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僕は幽霊が見える 第3話 それだけの日



     *



 翌日。僕は駅前の古本屋に来ていた。

 姉と七星さんはふたりで温泉一泊旅行に出かけたようだが、それでもなんとなく居心地も悪いし、ようやく予定がなくとも外出する気になった僕も出かけることにした。

 凛子は今日は東海林さんたちと遊ぶと言っていた。佐野君たち男子も来るからと言って僕も誘われたが、さすがに辞退した。そのメンバーの中で僕が気軽に話せる人はあまりに少ない。

 それに東海林さんはまだしも佐野君と顔を合わせるのはなんとなく気まずい。

 特に目的もなくふらふらと店内を歩く。


「あっ」


 本棚の角を曲がったところで、向かいから声がした。


「あ」


 僕も思わず声を上げる。

 目の前にいたのはクラスメイトの木下明日香だった。私服のワンピース姿だったため、学校での姿とは少し雰囲気が違い僕は一拍遅れて彼女に気がついた。


「久しぶり。元気そうだね」


 木下さんは学校での肝試しの夜、あの化物に当てられて体調を崩していた。もちろん僕が木下さんの連絡先を知っているわけがないし、友達に彼女と親しい間柄の人もおらずその後のことは何も分からなくなっていた。あの化物は東海林さんに憑いていたわけだが、もしかしたら東海林さんと同じようにその後も何らかの異変に悩まされていたりするのではないかと少し心配していたがどうやらそれは杞憂に終わったようだ。普通に外出しているようだし、様子もおかしいところは何も無さそうだ。

 木下さんは僕の言っている意味をすぐに理解したらしく、少し困ったような顔をした。


「あの時はごめんね」

「いいよ、気にしないで。あの後大丈夫だったか少し 心配だったんだ。何も無かったのなら良かった」

「うん。家に着く頃には落ち着いたの。色々助けてくれて本当にありがとう」 


 木下さんが照れたように笑った。様子を見るに、本当に何もなかったのだろう。またひとつ懸念事項が減った。これであの化物に関する一連の事件は本当に解決した。


「木下さんはよくここに来るの?」

「学校帰りとかにたまに寄ってるよ。今日も部活帰りなの。火野君は……そういえば文芸部だっけ? よく本読んでるよね」

「そんなに詳しいわけじゃないけどね。時間もお金もとられないから入ってるだけだよ。ここも電子書籍より安かったりするからたまに来るんだ」

「そうなんだ。私も、美術の本って結構高いからたまに何かないか見に来てるの」

「そっか、確か美術部だったよね」


 木下さんが頷く。それから何か言いたげに少しそわそわし始めた。


「どうかした?」

「あの……火野君今日なにか買いたいものとか……あった?」


 僕は彼女の意図が汲めずぽかんとしていると、木下さんは慌てて口を開いた。


「あっご、ごめんなさい。困らせちゃったよね。何かお礼ができればと思ったんだけど……」


 なるほど。そういういことか。


「そんな、本当に気にしないで。たまたま近くにいたのが僕だっただけなんだから」

「でも……」


 そういえば最後に階段であの化物に出くわした時、彼女は校舎に入ってきていた。あそこで何かが起きたこと に気づいていたのかもしれない。出てきた僕たちの様子もいつもと違っていただろうし。

 お礼をすることで木下さんの気持ちがすっきりするのなら、と今日見たものを思い返すが本は新しく読みたいものは見つからなかったし、彼女の負担になるようなものは避けたい。

 だから結局僕は気の利いた答えを用意することが出来なかった。


「本当に大丈夫だよ。ありがとう」

「えっと、あっ……火野君、ポテト好き?」

「え?」

「あっそのっ! 急に変なこと言ってごめんね! あっあそこ!」


 頬を赤らめた木下さんが指差した先に目を向けると、向いのチェーンのファストフード店があった。高校から一番近いこのファストフード店は僕たち学生がよく利用する店だ。

 そこで僕はようやく彼女言いたいことを理解した。つまり、あそこの店のポテトを買ってくれるということか。


「でも男の子だとハンバーガーとかの方が好きかな……えっと……」

「ううん。好きだよ、ポテト」

「じゃ、じゃあ私買ってくるね!」


 木下さんは表情をぱっと明るくして店の外へと走って行った。僕も後を追うように外へ出る。本屋で食べ物の受け渡しはさすがにまずいだろう。

 外に出ると夏の太陽が容赦なく照りつけ、僕は目を細めた。


「あ! 火野君!」


 また名前を呼ばれた。この声は。僕は気まずさが顔に出ないように注意しながら声のした方向に顔を向ける。そこには予想通り東海林佳奈とクラスの中心メンバーが立っていた。僕が誘いを断ったことは知らなければいいが。


「……東海林さん」


 久しぶり、なわけではないし、なんと返事しようか。

 そこまで考えて、僕は最初に見たときから感じていた違和感の正体に気がつく。


「この間はありがとう! 本当に助かったよ!」


 東海林さんが嬉しそうに僕に話しかけてくる。まさかクラスメイトにこの間の話をしたのか。みんなどこまで知っているのだろうか。

 いや、そんなことは今はどうでもよくて。


「……東海林さん、凛子は?」

「あれ? 一緒じゃなかったんだ?」


 どういうことだ。


「凛子、なんか急に用事ができたから今日はキャンセルするって言ってたよ。てっきり火野君関係の用事かと思ってたんだけど」

「そうなんだ。いや、僕は何も聞いてない」


 凛子にも用事くらいあるだろう。部活もあるし、アルバイトもしているようだからむしろ僕よりもずっと忙しいはずだ。何もおかしいことはない。


「そっか? うーん、違ったか。私はてっきり……」

「佳奈ー! 置いてくよー! 予約の時間過ぎちゃうって!」


 僕の様子に気を遣って少し先に進んでいたクラスメイトが東海林さんに声をかける。


「今行くー! それじゃ、またね!」


 東海林さんが慌ただしくみんなの後を追う。凛子の言う通りもうなんの心配もいらなそうだ。

 僕がみんなにお礼を言われるほど何か出来たかどうかは分からないが、とにかく全て解決して夏休みが終われそうなことに僕は安堵していた。

 木下さんが戻り、ポテトを受け取る。少しだけ会話をして別れる。僕は適当に何件かの店をまわって、結局何も買わずに家に帰った。


 少し外出をして、クラスメイトに会った。

 それだけの日。

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