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僕は幽霊が見える 第8話 見ていた



     *



 家に着いてもまだ陽は高かったが、僕は何をする気にもなれず自室のベッドの上でごろごろとゲームをして過ごした。

 その日、凛子から連絡が来ることはなかった。

 でもそれで良い。それで良いんだ。

 寝る前に習慣的にスマホを確認すると、東海林さんからメッセージが着ていることに気がついたが申し訳なく思いつつも通知だけを消して画面をオフにして眠りについた。



 翌日。

 僕は自室にこもり朝から晩まで上田と草野とゲームのオンラインプレイをしていた。ふたりが夏休みの間に買ったというソフトをダウンロードしたと伝えたら、ふたりとも喜んで応じてくれた。みんなに予定が無くて助かった。上田はまだ宿題を終えてないらしいが、まあ残りの日数でどうにかするだろう。

 一度だけ七星さんが扉の外から声をかけてきたが、僕は生返事で応じただけだった。



 翌日。

 今日もゲームをしようと約束していたが、上田の宿題の残りがあまりにも多かったことが親にバレたらしい。仕方がないので僕と草野でプレイしようかと思ったが上田に泣きつかれ、全員でファミレスに集まり上田の宿題に付き合うことになった。実際会って話を聞いてみると数学などほとんど丸々残っていて僕と草野はため息をついた。今まで何をしていたのか聞くと、先週までぎっちりアルバイトを入れていたらしい。人手が足りないらしいので、二学期以降僕もアルバイトをしようか検討している。

 家に帰ったのは夜だった。夕飯はそのままファミレスで済ませてきたのですぐに部屋に戻る。



 翌日。

 今日は残念ながらふたりとも予定があるため僕はまた暇になった。

「……で、お前はどうしてこんなところで私達と遊んでいるんだ?」

 七星さんが呆れた顔をしながら僕にうろんげな視線を送っているのを無視してペアになったトランプを場に置く。

「暇だからです。はい、上がり」

「ん? あっお前私の手札見ただろ!」

「見てません。七星さんは分かりやす過ぎるんですよ」

 僕はリビングで姉と七星さんとトランプをしていた。

「くっ……あーもう! やめだやめだ!」

「ふふふ、またナナちゃんの負けね。私もうちょっと部屋の片付けしてくるからナナちゃんは休んでて」

「はーい」

 一番先に上がっていた姉がリビングを出ていく。どうやら朝から自室の整理をしていたらしく、このトランプはその際に出てきたものだった。

 七星さんはまだ唇を尖らせながらトランプを片付けていたかと思うと、僕を見て言った。

「……あのな、私達は今日帰るんだぞ?」

「知ってますよ」

 視線を合わせずに答える。姉が淹れてくれたお茶はすっかり冷めきっていた。

「お前、大丈夫なのか」

「何がですか」

「こいつ絶対分かってるだろ……」

 七星さんがため息をついた。

「凛子のことだよ。本当にこのままでいいのか」

「別に、僕はただの幼馴染ですよ。そもそも僕たちは最近までほとんど話をすることもなくなってたんです。他のクラスメイトが来てくれてるわけですから寂しくもないでしょうし、あっちも僕に来られても困りますよ。僕は凛子の友達とあまり親しくないんです」

「すっとぼけやがって……そうやってまた逃げるのか」

「逃げますよ。悪いですか」

「あのなぁ……」

 七星さんはもう一度ため息をついた。

「……ん」

 七星さんのスマートフォンが鳴り話が中断される。

 あの後どうやら姉は凛子の見舞いに行っていたようだった。僕に何も言わないところを見ると大体の事情は察しているのだろう。

「……だから言わんこっちゃない」

 スマートフォンを手にした七星さんの表情が曇る。

「凛子が病室からいなくなったそうだ」

 僕は思わず顔を上げてしまう。

「まぁすぐに見つかって連れ戻されたらしいが」

 なんだ。良かった。そもそもそれはどこからの情報だ。片付けをし、立ち上がろうとした時だった。

「凛子の体調が悪化したことは分かっているか」

「えっ……」

 僕はもう一度動きを止めた。 

「お前、佳奈からの連絡無視してるだろ」

 また視線をずらす。あれからも東海林さんは僕に度々メッセージをくれていたことは分かっていたが、僕は彼女からの通知をオフにしてその全てを見ないようにしていた。

 でもこれで納得した。七星さんの情報源は東海林さんか。姉が見舞いに行ったときに七星さんも病室の前まで行ったと言っていたがその時にでも東海林さんと会って連絡先を交換でもしていたのだろう。

「まあそれはいいとして。問題はその内容だ」

 いいのか。メッセージを見ていない自分が言うのもなんだが東海林さんが少しかわいそうになってきた。

「お前この話をしようとするとすぐに逃げるからな。いい機会だ。ようやく捕まえたから教えてやる」

 一体何を教えようと言うんだ。でももいい。僕の結論は出ている。

「僕にはもう何の関係もないんです。もう何を言われても……」

「凛子は『あいつ』を見ている」

 話を遮り、七星さんがまっすぐに僕を見据えて言う。想定外の内容に僕は言葉を失った。

 少しの間リビングに沈黙が流れた。

「今……なんて……」

 そんな馬鹿な。凛子は全く何も見えないはずだ。これまでもそうだった。どれだけ近くにいようと何がいようと全く見えなかった。何も感じていなかった。どれだけ強い気配を放つものであっても全く波長が合わないといった感じだったのだ。だから、そんなこと、起きるわけがないんだ。

 けれど、僕はそれを一番恐れていた。

 凛子が自分とそっくりな『あれ』と出会うことを。

「もしかして、凛子の体調が悪化したことと何か関係が……?」

「それは分からない。私は医学的なことは何も分からないから、もし本当に病気のせいであるのならば詳しいことは私には分からない。だが、もし、そうではないとすると――可能性はある。少なくとも、私が昨日病室を覗いたときには『あいつ』はまだ凛子のそばにいた」

 そんな。まさか。

 遅かったのか。もっと凛子が深入りするよりも前に僕は離れるべきだったのか。そんなことをしてもしなくても、彼女はひとりであちら側に行こうとしてしまっていたのか。

 どちらにせよ、彼女はあちら側に行き過ぎたんだ。

「確か、霊の成る木と言っていたな? あの場所で『あいつ』に会い、そのまま気を失っていたらしい」

 頭が真っ白になった。

 呼吸をするのも忘れそうなくらい、何も考えられなかった。心臓の鼓動だけがやけに激しく動いていた。

 まだ七星さんが何か言っていたが、僕の頭にはほとんど入ってこなかった。

 僕はただ固まったまま、もう何も考えることができなかった。

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