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霊の成る木 第8話 あの日・最初の嘘

 僕が凛子に初めて嘘をついたのは小学生になってすぐの頃だった。


 僕はそのときのことをとてもよく覚えている。

 家が近かった僕たちは毎日のように放課後一緒に遊んでいた。凛子は幼い頃体があまり強くなかった。そんな娘を心配した両親が引っ越してきたのが今僕らが住む町だった。


 ある日凛子と僕は彼女の家の裏手にある古い井戸のまわりを探検していた。持ち主のいなくなった古い敷地に建てた真新しい家の裏にある古い井戸はなんだか居心地悪そうにそこに居座っていた。



 そこで僕は初めて「それ」に出会った。



 幼い女の子のように見える、不鮮明な異形の者。

 見えているはずなのに、見えない。

 すぐ近くなのに、すごく遠い。


 奇妙な感覚に全身の毛が逆立つかのような悪寒を感じた。


「かがりー! どうしたの? なにかあった?」

「……ううん、なんにもないよ」


 凛子の声にはっとして振り返り、あいまいな返事をして前に向き直るとそれはすでに姿を消していた。

 それが僕がついた最初の嘘だった。

 そのときは意図的なものではなく、ただただ恐怖と不安で僕は咄嗟に何も無かったと言ってしまっていた。



 凛子の体調が悪化したのはその夜だった。



 凛子は高熱を出し入院した。何の前触れもなかった。僕にできることなど何もなかった。

 だから僕はただひたすら自分の家の祠に祈り続けた。何もできないことがもどかしく、あの日の出来事が頭から離れなくて恐ろしかった。けれど僕はそのことを誰かに話す勇気も持っていなかった。

 何も関係ないのかもしれない。けれど、もし関係があるとしたら?



 「それ」がそこにいたから? それともーー僕が「それ」に気づいてしまったから?



 祠に祈り続けて一週間後、凛子は退院した。

 退院してからも凛子は相変わらずのオカルト好きで、僕をあちこち引きずりまわして遊び歩くくらい元気だった。僕はそんな彼女を止めるようになっていた。もちろんそのくらいで止めてくれるような相手ではなかったけれど。


 小学校を卒業するまでの間、僕は計4回「それ」に会っている。そしてその度に凛子は体調を崩し、僕は祠に祈り続けた。人智を超えた存在に対抗する術を僕はそれしか知らなかった。


 僕の家には地元で神社と呼ばれることもある祠がある。この土地の神様が住んでいると言う。僕は彼女を助けたかった。

 だけど僕に除霊能力が宿ったりということは、一切なかった。



 だから僕は彼女に嘘をつき続けた。


 もし彼女がこのことを知ってしまったら、あちら側へ引きずり込まれてしまうような気がしていた。

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