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僕は幽霊が見える 第4話 心当たり

 凛子がいなくなった。



 僕がその話を聞いたのはその日の深夜前だった。

 僕が何事もなく一日を終えようとしていると、突然インターフォンが鳴った。もうすぐ深夜零時をまわろうとしている。こんな時間に訪ねてくる相手に心当たりなどない。

 昨日から温泉に泊まりに行っている姉たちが急に帰ってきたのか?

 不審に思いながらドアスコープから外をのぞくと、そこには凛子の母親が立っていた。僕は胸騒ぎがして慌ててドアを開ける。

 彼女の母親を一目見て何か良くないことが起きたことは分かった。


「篝君……凛子、凛子は来てない?」

「来てないです。今日は会っていません。どうしたんですか?」


 僕の言葉を聞いて凛子の母親はその場に崩れ落ちた。 

 騒ぎを聞き付けた僕の両親がやってきて、すぐに何かが起きたことを察し家の中へ招き入れる。部屋に行けと言われたが僕は断りリビングで一緒に彼女の母親の話を聞いた。

 凛子から最後の連絡があったのは夕方だった。友達と食事に行くと言って家を出たまま帰ってこないのだという。門限の夜九時を過ぎても何も連絡が無く、たまりかねて電話したが応答は無かった。バイト先にも行っておらず、彼女の父親は今警察に相談に行っているという。


「最近また篝君とよく遊んでいるみたいだから、もしかしたら何か知らないかと思って……」

「すみません。僕は何も……」

「そうよね、篝君の家にいるんだったらうちに連絡くらいしてくれるもんね……。ごめんね。何も知らないならいいの。篝君が謝ることじゃないわ」


 凛子の母親は話すうちに少し落ち着きを取り戻していた。僕の母親が羽目を外しすぎて連絡を忘れたまま友達の家に泊まっているのかもしれない、となだめる。彼女の両親は凛子の交友関係の連絡先は全く知らないようで、本人と僕以外に連絡の取りようが無いとのことだった。

 凛子は自分の病気のせいで両親にとても迷惑をかけたと思っている。母親の過保護を少し煩わしく思いながらもふたりをこれ以上心配させまいとしていた。だから彼女が無断で外泊をするなんて考えづらい。

 話を聞いてすぐに凛子に連絡を入れる。いつもならすぐに既読の印がつくはずが、今日はいくら待っても未読のままだった。

 凛子からの連絡を待ちながらひとりだけ心当たりのある人物にもメッセージを送る。


『今凛子と一緒にいたりする?』

『どうしたの? 今日は結局凛子とは会わなかったよ』


 東海林さんからはすぐに返事が来たが、その内容は僕の期待するものではなかった。


『何かあった?』


 続けてメッセージが入る。

 僕は一瞬悩んだが東海林さんなら、と凛子の母親に許可を取ってから本当のことを打ち明けた。


『分かった。誰か連絡来てないか聞いてみる!』

『ありがとう。こっちも何か分かったら連絡する』


 その場にいた全員に内容を報告する。けれど凛子に一番近い東海林さんが何も知らないとなると、あまり期待はできそうにない。だって凛子と仲の良いクラスメイトは今日みんな一緒にいたはずなのだから。他に考えられるのは部活の仲間だろうか。でもクラス内には凛子と同じ演劇部の人はいない。ましてや先輩たちなんて全然分からない。連絡先以前にメンバーすら知らないのだ。交友関係の広そうな東海林さんなら何か分かるだろうか。

 いてもたってもいられず、無言で立ち上がり凛子を探しに行こうとしたが両親に止められた。すでに警察に相談にも行っているしクラスメイトと連絡を取っていてほしい、と。

 少しして東海林さんからぽつぽつと連絡がきたが、情報を持っている人は誰もいなかった。東海林さんは謝っていたが彼女のせいではない。何の心当たりも無いのは僕も同じだ。何かあったら連絡してほしいと凛子の母親の電話番号を伝え、凛子の母親にも東海林さんの連絡先を伝えて僕の役割は終わった。

 ほどなくして凛子の母親は急な訪問の謝罪と礼をして帰っていった。凛子の母親を見送り、誰もいなくなった玄関を見つめる。

 何も分からないまま、何も出来ることがないまま時間だけが過ぎていく。

 僕には何の心当たりもーー。


「あっ……」


 思わず声が漏れた。

 心当たりならあるじゃないか。

 僕の異変を感じ取った母親が声をかけてくる。僕は恐る恐る、自分の考えを口にする。


「もしかしたら……森林公園かその奥の廃墟かもしれない」


 考えを口にした途端、それらの言葉は真実味を帯びてきた。誰も凛子の居場所を知らないということはひとりで出かけたのかもしれない。凛子がひとりで、しかもみんなに黙って行きそうな場所といえばオカルト関係の場所だ。最近行ったのはそのふたつ。あとは学校だが、さすがに学校にはもう連絡しているだろうから除外する。

 すぐに凛子の母親に電話する。彼女の母親はすぐに電話に出て、困惑しながらも僕の説明を聞いてくれた。電話を切る。それから間もなく車エンジン音が聞こえた。窓の外を彼女の母親の車が走っていった。

 僕にはこれ以上出せる情報は無い。直接探しに行けない以上、他に僕ができるとこは多方面からの連絡に備えることくらいだ。

 何もすることがないまま、ただただ恐ろしく長い夜を過ごす。窓の外から虫の声に混ざって時折車の走る音が聞こえる。少し遠くから聞こえてきた救急車の音に胸騒ぎを覚えながらもただ待つ他に無い。けれどこんな深夜に連絡は無いだろう。そうは思ってもどうしてもゆっくりとベッドに潜ることは出来なかった。

 結局、僕は一睡もせずに次の日の朝を迎えた。カーテンの隙間がほのかな明かりが差し込み、鳥の鳴き声が聞こえ始めーー次に気がついた時には、部屋には何も知らない太陽の光が燦々と降り注いでいた。

 はっとして身を起こす。いつの間にかベッドの上で倒れていた。慌てて階段を降りるとすぐに母親が声をかけてきた。

 母親の表情から事態が好転したことはすぐに分かった。僕は少しほっとして母親の話を聞き始め、すぐに体の芯が冷えていくのを感じた。

 凛子は無事に発見されていた。今は病院にいるらしい。そして今日からこのまま検査のためしばらく入院するという。母親は少し濁していたが、つまるところ少し状態が良くないということだ。



 そしてなにより、凛子が倒れていたのはーーあの『霊の成る木』のそばだった。

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