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言霊白書

双成国は二十四節気 七十二候を重んじ四季に合わせ国を四つに分け〝春夏秋冬〟を一つの国とし季節に応じた役目をこなし平和で豊かな調和をとっていた。


また言葉を大切にし人の口から放つ言葉には霊があり民たちは日々感謝の気持ちを忘れず見える物、触れる物全てには神が宿ると信じてる。


その国の閏年生まれの子は特別で言霊使いとし天からの才能=天能力を持って生まれてくるのである、その為か閏年の出産率は低く限られたと言うべきか

〝選ばれた子〟として重宝され他の子供たちとは違う学舎で言霊使として特別な才覚を身につける。


全ては国の調和の為である。





春は東 四霊 龍

 

春成国 如月家


静かな朝、御膳が並べられた卓に一人佇む立春たてはるの姿は姿勢良く品に溢れている。十二歳を迎えたばかりの少年とは思えぬ大人びた後ろ姿である。

鹿威しが手入れされた庭に鳴り響く

襖が開き、立春の父であり春成国のおさめである如月山茶花きさらぎさざんかは〝春納〟つまりは春成国の長である。

「おはよございます」

立春は頭を下げ挨拶をする。

山茶花は何も言わず上座に座り微かに頷き手を合わせ

「いただきます」と言うと食事が始まる。

会話はなく箸の音さえも聞こえぬほど静かである

山茶花が箸を置くと立春も箸を置く。


「立春、言霊はどうだ、使いこなせてはいるのか?」


食事中に話をする事など滅多に無い山茶花に顔色一つ変えずに返事をする立春

「はい。気の練り方、言霊調力、また数霊も日々精進してしております」

「...そうか。立春、今夜話がある私の部屋に来なさい。」

「はい...。」


「立春坊っちゃま、お時間です」


使用人の声に静かに頷き、手を合わせる立春


「ご馳走様。今朝の梅の吸い物は大変美味であった。いつもありがとう。」

「とんでも御座いません」と使用人は頭を下げる。


〝話とは?〟…

きっと夜イ踊レ乱舞よいどれらんぶの事であろうと磨かれた冬草履を履く

「そろそろ雪解けか…」そう呟くと立春は四季学仙校へ向かう。


途中で同級生のちつと会い、大人びた十二歳の少年は十二歳の男の子の笑顔で「おはよう」と声をかける

蟄は同じ四季学仙校に通う頭の良い男の子である。


四季学仙校とは閏年生まれの子のみ通う特別な学校であり、その中でも二月から四月に生まれた者は天能力を持ち言霊を使う事ができる。

近くに住む子供たちは七十二校に通っている。同じ家に生まれた兄弟でも閏年生まれ春成期(二月から四月)でなければ何の能力もなく平人として幸せに暮らしている。

立春にとって蟄は大切な友人である。もう一人、同級生の清明せいめいは瞬きさえするのがゆっくりに見えるほど、のんびりした女の子で春成国山の麓から毎日2時間かけて歩いて登校している。


「荷造り済ませたか?」

蟄がワクワク顔で立春に問う

「特に何も。必要な者は使用人が届けるだろう」


立春、蟄、清明は十二歳になると親元を離れて四季学仙校の寮に入る決まりなのである。


「ほぉぉ。さすが〝春納様〟の子は違うなぁ」と感心した様子の蟄


「今朝、父に…いや、何でもない」

立春が下を向く


「何だ?言いかけてやめるなよ」


「今夜、話があると言われた。食事中に話をする事などないのに…」

「ひぃぃ、立春なんかやったんじゃないのか?叱られるような事」と蟄が笑う


「…きっと夜イ踊レ乱舞の事だろう」

二人は声を揃えた。

すると後ろから腑抜けた声で

「チツくーん、タテハルくーん」と大荷物を持った清明が二人を呼んだ

「どうしたんだ、この荷物?寮に入るのは来週だぞ?」

蟄はそう言いながら清明の右手の荷物を持ってやる。

立春は左手の荷物を持つ


「ありがとう、もう...一気に運ぶのは無理だしお姉さん達が今日から少しずつ持って行きなさいって。学仙に荷物置いておこうかと」


「少しずつ…」二人はまた声を揃えた。


「清明、少し早く歩けるか?清明に合わせると遅刻してしまう」

立春に言われ小走りで二人に続く清明


「こらぁ!!時刻ギリギリじゃない、言霊使たる者、時を大切に!」

校門の前で桜先生が三人を待っていた。

小さな教室に三人だけ。桜先生ともあと少しでお別れなのである。後任の先生はツツジ先生と決まっている。


小さな教室に暖かな日差しが差し込む


「あと五日で君たちは正式な言霊使となるべく、四季学仙校中等部へ行きます。中等部になると夏成国、秋成国、冬成国とそれぞれの国の閏年生まれの同志と毎日ともに学びます、年に3回、合宿で会ってる子たちです、大変優秀であります。ですが、貴方たちも優秀です。どの国の子供とも親切に接し相手を理解する心を忘れずに。日々、言霊と数霊を学ぶように」

桜先生の目に少し光るものが見える。


すると清明がゆっくりと手を上げる

「ですが先生、夏成国の同志はうるさいですし、冬成国は冷たいです、秋成国は私たちを嫌っていて不安です」


桜先生は清明の不安な気持ちがかつて自身も抱いた気持ちと重なり優しく微笑む


「それで良いのです貴方たちは暖かな

〝春〟なのです。春は儚く皆が恋しがる。貴方たちは貴方たちのままで良い、それで良い。それが良いのですよ」

立春、蟄、清明は男の子女の子から少年、少女の笑顔に変わりつつあった。まるで花が芽吹くかのように自信に満ち溢れ春成国生まれを誇らしく思う顔で笑った。

帰り道三人の後ろ姿に春の風が吹いた。


 = 如月家 =


「只今、もどりました」

立春は使用人に迎えられ今朝同様に静かに夕食を終えると父の部屋へ向かう。父の襖の前に座り声をかける


「父上、立春に御座います」

「入れ」

「はい」

父と向かい合い座る立春。山茶花は神妙な面持ちで話始める


「立春、お前には...弟がいる」

その言葉に目を見開く立春

「父上に側室はいないと思っておりました…」

「弟は同じ母から生まれ、同じ日に生まれた、どういう事か分かるな?」

「分かりません、父上…」

「お前の母はお前を産み、すぐにもう一人産み…〝言霊還し〟をした」

「…病死ではなかったのですか?」

自分の袴を強く握る立春

「…お前の弟は二付家の長男として七十二校へ通っているが来週から四季学仙校中等部に入る運びととなった。つまり同じ寮に入り共に言霊を学ぶのだ」

「どうして………今まで黙って……」

「話すこ事はもう無い、もう休め」


山茶花はそう言い部屋を出ると月を見ながら亡き妻を想い深いため息をつく

「菜の葉…すまない」


部屋に一人取り残された立春は想像もしていない話に動揺しその場に立ち、頭を抱えた


翌日 

元気のない立春に蟄はニヤニヤしながら

「叱られたのか?遅刻してくるなんて初めてだろ」と話かけるが立春の目が虚ろなまま常軌を逸した〝気〟を発していた。その異様な〝気〟に清明と蟄が異変を感じる


「立春!!」

桜先生とツツジ先生が異常な〝気〟に気が付き教室に飛び込んできた

「今、一言でも発したら大変よ!二人とも立春から離れなさい!」


桜先生は自身の髪を一つに纏めていた髪帯を外すと言霊を練り始めたその間にツツジ先生が保護結界を張りながら蟄と清明を外に連れ出す。

蟄と清明は、あの異様な〝気〟を思い出していた。

九歳の頃、一度だけ立春が気が付かず〝気〟を高め〝負の陰の言霊〟を放ってしまったのだ。その時は外で空霊拳の型の練習中だったが、上手く集中できず苛立った立春が負霊を放ち梅の木に当たり一瞬で梅の木を粉々にしたのだった。

その後すぐに立春は吐血し桜先生の言霊で処置したもの立春は三日間眠り続けた。


〝お願いよ、何も話さなで静まって〟

桜先生は言霊を込めた髪帯をそっと立春の口に巻き

「解」と一言いうと立春が我にかえる

立春の口元の髪帯はゆるりと落ちた

「先生…」

立春が言葉を発すると机に無数の芽が出でいた。外の木の枝には緑の葉が付き、蟄、清明、ツツジはその場で胸を撫で下ろした。


「桜先生、今日一日分の僕の〝気〟を抜いてください」

桜は左手を立春の眉間に当て

「消気」と言うと立春は膝から倒れそうになり桜先生に支えられた


外の三人は教室に戻り蟄が立春に近づく

「何があった?」

「私には‥......弟がいた、双子の。」

その言葉に清明と蟄が驚く。

一方、桜先生とツツジ先生は少し悲しい表情で立春を見つめる


「今日はもう帰りなさい」

普段会うことがあまり無い 桃の木学長が現れると簡単に立春を担ぎ教室を後にした。


帰り道、蟄と清明は言葉を交わさず家路に着く。


立春を担ぎ如月家の門を叩く桃の木。

桃の木に担がれた立春を見て驚く使用人に

「梅光の部屋に通し願う」

と言うと使用人は別宅を指さす。

使用人は桃の木の言霊の術で体が勝手に動くのであった。


「老いぼれは引きこもりか…」

桃の木は使用人に礼を言うと別宅へ向かう


「梅光、上がらせて頂くぞ、お届け者じゃお前の孫だ」

居間に立春をそっと置く


「すまないな…桃の木」

梅光は桃の木の顔も見ず背中を向けたまま横になっている


「ここに運ぶのは二回目じゃ。立春も大きくなった。もう十二歳…山茶花はこの子に弟がいる事を話たのだろう。この日が来たのだ」


沈黙が続くと桃の木は

「お邪魔しました」と言い別宅を出た。


床で眠る立春を見た梅光は

「菜の葉…」と呟き涙した



= 弥生家 忍の家系 =


蟄は両手を額にあて溜息を何度もつく


〝どうして誰も今まで噂さえしなかった?俺らがガキだからか?先生たちの態度は明らかに立春に弟がいる事を知っていた…誰もこの事を外部に漏らさず一部の奴らのみ知ってたんだな…秘事、忍びの家系が絡んでる、俺の家じゃねぇか…立春にどんな顔して会ったらいい…〟

「...親父に聞いてみるか…」

蟄は書斎に向かう

「親父、ちょっといいか?」

戸惑いながら扉を開ける

「今日の事はもう耳に入ってる〝気〟が乱れているぞ蟄」


手元の書類を整理しながら蟄の父親の参時さんじは息子の顔を見て手を止めた

「久しぶりに碁でも打つか?」

二人は碁盤の前に座る。


「立春の弟の事、外部に漏らさない様にしてるのは親父だよな?」


駒を握りながら蟄は聞いてはいけないような事だと分かっていながら、まして知られてはいけない事は例え息子であっても教えてもらえない事も分かっていた。


「時がきた、ただそれだけだ。いずれこの日が来る事も。話をしよう、もうこの家を出るしな」


参時は駒を打ちながら煙草に火を付けた


「知ってると思うが山茶花と菜の葉と俺は閏年生まれの四季学仙校の同級生で幼馴染だった、山茶花と菜の葉は親同士が決めた相手、つまりは許婚ではあったが山茶花は菜の葉を愛していた、俺らは夜イ踊レ乱舞で優勝して覇権を春成国に納めた後、正式な言霊使になり山茶花は如月家に婿入りする形で結婚をした。菜の葉はすぐに懐妊した。俺も結婚してすぐにお前を授かり互いの子供が閏年生まれだと分かり絆を感じたよ」


碁を打つ音が鳴り煙草の火が落ちると参時はまたすぐに次の煙草に火を付けた。

蟄は碁を打ちながら話の続きが気になった


「あれは酷い嵐の夜だった。使いを通して菜の葉が産気づいたと連絡が入り無事に生まれる事を祈ったよ、けれど次の知らせで事態は急変した。無事に元気な男の子を産んだが、双子だったと。それは子供を殺めなければならいという意味だった。煉獄洞を知ってるな?」

煉獄洞とは強固な結界が張られた流刑地で罪人が行く場所、一度入れば決して出る事のできない場所なのである


〝煉獄洞〟その言葉に恐怖を抱く蟄。


「最凶言霊使 大命たいめいがいる場所だ。あいつも双子だ。双子は対の関係になり、必ずどちらかの子が負を背負う事になる、それはつまり一国を破壊する脅威だ。十八歳になるまでに負の刻印が体に現れる。そうなれば天変地異が起き国が崩れてしまう」


「親父、待ってくれ、刻印て必ず現れるのか?…立春に現れたら立春はどうなる?」


蟄は駒を強く握りしめる。


「刻印が現れたら煉獄洞に収監される」


参時が平気な顔で煙草の火を消す。


「じゃぁ、何で赤子の内に殺さなかった...」


「我が子を簡単に殺せる親などいると思うか?」

その言葉に何も言えない蟄


「菜の葉が二人の子を守る為に命がけで保護呪文を使った、どんな手で二人を殺そうとしても駄目だった。そして菜の葉は鬼畜腹の罪で言霊還して死んだ。兄である立春が如月家で育てられ、もう一人は二付の家に引き取られた。娘を亡くした梅光様は春納を山茶花に譲り引きこり山茶花も人が変わった。以上だ」


「…......俺は立春の友として何をしてあげれる?救う事はできないのか?.....」

蟄は声を震わせる


「俺も同じ事を思ったよ、山茶花を救えないかと。蟄、時を待て。そして祈る事を忘れるな」


「俺は明日どんな顔で立春に会えばいい」


頬を伝い床に落ちた涙に蟻が集まっていた

それを見た参時はため息をつく


「いつも通りに接してやれ無理をしてでもな」


この時蟄は虫使いとしての能力を発芽した。



= 卯月家  針子業 =


清明は重い足取りで家に着くと、辺りは真っ暗であった。

いつもより一時間も帰りが遅くなり心配した姉たちが一斉に清明を叱る


「あんた、今まで何やってたのよ、みんなあんたの事が心配で仕事の手を止めて探してたのよ!」

二番目の姉のネネがガミガミと清明を叱る


「まぁ無事に帰って来たんだし、ご飯でも食べましょう」

病弱な母が声をかける


「母さんは清明に弱いんだから!」

ネネは溜息をつく

「今日はご飯いらないです…」


元気のない清明にさっきまで怒っていたネネが更に溜息をつく

「年頃だし、言霊使の卵は色々と大変だろうけど、ご飯は食べなさい!!うちのご飯も、もう少しで食べれなくなるのよ?今のうちよ、おふくろの味を堪能できるのは!!」


すぐ上の姉のメイがご飯をよそう。

「ほら、食べよ?」


姉たちの言葉に堪えきれず涙が溢れてくる清明


「私はお姉ちゃんがいてくれて良かった、早くにお父さんが死んじゃって貧しかったけどお姉ちゃん達がいてくれたから私…」

声を上ずらせて泣きながら話す清明にネネとメイも涙する


「もうぉ、急に何よ…あと少しで家を出るから寂しくなったのね…あんたは何処かぬけててぼーっとしているけど芯があって優しい子よ、言葉使いも綺麗だし。この卯月家から言霊使が出るなんて夢みたいで凄く誇らしいわ、でもね、本音を言えば家を出てくのは寂しいわ」

姉妹で抱き合い互いの涙を拭いた。


食事と風呂を済ませると清明は横になる母に

「今日はお母さんと寝たいな」と甘える

「いいわよ」


久しぶりに母の布団に入り照れくさそうに寄り添う


「ねぇお母さん、もしも私が双子だったらどうする?」


「どうしたの急に?…双子なら二人とも幸せに育って欲しいと願うわ、例え命に変えても」


「双子はどうしていけないと言い伝えられているのですか?」

清明の真剣な眼差しは〝答え〟を親に求めていた


「この世は隠と陽、本来調和をとって生まれてくる、だけど双子は生まれた時から母親のお乳を分け合う様に隠と陽を分けて生まれてくる事が多い、栄養も偏りどちらかの子しか生きられない事も多い、〝母親泣かせ〟とも言う。その為か双子が生まれるとその家に不幸が続くとされ意味嫌われてしまうの」


「風の噂で聞いた事があります。鬼畜腹の罪の事を。双子を産んだ女性はどうなってしまうのですか?」不安そうな顔になる清明


「双子を産んだ女性は出産時の過酷さに死ぬ事も多いの、無事に生まれた場合は子供がいない家に貰われる事もあるけれど、名家の場合は言い伝えを重んじるでしょうね」


「それはつまり、死罪という事ですか?」

清明は立春を思い更に不安な顔をする


「お母さんもそこまでは分からないの、ごめんね。ただ…春成期に生まれたらその子は天能力を持って生まれてくる。その場合は平人の私の推測でしか過ぎないけれど、その子供は諦めるでしょうね」


清明の母は自分の娘もいずれ母になり双子を産むのではないかと娘の身を案じた。


「お母さん私はお母さんの子として生まれて幸せです、言霊使として生まれた事も嫌だと思った事は一度もありません。けれど言霊の力は平和を祈るのがお勤めなのに苦境にある命に言霊の力を使えないのは無力です」


清明は言霊使と生きていく事の不安と家を出る不安、少しずつ大人になる事への不安が押し寄せていた。

そして春成国の同士として立春の境遇を思い涙した。


「大丈夫よ。大丈夫。」


「お母さんは、まるで言霊使です、凄く安心します。」


その日、清明は幼い赤子の様に母に抱きしめられて眠りについた。

この時、清明は〝芽吹き〟としての能力を発芽する。

翌朝 卯月家の前だけ、たんぽぽでいっぱいになっていた。



= 如月家  別宅梅光邸 =


「立春はまだ起きませんか」

梅光の居間に眠る立春を見み来た山茶花

「心配か?気が乱れておるぞ。」

「すいません…」

「謝るこたは無い。我が子を心配いしない親などおらん。もうそろそろ起きるだろう…山茶花、立春に刻印の事は話たか?」

その言葉に目を伏せる山茶花



「う、う、うぅ」

立春が声を出し目を覚ます

「目が覚めたか?」山茶花が身を乗り出す

「父上にお祖父様…自分は何故…」

「何も覚えていない様だな…教室で倒れたお前を桃の木がここまで連れてきた」

梅光が優しく言う

「桃の木学長が…そうだあの時…」

立春が顔をゆがめる

「二日後にはここを出る、明日までここで休みなさい。山茶花もそれでいいな?」

「はい。...それではこれで。」

山茶花は梅光の部屋を後にする


「不器用な奴だ。人の事は言えぬがな」

梅光が微笑み立春を見る

「お祖父様…お祖父様に聞きたい事が」

「明日は満月、明日の夜全てを話そう。時が来たのだ。今日はまだやすみなさい」

立春は理由もわからず涙が溢れていた。


翌日、立春は少し頭痛が残るものの体が回復し月を見ながら気を落ち着かせていた。


「今夜の月は白いのう」

風呂上がりの梅光が立春の横に座る

「さてと、何処から話そうか」

梅光は月を見ながら語りだす


「私の娘であり、お前の母である菜の葉は言霊使として優秀だった。同じ春成期の同士で許嫁の山茶花と恋に落ち結婚し、すぐに子供を妊った、出産時期が閏年春成期とあって皆が祝福をした。大きなお腹を見て皆が男の子だと声を揃えて言った。そして酷い嵐の夜に産気づいた、難産だった。雷と共に産声が聞こえ一安心した時に産婆が私を呼んだ、菜の葉はまだ辛そうな声をあげていた、「何があった?」と聞くと産婆はもう一人赤子がいると言い。

居た堪れない表情だった。私は決断を委ねられた。それは二人とも死産と見立て殺すと言う事だっだ。私は予想もしてない事態に気が動転し先に生まれたお前を殺そうとしたが出来なかった。そうしてすぐにもう一人の産声が聞こえて双子だと確信に変わり、話合う事になった。話合いと言っても赤子をどう処分するかと始めから話の方向性が見えていた。だが、菜の葉はこうなる事を見越して双子に保護呪文をかけた。双子が生まれた事を隠す訳にもいかず、弟を二付家に養子に出し兄である立春を如月家で育てる事になった。そうして鬼畜腹の罪で菜の葉は言霊還し自決した。」

「‥私の弟の名は何と申しますか?」

はしらだ」

「柱…」

「そして話の続きがある…」

梅光は立春に視線をやる

「続きとは…」

立春も梅光に視線をおく


「双子には十八歳までに体に刻印が現れる現れた方は煉獄洞に収監され一生を過ごす」

その言葉に驚く立春

「刻印…とは…」

「お前が生まれる前に世界大地震が起こったのは知っておるな?」

「はい、双成国全域及び獣成国にまで被害が及んだと学びました。父上がまだ齢、十九の時だと。今もまだ清明が住む山の方は地震の爪痕が残っていると…」

「そうだ、あの地震は最凶言霊使に落ちた〝大命〟が起こした。言霊に負隠を込め〝五つ音図〟を使い言葉との世界の調和を乱そうとした、今も煉獄洞で強固な結界の中で封印されている。大命は双子だ」

その言葉に顔が青ざめる立春

「何故ゆえ大命を死罪ではなく生かしておくのですか?」

立春の額に冷や汗が滲む

「大命を生かす事で閏年生まれ適正期に双子を生まれるのを防ぐ為だった…そして封印に踏み切ったが、立春と柱が生まれた。だが時は既に遅く煉獄洞の封印を解き大命を死罪にする術はなく封印のまま今も生きている…いつかはお前に話す日が来ると思っていた。

山茶花も厳しく母もいなく...甘える時間もなかったであろう、すまなかった」

「...お祖父様は僕を憎みましたか…?」

「憎んだ事など一度もない」

その言葉に嘘は無く心地よい春の風のように立春を包む。立春は幼い頃は梅光に可愛がってもらった記憶でいっぱいだったのだ。


「…お祖父様、私のせいで苦しんでおられたのに、私が幼き頃の記憶はお祖父様との温かな思い出で溢れております。」

とめどなく溢れ出る涙は梅光への感謝で溢れていた。


一方、数日が経っても一度も教室に来ないまま卒仙を迎えていた立春を蟄と清明は心配いしていた。

「蟄君、もしこのまま立春君が中等部に来なかったら…」清明は寂しげに言う

「来るさ、あいつが居ないとな…」


「あの」「あの」蟄と清明が声を揃えた

「蟄君からどうぞ」

「清明からどうぞ」

「あ、あ、あのじゃ、もし蟄君が嫌じゃなかったら、たたた立春君の家に行かない?」

「同意。俺もそう清明に言おう思った」

二人は微笑み頷いた。


= 如月家 邸宅前 =


「いつも思うんだけど、立春君の家って何処から何処までなんだろう…中も広くて子供の頃かくれんぼしたらそのまま迷子になったの覚えてる…」

清明が緊張気味に話す


「俺もよく迷子になったわ、名家の家でも苦労は多いだろう…」

そういいながら蟄が大きな扉に付けられた鐘を鳴らす、使用人が現れ涼しい顔で対応される


「蟄様に清明様、立春様は別宅にて梅光様と療養中で御座います」


「お、お、お見舞いに…参りました!」

清明は手に持った花を見せた。


「突然の訪問失礼致しました。立春様が卒仙式にお見えにならなかったので私たち同士の者で力は及びませんが精がつく言霊を届けに参りました」

頭を下げる蟄。

慌てて清明も頭を下げる。

「精がつく言霊を…別宅までご案内致します」

「有難うございます、ご足労かけてしまいます、別宅までは邸宅の外から遠回りして裏門から別宅門に回ります」

「分かりました、お二人がお見え下さいました事を伝えておきます。それでは」

使用人は頭を下げると邸宅に消えて行った。


「蟄くんすご〜い。大人みたい」清明が尊敬の眼差しで蟄を見た


「別宅でよかったな」蟄が溜息をつく


「うん、梅光様のところで沢山遊んだ記憶があるし優しかったよね」

そう言い別宅の前の門に立春が二人を待っているのが見え、思わず駆け出す清明

「立春君、心配したよ。具合はどう?大丈夫?」

清明が恥ずかしげに花を立春に渡す


「卒仙式にも行けず申し訳ない...」


「謝る事はないさ、明日一緒に行けるのかよ」

蟄は何処か安心した顔で立春を見る

「勿論だ。明日予定通り三人で四季学仙校中等部へ向かおう」

その言葉に自然と笑みが溢れる二人につられ立春も笑みが溢れ、春成国に梅が咲いた。

三人が揃えばいつも何かが芽生える

命の始まりの様に。


翌日三人は、家族と桜先生に見送られ馬車乗り春成国へ暫しの別れを告げた。


         ー 双成国 春成国編 ー 

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