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夏なり 冬なりの秘密

酔イ踊レ乱舞開催が正式に決まり、出場する中等部の皆は、少し早く開催国である夏成国へ行き合宿生活をしながら日々鍛錬する。

そんな中、冬成国の大雪は夏成国の王様の元へ行き、自身の秘密を知るのであった。

秘密を知った大雪は氷像になり、仲間たちは途方にくれるのだった...

朝早くに小暑の家の前に着くと、小照こてりが庭先の花に水をやっていた


「立冬に芒種ではないですか!おはようございます。そちらの大きな人と大きな人が持っているモノは何ですか?」


「小照、朝早くにすまない。小暑と日照様を起こしてはくれないか?」

立冬たちのただならぬ表情に小照は動じず大寒の顔を覗き込む


「この大きな人は誰ですか?誰かわからない人をお祖父様には会わせる事はできません」


「私の名は大寒、冬成国の言霊使だ。そしてこの氷の塊は大雪、冬成国の同志だ。」

大寒が地面に座り丁寧に小照に挨拶をする


「わかりました。今、兄とお祖父様をお呼びします。」

小照はお辞儀をすると母屋へと走って行く


「さすが、夏納様の孫だ、しっかりと躾けをされている」

小さな小照の動じない姿勢に自分たちの気を落ち着かせる立冬、大寒、芒種


すぐに小暑が玄関先にやって来る


「どうした?朝早くに、お祖父様なら祈りの時間だ。なんだその塊は?」


「大雪が凍った」

芒種の言葉に眉をひそめながら氷の塊に近づく小暑


「これは何事だ!」

氷の中の大雪を見て驚く小暑の後ろから日照がやってくる


「おはよう!おはよう!朝から元気じゃのう!」


日照の前に皆が頭を下げる


「朝から何かと思えば、これは。これは。芯氷意しんひょういにかかっておるな」

日照は氷の塊を見て目を細める

「いつからこうなった?」


「はい。大雪は王様へ〝やませ〟を施術した帰りでした。偶然私と出会った後、昨晩から凍ってしまいました。」

芒種が頭を下げたまま目線を下す


「ほう、で。私にこの氷を溶かして欲しいといったところか。」

日照が氷の塊を指先で突く

「これは私でも溶かせん。これを溶かせるのはアワンの祝詞のりとだけであろう」


「日照様でも溶かせないほどの氷なのですか?!」

芒種が思わず顔を上げる



「どしてこうなったかは知らんが、氷を溶かすには同国の祝詞使の言霊しかない」

日照の鼻息が漏れる


「今から冬成国へ向うとなると酔イ踊レ乱舞には間に合わない…です…」

立冬は奥歯を噛む


「立冬よ、花の書が読みたいと申しておったな?」


「はい」


「その花の書を持って朱雀に会いに行きなさい。お前が知りたい事がわかるかもしれん」


「ですが、今は…」


「冬納も同じように氷に覆われ眠っているのではないか?」


日照の言葉にハッとする立冬と大寒


「冬納様はアワン様の祝詞でも目覚める事はありませんでした…まさか大雪まで…」

大寒の顔が強張る


「わしの見立てではこの娘、大雪は芯氷意にかかっている、自分の意志とは別だ。ならば、原因があるはずだ。朱雀は別の名を〝火の鳥〟とも言う今すぐに連れて行きなさい」

日照の気が強くなる


「では…日照様、 冬納様は自分の意思で眠られてるという事でしょうか?」

立冬が日照を見る


「それは…まぁ朝も早い朝食をとってから朱雀の家へ向かいなさい。その娘が死ぬ事はない」


「皆さんのお食事の準備が整いました。うちで食べて行ってください。」

小照がひょっこりと顔を出して皆に朝食の案内をした。


一同目を合わせ戸惑う


「とりあえず、上がって一緒に食べよう。それから朱雀様の家へと向かおう」

小暑の言葉に無言で応じ、皆は食欲が無いが有り難く朝食を頂く事にした。



日照が手を合わせ

「頂きます」と言うと自然にその言葉に続く


「頂きます」


日照は味噌汁を啜りながら大寒と立冬を見る


「ここは夏成国だ、早く手をつけなさい。」


日照の言葉にハッとする大寒と立冬


静かに箸を進めていく



「夏成国にとって氷は貴重です。」

小照が氷像の大雪を見つめる

「王様に見せてあげたいです」


小照の何気ない一言に日照が箸を止める


「この娘、昨日は王の〝やませ〟の帰りだと申しておったな?」


「はい…気を枯渇するほど施術をしたようで高熱を出して倒れました。」

芒種は大雪の姿を思い出していた。


「王様にお会いしたいと朱雀を通して伝えてもらえ。」


「王様にですか? 私どもなどが王様にお会いする事などが可能なのでしょうか?」

小暑が少し驚いて日照を見た


「だから朱雀を通せと申したのだ。私も行く。」

 

一同は朝食を済ませると朱雀のいる皐月家へと足を運んだ。



朱雀の家は想像とは違い普通の民家と変わりなく家の前は綺麗な緑の中に花が咲き、色とりどりの鳥たちがさえずり朝日が優しく家を照らしていた。



「私だ!日照だ!」



「何です?朝から。」


家から出てきた老婆は美しく気品に満ち、しなやかで何処か女性の魅力を感じ男性は心を奪われそうになる不思議な女性であった。



「おはよう! さぁ皆も朱雀に挨拶を」

日照に促せれ慌てる一同


「おはよう御座います」


「小暑に芒種、少し背が伸びましたね。そちらの方々は冬成国の者か?顔をお上げなさい。冬成国の良い香りがします。」


大寒と立冬が顔を上げる


「私は冬成国から参りました、立冬です。」


朱雀は立冬の顔を見ると少し目を見開いた。


「私も冬成国から参りました、大寒です。」


朱雀は二人に優しく微笑む


「挨拶をありがとう御座います。私は夏成国鳥 朱雀です。海と睡蓮の祖母です。私の夫の露草は大変申し訳ありませんが未だ就寝中なので挨拶は後ほどに宜しくお願いします。」


一同が頭を下げる


「そして、朝から何用でしたか?」


朱雀からは〝気〟が放たれていた。


大寒は立ち上がると、自分の後ろにある氷の塊を朱雀に見せた


「この娘は冬成国の同志、大雪です。昨晩からこの様な姿になりお力をお貸し頂きたく日照様と朱雀様の元へと参りました。」



氷像にそっと近づく朱雀はそっと手を当てる


「…なるほど。芯氷意。これは厄介ですね。 そもそも芯氷意は自身の身に危険を感じた時にこの姿になる、自らの身を守る最強の吉凶保護の術。決してこの娘を傷つける事も殺せる事もできない。この術は世界が争いに明け暮れた時代に生み出されたとされるもの。これを溶かせるのは…同国の言霊使の祝詞。もしくは…」


「もしくは何ですか?!」

芒種が思わず声を漏らす


「…もしくは僅かな望みですが…夏成国王、ナオイク様でしたら溶かせるかもしれません。 日照も同じ考えあって此処に来たのだな? この氷を担いで冬成国へ帰ろうにも、アワンを呼び寄せるにも時間がかかり過ぎますからね…王様の所へ参りましょう。」


日照と朱雀が目で会話をする


「急ぎでカラスを飛ばします。返事が来るまで大雪はうちで預かりましょう。」


そこへ海と睡蓮が実家に帰宅する


「ただいまぁ!!」

睡蓮が砂を付けた足でズカズカと家に上がる


「えっ、日照様に小暑、芒種…大寒に立冬までどうしたのよ?」


「これ!砂を落としてから家に入りなさい!」

さっきまでの気品溢れる朱雀様は孫を見るなり一気に普通のお婆さんになる


「ただいま戻りましたぁ」

遅れて海が家に上がると、居間にいる顔ぶれに驚く

「えっ、みんなどうしたの?」


「これ、二人とも挨拶をしなさい!」

朱雀はすっかり親の顔だ


「日照様、おはよう御座います。」


「うん、おはよう。」


「合宿所から海辺まで歩いて言霊の訓練をした帰りに実家に寄ったんだけど…何かあったの?」


睡蓮が氷の塊に気が付く


「こんなに大きな氷を見るは生まれて初めて…」

そっと近づくと中に大雪の姿が見えて驚く


「大雪?!どうしたの?」


「大雪?!」

海も驚きながら近づく


「王様に会いに行きます、返事はまだですが、睡蓮、あなたも一緒に行きますよ。次期、朱雀として参りましょう。」

朱雀の目が強くなる


「何があったの?」

睡蓮と海は動揺する


「訳は後で話します。大雪はうちで預かり、王様からの返事がつき次第王宮へ向かいます。大寒には申し訳ないが王宮へ向かう時、大雪を王宮まで運んで頂けるか?」


「はい、勿論で御座います」


「さてと、皆帰るぞ」

日照が立ち上がると、奥の部屋から露草が起きてくる


「今朝は随分と賑やかだのぉ」


「おはよう御座います。」

皆が声を揃える


「海に睡蓮ではないか!!今日は良い日だのぉ!」


「お爺様、黙って。」


「小暑に芒種までいる、厚苦しい男、日照もいる、今日はお祭りか?」


「お爺様、黙って。」


露草は寝ぼけた顔で皆を見る


「! たいめ…」

露草は思わず口から言葉が溢れた


「相変わらず、空気が読めん奴だ、私は帰る。お邪魔した。」

日照はスッと立つと露草と朱雀に目で挨拶をし皐月家をあとにする


「申し遅れました、冬成国から参りました、大寒です。」


「冬成国から参りました、立冬です。」


露草は優しい笑顔を二人に向ける


「私は、言霊使の露草だ。ようこそ、夏成国へ。」


「小暑、芒種、立冬は先に合宿所と家にお帰りなさい。」

朱雀の言霊のこもった台詞は何処か安心感をあたえた。


「はい。大雪をお願いします。」

立冬、芒種、小暑は皐月の家を出た。


一連の出来事を大寒から聞いた、海と睡蓮は王様からの返事を静かに待つことにした。


「こんな氷の塊見た事ないわ…夏成国にとって氷は本の世界の物だもの」

睡蓮は不思議そうに氷に包まれた大雪を見る


海も大雪に近づきそっと手を触れる

「冷たい…美しい…結晶よ…」

海は知らない歌を口ずさむと、海が触れた部分だけ氷が溶け水が滴る

「えっ?少しだけ溶けたけど…」

海は濡れた手の平を見た


大寒が立ち上がる

「どうやって、溶かしただよ?!」


「お婆様とお爺様を呼んで来るわ」

睡蓮が慌てて二人を呼びに行く


海は手を当て、唄を歌うと氷が少しずつ溶け始めた。

睡蓮に手を引かれ足早に居間に戻る朱雀


「氷が溶けた、そんな事ありえな…い…」


朱雀と露草は海の手から滴る水を見て驚く


「お婆様、お爺様、私の言霊祝詞で少しずつですが氷が溶けています!」

海の自信に満ち溢れた顔を見て拳を握る朱雀


「やめなさい!」

朱雀が少し大きな声を出すと、カラスが飛んで露草の肩にとまる


「王様からの伝達だ。今すぐ、王宮に来る様にとのことだ。」


「海、まだあなたの言霊は未熟です、氷に取り込まれてしまいますよ。大丈夫かい?」

朱雀は海の身を案じた。


「私は大丈夫です、自分の力も定まっていないうちに出過ぎた事をしてしまいました。ごめんなさい。」


朱雀は静かに海を抱きしめた。


大寒は大雪を担ぐと、露草と海に頭を下げ睡蓮と朱雀と王宮へ向かう。


道行く人々は初めて見る氷に目を奪われていた。



大きな門の前で立ち止まると門番が朱雀に頭を下げる


「王様がお待ちです。」

大寒は王宮の大きさと夏成国の豊かさに圧倒されていた。


王様の側近の大犀鳥おおさいちょうが朱雀一行を迎える


「王様は体調も良く 水の間におられます。」


大寒に抱かれた大雪を見て驚く大犀鳥


「私は冬成国から参りました、大寒です。」


「私の名は大犀鳥、遠い所から、よくお越し下さいました。さぁこちらへ。」


王宮内の静かな廊下を歩き、徐々に涼しくなると薄暗い奥の扉を開ける。

扉の向こうは綺麗な中庭が広がり美しい池には水車が回っていた。

その中に、一人静かに佇む王様の姿は、細く透き通る肌と綺麗な黒髪に目鼻立ちの整った顔は美しさで溢れていた。


「朱雀に会えて嬉しいよ。よく来てくれたね、睡蓮に大寒。それに大雪は凍ってしまったようだね。大寒、私と大雪を二人にさせてくれるかい?」


「はい…」


一同、頭を下げたまま無言で水の間をあとにする。心配そうな大寒に睡蓮が背中をさする


「大丈夫よ。王様は大雪を救ってくれるわ」


水の間の前で静かに時を待つ、朱雀、睡蓮、大寒の三人は静かに祈りを捧げる


朱雀の苦しそうな顔を見て睡蓮は覚悟を決める。

早く朱雀を継承しなければと強く思うのだった。


水の間では氷像になった大雪に話をかけるナオイク王


「昨日は沢山、話をし過ぎてしまって君を傷つけてしまったね。申し訳ない。同じ祖先を持つ君に出会えて心から嬉しく思った。過去はどうであれ、私たちは繋がっているのだ。ただ、それだけで暖かな気持ちになるのだ私は。私と今世で出会ってくれてありがとう。雪の女王、大雪よ。どうか帰ってきておくれ。」


ナオイク王は言霊を込めて手を氷に当てると一気氷が溶け出し、辺り一面水で覆われた。

水の間の扉から流れ出る水に驚く大寒と睡蓮


静かに扉が開くと、水の間に横たわる大雪。氷はすっかりと溶けて無くなっていた。


ずぶ濡れのナオイク王は微かに微笑むと、水の間を去った。


大雪に駆け寄る大寒は大きな手を大雪の頬に当て、体温を確認する


「暖かいだ…」

大寒は涙を流すと涙は真珠に変わり、その涙を王様に献上した。


その頃、合宿所にいた立冬の胸元のブローチが光り大雪の無事が分かると芒種と小暑に無事を伝え、三人は互いの手を叩いた。




その夜、朱雀と露草は海の父親が誰なのかを確信し静かに強く、双成国の未来を祈るのであった。



恋心

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