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海の神と山の神

前回までのあらすじ


桃の木の葬儀に参列する為、春成国の同志が不在の中、四季学仙校中等部では

夏成国 秋成国 冬成国の皆は自習をこなしながらも桃の木の死に疑問を抱く…


医務室のドクダミは芒種を呼び話をする


芒種はドクダミと同じ天能力があり

同じ天能力者が現れた場合、先人の言霊使は九年で死ぬという


そんな中 酔イ踊レ乱舞の開催が正式にきまるのであった。

 =  夏 風 =



  酔イ踊レ乱舞の開催が正式に決まり、夏成国は準備を始め街は活気に満ちていた。

朱雀継承の儀の準備も着々と王宮で進められた。

 一方で乱舞開催から継承の儀の護衛に就く言霊使の訓練と配備、一部の言霊使は無くなった音図を探しに出ている為に夏成国は完全な人手不足になっていた。

その為、乱舞開催前の夏休みは言霊使見習いの四季学仙中等部の秋成国を除く仲間は夏成国に入り、乱舞と継承の儀の準備を担う事となった。



 男女別に王宮内の宿舎に入り、広い廊下を走り回る柱


「これさぁ、ぜーんぶ王様の家なんだろ?すっげぇー」


「柱くん、走っちゃダメだよ」

同国の清明が苦笑いをしながら元気に走り回る柱を注意する


「春成国の印象が悪くなるだろ?」

そう言いながら追いかける蟄


そんな二人の姿を眺める立春と清明


「仕方ない、柱がここに来るのは初めてだからな」 


「あっ、そうかぁ!私と立春くんと蟄くんは合宿で何回か来てるもんね」


「柱は凄い。私たちのように生まれて物心ついた頃には自分は言霊使になるのだと周りの大人達に言われ育った訳ではない、柱はある日突然に父親が現れて言霊使になれと言われ、双子だと聞かせれた上に刻印の事も告げられた、育ての母親と離れる事になり今私たちと一緒にいる。どんな気持ちなのだろうな…」

そう話す立春の横顔は寂しそうな目をしていた。


「もっと話したいよね!きっと柱くんも同じ気持ちだと思うよ」

柔らかく微笑む清明


「清明の笑顔に救われる」


「え?」


「ありがとう清明」


「えへへ、照れちゃうよ」


「ところで…睡蓮は大丈夫そうか?」


「うん…元気に振る舞ってはいるけど…準備が進むに連れて自分が朱雀になる事に全くの不安がないと言ったら嘘になるでしょうね…それが伝わってくる。夏成国のみんなもその気持ちを背負っていると思う…秋成国のみんなは元気かな…?」


「白露、葉楓、かぐや、寒露が今、不在なのは事情があっての事だが…白露とかぐやは母親が違うだけで一切の接触を許されないのは実に切ないだろう、秋成国の問題だが…乱舞開催までには夏成国に入るというが…おそらく白露、かぐやのどちらかは不在であろう…」


「欠場にしてまで接触させないなんて…悔しいよね…みんなで乱舞に出場したいだろうに」


「冬成国の立冬、大寒、大雪は〝やませ〟で大忙しだしな」


「〝やませ〟って言霊の力で手から冷気をだすんでしょ?かなり〝気〟を使うんだろうなぁ」


「この暑さだ、王様や年寄りに赤子、病人と〝やませ〟で救われる命があるのだ」


「あっ、私たちってもしかしたら、他の仲間よりも問題なく乱舞への練習ができるって事になるよね…それって…それってさ…いいのかな?」


「こちら側も他から見れば曇り空っといったところだろう。禁忌の双子がいるのだからな」


「刻印さえ現れなければ二人は一緒に…立春くんと柱くんと蟄くんとずっと春成国で言霊使として生きられるんだよね?」


いつにない真剣な表情の清明


「ハハハハっ、そうだな…きっと…」


「きっと、じゃなくてずっとずっと絶対にみんなといたいの」


魂がこもった清明の言葉に立春の胸が救われるようだった。


「蟄!柱! 乱舞に向けて練習するぞ!」

立春の声に


拳をあげてかけてくる蟄と柱


「練習前に走り過ぎだ!」

立春が笑顔で二人に声をかける


「なぁ、なんか夏成国…変じゃないか?」

蟄が不思議そうな顔で辺りを見渡す


「何がおかしいの?」

清明はキョトンとしている


「虫がいない…」


蟄の言葉に辺りを見渡す、立春、清明、柱


「王宮の中…だからかもしれないな…特別な言霊でもかけているのかもしれない」


立春はそう言ったものの、何かが変だと気がつくのだった。






= 夏の やませ =



やませの風習は古くから行われいる 始まりは昔、夏成国に大干ばつが起こり、夏成国の王様も民も暑さで病におかせれ夏成国の言霊使が祈りに祈りを捧げた。その祈りの力で朱雀が遥か遠い冬成国まで行き、冬成国の言霊使を背中に乗せて夏成国まで連れて来たと言われている。

冬成国の言霊使が夏成国に雪を降らせ、大地に水が蘇り、王様も民も救われたと言われている。


「伝説の話でしょ、これ!」

睡蓮が暑い中、涼しい顔で乱舞の作戦を練る

「俺の聞いた話だと、四霊の亀に乗って夏成国まで行ったと聞いたが…」 

手から冷気を出す立冬は横たわわる海に〝やませ〟を施していた。


「芒種と小暑、睡蓮は暑さに強いのに…私だけごめんね。乱舞の練習ができないね…」

海が申し訳なさそうに天井を見る


「あんたが暑さに弱いのは小さい頃からでしょう、早く冷やして元気出しなさいよ」

睡蓮が難しい顔で立冬を見る


「一つ、いい?  なんで海の〝やませ〟が立冬な訳? 作戦が立てれないじゃない!先輩の冬成国の言霊使さんもいるよね? 作戦丸わかりになっちゃうじゃないのよ!」


「先輩達は王宮と診療所にいて、大雪と大寒は民家を回ってる…」

立冬が面倒くさそうに答える


「うん!そうよね、だから何でアンタな訳?」


「本当は大雪のはずだったんだけど、夏成国の民家を周りたいとか…で…」


*大雪は海が立冬に好意を寄せているのに気がついており、気を使ったのである。


「まぁカリカリすんなよ、睡蓮シワができるぞ?」

芒種が睡蓮をなでめる


「まぁ、夏成国のみんなを救ってくれてるのは凄く感謝してる!もう一ついい? 立冬たちはいつ乱舞の練習をしているわけ?」


芒種、小暑が申し訳なさそうに立冬を見る


「今もしてるよ。」

立冬の言葉は真っ直ぐだった


「以心伝心て事?」

腕組みする睡蓮


「そう、離れていても繋がってるって事。物理的にそばにいる事だけが乱舞への練習にはならないさ。先輩方も気を使ってくれて夕刻からの〝やませ〟は引き受けてくれてる。」


「そっ、立冬は顔まで涼しい男ね!」


「時期に朱雀となられる方は負けず嫌いだ…立冬すまん」

小暑が立冬に頭を下げる


「立冬はモテそうだよな?」

芒種がぶっきらぼうに言う


海がピクっと反応する


「…モテた事ないな…大寒はモテると思う」

立冬の言葉に安堵する海に対しお茶を吹き出す芒種


「だだだ大寒?! いやっ確かにいい奴だし、言葉使いも語尾に〝だよぉ〟とか優しげな感じもするが大男がモテる国なのか?冬成国は?」


「毛深い眉毛に大きな体で素手で鮭を捕ったり、熊と戦える安心感もあり、弓も使えるし丸太を三本担ぎ家が早く建つし…」


「わわわ、わかった!ほぼ熊じゃねぇかよ!大寒が。冬成国のモテる基準がわかった気がする」

芒種が頭をかきながら笑う


「小暑の家って書物を扱っているんだったよな?」

立冬が思い出したかのように問いかける


「そうだが…何か読みたい書でもあるのか?」


「うん…双成国の歴史と眠りについて…」


「ほう、ちょうど今日の夕刻に実家に呼ばれている、一緒に行こう、読みたい書があれば好きなだけ読んでいったらいい」


「助かる…」


立冬と小暑の会話を聞きながら筆をコツコツ机にあてる睡蓮


「遊ぶ約束の邪魔して悪いんだけど、海の〝やませ〟が終わったのかしら?」


「あぁ…もういいと思う」

立冬が海のおでこに手をあてると海の顔が赤らむ


「あれ?もう少し施術する?」

「もうっ大丈夫!すっごく良くなったよ、ありがとう!」

海が両手を広げて元気アピールをする


「うちの海がお世話になりました!さぁ、立冬!次の〝やませ〟行ってらっしゃい!」

乱舞の作戦を早く立てたい睡蓮が立冬に手を振る


「じゃ、小暑あとで…」

そう言いながら睡蓮の頬を摘む立冬


「痛いんだけど!」


「手を振ったつもりだったんだけど…じゃ。」

その光景を見た海は拳を強く握ると窓際の風鈴にはヒビが入った。





 その日の夕刻





夕日が辺りを赤く染める頃、立冬と小暑の二人は 〝 書館堂 文月 〟小暑の実家へ足を運ぶ

大きな佇まい家の前には色とりどりのハイビスカスが咲き乱れ小鳥たちがさえずり猫が気持ちよさそうに寝ている



「思ってたよりも大きくて驚いてる…」


「あぁ、実家を離れるまでは自分の家が大きいとかは特に思わなかったが…まぁ殆どが書物だ、入り口はそこの鳥居の先だよ、夏成国のみんなが自由に行き来してるけど、閉館時間過ぎてるから鍵とってくるわ、ちょっと待てて」


「うん………」

立冬は夏成国を見渡し、自国との違いに圧倒されていた。


「子どもの頃は合宿では来てたけど…改めて見ると夏成国は豊かだ…」

立冬の一人言が風に流れる


「夏成国は初めてかな?」

小暑の祖父の日照ひでりが立冬に声をかける


「…っ」

振り返った立冬の顔を見て驚く日照


「あっ、あの僕は冬成国から来ました…立冬です。」


日照は立冬の目をしばらく見る


「あ…あの…」

少し戸惑う立冬


「あぁ!孫の同志か!それは、それは…今日はうちで夕飯でも食べていきなさい」


「いや、でも…下宿所で用意されているので…あ…」


そこへ鍵を持った小暑が帰ってくる


「お祖父様、お久ひぶりです。えっと、こちらは僕の友人で同志の」


「立冬…だな…今、名を聞いた」


「えっと、僕の祖父で夏納めの日照です」

小暑が立冬に祖父を紹介する


「えっ!あっ、夏納様でしたか…」

立冬は深々と頭を下げる


「小暑、今夜は二人とも、うちでご飯を食べて行きなさい…下宿所にはカラスを飛ばしておく」


「はい…」


「では…」

日照が母屋に帰ってゆく


「ごめんな、強面だろ、お祖父様。 これ、鍵! あっ…あとさ書館堂の中に鍵のかかった扉があるんだけど、その部屋は入れないんだ」


「わかった。…小暑、ありがとう」


立冬の慌てた姿を思い出し声を出して笑う小暑

「お前も慌てるのだな、読み終えたら鍵をかけて母屋に入ってきてくれ」


「うん…」



 誰もいな書館堂の中は不思議と涼しく、紙の古い香りと甘い香りがする空間で立冬は書物を探す

双成国の歴史書を手にとり眠りについての書物を探すが、なかなか見つからず、一人歩いていると鍵のかかった扉の前で足を止める


「これかぁ…小暑がさっき言ってた…ここにある気がするが…でもな…」


立冬が扉を押すとガチャガチャと鍵のかかった音がした


「しっかりと鍵がかかってるな…と言うよりも言霊祝詞の封印といった所か…」


そこへ小暑がやってくる


「立冬!見たい書は見つかったかぁ?」


「うん…一つは見つかったが、もう一つが見当たらなくて」


「なんの書だ?」


「眠りについてなんだが…」


「眠り…」

小暑が立冬の顔を見る


「立冬が探しているのはただの眠りの書じゃないんだろ? 言霊や祝詞の書はここの中だな、ここを開けるにはお祖父様の許可がいるなぁ、まぁ前に開けて勝手に入った事があるんだけど…」


立冬が熱い眼差しを小暑に向ける


「何だよ!そのおねだりの目は!」


「…夏納様に許可とるの何となく怖くて…」


「…はぁあああ!絶対に言うなよ!今回も開けれるかは、わからないぞ!」


「うん、うん、うん、うん、うん」


「立冬ってそんなキャラだっけ? とりあえず、紙を用意して 集中させてくれ!」



小暑が懐から半紙と筆、小刀をを出すと小刀で手のひらを少し切り筆に血をつけ気を高める


「この重き扉の鍵となれ」


半紙は形を変え、折り畳まれてゆく、やがて鍵の形になった半紙は紙とは思えぬほど硬くなり、小暑の手のひらに落ちた。


 初めて見る小暑の言霊の特性に驚く立冬


「おぉ…手…大丈夫?」


「大丈夫だ、浅く切っただけだ、明日には気にならなくなるさ、それより早く探してしまおう」


扉の中は言霊に関する書物や朱雀の書など言霊使でなければ手にとる事は許されないであろう書物が納められていた。


「あった!」


立冬が、〝花の本〟を取るが開けない


「えっ…」


「あぁ、これ祝詞封印かけられてるなぁ」

小暑が残念そうな顔をする


「封印してまで見てはいけない物なのか…?」


「それだけ、実用性もあり取扱注意…と言ったところだろう」

酷く残念そうな立冬の顔を見て小暑は大きなため息をつく


「この封印を解ける言霊使がいない訳でもないが…」


「えっ!でも…夏納様なら…頼みずらいな…」

立冬は捨てられた子犬のような顔で小暑を見る


「お祖父様じゃないよ、朱雀様と海だ。海は言霊祝詞を使える。…ただ…」


「ただ、なんだ?」


「ここにある書物を持ち出す事には…お祖父様の許可がいる」


「そっか…」


「初めから素直にお祖父様に頼もう、それが早い」


二人は扉に鍵をかけたところで小暑を呼ぶ声がする


「にぃに! 夕飯の支度ができましたよぉ」


「今、行く!」


兄の声を聞いた妹が走ってやってくる


「にぃに! ひさしぶりぃ! こんにちわ!私は小暑の妹の小照こてりです。」

小麦色の肌に満面の笑みで笑う小照は、前歯が抜けたばかりの可愛い女の子である


「こんにちわ、立冬です」


小照が、じーっと立冬を見つめる


「生まれた国は何処ですか?」


「冬成国生まれだよ、よろしくね」


「立冬は王なの?」

小照は曇りなきまなこで立冬を見つめる


「王? ではないかな。 ただの言霊使だよ」


「そうなの?」

幼い小照は口をタコのように尖らせた


「それでは冬成国、最後の言霊使ですか?」


「小照!初めて会った人に失礼だぞ」

小暑が妹の小照を叱る


「いや、いいんだ。最後の言霊使にはならないよ」


「ですが、大人たちは言います。冬成国は辰年生まれの言霊使を最後に閏適正期の子どもが生まれていないと…」


「小照!!」

少し大きな声を出す小暑の胸元に手を添える立冬


「よく知っているね、その通りだよ。でも俺が最後の言霊使にならないように祈っているよ。冬成国のみんながね。」

そして立冬は小照の頭をポンポンと撫でた


「やっぱり、立冬は王様です! 顔も綺麗です!」

目をキラキラさせる小照


「立冬、やはり大寒よりモテるのではないか? 小照に気に入られたようだ」

小暑が微笑む


「早く夕飯を食べましょう!今夜はご馳走ですよ! 少し早いですが、にぃにの誕生日です!」

小照は小暑と立冬の手をひっぱりながら書館堂をでた



母屋では小暑の家族が二人を待っていた。テーブルの上は刺身や豚の角煮、たくさんのフルーツなど豪華な料理が並んでいた


二人が席に着くと、小照が大きな声で

「にぃに、誕生日おめでとう!!」と言うと皆は拍手をする


「久しぶりに我が家に帰り、このように祝って貰えて自分は幸せ者です。立派な言霊使になれるように精進して参ります」

小暑が頭を下げる


「硬ったいのう!!真面目はつまらんぞ!ワハハハハ!」

日照が大声で笑う


立冬は初めて見る夏成国のご馳走と豪快に笑う日照に驚く


「本日は冬成国のお客様もお見えだ、豪快に飲もう!」

「お祖父様、まだ酒は飲めません」


「そうだったのう!つまらんのう!では祈る!」

日照が大きな両手を合わせると皆が手を合わせる


「いただきます!!」

 日照の声に続き皆が挨拶をする


皆が箸を進めながらチラチラと立冬を見る


「こんなお祝い日に俺がいていいのかな?」

立冬は小暑に小声で言う


「あぁ、構わないさ、ここにいる人は家族だけではなく、近所の人や話した事のない人もいる」


「へぇ…」


「そういう文化なんだ、あと一時間もしてみろ、誰かが三線を弾き始めて踊り出すぞ」


「…暖かな文化だな…冬成国と少し似ているよ。気のせいかな、俺チラチラ見られてる気が…」


「冬成国の人が珍しいのだろう。それより後でお祖父様に書物の事を頼もう」


「あのっ、誕生日おめでとう」


立冬が照れくさそうにして気を高めると右指から氷の粒を出して左の手のひらに小さな雪だるまを作り小暑に渡す


「すぐに溶けてしまうが…」


「おぉぉぉ!ありがとう、立冬!」


そこいた人は初めて見る雪だるまに感動して立ち上がり口笛を吹く、小暑の手の中の雪だるまは皿に乗せられて本日の主役となった。


日照が立冬に話をかける


「夏成国の食事は口に合わないか?」

立冬は料理に手をつけていなかった


「いえ、どの料理も初めて見るものばかりで、とても美味しそうです。」


「冬成国の教えが抜けないか?」


「…はい。冬成国では言霊使は最後に食べる習慣があり、中等部へ入った今でも皆が食べ終わる頃に食べてしまいます。」


「ここは夏成国だ、食べなさい。立冬が箸をつけないと、この料理を作った者は口合わなかったのかと不安になる、ここでは先に料理を口につけるのが礼儀だ」


「はい。」

緊張する立冬


「あ、あの、日照様」


「うん?」


「読みたい書物があるのですが…言霊に関するのもで…鍵を開けていただきたいのです」


「ほう、何について調べたい?」


「…花の書を…」


「うん、わかった!」


「良いのですか?!」


「よいよい! その代わり、さっき小暑に作った雪だるまを私にも作ってはくれなか?」


「はい!」


立冬が気を練る姿を見つめる日照は立冬の洗練された〝気〟に強さを感じていた


「できました!どうぞ!」


日照の手のひらに乗せられた雪だるまはジワジワと溶けながらもしっかりとしていた


「ありがとう。カイとアワンは素晴らしい子を育てたな」

日照が優しく言うとあっという間に日照の手の上で雪だるまは溶けてしまった


日照の言葉に頬を赤らめる立冬


「書館堂の鍵は後で小暑に渡す。書物に祝詞封印がかけられている場合は、皐月の家に朱雀がいる、尋ねるといい。」


「朱雀様ですか!恐れ多いです」


「なんて事はない普通のおばぁちゃんだ」

日照が優しい目で笑った


立冬は目の前の料理を食べ

「美味しい…」 と呟くと皆が笑顔になり三線が聞こえ自然と皆が踊りだす。

熱い夏の夜に触れ夏成国の人の暖かさが胸に染みわたる立冬なのであった。







 =王家と王家=



 ナオイク王は齢、七つにして夏成国王となる。


 容姿端麗、頭脳明晰、閏年生まれの王であり言霊使である。

閏年生まれの王は数百年ぶりであり、伝説の書 〝 朱雀と王 〟の中で出てくる王の他はいない。

ナオイク王は伝説の王の生まれ変わりだと崇められた。

だが、王と言っても名ばかり。

夏成国の平和の祈りとまつりごとに加え夏成国の情勢を納めているのは歳の離れた姉であり言霊使のヒクイナが全てを統治しているようなものだった。

そのおかげもあってか、ナオイク王は四季学仙校を卒仙し高等部への入仙を希望した

〝姉様が男なら良かった〟

 ナオイクの口癖である




 ナオイク王は夏の暑さで体調を崩されていた為、連日〝やませ〟を呼び施術しているが体調が良くならない。それは朱雀の死が近づいている事を意味していた。

ナオイク王の側近の大犀鳥オオサイチョウが王の身を案ずる


「ナオイク王様、朱雀様に継承の儀を、酔イ踊レ乱舞より先に行うようにと話ましょう」


「…何を言っている、予定を早めれば準備を早急にしなければと皆が暑さの中、作業をし、睡蓮の心も急かす事になる…」


コンコン…


「〝やませ〟の者がお見えになりました。」


「通してくれ」

熱がナオイク王の息使いを荒くする


「失礼致します、本日〝やませ〟を行わせて頂きます、大雪にございます」


大雪は初めて会う王様に緊張していた


「宜しくお願いするよ」


薄暗い部屋に桜の香が焚かれナオイク王が横になっていた。

王に近づく大雪は〝気〟を高めて〝やませ〟を始める。


大雪の手から冷気が出せれると王の顔に近づける


「…気持ちが良い」


王の整った綺麗な顔は想像よりも若い印象で大雪は驚く


〝やませ〟を初めてすぐに異変が起こる。王様の着物が湿りだし、床に水がジワジワと溜まっていく


「やめ!」

大犀鳥の声に手を止める大雪


「王様!これは…」

大犀鳥は酷く驚いているようだ


「大変、失礼致しました」

両手をつき頭を下げる大雪は王様になんて事をしてしまったのだろうと震えた


「違うのだよ、大雪…」

ナオイク王は体を起こし優しく微笑む


「大雪、顔を上げてくれないか?」


驚いた表情で顔を上げる大雪


「挨拶が遅れて申し訳なかった、私は夏成国王 ナオイクだ」


「はい…」

大雪の声は震えている


「大雪、私の手に触れてごらん?」

ナオイクがそっと右手を出す


大雪がそっとナオイク王の手に自分の手をかざすと、二人の手の間から水が溢れ出てくる


「大雪、君はアヌ王の血を引く者だね。つまり君は雪の女王なのだよ」


ナオイク王の言葉に戸惑う大雪は溢れる水を見て手を離す


「その昔、夏成国に

大干魃が起こり冬成国の言霊使が夏成国へ来て雪を降らせ民を救った話は知っているね?」


「はい…ですが伝説であり…物語であると思っております…当時の王はお礼にミツバチを贈った事で冬成国は作物が豊かになり緑の大地になったと」


「そうだね、夏成国と冬成国は遠縁だと知っていたかな?」


「ナオイク様!」

大犀鳥が話を止めに入る


「大犀鳥、この子は間違いなくアヌ王の子孫なのだよ、話をしてもいいのだよ」


無言で頭を下げる大犀鳥


「これから話す話は王族の限られてた者しか知らない話だ、大雪、君の心に留めておいてくれるかい?」


「…はい」

大雪は自分の手のひらを見つめて呆然とする


「私たちの祖先は同じ土地、同じ環境で暮らす者アシア族であった。アシアの長アヌには二人の息子がいた。

兄の名は〝ホデリ〟漁師で海の守り神。

弟の名は〝ホオリ〟猟師で山の守り神。


弟のホオリは兄に釣り道具を貸して欲しいと三度頼むが断られてしまう、四度目にしてやっと釣り道具を借りたがホオリは釣り針を全て失くしてしまう、怒ったホデリは弟を許さなかった。

 

ホオリが一人泣いていると〝潮流の神〟が現れてホオリを海の宮殿へ連れていった。

宮殿の海神の娘はホオリを見て一目惚れをし、美しい姿でホオリを慰めた。

やがて二人は夫婦になった。

二人の間に双子が生まれたが、一人の容姿は醜く、夫婦は我が子を海へと流した。


海の宮殿での生活が三年ほど過ぎた頃、ホオリは海へ流した我が子を探しに宮殿を去ると決め、夫が去る時に妻は、昔、夫が失くした釣り針を渡し夫を送り出した。


そしてホオリは故郷に帰り、兄のホデリと再会を果たすが兄は酷く老いていた。

驚くホオリにホデリは聞いた


「今まで何処にいた、お前がいない間に山は荒れ、沢山の山の子が死んだ」と。


ホオリはこう答えた


「失くした針を探しに行っていた」と嘘をついた。


ホデリに針を返すと、ホデリは涙を流した。


荒れた山に帰りホオリは一生を山に身を捧げると誓う。


兄のホデリは弟から返して貰った針で漁に出かけるが釣り針が指に刺さるとホデリは倒れてしまう

道具は古くなり〝ツクモガミの毒〟に晒されていたのである


瀕死のホデリはホオリに最後こう言った


「お前の子は生きている」と言いこの世を去った。


全てを見ていたアヌ王は兄弟殺しの罪 〝刻印〟をホオリに与えた


刻印を刻まれたホオリは海の神の子孫に接触する事を許されず、近づけば涙の塩水が溢れるという。


これが双子の刻印の始まりと言われているよ。


大雪…君は山の神の子孫だね」


ナオイク王の話に大きく瞬きをする大雪


「では王様…その流された子は何処で生きていたのですか?」


「それはね……ハ…ル…ケホッケホ、」

ナオイク王の咳が激しくなる


「ナオイク様!」

側にいた大犀鳥が駆け寄る


「今日の〝やませ〟は終わりにしよう…すまなかった」


ナオイク王は大雪に頭を下げるのであった


「ナオイク王様、おやめ下さいっ」

大雪は床におでこを擦りつけた


「大雪殿、お勤めご苦労であった、今日はお帰りください」

大犀鳥の言葉が大雪の耳に刺さり、大雪は王宮を後にした



夏成国の夜風が大雪の髪を撫で風鈴の鳴る道を歩く大雪はナオイク王の話と水が溢れ出る感触を思い出し自分の手の平を眺めた


「私は…一体…」


そこへ大雪を呼ぶ声がする


「おーい、大雪?」


「えっ」

ふと我にかえる大雪


「大丈夫か?顔色が悪いぞ?」


「芒種くん…」


「大雪も夏詣に来たのか?」


芒種は家族と神社へ夏詣なつもうでに来ていたのだ


「お兄ちゃん、この人誰?」

芒種の弟が芒種の後ろに隠れながらモジモジしている


「同志の大雪さんだよ、冬成国の言霊使だよ」


「えぇ!冬成国の人なの! 僕にも〝やませ〟やって!やって!」


「こら、コウタ挨拶をしなさい、いやすまない、私は芒種の父の六花だ、夏成国で医者をしているよ」


「初めまして、冬成国から参りました、芒種くんの同志の大雪です」


「おや、顔色が悪いようだが…」

芒種の父が大雪の顔を心配そうに見る


「大丈夫です、コウタくん?こっちおいで?」

大雪はコウタの目線まで腰を下げて右手をそっとコウタの頬に近づけて冷気を出す


「凄いっ!本当に冷たい、気持ちいい!」


コウタが喜ぶ姿に芒種の眉が下がる


「もしかして〝やませ〟の帰りか?疲れてるだろ?」


「うんうん、今日は何の役にも立てなくて…]


バタンッ


大雪はその場に倒れてしまう


「大雪、おいっ大雪!」


芒種は大雪を抱き抱え驚く

「ひどい、熱だ…」


「うちへ運びなさい」

芒種の父は大雪の脈をとり真剣な顔をする





大雪が目を覚ますと、横で芒種が本を読んでいた


「冬成国の奴も熱とか出すんだな?」


大雪は頭痛で片目を瞑る


「頭痛?」

芒種が大雪のおでこに手を当てると痛みが引いていく


「凄い…芒種くんの天能力は治癒…だったね」


「さっきのお返しだよ」


「…」


「さっき弟に〝やませ〟してくれただろ」


「あっ、私そこまでは覚えてるんだけど……」


「〝やませ〟をし過ぎて〝気〟が枯渇したんだろう、気を使い果たす程〝やませ〟をするなんて王様のところにでも行ったのか?」


芒種の言葉に作り笑いをする大雪


「…図星か…よく頑張ったな、今日はここに泊まっていきな?俺は隣の部屋にいるから何かあったら呼べよ?いつでも天能力で治癒してやるぞ、じゃあ」


背を向けた芒種の手を握る大雪、突然手を握られドキッとする芒種


「芒種くん、ありがとう」

大雪は芒種の手をぎゅうっと手を握る

「どうした?」

赤らむ顔を見られたくない芒種は背を向けたっまま上を向く


「私…このまま少しだけこうしてたい…だって芒種くんの手はすごく暖かいから」

大雪は大粒の涙を流した


背中越しに大雪が泣いているのがわかった芒種は、そのまま背を向けたまま大雪の手を強く握り返すのだった。




他国の言霊使同志の恋が禁じられているのは刻印の子が生まれる事を避ける為なのであると気が付く大雪。海に流された子はきっと春成国に辿り着き生きたのだと、立春と柱が双子で生まれたのは偶然ではないのだと悟る。

そして自分の祖先が刻印を刻まれた者だと知り、大雪の心は氷のように固く閉ざしてしまのであった。



ドンドンッ



芒種の家の扉を叩く音が聞こえる


芒種はそっと大雪の手を離し玄関へ向かい扉を開けると、立冬と大寒が息を切らして立っていた。


「大雪は無事か?」

立冬は肩で息をしている


「なんでここってわかった?」

芒種が驚くと


「離れていてもわかるだよ」

大寒も冷や汗をかいているようだった。

大寒と立冬の胸元の亀のブローチが光っていた


冬成国の絆の深さに圧倒される芒種

「お前らと酔イ踊レ乱舞で戦いたくなくなるよ…大雪の側に行ってやれ」


立冬と大寒は大雪の涙を見て息を飲み、何も言わず、一つ一つ床の真珠を拾うのだった。


大雪の涙は真珠になっていたのだ



「酔イ踊レ乱舞は勝てないかもしれんな…大雪が凍ってしまっただ」


大寒の言葉の意味がわからず、大雪に目をやると言葉通りに大雪は氷像になっていた。


「これは…」

それ以上言葉が出ない芒種なのであった。



氷像になった大雪に芒種は天能力の治癒を施すが、全く効かず頭を抱える



「大雪は元に戻れるのか?」

芒種が汗をかきながら治癒を試みる


「ありがとう芒種、もう治癒はしなくてもいいだよ、芒種の気が枯渇してしまうだ…」

大寒が切なそうに大雪を見つめる


「元に戻すには…冬成国まで帰らなければならない…」

立冬が片手で顔を覆う


「いや、無理だろ…」

芒種がふらつく


「大雪は〝やませ〟をしに王様の所へ行ったはずだ…何があった…」

立冬が爪を噛む


「とりあえず、今日はこのまま大雪をここで寝かせて明日の朝、夏納様に見てもらおう」

芒種の言う通りに夜明けを待つ、大寒、立冬、芒種。

波の音と一緒に朝日が見え、大寒が大雪を担ぎ歩き出し、立冬、芒種も焦る気持ちで夏納である日照の家へ向かうのだった。


次回 夏なり 冬なりの秘密

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