幕間
ーー予感はしていた。
いつかこうなるんじゃないかって。
見て見ぬふりをしていた。
気づかないふりをしていた。
そうすれば無かったことにできるんじゃないかって。
そうすればーーずっと一緒にいられるんじゃないかって。
ああ。
今年もまた、夏休みが終わってしまう。
*
急いで会計を済ませ、逃げるように店を出る。
問題は解決した。
だからもう、なんの問題もない。
なんの問題も、ない。
「ーー凛子、どうしたの?」
自分にかけられた声にはっとして顔を上げる。色々 考えすぎていつの間にか自分の世界に閉じ籠ってしまっていた。
「ごめん。大丈夫だよ。それより本当にもうなんともないの?」
隣を歩く佳奈はすっかりいつもの表情に戻っていて、むしろいつもより元気そうで、本当はそんな質問は聞くまでもなかった。
「うん! もう大丈夫! これでまた少しして何か起きたりしなければいいけど、今度は大丈夫そうだしね!」
「もし何かあったら今度はちゃんと最初に相談してよ
?」
「あはは、ごめんって! 今度ちゃんと火野君にもお礼とお詫びしなくちゃね。凛子にもたくさん迷惑かけちゃった」
「そんな、迷惑とかそういうのより佳奈が元気になったことが嬉しいよ。篝もきっとあんまり気にしてないと思うし」
「火野君、いい人だね。優しいし」
「……うん」
そうだよ。篝は優しい。分かっている。篝はみんなに、優しい。
「でも、びっくりした」
「えっと、どれのこと?」
びっくりすることなんて、たくさんありすぎてどれに対する言葉なのか分からなかった。本当に今日は色んなことがありすぎて、訳がわからなくなりそう。
「まさか七星さんが変わりに引き受けてくれてたなんて思わなかったなって」
「……そうだね。そんなことが出来る人がいるんだね」
結局私は今回もなんの役にも立てなかった。全部篝と七星さんのおかげだ。
そう。ふたりのおかげ。感謝しないと。しないと、いけないのに。
「でも……」
佳奈が言いにくそうに口ごもる。
もやもやしていた頭がはっとして動き出す。問題が解決して嬉しいだろうに、私が沈んでいるのを感じて気を遣わせてしまったかもしれない。
「どうかした? 何か気になることとかあるの?」
「ごめん、なんでもない!」
「本当になんでもないなら別にいいけど、何あるなら言ってよ?」
「ごめん、違うの。その……火野君と七星さんの話。凛子、大丈夫?」
「大丈夫って? あー……ふたりだけであんな面白い話するなんてずるいよね! いいなぁ、あそこに幽霊いたんだよね。篝もやっぱり本当は見えてるなら教えてくれればいいのに! 私にはなんにも教えてくれないんだもん!」
「……凛子」
「どうしたの? あ! ねぇねぇ、シュークリーム食べて帰らない? 私あの店のクーポン持ってるんだ!」
空元気はすぐに見抜かれ、佳奈は横断歩道の前で立ち止まる。指を指すために伸ばした手を下ろし、振り返る。
大丈夫。大丈夫だよ。ほら、私はちゃんと笑えているから。
「火野君は多分、凛子が思うよりも凛子のこと大切に思ってるんだと思う。だから何も言わないんだよ」
「……」
「本当は言わないでほしいって言われてたんだけど、火野君、凛子のこと巻き込みたくなかったんだよ。もし凛子にまで何かあってほしくないから。凛子が幽霊を見たい理由も知ってるけど……でもそれが全部じゃないし、凛子は凛子のままでいいと思うの!」
「ーー佳奈、ありがとう」
そうかもしれない。篝は、みんなに優しいから。
でもね。でも、私はーー。




