表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/63

エピローグ あるべきところ

 雲ひとつない夜空に光の花が咲く。花火大会なんて何年ぶりだろう。

 水川七星は火野日奈子とまつり会場の公園から少し離れた高台にある別の公園から花火を見ていた。近くにある駅のまわりにはちらほらと人が集まり、カフェは夜だというのに満席で入れなかった。

 展望台の木製の柵に寄りかかりながら、七星はぼんやりと花火を見ていた。遠くに見える眼下のまつり会場はきらびやかに彩られている。

 明日にはこの街を離れる予定だ。またつまらない、けれど安定した日常へと帰っていく。


「それで、どうだった?」


 隣に立つ日向子が小首をかしげるとセミロングの癖毛がふわふわと揺れた。いつもの通りににこにこと笑う日奈子とは対照的に七星はため息をついていた。

 こんなときでも感情を口にも顔にも出さない日奈子が羨ましくもあり、少し恐ろしくもあった。けれどそれは彼女自身の防衛手段でありあいつを守るためのものなのだろう。

 強いな、と思った。


「どうもこうも……あれはすごいな」

「そう。どうにかなりそう?」

「どうだろう。私の手に負えるものかどうか。相手が相手だからな……正直今回はさすがにひやっとした」


 そう言って天を仰ぐ。山に近い公園の空は明かりが少ない。暗闇に吸い込まれそうだ。


「でも、凛子ちゃんは助かったんでしょ? ()()()()()()()ってことは」

「今のところはな。また同じことが起きないとは限らないが」


 親友である日奈子から弟の話を聞いたのは夏休みに入る直前だった。急に弟に会ってほしいと言われた。そして、もし気が向いたのならば手助けしてやってほしい、と。

 気が向くであろうことはおそらく計算済みだったのだとは思うけれど。


「ありがとうね」


 視線を戻すと日奈子は笑っていた。自分は苦虫を噛み潰したような顔をしていたと思う。

 日奈子はずっと昔から近くに『あれ』の存在を感じていた。けれど、分かった上でどうしようもなかった。ずっとそばで笑っていることしかできなかったという。

 やっぱり強いなと思った。


「ヒナの頼みだからな。まああいつ自身があの化け物を自認したから、これで少しは制御できるようになるといいんだけれど」

「ナナちゃんは優しいよね。弟子にしたっていうのも、これからの篝のことを気にかけてくれたからでしょ?」

「……」


 気がかりなことは確かにある。あいつはあれに近づいても特に影響はないと言っていた。だがそれこそが心配の種だ。

 それはもしかすると、あれの影響にあいつ自身が慣れきってしまっているからなのではないだろうか。そうでなければ、あいつがあんな化け物に対して何も感じないなんてことがあるわけがない。

 そしてそうこうしているうちに、時間をかけて少しずつ近くにいたあの子を侵食していった。

 だから、自分はあるべきものをあるべきところに戻しただけだ。

 けれど。


「はぁー……あやうく口を滑らせるところだったからな……」


 そんなことをすれば、それこそあいつは。


「どうしたの?」

「……なんでもない」


 篝と出会ったときのことを思い出す。あまりにも異様な気配がして、あいつを見つけた。それは近くにいたまがいもののせいではなく、間違いなくあいつ自身のものだった。

 あいつと自分は似ている。等しく化け物の餌食になった者として。それを知っているから日奈子は自分に弟の話をしたのだ。初めから見捨てるわけがないと分かっていた。

 少しだけずるいと思ったけれど、それも日奈子らしかったし、そもそもその本心を知っていたとしても自分はここに来ていただろうから別に何の問題もなかった。


「ねえ、ナナちゃん」

「なんだ?」


 みんな、大切な人を守りたくて必死なのだ。


「篝、飲み込まれないかしら」


 けれど救いはある。あいつにも自分にも信じてくれている人がいる。

 遠くでまた、花火が上がっている。あいつらはちゃんとたどり着けただろうか。

 ここまで響く花火の残響に紛れて七星は小さく呟いた。


「……そうであることを今は祈るしかないな」 




 祠には神が祀られている。

 けれど、それらは祀られる前から神であったのだろうか。

 神だから祀られたのか、祀られたから神なのか。

 中にはその存在を鎮めるために祀られ、その結果として神として存在を残したものがいるという。



 火野家は代々祠を守っている。

 何かが巣食うあの祠を。

 あいつ自身の中に巣食う何かを。

 それは神か、悪魔か。

 きっとそれは、誰も知らない。

お読みいただけきありがとうございました。

完結です。

5年ぶりに書きました。楽しかったです。


第一章は完全ライブ投稿、プロットなしの練習短編のつもりだったので、読みにくいところ、冗長な部分等多々あり申し訳ありません。

改稿してまた公募投稿を目指せたらいいな、と思っています。


隙間時間での執筆なので時間がかかりますが、また新作を書きたいと思っているので、もしよろしければお読みいただけると嬉しいです。


今後ともがんばります。

どうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ