霊の成る木 第5話 公園・祭りの前
「さっ! それでは出発!」
凛子が片手を振り上げて宣言する。目の前の薄暗い公園に似つかわしくない楽しげな声が響く。
「めちゃくちゃ乗り気じゃん……」
きょとんとした顔で見つめてくる凛子が、少し考えてから聞く。
「きゃーって抱きついたりしないのは、女の子っぽくない?」
そういうつもりで言ったわけではないのだけど。そもそもそういう典型的な女の子像を気にするのならばこんな時間にこんな場所に誘う方が間違っている。
という話は省いて本人の問いにだけ答えた。
「別にいいんじゃない。女の子っぽくなくても。凛子らしくて 」
「そうだよね、除霊できない篝みたいなものだよね」
「クラスにオカルトマニアなことばらすよ」
「別にいいよ?」
「……僕が変人扱いされそうだからやめておく」
凛子は普通に答えたが、クラスメイトにオカルトマニアなことを黙っていることは知っている。彼女が教室でこの手の話をしているのを聞いたことはない。小学生の頃はよく教室で心霊番組の話やらホラーゲームの話をしていたが、中学あたりからはいつの間にかすっかりそういった話しはしなくなっていた。
だから僕は彼女はもうこういった話に興味がなくなりったのばかり思っていた。
そうして僕たちの間の距離はやや開いていった。
しばし黙々と歩く。
夏の日差しを浴びて無駄に生い茂ったとした雑草を足でかき分けながら進む。草刈りをされたのはもう随分前になのだろうか。昔はもう少し整備されていた気がするが、少子化の進む田舎町では仕方のないことだろう。
公園の敷地の中はぽつぽつと等間隔で外灯が灯っていて思ったよりは視界が良かったが、背の高い木々に囲まれていることもあり自転車で走ってきた公道と比べると薄暗いことに変わりはない。噂などなくてもこんな時間に立ち入りたくはない場所だった。
黙っているのもなんだか気味が悪く、なんとなく口を開く。
「今のところ何も起こらないね。不審者にも会ってないし」
本当のところそっちの心配の方が大きかった。
「そうね。不審者が出てきたら篝が守ってくれるでしょ?」
「えっ」
思わず声が漏れた。
「守ってくれるでしょ?」
凛子は笑った。
当たり前のように言うが一体僕にどんな期待をしているのか。嬉しい反面、もし本当に何かあったときに自分は何かできるだろうか。
色々な感情が頭を駆け巡って、僕は違う話題を捻り出した。
「……こういう噂話ってどこから出てくるんだろうね。誰が言い出したんだろう?」
片手で額の汗を拭う。昼間よりは涼しいが、それでもねっとりとした暑さが絡み付いてくる。そうだ、この汗は暑さのせいだ。
「凛子だったりして」
「本当に私だったらどうする?」
さっぱりとした答えだった。
あり得なくもない話だから困る。
「凛子は本当に何かあると思う?」
「どうだろう、篝は?」
「僕は何もないと思う。幽霊なんて見たことがないし」
「篝らしいね」
凛子は笑っていた。
じゃあもし、本当に何かいたとしたらどうする?
僕はその疑問をなんとなく飲み込んだ。
目的の木は目の前に迫っていた。




