に参加される為お越し下さった事に感謝いたします。 今夜は七夕祭りです。日々の訓練の疲れを癒していただけたら幸い。 平穏に夏成国で過ごせる事を祈ります。」


一同無言で頭を下げる。


「王様とお話しができる滅多にない機会です、どなたかお話されたい方はおられますか?」

大犀鳥が皆を見る


そこへ立冬が手を上げると大犀鳥が頷く


「私は、冬成国 立冬で御座います。先日は同志 大雪をお救い頂き有難うございました。… ナオイク王様に一つご質問が御座います…」


「何かな?」


「私の国、冬成国、冬納である柊が、氷に覆われ長い年月を眠って過ごせれています。花の書に書かれた文献によると封印と見た事のない花の絵が描かれておりました。…ナオイク王様なら柊の氷も溶かせるのでは思い、お話しさせて頂きました。」


「なるほど。その花の書は私も読んだ事がある。しかし、柊様の氷は同国の祝詞使アワン様の言霊でも溶ける事はなかったのであろう? 私が冬成国へ向かう事が可能であれば良いが…それは難しいだろう…力になれずに申し訳ない。」


「とんでも御座いません…」

立冬は深く頭を下げた


大雪は真っ直ぐナオイク王を見ていた


「他に話されたい方はいるか?」

大犀鳥が声をかける


静まり返る中、ナオイク王が口を開く


「今日は私の為に挨拶をしに来てくれてありがとう。日々、訓練でお疲れであったであろうに…乱舞まであと少しだ。どの国が勝っても私は嬉しく思うよ。


春成国よ。言霊使の双子は禁忌といわれるが私はそうは思わない。例え誰かに何を言われようとも仲間を愛し共に出会えた事に感謝し優しい気持ちで春のようにいてほしい。


夏成国よ。我が国に言霊使がいてくれる事に安心感を与え日々感謝している。我が命が続き今ここに居るのも朱雀と言霊使のおかげだと思っている本当にありがとう。


秋成国よ。白露とかぐやが共に出場できる事を願い祈るよ。もしも大切な仲間が一人かけてしまったとしても心はいつも仲間と一つである。その気持ちが強さになるであろう。


冬成国よ。君たちが抱えている言霊使不足は必ず解消される日が来る安心しなさい。

何故なら、君たちは不思議なほどに〝気〟が洗練されている。冬成国の繁栄は続くであろう。


春夏秋冬 合わせて 双成国は成り立つのだ。


此度は我が夏成国の七夕祭りを楽しんで日々の疲れを癒せる事を祈ります。」


静かに桜雪の間を出てゆくナオイク王。その後ろ姿はまるで白い龍のようであった。


王様との対面を終え春成国から順に王宮を出ると夏成国の民たちは皆、頭を下げる。それは未来の双成国の平和を担う若き言霊使としての尊重の意を表していた。


いよいよ乱舞が始まるのである。


合宿所に戻り、祭り着に着替えると限られた時間を楽しむ為に足早に外へと出た



「小暑様、待ちくたびれましたわ、まぁ素敵な祭り着、お似合いですわぁ〜早く朝織と祭りに行きましょう!」

合宿所の前で待っていた朝織が小暑の腕に絡みつく、顔が真っ赤になる小暑


「朝織ちゃんはいいな、自由に恋ができるのね。」

海が切なそうに呟いた


「あら、海も自由に恋をしたらいいですのに…ハァ〜んわかりましたわぁ。私に任せなさい。…そこの熊男さんのお隣にいる冷たそうで鈍感そうな冬成国の男、こっちへ来てくださる?」


「…えっ…俺?」

立冬が自分の顔を指差し驚いた顔をする


「そうです、早くこちらへ。…あなた名前は?」


「立冬です。」


「立冬は海と祭りへ行くべきよ? なぜってアホずらですわね。海は夏成国生まれでありながら暑さに弱い体質なのはご存知かしら? 今夜は祭りの熱気に包まれるわ、そんな時に〝やませ〟ができる立冬が適任ですわ!」


「〝やませ〟なら自分もできるだよ。大雪もだ。」


「オホホホホホ!冗談はお辞めになられて?熊男さん…お名前は?」


「大寒と申します。」


「大寒、大変申し上げ難いのですが、この際ですのでハッキリと申しますが、海のタイプではなさそうですもの…ねぇ?」


「…タイプ…って何だ?」


二人の会話を聞きながら海の顔が赤くなり、海の恋心に気が付いている大雪は立冬の背中を押した。


「立冬くん、夜になるまでまだ時間があるし気温が下がるまで海とお祭りに行ったら良いんじゃないかな?私はこの間の事もあるし…」


「…わかったよ」

立冬が海を見る


「えっ、いいの?でも誰か一緒に祭りへ行きたかった人とかいたんじゃない?」


「別にいないよ、夏成国の地理もまだわからないし、海が嫌でなければ…」


「嫌じゃない、全然嫌じゃない!」


「それなら、決まりましたわ。私と小暑様はこれで失礼します。立冬、海をよろしくお願いします。では。」


朝織は小暑と手を繋ぎ、人が賑わう通りへと向かう。


立冬が歩き出すと海も後ろに続いて歩き出した。


皆は海と立冬の背中をしばらく見ていた。


「もしかして海ちゃんて…」

寒露が海の恋心に気が付き睡蓮を見た。


「えっ?海がどうしたの?」

睡蓮は海の恋心に全く気が付いてはいない様だった。


「俺らも行くか!」

葉楓の一声で皆が笑顔で、祭りへと行く足取りは軽かった。


様々な出店に心奪われ、柱はイカ焼や蕎麦、綿飴にスイカ、夏成国の食べ物を堪能し感激している。

「祭り最高!」

人混みに紛れながらそれぞれが祭りを楽しんだ。





= 西瓜 と 蟄 =


 皆が祭りを楽しむ中、西瓜先生と蟄は夏成国の森林調査をしていた。


「良いのか?今日くらい楽しまなくて?」

西瓜が草っ原に手をつき何かを探す


「少し気になりまして…合宿所内に虫が一匹もいないようで…夏成国の虫の生態系に異変があるのではと…」


「確かに今年は蚊を見てなかったなぁ…蟄、ここら辺は毒蛇が出るから気をつけろ」


「毒蛇ですか…蛇の中には鳥の卵を好む種があると聞きましたが、鳥は主に虫を食べる…朱雀様の家の前は色とりどりの鳥が囀って(さえずって)いました。ということは虫はちゃんといるという事になります…西瓜先生すいません、この違和感は私の勘違いの様です。」


「いや、良いんだ。虫使いの特性を持つお前が気にするなら調査して何も無いのなら安心する。確かに蟄のいう通り虫は少ないが全くいないわけではない、さっき蝶が飛んでいた。」


「はい。私も確認しました。このような日に西瓜先生を付き合わせてしまい、申し訳ないです。」


「謝るな蟄、今から先生と七夕祭りへ行こう!みんなも待っているぞ」


「はい!」


二人が手の土を払って森に背を向けてしばらくすると西瓜が立ち止まる


「何だ…この奇妙な〝気〟は…」


「先生!後ろ!!」


西瓜が後ろを振り返ると巨大な蜘蛛が二人の前に現れた。

蜘蛛は口から紫の液を出し、体からは白い煙が出ているようだった。


「何だ、これは!」

西瓜が気を練り言霊を唱える


「蜘蛛神よ、お怒りを鎮め森に帰られよ」


西瓜の言霊を受けた巨大蜘蛛は体から白い煙を出して一瞬静まったように見えたが、目の色が赤くなり殺気が滲み出ている


「これは何ですか?」

青ざめる蟄


「蟄、逃げろ。ここは先生が何とかする。」

西瓜の表情が戦闘モードになる


「ですが…これは…」

蟄の額から脂汗が滲む


蜘蛛は腹の下の方から糸を出し回転を始める


「まずい、囲い術だ…させるか!言霊超力、地割れ!」

西瓜が言霊を練り両手を地面につくと地面が割れ、巨大蜘蛛の真下が陥没し穴に落ちる巨大蜘蛛


「先生これは…どうして蜘蛛が術を使えるのですか?」



「今は説明している時間がない、蟄、俺らは今この蜘蛛の術の中にいる、抜け出せない場合、俺とお前はこの蜘蛛の餌になる。そうなる前に今、この巨大蜘蛛を殺す。」


穴の中で、もがく蜘蛛目掛けて西瓜が負霊を吐こうとしたその時、蜘蛛は糸を出し西瓜の足を引っぱり穴に引きずり込もうとする


「先生!!」

蟄は西瓜の手を引っぱり西瓜が穴に落ちない様に必死で足に力をこめる


〝どうしたらいい、先生は足と手を引かれ気練りができない…このまま先生の手を離せば先生は気を練り直し一瞬で負霊を吐くことは可能なのだろうか…どうしたらいい…〟


蟄は刹那ともいえる時間で頭をフル回転させる


「そうか!」

蟄は何かを思いついた様に気を練り始める


「美しき蝶よ、ここに集まれ」

蟄の言霊に誘われる様に蝶が集まり出すと数匹の蝶が蜘蛛の糸に捕まり、蜘蛛は自分の出した糸に絡みつく蝶に気を取られ、西瓜の足の糸が緩み、蟄が一気に西瓜を引き上げる


「助かったぞ、蟄。」

西瓜は素早く気を練り直し一気に負霊を吐く

「キバ・シルリチョウ」


西瓜の負霊を受けた巨大蜘蛛は、けたたましい声をあげ泡になり溶けてゆく


蜘蛛の囲い術が解かれ、蟄は地面に座り込む

西瓜は穴の中で泡となり消えゆく蜘蛛に手を合わせる

泡はみるみる小さくなり、中から紫に皮膚がただれ顔は原型を止めていない人間らしきものが最後の声を発する


「ス…イ……カ…久しぶりだな…」

その言葉を最後に巨大蜘蛛は完全に地面溶けてなくなった。

西瓜は息をのんだ。


「先生、これは…」

鼻につく悪臭と光景に蟄はその場で嘔吐する


「これは…一体…」





= 短冊に願いを =



ガラス細工の出店の前で足を止め、職人の技術が繊細に練り込まれたガラス細工に目を奪われる立冬


「綺麗だ…」


「意外ね…立冬ってガラス細工が好きなんだ?一つ買ったら?」

海は立冬の意外な一面に心が高鳴る


立冬はガラス細工を真剣に見ると一つ手に取り、戸惑っていた


「どうしたの?」

海が不思議そうに視線を向ける


「俺…買い物ってした事が無いんだ…」


「えっ、嘘でしょ?冬成国ではどうしていたの?」


「そもそも買い物という物がない…」


「えっ、そうなんだ…」


「お金は冬成国を出る時にカイ爺が渡してくれたけど…高いとか安いとかの概念がわからないんだ。」


すると店のガラス細工職人が立冬に声をかけた


「お兄ちゃん、冬成国から来た言霊使かい?歳の頃からしてまだ言霊使の卵って所だろう? いやさぁ、だいぶ昔にお前さんに似た男の子が同じような事を言ってたのを思い出してな。うちのガラス細工は高くも安くもないってところだ。 その青い耳飾りがいいのかい? 冬成国には〝やませ〟で世話になっているしな、今日は特別に安くしてやるよ」


「だって? 一つ買ったら?立冬に似合うと思うよ?」


「うん。おじさん一つ下さい。」


「はいよ」


立冬は初めて買い物をし頬が少しほころび、買ったばかりの耳飾りを懐にしまった。


「今、つけないの?」


「うん、後でにしようかな」


「そっか。」


海は立冬との何気ないこのひと時を宝物にした。

この恋心は決して許される事はないと理解しつつも高鳴る胸の鼓動が聞こえてくる事だけは抑える事はできなかった。


「短冊に願い事書こうよ」

海は立冬に短冊を渡し、少し考えながら筆を走らせる

立冬は早々と短冊を笹に結んでいた。


「なんて書いたの?」


「冬成国の繁栄を願った。海は?」


「私は…秘密」


「そっか。」


立冬と海は陽が明るい空に微笑みあった。



一方、春成国の立春、柱、清明の胸元のブローチが光り蟄に異変があった事を知らせた。


「蟄に何かあったのか?」

柱が揚げいもを頬張りながら立春を見た


「蟄は西瓜先生と一緒に夏成国の森を調査しに向かったはずだが…」


「蟄くんに何かあったのかもしれない…探しに行こうか?」

清明が真剣な顔をする


「西瓜先生が一緒なんだろ? まぁ二人がそんな顔するなら一緒に探しに行こうぜ!」

柱は食べ物を口に入れながら呑気に歩き出した。

立春と清明は気を高め、蟄の〝気〟を探しながら歩いた。




= 夏と冬 =


祭りの熱気に大雪が圧倒される中、大寒は出店と出店の間に座り〝やませ〟をしていた。


「まるで〝やませ〟屋さんだな」

芒種は笑いながらいちご飴を舐めている


暑さの中、手から冷気を出す〝やませ〟の風を浴びようと人々が列を作った。

お金の概念がない大寒はお金を差し出せれても受け取らず、代わりに果物や本、花など好意でくれるものを受け取り、何より〝やませ〟の風を浴びた人が笑顔で「ありがとう」という言葉に大寒の心は温まった。


「大雪、すまないが

芒種と好きに祭りを楽しんでくれ。私はもう少しここで〝やませ〟をしようと思う。」

大寒の笑顔に頷く芒種と大雪は夏成国神社を参拝し短冊に願いを書いた。

二人は互いに何を書いたかは聞かずにしばらく歩き石垣に座り他愛もない話をし笑いあった。


「大雪、これ持ってろよ。」


「…お守り?」


「さっき神社で…」

芒種は照れくさそうにお守りを大雪に渡した。


「ほら、またこの間みたいに氷の塊にならないように俺が言霊を込めておいたから…」

「ありがとう…凄く嬉しい」

大雪の満面の笑みは夏の空気に混じり白く輝いた

その笑顔を見た芒種は胸はグッとなり、何故かときめいた


「大雪の笑顔は最高だな。」


「えっ…」

大雪が頬を赤らめる


「ほら…だって…大雪の涙は真珠になって綺麗で大変だ…」


「私の涙見たの?凍った瞬間の記憶がなくて…」


「王様との〝やませ〟で何があったかは聞かない…でも大雪が傷ついたのなら俺の天能力でいつでも癒しすから、だから…」


「ありがとう、芒種。この時間を私、忘れないよ。中等部を卒業すれば、芒種には会えないもの…。」


芒種は大雪の言葉に胸が締め付けられた

大雪は夏成国に触れ自国との文化の違いや気候の違いはあれど、人を思う気持ちは同じだと胸が熱くなった


二人の願いは天の川に流されていつか届く事を誰が祈ろうか…




= 昼の月 =


秋成国の白露、葉楓、寒露は夏成国での七夕祭りを満喫し三人の短冊に書いた願いは今この場にいない、かぐやを想い同じ事を書いたのだった。


〝 白露とかぐやがいつか会う事を許されますように 〟


ただそれだけの願いだが、三人にとっては強い願いであった。

昼に浮かぶ月が、数日で満月になる


「ねぇ、私いい事を思いついたの」

寒露の真剣でイタズラな笑みに眉間にシワを寄せる白露と葉楓


「作戦名は〝白露とかぐや、うっかりちゃっかり接触大作戦よ!〟」

寒露は腕を組み誇らしげにしている


「……」

白露と葉楓は眉間にシワを寄せたまま寒露を見る


「秋成国の居待様のご命令で、いつも通り白露とかぐやの接触は禁止。だったら、ついうっかり会っちゃったって事にするのよ!」


「どうするのだ?」


「今、私たちは夏成国にいる。これはチャンスよ!いつもなら中等部から秋成国は歩い通える距離な為に新月から満月前夜は白露、満月から新月前夜はかぐや。といった具合に月の半分を交代で中等部へ通ってる状態でしょ?二人が接触しないように満月前夜には白露が実家へ帰り、新月前夜にかぐやが実家へ帰っている。でもここは夏成国。実家へ帰るのは無理。ここで居待様が提示したのは、満月前夜には白露はツツジ先生の元へ行く事。新月前夜までには、かぐやは西瓜先生の元に行く事が絶対条件で私たちは夏成国へ来たわ。つまり…うっかり行かなきゃいいのよ、先生の所に。ただそれだけの事よ。うっかり忘れればいいのよ。」


「無理だろ。先生が迎えに来るだろうし、どこかへ隠れるにしても合宿所を勝手には出れない上に仮に合宿所内を隠れたとしても先生には俺らの〝気〟を簡単に読み取って見つけるだろうな。」

葉楓が頭をかきながら寒露を見る


「無理ではないかもしれない」

白露の目が少し輝く


「どうしてそう思う?」

葉楓が白露に目を向ける


「ここは夏成国だ。勿忘草があるはずだ。」


「勿忘草って…まさか」


「二人とも気づいたわね!勿忘草は本来痛みを伴う治療時に数分から数時間深い眠りに使う薬草よ。原産地は夏成国。そして勿忘草を取り扱えるのは医師のみ。私たちの仲間に医師の息子がいるわ。」


「芒種か…」

葉楓が難しい顔をする


「芒種が芒種の父上の許可無しに薬草を取って分けてくれるとは到底思えないが…」


「じゃぁ芒種の家に行けばいいのよ。白露が腹が痛いとか歯が痛いとか理由をつけて勿忘草を飲ませて貰えばいいわ! つまり仮病ね」


「医師に仮病が見破られない訳が無いと思うが…」

白露が自信なさげな顔をする


「勿忘草を飲み眠ってる間は先生でも白露の〝気〟に気が付かないはずよ。つまりは白露の演技にかかってるわ。」


「確かに寒露の作戦をやってみないのは後悔するかもしれないが、そんな上手く行くだろうか…」


「明日は満月、今夜決行よ。今夜祭りの花火の後に白露はツツジ先生の所ではなく、先に芒種の家の診療所へ直行するのよ。」


三人は薄暗くなり始めた夏成国の空に七夕の願いを叶えようと寒露の作戦を決行する事にしたのだった。




= 赤い鳥と白い龍 =



睡蓮は祖父の露草と祖母の朱雀とで七夕祭りを楽しんでいた


「お婆様、お体の具合はどう?」

睡蓮が朱雀の体を気遣う


「大丈夫ですよ、この七夕祭りも今年が最後になるかもしれないわ」

祭りで賑わう人々の姿を優しい眼差しで見る朱雀


「そんな寂しい事を言うな、来年も一緒に来よう」

露草は朱雀の手をそっと握り微笑んだ。


「二人は本当に仲が良いわね!」


「睡蓮も貴方のことを愛してくれる人と一緒になりなさい。私は露草と一緒になり本当に幸せでした。」


「〝朱雀との恋は火傷する。〟なんて言い伝えがあるくらいだ。芯のある人と一緒になりなさい。お爺ちゃんなんて毎日大火傷じゃ!」

露草が大笑いで冗談を言う。


「私、まだ恋とか分からないわ。それに…」

睡蓮は〝夢見〟の事が頭にチラついた。その表情を見た朱雀は心を痛めるのであった。


「朱雀様!」

三人の背中に大きな声が響く


「源先生!お一人でお祭りですか?」


「あ、そうなんだ。朱雀様、露草様、私は中等部講師の源です。」

源は深々と頭を下げると朱雀と露草は、じっと源を見た。


「これは、孫の睡蓮と海がお世話になっています。」

朱雀が深々と頭を下げた。


「源先生がお一人ならば、うちの睡蓮と一緒に七夕祭りを回ってやってくれませんか?」


「私は良いですが、せっかくの家族の時間を…」


「良いのじゃ!私は朱雀と二人でゆっくりと歩く、若い者同士で祭りを楽しみなさい。源先生が一緒なら私たちも安心じゃ。」


「ちょっと、お爺ちゃんまで…先生が困っちゃうじゃない」

睡蓮が少し慌てる


「睡蓮、私と一緒に回ろう!」

源が手を差し出すと睡蓮は少し困り顔で手を握ると源は朱雀と露草に一例をして歩き出した。


「お爺ちゃん、お婆様を宜しく頼みますよー」

睡蓮は大きな声で遠くなる二人に声をかけて源と歩いた。


朱雀と露草は微笑みながら若い二人を見送った。


「先生の手はお綺麗ですね。」


「睡蓮の手は綺麗な小麦色だ」


二人はふと我に返りそっと手を離す


「海はどうした?」


「海は立冬と祭りを回っています、小暑の従兄弟の朝織が海は立冬と祭りに行くべきだと言い出したので私はお婆様とお祖父様と一緒に祭りに行くことにしました」


「朱雀にその話はしたかな?」


「いえ。」


「そうか…」


「そういえば源先生は夏成国生まれでしたね?ご実家はどの辺でしたか?」


「実家か…実家は…なんと言えば良いのか…」


「ごめんない、答えずらい質問してしまったようで…」


「実家は王宮の近くだ」


「そうなのですね!源先生は王様にお会いになった事はありますか?」


「あぁ、何度も。学仙時代の同級生だ。」


「えぇぇ!そうでしたか!やはりナオイク様は優秀でしたか?」


「そうだな、優秀すぎて飛び級レベルだった」


「凄いなぁ!!ナオイク様とは仲が良かったですか?」


「…あぁ。」


「それは良かったです。ナオイク王にもご学友がいて。私はナオイク様には幸せになって欲しいのです。」


「そうか…」


「ナオイク様も私も幼い頃に親を亡くして、王は物心つく前に王になり、私は歴代最年少の朱雀継承者です。恐れ多いですが私は自分と王様を重ねてしまうのです。私は未熟者ですが心から王のご健康と心からの幸せを願い生きていく事を決めました。あぁぁ、王様が幸せになりますように!!私が立派な朱雀になれますように!!と短冊に書きます!」


睡蓮の煌めく笑顔に源は大笑いをする


「何故、笑うのですか?」


「いや、睡蓮があまりにも純粋で可愛らしいから、ついな。私は朱雀の幸せを短冊に願うよ。」


「お婆様も喜びます!ありがとうございます!そう言えば、源先生はお婆様とお知り合いでしたか?あんなふうに大声でお婆様を呼ぶ方は日照様くらいです。」


「いや、知り合いというか朱雀様のお姿が見えてつい大声で呼び止めてしまった…」


「えぇぇ!ハハハハッ、源先生もそんな事があるのですね。いつもあんなに冷静なのに。」


お腹を抱えて笑う睡蓮の頭上に花火が上がり源先生と睡蓮は笑いながら夜空に目をやった。




その頃、花火を見ながら秋成国の三人は足早に芒種の実家の診療所へ足を進めた。

いよいよ、作戦決行である。



次回、酔イ踊レ乱舞

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