海賊王女(プロトタイプ)
ボイコネ大賞向けに書いた「海賊王女」のプロトタイプ版です。戯曲形態をしています。
「カミの翼」の、遥か後世の世界で起きる冒険活劇。
ルチェッタがルシテーアに向けて、手紙を書いている。
ルチェッタ「お義母様、私は、どこまでも行きたいと思います。…この海の広がる先を、初めて見る女性に、私はなります…」
1ルチェッタ、海賊と出会う
隣国の王子との結婚が嫌で、ルチェッタ姫は海賊マッド・ドゴス団に「攫われる」ことにする。
ルシテーア:ルチェッタ、縁談が決まりました。シャーラ・フォン・アンデル公爵と、あなたは夫婦になるのですよ。
ルチェッタ:お義母さま…?それって、誰?
ルシテーア:姫ももう十五ですからね、社交界にも、そろそろ出なくてはね。
ジャスパー:あの、シャーラ様ですか…姫のお目付け役としても、鼻が高い話ですな。
ルチェッタ:だから、シャーラ様ってどんな方なの?二人とも!
ルチェッタ:私、誰かわからない人のとこへ急に行くなんて、嫌よ!
ルシテーア:大丈夫よ、私だって、最初結婚話が出た時は、不安だった…
ルシテーア:でも、女性の幸せは、やはり結婚して、子供を育てることよ。
ルシテーア:私は、血が繋がっていなくても、あなたを愛している…
ルシテーア:これは、あなたのために、王と私とで決めた婚姻なのですよ、ルチェッタ姫。
ジャスパー:姫、今はわからぬかも知れませぬが、これこそが姫の幸せなのです。
ジャスパー:先のお妃、エルロイン王妃にも、お見せしたかった
ジャスパー:…姫の婚姻のドレス姿が、目に浮かぶようです…
ルチェッタ:…イヤだ!なんか違うわ!
ルチェッタ:ああ〜、もう、二人とも、とりあえず出て行って下さいな!
ルチェッタ:今は、考えたくないの!
ルシテーア:…はい、わかりました。ルチェッタ。
ルシテーア:でも、忘れないで。
ルシテーア:女性は、殿方を喜ばせ、お世継ぎを作り、殿方の威厳を保つためにいるのよ。
ルシテーア:それが、トーリャ王国に生まれた女性の勤め…
(ルシテーア、ジャスパー、退場)
ルチェッタ:私だって、昔はそう思ってた!
ルチェッタ:でも何やったって、お義母さまには敵わないの。
ルチェッタ:私は、私だけの居場所が欲しい…
ルチェッタ:そうして、狭い宮殿じゃなくて、もっと広い世界が見たいの…
ルチェッタ:そう、たとえば、海。海とか…
アルフレド:(ルチェッタに聞こえる大きな声で)よくぞ参った、ドン。
ルチェッタ:ん?お父様と、…誰だろう?
(ルチェッタ、部屋からそっと出る)
ルチェッタ:誰かな、あの人。…見たことない服を着てる…
アルフレド:ドン、貴殿には、感謝している。アルフレド:我が国は、ドンたちのおかげでロンバルド帝国を邪魔して…げふん、牽制できているのだからな。
アルフレド:貴殿には、いずれ、騎士の称号を与えよう。
ドン:へへへ…ありがてぇことで…
アルフレド:それに、貴殿の海での活躍の話を聞くのは、実に愉快だ!
アルフレド:テーア…いや、王妃も、楽しみにしている。
アルフレド:今日は食事して行かないのか?ドン。
ドン:滅相もねぇことです…今日は、ちょっと、野暮用がありまして。
アルフレド:そうか…また、話せる日を楽しみにしよう…
アルフレド:トーリャ王国に栄光あれ!
ドン:トーリャ王国に栄光を…
ドン:海賊船黒犬号は、あなたに忠誠を誓いますんで…今後もごひいきのほど、宜しく…
(ドン、去る)
ルチェッタ:海賊…黒犬号…わかった!私も海賊になればいいんだ!あの人、ドンとか言う人なら、お父様の臣下だもの、私の言うことには、ノンと言えないはずよ
(その日の夕方、ドン、ランドーラとチェスをしながら話している)
ドン:ポーンをこうして、な。ほら、どうする?…今度の航海は、全員で行くほどじゃねぇな。
ランドーラ:そうくると思ったから、ナイトをこうするのさ…
ランドーラ:いや?全員で行った方がいいねぇ。
ランドーラ:ビーグルの話じゃ、今回は海が荒れるとさ。
ドン:なかなかいい手筋だが、甘いな。…ほら、これでチェックだ。
ドン:…そうか、なら、みんなで行くか?
ランドーラ:まぁ、こりゃ…(ルチェッタに気付いて)…誰だい?
ルチェッタ:お願い!私を海に連れてって!
ルチェッタ:王宮に閉じ込められて生きていくなんて、まっぴらごめんだわ。
ドン:オイ、メスガキ、…俺が誰かわかってないのなら、許してやるよ。
ドン:だが、俺をマッド・ドゴスのドンと知っているなら…
ドン:覚悟は、できてんだろうな?
ルチェッタ:知ってるわよ!
ルチェッタ:私はルチェッタ。あなたの飼い主の娘よ
ドン:ルチェッタ…姫…?
ドン:おいおい、誰だよ、気狂いを連れて来たのは?
ランドーラ:ドン、本物だよ。本当にこのお方は、ルチェッタ姫さ。
ジャスパー:(海賊たちに怯えながら)そうだぞ!このお方を、なんと心得る!
ジャスパール:チェッタ・フォン・エルロインその人だ!
ジャスパー:その方から手を離せ、薄汚い海賊め!
ドン:なんだこの太っちょは⁉︎
ランドーラ:見たことあったろ?
ランドーラ:これは、ルチェッタ姫の教育係、貴族の、ジャスパー・タルラだよ。
ドン:…知らねぇな。…
ジャスパー:無礼者め!だから、ワタクシは港へなんか、来たくなかったんだ…!
ジャスパー:姫!帰りますよ。
ルチェッタ:イヤ!私は、海賊になりたいの!私は、自由が欲しいの!
ランドーラ:自由か…自由が欲しけりゃ、くれてやるよ
ランドーラ:…でもね、自由は甘くないよ?
ランドーラ:アンタが船に乗りたきゃ、船乗り見習いにならなきゃ。
ドン:…こりゃあ、面白えことになってきたぞドン:姫、アンタ、なんで海賊船なんかに乗りたいんだ?
ルチェッタ:私は、自分の将来がイヤなの!
ルチェッタ:顔もわからないどっかの貴族やら王子と結婚させられるなんて、イヤだわ!
ランドーラ:贅沢だねぇ。…なら、海賊船で、死ぬほど嫌な仕事をさせようかな…?
ルチェッタ:私、海が好きよ。海の向こうのこと、もっと知りたいの。
ルチェッタ:あなたたちからは、潮の匂いがする。私も、自分の力だけで、海を越えたいの!
ドン:…その対価に、何をくれる…?
ルチェッタ:…わからない。でも、私にできることなら、なんでもするわ。
ランドーラ:…どうして結婚がイヤなんだい?ランドーラ:海賊になるってことは、死ぬかも知れないってことだよ?
ルチェッタ:死ぬのなら、私は自分の力全て使ってからでなきゃ、イヤなの!
ドン:…ハッハッハ!ヘンテコなお姫様だ。…だが、なんか気に入った。
ドン:ミミ、お前はどう見る?
ランドーラ:あたしゃ、細かいことはわからないよ。
ランドーラ:…一つテストをしようか。
ランドーラ:あんたが船長だとして、船が沈むとする。
ランドーラ:小舟には、仲間が宝か、どちらかしか積んでいけないとしたら、あんたどっちを選ぶんだい?
ルチェッタ:えぇっ、…わからないわ…
ルチェッタ:人の命は大切だけれど、宝物を持って帰らなきゃお仕事にはならないでしょう?
る:…うーん。
ランドーラ:…思っていたよりは世間知らずじゃないようだ
ランドーラ:…アタシが思うに、このテストに答えなんざないのさ。
ドン:答えのない問いほど、難しいもんなねぇさな。
ドン:じゃ、連れて行くか、ミミ。
ランドーラ:着いてきな、ルチェッタ。
ルチェッタ:…メルシーボークー、二人とも。
ランドーラ:あんたも来るだろ、ジャスパー。
ドン:(ジャスパーを捕まえて)確かに、ここまで来たからには、生かして返せねぇな。
ドン:死ぬか、付いて来るか、選びな、ジジイ。
ジャスパー:ああ、我が愛しの娘ターシャ!
ジャスパー:パパ上はね、ルチェッタ姫を心配して付いていったばかりに、酷い目に遭いそうだよ…
ドン:…で、着いて来るのか、こねぇのか。
ジャスパー:私はルチェッタ姫の教育を王から任されていますからね。
ジャスパー…着いて行きますよ。
ジャスパー:…だが、海賊、覚えとけよ、姫に何がしたら、タダじゃ置かないからな。
2ルチェッタとマッド・ドゴス
女を乗せるのは不吉だと騒ぎだす、マッドドゴスの面々。ランドーラ一等航海士の一言で、静まり返る。
ウィペット:お、女…⁉︎ドン、このチンチクリンはなんなんですか⁉︎
サルーキ:女は陸で買うもん、っていう自分の言葉、忘れちまったんですかい?
サルーキ:しかも、なんかヒラヒラした変な服着てるし!
ウィペット:本当だぁ〜!変な服!
ウィペット:…奴隷でもない!…ああ、ドンの兄貴はご乱心だ…!
ウィペット:まさか、王様の犬だってぇおれたちが、この国の女をさらうなんて!
ボルゾイ:静かに!お前たち。…ドン、説明を願います。
ドン:いいかテメェら!この度、王の黒犬号に乗ることになった、ルチェッタ姫だ!
サルーキ:ええ⁉︎姫?姫がどうして、こんなむさくるしい場所に…
ウィペット:ドン…?狂っちまったんですか…?姫をさらうなんて…?
ドン:さらってきたんじゃねぇよ、海賊になりたいと、姫自らのご要望だ。
サルーキ:…ダメだ!いくらドンの兄貴の命令でも、オレは聞かねぇ!女を乗せた船なんか、不吉だ!
サルーキ:女を乗せるなら、オレは船を降りるぜ!
ウィペット:…おれも、あんまり賛成じゃねぇよ。
ウィペット:ドンの兄貴…みんなの表情、見てくれ…不安そうだろ…?
ドン:うるせー‼︎聞け、馬鹿野郎ども!…そもそも、俺たちが乗ってる船はなんだ?
ドン:「国王陛下の黒犬号」だぞ⁉︎
ドン:黒犬は、海賊船にとって最も不吉なモノだ。
ドン:今更、テメェら何を怖がってやがる。
ボルゾイ:…お言葉ですが…私も反対です…ドン。
ドン:…面白いと思わないか?王女サマが、俺たちと旅するんだぜ?
ランドーラ:面白いとは、思わないねぇ。
ドン:ミミ!お前まで、反対するのか?
サルーキ:そうだよ!ランドーラの姉御の言う通りさ!
ランドーラ:…だけどね、アンタたち、女が乗って無事な船を、アンタたちは、よーく知ってるはずだよ?
ウィペット:だって…ランドーラの姉御は、なんていうか…その、特別じゃないか!
ランドーラ:特別?いーや、そんなわけないね!
ランドーラ:いいかい?お前たち、あたしゃ、女だ男だうるさい連中は嫌いでね。
ランドーラ:女だというだけで、乗組員にしないのは、間違ってると思う!
サルーキ:結局、姉御は兄貴の肩を持つのか!
ウィペット:おれ、ゴタゴタは嫌だよ…多分、みんなそうじゃないかな?
ボルゾイ:私も、反対です。
ランドーラ:この子が海を見たいって言うなら、見せてやりゃいいさ!
ランドーラ:海の、美しさも、恐ろしさも、優しさも、容赦のなさも!
ランドーラ:それで、この子が役立たずだったら、送り返しゃいいだけの話だ!
ランドーラ:何をビビってるんだい?アンタたち。
サルーキ:オレはただ、掟を破るのが、イヤなんだ!
ランドーラ:無法者のアタシたちが、それ言って何になるのさ。
ウィペット:おれ、姫様はおれたち荒くれとは一緒にいない方がいいと思うなぁ…
ランドーラ: そうね、ウィペット。でも、姫様はそれをお望みなのよ。
ボルゾイ:私は、…あらゆる点で無理があると思います…
ランドーラ:大丈夫。海賊なんか、無理してナンボよ。
ドン:他に、文句のあるやつ、いるか?
ドン:…いーか、俺は、面白おかしく生きたいんだ!お前ら馬鹿共も、そうだと信じてる。
ドン:…それに、王女に借りを作っときゃ、後々いいことがあるかも知れねぇ!
ドン:文句がある奴は、今回は降りてくれて構わない。ただ、西の港まで行って帰ってくるだけだ!
ドン:…おや?みんな、ちょっと面構えが変わったな…?
サルーキ:…姉御がそこまで言うなら、まぁいいかなって…
ウィペット:おれは実は、陸にいるときは、一度でいいから王様やお姫様に会ってみたかったんだ…
ボルゾイ:私は、あくまで反対ですが…ま、私がいなければ、この船は成り立ちませんからね。…そうでしょう?ムッシュ・ドン?
ドン:ああ、そうだ。ボルゾイ、お前がいてくれなきゃ、楽しくねぇよ。
ドン:…みんなそうだ。俺たちゃ海賊、みな家族みてぇなもんよ。
ランドーラ:…誰も船を降りないみたいだね…
ドン:ありがとう、みんな!
ドン:じゃあ、今日は新しい航海を祝って、酒盛りだぜ!
(甲板の上で)
ボルゾイ:アンシャンテ、姫君。…どうしました?先程から青ざめておいでだ。
ルチェッタ:アンシャンテ…ムッシュ・ボルゾイ…
ルチェッタ:いえ、思ったよりも、…怖かったの!私、一言も喋れなかった…!
クマイヌ:ルチェッタ、安心シロ。俺も、喋るのヘタ。
ルチェッタ:まぁ、この方は…?
ボルゾイ:クマイヌですよ。
ボルゾイ:クマイヌは、あまり酒は好きではなくて、酒盛りの時は、いつもここにいるのです。
ルチェッタ:異国の方かしら…アンシャンテ、ムッシュ・クマイヌ
クマイヌ:…オウ。
ルチェッタ:ムッシュ・ボルゾイ、あなた、なんだか、他の海賊とは違うわね…
ボルゾイ:ええ。私は、没落したとは言え、貴族ですからね。
ボルゾイ:…全く、計算もろくにできない連中を纏めるのは、大変ですよ。
ルチェッタ:まぁ!計算ができないの…?
ボルゾイ:この国では、家庭教師のいない子供もいるのですよ…
ボルゾイ:でも、私はドンの腹心ですからね。連中を、見捨てやしません。まぁ、ドンがいるうちはね。
ルチェッタ:ドンのことを、好きなのかしら。
ボルゾイ:お姫様、人は、好き嫌いだけで繋がれるものでもありませんよ…
ボルゾイ:まぁ、言ってしまえば損得勘定です。
ボルゾイ:私は、生まれつきな詐欺師だった。なぜか、私の嘘八百を人は信じてしまう。
ボルゾイ:その才能を活かすには、ドンの下に付くしかありませんでした…
ルチェッタ:そうなの…あー、私も、大人になるには、損得を考えて生きなくちゃならないのかしら…
ボルゾイ:…そうですね、お姫様。それは、王宮にいようが、海賊になろうが、同じこと。ボルゾイ:こういうことを、王宮の言葉でファタルと言うのですよ…
ルチェッタ:ファタル…
ボルゾイ:それは、半分は己が切り開くもので、半分は生まれつき備わっているものだと、私は思います。…
ルチェッタ:…なんにせよ、ランドーラさんにお礼を言わなくちゃ
ルチェッタ:…私が船に乗れるのは、ランドーラさんのおかげなんだから。…
3港で奴隷を買う
ルチェッタ姫は、売られているカラメリに懐かれ、カラメリを買い受けることに。カラメリは、礼として海の民のもてなしがあると言い、海賊団は道の海域・ガルダゴを目指す。
ビーグル:今日の海は、ひでぇや。
ビーグル:(歌う)今日の彼女は〜ご機嫌ななーめさ〜♪
ドン:歌ってねぇで働け!ビーグル!
ビーグル:海図は描いた!後は俺の仕事じゃねぇよ、ドン。
ルチェッタ:怖い。揺れてる。…これも海なんだ…
ルチェッタ:私、世間知らずだった…こんな灰色の海、知らなかった。…
クマイヌ:ヒメ、ダイジョウブカ?
ルチェッタ:メルシ、クマイヌ。大丈夫。
クマイヌ:カオイロ、ワルイ。…コレヲ、ノメ。
ルチェッタ:何かしら。
クマイヌ:チャという。アタタカイシ、ゲンキ、デルノデ。
ルチェッタ:クマイヌは心の温かい人ね。
ルチェッタ:最初ね、ちょっと怖かったの。
ルチェッタ:でも今は、怖くないわ。
サルーキ:ザンデール港が見えて来たぞ!
ウィペット:皆、後一息だ!漕げ!
(ザンデール港)
ドン:よう、サーレフ。調子はどうだい?
サーレフ:いいよ、ドン。養父も元気だし、ポカラも子を授かった。
ルチェッタ:異国の方かしら…?
サーレフ:うん。養父に引き取られるまでは、孤児だった。…今は、幸せさ。
ドン:何か目玉商品がないか、寄らせてもらったわけだが…
サーレフ:うーん、これかな。
サーレフ:コショウというやつ。
ドン:なんだこれ。
サーレフ:ロンバルド帝国から入って来てる。
サーレフ:肉の味付けにいいとかで、金とほぼ同じ重さで売り買いされてる。
ドン:ちょっと味を…
サーレフ:ああ、ダメダメ。銀貨一枚。
ドン:嫌だ。銅貨7枚。
サーレフ:ダメだ。きっかり、銀貨一枚。
ルチェッタ:ねぇ…そこの檻に入っている人は、何か悪いことをしたの?
ドン:奴隷だよ。あー、姫さまは奴隷なんか知らないか…
サーレフ:この奴隷は、聞き分けが悪くてな。
サーレフ:…持ち主が処分しようとしていたところにポカラと出会して
サーレフ:…ポカラが可哀想だと言うから、つい、買ってしまった。
サーレフ:私たちの子供の召使いにでもと思ったが…これでは…
ルチェッタ:この子、言葉はわかるの?
サーレフ:海の民らしい言葉はしゃべるが…私の知らない言葉だ。
サーレフ:相当遠くの民だろうな。
サーレフ:…それに、他の奴隷と違い、こちらの言葉を覚えようともしないし…
サーレフ:…扱いに困っているんだ…
サーレフ:ドン、コショウを負けとくから、こいつを逃して来てやってくれないか?
ドン:毎回思うんだが、お前さん、よくその性格で商人が務まるな…
サーレフ:いや、ポカラがうるさくてな…
ドン:まぁ、いいさ。…じゃ、銀貨5枚でコショウ1ポンドな。
サーレフ:うっ…まぁ、いいよ。
ドン:やりぃ。ルチェッタ、よくやった。
ルチェッタ:ドゥ・リアン(どう致しまして)、ドン。
ルチェッタ:ムッシュ・サーレフ、あなた、風の民ね…なぜ港で商人を?
サーレフ:養父に引き取られたんだ。私の名前は、「赤馬に乗った賢者さま」から来ているんだ。
ルチェッタ:ああ、昔話ね。まだ魔物や魔法があったころ…ってやつでしょ?
ルチェッタ:小さい頃、ジャスパーが昔話してくれた…
サーレフ:…ドン、このお嬢さんは一体…?
ドン:まぁ、色々と訳ありでな。一応、ここに来たことは黙っとけ。
サーレフ:ドン?…危ない橋を渡るなよ…商売相手が消えたら、困る。
ドン:大丈夫。じゃあ、ちょっとこのガキを送ってくるから、待ってろよ。
奴隷:ボクはカラメリ。
奴隷改めカラメリ:ルチェッタ、キミは強い!可愛い!
カラメリ:ボクのお嫁さんになってよ
ルチェッタ:なんだ、言葉話せるじゃないの。
カラメリ:話せるに決まってるだろ。
カラメリ:でも、ボクはガルダゴの王族だからね。
カラメリ:そう簡単に、平民と話はしないのさ。
ドン:平民と話すくらいなら、死を選ぶってか?
ドン:お前さん、サーレフに感謝するんだな。
カラメリ:するかもね。
カラメリ:…あの平民は、僕にとても優しかった。…
カラメリ:そんなことより、僕を送ってくれるんだろ?
カラメリ:連れてってよ、ガルダゴへ!
ドン:ガルダゴ…?どこだ?そこは。
カラメリ:コショウが取れるところから、もっと向こう。
ドン:ナザレスの、向こう…?
カラメリ:ナザレス…?ああ、ガラガラをそう呼んでるの?
カラメリ:そうだよ、ナザレスより、ずっと向こう。
ドン:お前、どうやってここまで来たんだ…?
カラメリ:船に乗って旅してたら、捕まっちゃった!
カラメリ:ガラガラ…君たちのいうナザレスの奴らに。
ドン:で、奴隷にされたのか…
カラメリ:僕は、ガルダゴの王族だからね。
…一方トーリャ王国…
アルフレド「探せ、姫を!草の根わけても探せ!…ああ、我輩の可愛いチェッタちゃん、今頃どうしているのだろう…ああ…パパは心配だよ…」
ルシテーア「陛下…それが先日、私たちの元に、伝書鳩が届きましたの… 」
アルフレド「どれどれ…「親愛なる陛下 私どもマッド・ドゴスが、責任を持ってルチェッタ姫をお守りします。今後とも、ご愛顧のほど宜しくお願いします。」王の黒犬号、航海士、ランドーラ・ミミ」…あの犬どもめ!恩を仇で返したな!
海賊行為を認める代わりに、ルチェッタ姫を攫いおった!飼い犬に手を噛まれるとは、まさにこのこと。」
ルシテーア「お待ちになって、陛下。私もマッド・ドゴスとは何回か顔を合わせました。ドンは、あれはお金さえもらえれば何でもするような人に見えますが、ランドーラは信が置けます。これは、女の勘です。あの方たちを、責めないであげて。」
アルフレド「テーア、君の望みでも、それだけは聞き入れられない!オイ、海軍将校、今すぐ、マッド・ドゴスを追いかけろ!見つけ次第、しょっぴいて縛り首だ!」
ルシテーア「ああ、陛下、お待ちになって…ああ、私のせいだ…。私が、ルチェッタに望まぬ縁談を押し付けたから、天国の従姉さん、教えて。私は、どうしたらいいの…」
4ラーマ号との戦い
ビーグル:(ギター片手に歌う。でなければ、甲板の上にハンモックで寝転んで、詩吟する)
風よ 吹け
俺の愛する海は 上機嫌
カモメが 陸を恋しがるが
俺たちゃ 海が好きなのさ
気まぐれで 大らかな 可愛い子ちゃん
ウィペット:ドンの兄貴!トーリャの軍艦だぜ!
ドン:旗信号で、「ご機嫌よう」とでも言っとけ。
サルーキ:奴さん、様子がおかしいぞ?何?「キサマラハ、ヒメヲ、ユウカイシタ。ソノツミ、クビモテツグナワセル。オウ。」?
ドン「ヤバいぜ。俺たちゃ終わったな。今トーリャの海軍に捕まれば、俺たちゃ
姫を攫った罪で縛り首よ。」
サルーキ:だから言ったじゃねぇか!女を乗せるとろくなことにならねぇって!
ウィペット:どうしよう兄貴、今からでも、謝ってどうにかならないかな…?
ドン:そうだな…旗信号を送れ!誤解を解くんだ。
ジルバー:面舵一杯!全速前進!
さぁ、あの小憎らしいマッド・ドゴス団を、今日こそ捕まえるぞ!みんな、ラーマ号には、僕とフィンがいる!だから、気楽に頑張ってくれたらいいよ。僕は、勝てない戦いはしないからね。
ドン:クソ!こんな時にジルバーかよ!ウゼェんだよ、あいつ。しつこい男は嫌わられるぜ。
ビーグル:ドン。どうする?
ドン:逃げるが勝ちさ!あいつのしつけぇ砲撃をかわしながら、あいつがへばるまで飛ばさせて、逃げる。いつもの手だよ。その後は…どうにでもなれ!
5ガルダゴへ
ビーグル「ドン!ここからは、俺も知らない領海さぁ!見知らぬ女は、俺、怖いよ。…本当に、行くのかい?」
ドン「俺たち海賊はなぁ!知らねぇものに立ち向かうから、海賊なんだよ!王の黒犬号に懸けて、俺たちに、渡れない海なんかねぇと言え!」
ビーグル「ドン、…また呑んでんだろ!航海士の言うこともたまには聞かねぇと、後悔するぜ!」
ランドーラ「そうね、ビーグル。確かに、ドンは頭がおかしい!…常識にハマって考えりゃね。…でも、カラメリの話じゃ、ガルダゴにはお宝がありそうじゃないの。お宝があるとこへ行って、海賊はナンボの商売だよ!」
ドン「…頭がおかしいは、言い過ぎだぜ、ミミ。…姫は、どう思う…?」
ルチェッタ「私は海のことなんてわからないけど…私、遠くへ行きたいの…!カラメリも手伝ってくれるし…行こうよ、ガルダゴへ!」
ジャスパー「(胸に提げたロケットを眺めながら)ああ…どんどんターシャとの距離が離れていく…ターシャ、パパ上は、必ず帰るからね…」
・ルチェッタ姫、乗組員になる
ランドーラ:さぁ、起きな、ルチェッタ、朝だよ!
ルチェッタ:いやー!まだ寝る!
ランドーラ:アンタは海賊になりたいんだろ?海賊はね、早寝、早起き、飲み食い、たっぷり、たっぷり、働く、これが、基本さ。お姫様だからと言って、容赦はしないよ!
ルチェッタ:シブシブ…おはよう、ランドーラ、朝のお紅茶は?
ランドーラ:まだ寝惚けてんのかい⁉︎お紅茶なんて、あるわけないだろう。さぁ、仕事だよ!
ルチェッタ:ひどいわ、ひどいわ!帰ったら、ゼッタイお父さまに言い付けてやるんだから…ランドーラなんて、縛り首よ?
ランドーラ:一等航海士とお呼び!ピーピーうるさい小鳥ちゃんだねぇ。そんなに働きたくないなら、お城にこもってりゃ良かったのさ。
ドン:なんだ?朝から騒がしいぞ?
ランドーラ:ドン、ルチェッタに、海賊の厳しさを教えてやっておくんな。
ドン:…とは言え、姫だからなぁ…相手は。
ルチェッタ:ほらね!
ランドーラ:あたしゃ、承知しないよ。…ルチェッタの仕事は、甲板の掃除!それから、昼食作りさ。午後は、キッチンをピカピカにしてもらうよ!
ルチェッタ:そんなの、やったことない!できないわ!
ランドーラ:なら、ウチの船からは降りてもらう!
ドン:…そうさな、姫に、教えてやれよ、ランドーラ。姫…教えれば、やるんだろう?
ルチェッタ:シブシブ…わかったわよ。
ランドーラ:それが、人にモノを頼む態度かい?
ルチェッタ:うっ…ランドーラさん、お願いします、私に雑用を教えて下さい。
ランドーラ:いいよ。それから、私のことはマムと呼びな。今日は付きっきりで教えよう。…一度で覚えるんだよ。王女だからと言ったって、甘えは抜きだ。
ルチェッタ:わかったわよ…
ランドーラ:返事は、イエス、マムだ!わかったね?
ルチェッタ:イエス、マム、イエス!…いいわね。こういうのは、カッコよくてちょっと好き…
ドン:まぁ、あまり姫が疲れない程度にな。…待て。そのドレスで行く気か?海賊服を用意してやる。
ルチェッタ:メルシ、ドン。
(間)
ランドーラ:さ、できた。アンタもこれで、立派な船乗り見習いさね。
ルチェッタ:ズボンなんて、初めて着るわ!コルセットがないなんて!ヒールがないなんて!不思議!動きやすーい!
ジャスパー:お、おい!姫になんて格好を…!
ランドーラ:お前さんの分も、あるよ。…いいかい?アタシたちは、ジルバーからアンタたちを守って逃げた。アンタたちも、出来ることで恩返しするんだね!そうしたら、昼は、モヤシと塩漬け肉をあげるからね。
ジャスパー:なんて粗末な!私は、肉はサーロインじゃないと食べれないんだ。
ドン:つべこべうるさい!ジジイ、お前さんも覚悟を決めて姫について来たなら、もう、諦めな。陸じゃねぇんだ、ここは。
ジャスパー:くそッ!…薄汚い海賊ども…なぜモヤシなんだ…
ドン:ハイハイ、言ってろ…モヤシはな、健康にいいんだよ。簡単に机の引き出しで育つし。…
まぁ、陸と海じゃ、理屈が違うって話だ。そこを飲み込めって話よ…ああ、姫、ズボン似合うぜ。
ルチェッタ:メルシー、ドン!私、なんだか働くの楽しみになってきた!ジャスパーも、お仕事頑張って!
ジャスパー:私も仕事を⁉︎
ドン:お前は、船の舵取りを手伝うんだよ。さぁ、来いジジィ。着替えるぞ
ジャスパー:ああ…ターシャ、パパ上はなんでこんなところに…ルチェッタ姫になんて、付いてくるんじゃなかった!
6所変わって…シータ・バルガス・エンリケ女王とジルバー提督
シータ「夫が死に、息子のおらぬ妾が、心を許せるのは、…そなただけ…」
ジルバー「ああ、おいたわしや陛下…」
シータ「陛下、ではなく、シータ、と…」
ジルバー「…シータ、様…」
シータ「お願いだから、妾をひとりの人間として…か弱き女として見ておくれ…ジルバー…妾は、トーリャの王に海の覇権を奪われて、国民からも見放されるばかり…妾の味方は、そなただけじゃ。…」
ジルバー「ああ、…何という光栄…間違えた…何という悲劇でしょう…シータ…あなたは、このロンバルド帝国に栄光をもたらしたと言うのに…わたくしごとき一軍人のみが、…あなたの心を理解しているというのですか…」
シータ「そう…そうなの…ジルバー…妾はお願い致します…マッド・ドゴスの略奪を、止めておくれ…あの船には、ルチェッタ姫が載っているそうではないか。ルチェッタ姫をこの手に、トーリャの憎っくきアルフレド王と妾が交渉できる機会を…。あなたにしか、頼めないの…」
ジルバー「シータ、シータ、…(女王の手に、狂ったようにキスしながら)ああ、シータ…二つ、お願いがございます…一つは、わたくしにロンバルドの海軍の全軍の指揮権をください。さすれば、わたくしは必ずや、あなたのために、ルチェッタ姫を手に入れて参りましょう」
シータ「…良いでしょう。…そなたに我が海軍全軍の指揮権と、領海全てにおけるいかなる行為もする権限を。…して、もう一つの願いとは…」
ジルバー「ああ、シータ…それは、…ルチェッタ姫を手にした暁に、申し上げます。あなたは、ただの海賊だった僕を、ここまで重く用いて下さる…シータ、わたくしは、あなたのものです…」
シータ「嬉しい…そこまで行ってくださるのね…」
ジルバー「ええ、必ずや、憎きトーリャ王国に、正義の鉄槌を!だから、ね、シータ、僕がルチェッタ姫を連れて帰ってきた暁には、…僕のお願いに、応えてくださいますね?」
シータ「もちろん。…ありがとう、ジルバー」
ジルバー「我が愛しの女王陛下…もう一度だけ、そのお手に口付けを…(もう一度、女王の手にキスをして)…では、行って参ります!ロンバルド帝国に、栄えあれ!」
シータ
「頼みますよ、ジルバー…」
(ジルバー、去る。アドリブをしても良い)
「ふっ、他愛もない若造よ。…男を動かすには、恋の炎で炙るのが、一番効くわ…さて、愛しい娘を囚われたらアルフレド王は、どんな顔をするのかのう…かつて妾との同盟を振り切った報いよ!ハッハッハッハッハ!」
7ボロボロの船
(ランドーラとドン、チェスをしている)
ランドーラ「やばいよ、ドン。ジルバーのせいで、船はボロボロ、船員も、士気が下がってる。…このままじゃ、反乱を起こされても、文句は言えないねぇ。」
ドン「わかってるよ、だから、ビーグルに海図を描かせてるし、ウィペットやサルーキにも、小舟で辺りを見に行ってもらってる…ほら、チェックメイトだぜ。」
ランドーラ「甘いね、…ほら、これでどうだい?…全く、時化が来て、船が動く風が吹かないなんて、ツイてない…これは、魔の海に入っちまったんじゃないのかい?」
ドン「船はお前が直せばいい、ミミ。船員たちも、作業をすりゃ、少しは気も落ち着くだろ…ほら、チェックだぜ、ミミ。もう、降参だろ…?」
ランドーラ「ミミ、ねぇ。その名前で呼ばれなくなって、久しいわ。…もう、アンタしかそう呼ぶ人間はいない。…アタシも歳を取ったね。…さて、アタシの負けだよ…じゃ、ちょっくら船を直してくるよ、若い船員たちと一緒にね。」
ドン「終わったら酒倉を解放して、ラム酒をみんなに振る舞ってやってくれ。…後は、酔っ払った勢いで、気合いで漕げば、ガルダゴに着くだろ。船乗りの歌を歌いながら、調子を合わせてさ。」
ランドーラ「だといいけどね。ドン、あたしゃ、アンタにまかせるわよ。」
ドン「…お前昔は、酒場の踊り子だった。ミミって呼ばれてて、そりゃあ可愛かった…」
ランドーラ「何を思ったか、アンタに惚れて、散々勉強して、船乗りに。」
ドン「ランドーラ・ミミっていや、有名だったぜ。可愛い顔して、なかなか根性が座ってるってな。」
ミミ「でも、アンタは私に手を出さなかった…なぜ?」
ドン「別に、そんなのなくても、命を預け合う時点で切っても切れねぇ仲だからさ。」
ミミ「嘘。アンタはなんだかんだ言って、女より酒より、海を愛するバカなんだよ。」
ドン「ビーグルと一緒にしてくれるな…俺は、やりたいようにやってるだけさ、ミミ。」
8ガルダゴ
カラメリ「ようこそ!我が王国、ガルダゴへ!」
ルチェッタ「あっつーい!もう、ドレスなんか脱いじゃいましょ!ドン、船乗りの服を頂戴。」
ジャスパー「ダメですよ!姫様!これから、ガルダゴの国王にお会いするのです。いかな辺境の蛮族の王といえども、ジェントルに接してあげなければいけません。」
カラメリ「ヘンキョーのバンゾクって、どういう意味?」
ドン「…まぁ、カッコいい勇ましいやつらってことだよ。…つーか、おっかねぇ景色だな…本当に、お宝があるのか…?」
カラメリ「あるよ、ホラ!」
ドン「…ガラス玉じゃねーか!」
カラメリ「最近の商売で手に入れたんだ。金一カランにつき、一個の価値がある、宝物だよ!」
ルチェッタ「…確かにガラス玉は綺麗だけれど…私たちの国では、これは子供のオモチャなのよ?」
カラメリ「そーなんだ⁉︎」
ドン「ちょっと待て?金一カランってのは、…あの、金のことか?」
カラメリ「そうだよ。キラキラする、黄色いやつ。まぁ、子供のオモチャだけどね。…剣や鋤にしたら、グニャってなっちゃうから。」
ドン「すげぇ話だぜ、これは。一カランってどのくらいだ?」
カラメリ「どのくらいって…?大人の男の腕いっぱいに抱えられるくらいだけど…」
ジャスパー「なんですと⁉︎」
カラメリ「金なんて、大したものじゃないよ…え?…三人とも、どうしたの?」
ルチェッタ「ひどいわ!いくら野蛮人だからって、金をそんなにと、ちっぽけなガラス玉一つを交換させるなんて!」
ジャスパー「あのですね、カラメリ王子には、今後とも!宜しくお付き合いさせていただきたく…」
ドン「…こりゃ、ちと冷静にならねぇとな…俺たちゃ、ヤバいお宝を発見しちまったようだぜ。」
カラメリ「ん〜、よくわからないけど、なんか、ルチェッタ以外は嬉しそうだね!みんなおいでよ、ボクの国を、見せてあげる!」
ドン「俺は戻るぜ!ちとやらなくちゃいけないことがあるんでな。カラメリ、この二人を任せた。」
カラメリ「いいよ〜。ここはボクの国だもん!誰も、君たちを襲ったりしないよ〜。あ、ヘビは別ね。毒蛇に気を付けて〜」
ジャスパー「ひ、ヒィッ…ヘビ…」
9
ルチェッタ「長いジャングルだった…もうヘトヘト…ドレスも、ボロボロ…」
カラメリ「変な服だもんね、歩きづらそ〜。…後で、ルチェッタには服をあげる。涼しくていいと思うよ!」
ジャスパー「一国の姫君が、蛮族の装いをするなど…!いやー、でも暑いしな〜、…しょうがないか…カラメリ殿、ワタクシにも服をくださいますか…?」
カラメリ「ボクがビー玉持ってるから、驚いちゃったの?おじさん、さっきから態度が気持ち悪いよ〜!…いいよ、服、あげるね!ビー玉も、たくさん見せてあげる!」
ジャスパー「かたじけない…いや、ビー玉は、遠慮しますが…」
ルチェッタ「わぁっ!森がひらけた!村?ここ。」
カラメリ「うん。ボクらのクニの、端っこの村さ。」
「ダグー!バゾ(やぁ、バゾ)。…イーソイイーソイ、ナ、ルィグーソ!(…そうそう、俺、戻ったんだよ!)ババ、バゾ!(後でな、バゾ!)」
ジャスパー「あの、ワレワレ、村の女子供たちに囲まれちゃってますが…男たちも、遠巻きにワレワレを見てるような…」
ルチェッタ「当たり前よ!だって、私たちにはこの方たちが珍しいけど、あちらからしたら、私たちが珍しいはずだもの。」
カラメリ「あとね〜、ボクも珍しいと思うよ。…ボクは、王族で一番強いから、カリプソのイケニエに捧げられたんだ。」
ジャスパー「カリプソ?」
カラメリ「海の女神様さ。十回季節が巡るたび、僕らは王族の中で一番強い若者を海に捧げる…戻ったのは、ボクが初めてかも。」
ルチェッタ「戻って、大丈夫なのかしら…」
カラメリ「さぁね、カリプソは怒ってるかも…でも、ガラコは怒らないと思うよ。」
ジャスパー「ガラコ?」
カラメリ「この国の王様。…つまり、ボクの兄さんさ。…ホラ、着いたよ。これが、僕らの住まい。」
ジャスパー「周りの掘建て小屋よりは、よくできている。…」
カラメリ「酋長会議もここでするからね、多少、見栄えは良くしなくちゃ。」
ルチェッタ「破れたドレスで、失礼するわ。」
カラメリ「待っててね、今、門番と話してくる。」
(ガラコ、門番の話を聞いて、わざわざ宮殿から出てくる)
ガラコ「ルィグーソ・バル…!カヌレ、ヌガー、ナン、トート!(戻ったのか…!強く可愛らしい、我が弟よ!)」
カラメリ「ジャンゲ、ルクルク…ナン・ヤーリャ・トート(大袈裟だなぁ、兄さん)。」
(二人、固く抱き合う)
ガラコ「…ラバラバ?ダン、ゾーチェ?(この者達は?」
カラメリ「ナン・ヌガー・リンナイ、マタ・タシカウ(俺の可愛い嫁さんと、その召使い。)」
ガラコ「ラバラバ!…ナン・トート、モンドーリャ、リンナイ!(何と…!我が弟は、嫁まで連れて戻ってきたのか…!)」
ルチェッタ「あ、アンシャンテ、ガラコ…。…ねぇ、カラメリ、ガラコはなんて言ってるの?」
カラメリ「挨拶みたいなものさ。ガラコ、ヘ・カタール、スーホ・ヤンジュ。(ガラコ、白い砂の地の言葉で話して。」
ガラコ「イーソイ(わかった)。…ハジメテ、アウ。ルチェッタ。オレ、オマエ、アッテ、ウレシイ。」
ルチェッタ「初めまして。…トーリャ語を喋れるのですか?ガルダゴの王さま。」
ガラコ「アア、スコシ、シャベレル。オレ、オマエ、カゾク。オレ、ウレシイ。」
ルチェッタ「家族…?まぁ、そのように思って下さるなんて、嬉しいわ。」
ガラコ「オトウトノ、ツマ、オレノ、カゾク…ルチェッタ…アンシャンテ。」
ルチェッタ「う⁉︎…ツマ…?ちょっと、カラメリ!ガラコ王に、何を教えたのよ⁉︎」
カラメリ「まぁ、そのうち、ルチェッタもボクを好きになるさ!」
ルチェッタ「あなたのことは、好きよ。…だけど、あなたのお嫁さんには…ちょっと、…ねぇ、聞いてるの⁉︎」
ジャスパー「ヒッ、何だこの肉食獣は!」
カラメリ「ヌガー!カヌレ!久しぶりだなぁ!わ、くすぐったいよ、ヌガー!…ガラコ、ヌガーとカヌレを置いていてくれたの?」
ガラコ「オトウトのダイジなトモダチ、オレ、オマエのカタミに飼ってイタ。」
ルチェッタ「…大きな猫みたい…カラメリの友達なの…?」
カラメリ「うん。こいつらの親は人喰いダガワリになっちゃったから殺したけど、こいつらは可哀想だから、ボクが育てたんだ。…ボクがイケニエに選ばれて、船で一人で旅に出た時、こいつらは殺されちゃうかと思ってたけど、ガラコは育てていてくれたんだね。」
ガラコ「ダガワリ、ヨク、グゥ(ブタ)タベル。オレ、グゥ(ブタ)、タクサンナクシタ。」
カラメリ「ラバラバ…サンバ、ガラコ(なんていうか…ありがとう、ガラコ)」
ジャスパー「ダガワリって、結局なんなんだ⁇」
ガラコ「ルチェッタ、オマエ、ツヨイ。オンナ、モリ、アルカナイ。オマエ、アルク。オマエ、ツヨイ、オンナ。オレ、ツヨイ、スキダ。オマエ、オレ、ヤーリャ・トート(肉親の歳上の男)、ヨブ、ユルス。」
ルチェッタ「サンバ、ガラコ。…でも、私は、カラメリと結婚するつもりはないの…ごめんなさい。」
ガラコ「バル…ルチェッタ、イウコト、オレ、ヨク、ワカラナイ。」
カラメリ「イーソイイーソイ、わからなくても大丈夫だよ、ガラコ。」
ルチェッタ「全く!男って、どんな男も一緒みたいね!女の子は結婚するのが一番いいと思ってる!お父様みたいな王様も、あなたたちみたいな蛮族も!」
ジャスパー「まぁまぁ、抑えて…姫…。うーむ、カラメリ殿、姫には貴殿より先に結婚の約束があるゆえ、それは無理ですが…金とは…間違った、貴殿らとは、仲良くしたいものですな…」
カラメリ「あ、そうそう。ガラコ、この人たちは、金が欲しいらしいんだ。…どうするの?」
ガラコ「モノ、タダでテニイレタ者、ノロワレル。…オマエ達、オレタチにナニカくれる。ソウシタラ、オレタチ、ファルファル(金)、ヤル。」
ルチェッタ「あっ、…そうよね。…そうね…ガラス玉よりはステキなものをあげるって、約束するわ。」
カラメリ「あのガラス玉よりステキなもの?なんだろう?やっぱりルチェッタかな?」
ルチェッタ「違うわ!それはお父様と話し合わないとわからないけれど…でも、きっとお父様もわかってくれるわ。…この人たちも、野蛮だけれど、同じ人間よ。」
ジャスパー「どうでしょうな…まぁ、ワタクシは間違いなく帰ったらクビが飛ぶでしょうから、その前に金が欲しいですな…あの、金を、よかったら、十カランもらえませんかな…?ほら!この指輪と交換で!金…金があれば、家族に贅沢させてやれる…!それどころか、領地だって買い戻せるはずだ…そのためなら、祖父からもらった大切な指輪だが、これくらい…!」
ガラコ「…ソウダナ…オレ、オマエ達と、シェルパ、シタイ…シタラ、十カランドコロカ、タクサン、ヤッテイイ。」
ジャスパー「タクサン!…沢山…ああ、ターシャ、パパ上は初めて、ルチェッタ姫のお付きでよかったと思ってるよ…」
ルチェッタ「何よ!ジャスパー。…で、シェルパって、何をすればいいの?」
カラメリ「強い男同士が、一対一で、棒の上にまたがって、棒で相手を落とし合うゲームさ!」
ガラコ「オマエ達の中で、イチバンツヨイノ、デロ。コッチ、オレ、デル。」
カラメリ「ガラコは強いモノが好きだからね。…勝ったら、沢山、フネに入りきらないくらい、金がもらえるよ!」
ルチェッタ「誰か連れて来なくちゃ!」
場面・変わって、マッド・ドゴスの中
ランドーラ:大変だよ、ドン。この船、ボロボロさ。
ドン:…修理が効かねぇレベルってことか?
ランドーラ:そうさ!もう、この船はここから一歩も進めない…その辺から木材を持って来るしか、ないわ!
ルチェッタ:ドン!大変なの!強い人を寄越して!
ドン:待て、嬢ちゃん。それどころじゃねぇんだ。
ルチェッタ:どうしたの?
ドン:船がボロボロなんだとよ。俺たちゃ、帰れねぇ。
ルチェッタ:そうなの…?あの、私思うんだけど…ガルダゴの人たちに、相談してみたら…?
ランドーラ:…使えそうな木材は、ある?
ルチェッタ:私は、船は詳しく分からないけれど…そうね、木なら、いっぱい生えてるわ。
ランドーラ:…うん、まぁ、この辺で小舟も見たし、大丈夫かな…
ルチェッタ:あのね、ガルダゴの人たちは、カラメリ王子を連れ帰った私たちを、歓迎してくれてるわ。でね…王様が、マッドドゴス団の中で、一番強い人とシェルパっていうスポーツをしたいらしいんだけど…
サルーキ:なら、オレが行くぜ!オレは、何たって、ドンの見込んだ男だからな!フニャ…
ウィペット:違うぜ!ドンの兄貴が見込んだのは、おれさ!オェッ
サルーキ:(息も絶え絶えに)なんだと、ウィペット、お前なんか、いつも、オレの後に、ついて来るだけの、クセに!
ウィペット:(息も絶え絶えに)それは、こっちのセリフだ!サルーキ、なんか、へなちょこ、じゃねぇか!おれが、行くぜ!
ドン:…うるせー奴らだ!黙りやがれっ!
サルーキ:シュン…
ウィペット:ショボン…
ドン:俺は、右脚が義足だから、やらねぇぞ…
ランドーラ:…じゃあ、しょうがない…アタシが行こうかな…
ルチェッタ:ええ⁉︎でも、ガラゴ王は、男を呼んでこいって。
ランドーラ:今、この船で酒が入ってないのは、アタシだけだよ。それに、久しぶりに、暴れたいしねぇ…
サルーキ:出た、ランドーラの姉御の血が騒ぐクセが…
ウィペット:ミミ・ランドーラと言えば、大抵の海賊はビビり上がっちまう…伝説の女海賊だからな…
ランドーラ:アンタたち、それでいいね?
サルーキ:イエス、マム、イエス!
ウィペット:イエス、マム、イエス!
・ガラゴの宮殿で
ガラゴ:オレ、シェルパ、ツヨイ!オレ、ツヨイヤツ、スキダ!タノシミダ!
ランドーラ:よう、ガルダゴ王。俺がお相手しよう。
ガラゴ:オンナ、ミタイナ、ヤツ…ヨワイ?コイツ?ツヨイ?ホントウ?
ランドーラ:俺は、ランドーロってんだ。俺たちの中じゃ、一番強いぜ。
ルチェッタ:(小声で)ねぇ、これ、バレたらまずいんじゃないの?
ドン:(小声で)さぁな…出たとこ勝負さ…ま、ミミなら上手くやるだろ。
ガラコ:(海を越え、マレビトがやってきた!俺は、マレビトの中でも歴戦の猛者と、シェルパをしようと思う。皆の者、大いに楽しんでくれ)
ガラゴ:イクゾ!イアッ!
ランドーラ:おっと!へぇ、どうやら見てくれだけのデカブツじゃあねぇようだな!
こっちからも行くぜ!そりゃっ!
ガラゴ:オマエ…シェルパ、ジョウズダ!ツヨイナ!
ランドーラ:おわ!そう来るか⁉︎こりゃ、一撃でも喰らったら、おしまいだな。だが、大体お前の技は見切ったぜ?ガラゴ。
ガラゴ:ハッハッハ!オレ、オマエキニイッタ!ダカラ、テカゲン、ヤメル。…ツギデ、シマイダ…!
ランドーラ:くそ…手加減されてたのか…まぁいい…さぁ来いッ!
ガラゴ:イーーアッ‼︎
ランドーラ:はぁっ‼︎
(間)
ガラゴ:ハッハッハ!トオクカラキタ、マレビト!ノメ!ウタエ!サワゲ!オレ!タノシカッタ!ソノ、レイダ!
ドン:みんな、ガラゴ王が船も修理してくれる…みんな、ミミ…いや、ランドーロのおかげだ!ランドーロに乾杯!
ランドーラ:ハッ、大袈裟だな。…まぁ、みんな、暫く働き通しだったからな…飲め!歌って騒いで、疲れて寝ちまえ。
ルチェッタ:私も、お酒飲みたーい!
ドン:…まぁ、いいか。…ちょっとだけだぞ?
ランドーラ:だめだぞ、ドン。
ドン:だそうだ、ルチェッタ。
ルチェッタ:シブシブ…
ガラゴ:ランドーロ、オレ、オマエ、ミルト、ムネガ、アツクナルナ?…ヘンナキブンダ…
ランドーラ:あー…そう?
ガラゴ:オマエ、ツヨイ。…ランドーロ、オンナ、ダッタラ、オレ…タブン、ツマニ、ムカエタナ!ワッハッハ!
ランドーラ:あはは〜…、そうか…。
ドン:…んで、金は貰えんのかな?
ガラゴ:アタリマエダ!スキナダケ、ヤル!…ランドーロ、オレ、オマエ、ケライニシタイナ…ココデ、クラサナイカ…?
ランドーラ:(小声で)ここでガラコの機嫌を損ねちゃ、まずいかな?ドン?
ドン: …お前の好きにしな、ミミ。
ランドーラ:…ガラコ、アンタの言葉は、ありがたい。だけれど、俺は、もう自分のボスは、決めてるんだ。
(沈黙)
ランドーラ:(小声で)やっぱ、まずかったかな…?
ドン:(小声で)もしもダメなら…いつも通りだ。ドンパチ派手にやって、逃げるだけさ。
ガラコ:…ランドーロ、オレ、オマエ、マスマス、スキニナッタ!ファルファル(金)ダケデナク、スキナモノ、スキナダケヤロウ!
ランドーラ:ホッ…
ドン:こりゃ、追い風が吹いてるな、やったぜ、ミミ!
ビーグル:
(できればギターを演奏しながら歌う。できなければ、アカペラか詩吟する。)
海は 今日も 美しい
時には ご機嫌斜めの日もあるが
俺たちゃ 海に 首ったけ
気まぐれで 優しい 可愛い子ちゃんさ
さぁ!今日は、ガルダゴのみんなと宴だ!海も上機嫌で、いい宵だねぇ。
ジルバー:…さて、敢えて襲わずに黒犬号についてきたわけだが…その甲斐あったな!フィン!
フィン:ああ、全くだ。
ジルバー:こんなところに海の民の村落があったとは…
フィン:一時期、魔の海に迷い込んだ時は、他の乗組員と組んでお前を殺し、海賊に戻ろうかと思うほど思い詰めたわけだが…黒犬号が進んでくれてよかった…
ジルバー:うん、よかった…ってフィン⁉︎僕のこと、殺そうかと思ってたのかい⁉︎
フィン:このまま乗組員に反乱を起こされたら、オレの身も危ういからな。
ジルバー:へ、へぇ…フィンも冗談を言うようになったんだねぇ…
フィン:ああ…そう思っててくれて、構わない。
ジルバー:…(フィンに不信感を覚える、複雑な表現)
ジルバー:黒犬号に紛れ込ませたスパイによれば、ここには金があるそうだよ、フィン。ガルダゴの民は、働き者で頭もいい。奴隷としても使える。
フィン:ジルバー、いつの間にスパイを…
ジルバー:まぁ、お金と地位を餌に、ドンの部下を買収したのさ。僕は、諦めが悪いからね。…奴は、…ドンは、僕が必ず捕まえて、シータ陛下の御前に引き出すまで。
フィン:…オレは、お前に着いて行くだけだ。
ジルバー:(自信たっぷりに)…だよねぇ。…(ちょっと慌てて)で?さっきの、やっぱり嘘だよね⁉︎
フィン:…冗談だ。…
フィン:…冗談キツくない?…
・暗雲立ち込める
ドン:…夜明けだ…騒がしいな?
クマイヌ:…火薬ノ匂イダ。…
ドン:俺たち以外に海賊がいる!どうしてだ?
ビーグルの作った海図は、全くのオリジナルのはずだ、だろ?ビーグル。
ビーグル:そうだな、ドン。…クソ、昨日呑みすぎた…頭がまわらねぇ。
ドン:…ボルゾイは?あいつ、どこ行った?
ビーグル:昨日もらった金や宝もないぞ⁉︎…まさか、あいつ…
ドン:…嘘だろ…
ランドーラ:ドン?アタシも今起きたとこだ。…
ドン:…(ショックのあまり言葉を失っている)
ランドーラ:…何があったんだい?
ビーグル:ボルゾイが裏切ったかも知れねぇ。…信じられるか?…ボルゾイが、だぞ…?
ランドーラ:…そうかい。ま、そんなこともあるさ。…
ドン:アイツとは、駆け出しの頃からの仲さ。…牢獄にぶち込まれたら、隣に、詐欺で捕まったアイツがいた…俺たちは意気投合し、サインを送り合い、牢を破った…二人で海を暴れ回った。…どうしてだ、ボルゾイ…俺の何が不満だった…?
ビーグル:ドン…。
ランドーラ:…ドン…、こういうときこそ、しっかりしな!アタシたちゃ、昨日から、ガルダゴの味方になった!そのガルダゴが襲われてるんだ!アタシたちのすることは何だい?答えな!ドン。
ドン:…ミミ…わかった。…クマイヌ、呑んでねぇ連中を連れて、まずは襲われてる村へ援軍に行ってくれ。…そうだ、ビーグルも行け。陸戦なら、二人が組めばまず負けはない。
クマイヌ:ショウチ。
ビーグル:任してくれ、ドン。
ランドーラ:アタシはどうすりゃいい?
ドン:急いで船を直せ。追ってきたのは、多分ジルバーだ。あいつ一人潰せば、当分、ガルダゴは助かる。…海戦なら、あんなガキに俺は負けねぇ。だが、そのためには、船がいる…
ランドーラ:三日ちょうだい。
ドン:三日か…時間稼ぎをしなくちゃな…
ルチェッタ:私が行くわ!
ドン:姫⁉︎
ランドーラ:いたのかい⁉︎
ルチェッタ:話、全部聞いてた。…私が囮になる。私なら、ジルバーにとって、奴隷を狩るよりもいいターゲットなはずよ。私がカラメリと一緒にこの国を逃げ回れば、時間稼ぎできるんじゃない?
ランドーラ:…お嬢様が何言ってんのさ。いいかい?逆を言うなら、あんたはチェスのクイーンじゃなく、キングなんだ。あんたが捕まったら、アタシたちどころか、トーリャは終わりだよ!
ドン:…いや、いいかも知れねぇぞ、面白れぇ。まさか、敵さん囮だろうとは夢にも思わず捕まえるのに夢中になるぜ。
ただ、ルチェッタだけじゃだめだな…俺も行くか…?
ランドーラ:ドン!まーたあんたは「面白れぇ」で決める!イカれてんじゃないの⁉︎
ドン:ミミ、俺が一度でもお前さんにチェスで負けたことがあったか?
ランドーラ:机上の空論と血を流す戦いとじゃ何もかも違う!
ドン:ルチェッタに何かあったところで、だ。トーリャに帰れない俺たちに損があるか?
ランドーラ:…今更ルチェッタを切り捨てろと…?
ドン:いや、そういうわけでもないけどさ、俺たちには損は起きねぇわけだ。…
ランドーラ:…あんたはどうなるの?
ドン:大丈夫だ。お前たちを信じてる。
ビーグル:ドン…
クマイヌ:シュクン…
ランドーラ:…全く!男って、こういうのに弱いのかしら…ドン、あんたに賭けよう。…ルチェッタ、ドンは、簡単にあんたを切るときゃ切るよ、その時は、自分でどうにかできるかい…?
ルチェッタ:…わからないけど、…私だって、出来ることはしたいの。天国のお母様に、私の一生は意味があったよって、そう言うのが目標なの。
ランドーラ:…やれやれ、…あんたを心配してやってんのに…まぁ、安心しな。ドンは誰よりも欲深い。トーリャに繋がるあんたを、そう簡単に見捨てはしないさ。…あばよ、世間知らずのお姫様!海の女神の加護を!
ルチェッタ:ありがとう、マム・ランドーラ。…行って参ります!
ドン:…女の友情ってやつは、身分も越えるのか…?まぁいい。姫の気が変わらないうちにだな。…
ジルバー:で?今どんな気持ち?姫にドン。
ルチェッタ:最悪よ。
ドン:右に同じ。
ジルバー:あっさり捕まってくれたな、ドン!もう少し、手応えがあると思ったんだが。
ドン:クソッタレ!ルチェッタの足があんなに遅くなければ…!
ルチェッタ:何よ!ドンだって、途中で宝なんかにに欲を出してたじゃないの!
ドン:うるせぇ、メスガキ!お宝があればいただくのが、海賊ってもんよ。
ルチェッタ:意地汚いわ!なんて意地汚いのかしら!海賊なんかに、ついてくるんじゃなかった…!
ジルバー:ハッハッハ!その辺にしたまえ、二人とも!愉快だなぁ…仲間割れするとはね。
ドン:…仲間割れといえば…ボルゾイに何を吹き込んだ?俺の仲間をどんな二枚舌で騙したんだよ!
ジルバー:別に、あちらから来ただけさ。…知りたいなら、ボルゾイを呼んでこようか?
ジルバー:まぁ、最期くらい、話させてあげてもいいさ。僕は優しいからね、ドン。
ジルバー:お前は、麗しきシータ陛下に反逆した罰で、帝国に帰ったら即、斬首だからな!
ドン:クソッ!…話させろ。
ジルバー:じゃあ、精々昔話に花でも咲かすんだな。…行くぞ、フィン。
牢番A:ドン、面会だ!
ボルゾイ:ボンジュール、ドン、そして、姫。
ドン:ボルゾイ…
ルチェッタ:ボルゾイさん、私、あなたを信じてたのに!どうして?
ボルゾイ:これもまた、ファタルですよ…
ルチェッタ:ドン、こう見えて、凄く傷付いてるのよ。
ボルゾイ:元はと言えば、ドンが、知らず知らずのうちに私を傷付けていたのですよ…
ドン:どうして…ッ!正直言って、俺は、お前が大好きなんだ!お前に何かしたなら、謝る…処刑されても構わない。だがな、俺は、お前に赦してほしい…
ボルゾイ:…答えはノンですね。…あるところに、二人の海賊がいたのです…
ルチェッタ:え…急になんの話?
ドン:黙って聴いてくれ。ボルゾイは、自分の話を物語調にしたがる癖があるんだ。
ボルゾイ:一人は勇敢で頭が良く、適当でしたが、そこがまた魅力的な男でした。もう一人は空っぽで、嘘だけが妙に上手く、いつも道に迷っているような男でした。二人は、性格は全く違いましたが、本当に気持ちは通じ合っていたのです…
ボルゾイ:…しかし、そこにある女性が現れたのです。
ボルゾイ:女性は、勇敢な海賊に惹かれました。
ボルゾイそれはそれは、激しい、しかし、神聖な恋をしました。
ボルゾイ…嘘つきの海賊は…!それをただ見ていました。
ボルゾイ:本当は、彼は、その女性を好きだったのです。
ボルゾイ:…しかし、実らぬ恋でした。女性は、勇敢な海賊しか、見てはいませんでした。
ボルゾイ:嘘つきのずるい海賊は、…ある日、敵から、こんな話を持ち掛けられたのです。
ボルゾイ:「なんでも思うものをやるから、こちら側につかないか」
ボルゾイ:お前ならば、奴の目を欺けると、欺いたあかつきには、望む褒美をくれてやると、そう言われて、嘘つきの卑怯な海賊は…
ボルゾイ:つい、考えてしまったのです。…別の国で、好きな女性と静かに暮らす生活を。
(間)
ドン:…知らなかった…
(間)
ボルゾイ:わかってはいるのです。…そんな生活を、あの方が望むはずがない…だが!私は、私は…
ボルゾイ:初めてだったのです。初めての本当の恋だったのです…
ルチェッタ:…ボルゾイさん、あなた、本当はすごく純粋な人なのね。
ボルゾイ:我が国では、人を狂わすような女性を「ファム・ファタル」といいならわしますね。私に取って、マドモワゼル・ランドーラがそうでした…
ルチェッタ:ファム・ファタル…「運命の女」…
ドン:…ボルゾイ、そりゃあねぇぜ…ミミに夢を見過ぎだ。お前にそんなところがあるなんて…人間はわからねぇな、やっぱり。
ボルゾイ:そう、ですね…ですから、ドン、あなたには、死んでいただきます。
ドン:ああ、赦されないのは、よくわかった。
ルチェッタ:どうするの?
ドン:…仕方ない。
牢番A:ごめんな、先生!
ボルゾイ:いっ⁉︎何をする無礼者!
牢番A:先生が姉御に惚れてたなんて、知らなかったぜ…でも、だから先生は俺たちと一緒に飲まなかったんだな!
ボルゾイ:…ウィペット…⁉︎
牢番A改めウィペット:先生はそこでおとなしく、な。
ウィペット:…で、こんなチャチな鍵は、こうして、こうして…こう!
ドン:ジルバーのガキもただのアホだな、ありゃ。
ルチェッタ:私たちがガルダゴ中を逃げ回ったりしたら、その分ガルダゴがめちゃくちゃにされる。
ルチェッタ:だったら、最初から捕まったフリをして、この船を内側から掻き回せばいい。
ルチェッタ:ってね!全部、ドンのアイデアだけど!
ウィペット:さぁ、行きやしょう、ドンに姫様!…先生は、牢屋でお留守番ですね…
ウィペット:(愉快そうに)…大丈夫なんですかい?俺たちを逃しちまって。
ドン:やめろ、ウィペット!…俺はボルゾイを恨んでない。だがな、肩入れする義理もなくなった…
ドン:後は、勝手にやってくれ…あばよ、ボルゾイ!
ボルゾイ:くっ…俺を殺さないのか、ドン。
ドン:…興味ないね、お前の生き死になんて。
ボルゾイ:…所詮、その程度だったということか、…私の価値など…
ドン:…死ぬなよ、ボルゾイ。
ボルゾイ:…
ウィペット:ちょっとちょっと!何変なムード出してるんですか?ドンの兄貴!サルーキが待ってますよ!早く行かないと!
ドン:…ああ、そうだったな。
ボルゾイ:最後に言わせてもらおうか、ドン。お前の優しさが、時に俺を傷付けるんだ!
ドン:な…ッ…んなこと、知るかよ!そっちこそ!
ドン:俺はなぁ、お前が寝返ったと知って、どれだけ傷付いたか!
ドン:わかるか?…なぁ、今までの十年を、返せ!テメェ、本当に、バカにしやがって!
ルチェッタ:ちょっと、ドン!そんなこと言ってる場合じゃないでしょ⁉︎
ドン:うるせー!喋らせろ!
ウィペット:うわ…こんな兄貴、初めて見た…
ウィペット:(ドンを引きずりながら)…先生、今までありがとよ、じゃあな。
ドン:(ウィペットとルチェッタに引きずられながら)馬鹿野郎!やっぱり、殺してやろうか…!
ルチェッタ:(ドンを引きずりながら)ムッシュ・ボルゾイ、オーヴォワ!
(間)
ボルゾイ:…(自分に)こうして、馬鹿で卑怯な海賊は、独りぼっちになってしまいました…
(未完)
それは夏の熱い日、私は思った。「海賊モノっていいなぁ。」あと、「手塚治虫さんとか、CLAMPのスターシステムっていいなぁ。」
そうしてできたのが、この作品です。
他の作品で悪役だったり、不遇だったキャラを総動員して書きました。