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同じ空の下、僕らは違う世界を歩いていく 第5話 嫌な予感

 結論から言うと、僕の目論見は半分当たり、半分外れた。




 ゆっくりと部屋の中央まで進んでいく。化物は最初からずっとそこにいた。近づくにつれ足元が歪む感覚がする。もちろん実際には何も起こっていない。目眩だ。東海林さんほど影響がないとは言ってもあまり近づきたい存在ではない。その相手に自分から近づいていく。

 あの肝試しの夜、何が起こったのか。理由は分からないが僕が近づくと化物はどこかへ消えた。

 そうであるならばもう一度試してみるしかない。

 もしくは、僕に憑いてくるかもしれない。

 この部屋でこんな話をしていたのだ。僕があっちの存在に気がついていることはすでに分かられているだろう。こういう存在に出会ったときには無視するに限る。


 だが、もし憑かせたいのだとしたら。


 今までそんなことを考えたことはなかった。こんなこと、好き好んでしたいわけがない。本当は今でもしたくはない。自分からこんなことをするなんてどうかしていると今でも思う。


 消えるか、憑くか。

 どちらかの可能性に賭けて、僕は化物と対峙する。

 触れそうな位置まできて立ち止まる。僕は震えを押さえつけて手を伸ばした。

 瞬間、体が軽くなった。

 消えた。

 集中してあたりの気配を探る。いない。確かにいない。僕自身の体にも特に変化はない。

 僕は伸ばしかけた手を見つめ、それから振り向いた。


「どう?」

「……なんか、すごく……楽になった」


 僕は頷いた。どういうわけかは分からないが、とりあえず大丈夫だろう。


「火野君、これって……あの肝試しの時と同じ……?」

「正直僕にもよく分からないんだ。だけどこの部屋にいた化物はいなくなったーー今のところは」


 そう。今のところは、なのだ。果たしてどの程度効果があるものなのかは未知数だ。なにせこうなる理由が分からない。


「いなくなったってことは……やっぱり、何か見えてたの?」


 東海林さんがおそるおそる僕に聞いた。


「そうだよ」


 僕は素直に答えた。


「僕にはやっぱり声は聞こえなかった。けれど、姿が見える」


 東海林さんの言っている声と僕に見えている姿が同じ存在のものだとしたら、だけど。


「もしかしてあの時も見えてたの?」


 僕は頷いた。

 そして一番大事な話を切り出す。


「ただ、凛子には言わないでほしい」

「どうして?」

「凛子はこういうことに関わらせたくない。凛子は昔、こういうことに関わって体調を悪くしたことがあるんだ。それに本人はそのことを知らない。そもそも原因が本当にオカルト関係なのかも分からない……けど、僕はそうじゃないかと思っている」


 ここで嘘を言っても仕方がない。当たり障りの無い程度に本当のことを言おう。


「それであの時黙っていたの?」

「そういうこと。だからもうひとつお願いがある」

「何?」

「もしまた何かあったら、僕に直接教えてほしい。凛子には何も言わないでもらいたい」

「えっ」


 当然の反応だろう。だけどここは譲れない。実際にさっきまで体調が悪くなっていた今なら説得できるはずだ。


「何も嘘をついてほしいわけじゃない。黙っていてほしいだけなんだ。こんなことを東海林さんにまで頼むのは僕も気が引けるし、僕に直接は相談しにくいかもしれないけれど……」

「わ、分かった……。それが凛子のためになるんだよね?」


 東海林さんは戸惑いながらも了承してくれた。こうして僕たちは連絡先を交換し、凛子の待つカフェへと戻ることにした。


「そういえば、もうひとつだけ聞きたいんだけど」

「うん」

「もしかして、『神様のおまじない』ってやつ、ここでしたことある?」

「えっ!?」

「ごめん、そのおまじないの話は凛子から聞いたんだ。例の声、屋上の前で聞こえてたって言ってたよね? 神様のおまじないもそこでやってたって聞いたから」

「……火野君の言う通りだよ。一回だけだけど……」

「関係があるかどうかは分からないけど、念のためもうしないでおいて。あ、そうだ! ごめんね、ゴミ箱に勝手に色々入れて。色々思い出さないように早めにゴミに出しておいてね」

「あっうん。分かった」


 部屋を出る前にもう一度部屋を見渡す。まるで何事も無かったかのように静かで穏やかだった。今やれることはやった。少しは役に立てたのかもしれない。

 それでも、心のどこかにざわめきを感じる。

 あの時も一度は消えた。そしてまた現れた。これで終わりになればいいのだけれど。

 不安を無理矢理消し去るように僕は扉を閉めた。


 待ちくたびれた凛子は色々と文句を言ったりあれこれ質問攻めにしてきたが、僕が東海林さんの部屋を片付けをてなんか知らないうちに具合が良くなったのでとりあえず解散と伝えたらそれ以上深く突っ込むことはしなかった。

 何かあったことを察してはいただろうが、根掘り葉掘り聞くのは東海林さんに色々と思い出させてしまうと思ったのだろう。

 二人はまだ残ると言うので僕だけが先に席を立った。風を切り自転車を漕いで家へと向かう。


 解決したはずだ。

 けれど、体の内に巣くう嫌な予感はどうしても消えなかった。




 そして三日後の朝、僕はやっぱり自分の無能を突きつけられることになる。

 東海林さんから連絡があったのだ。


 『また、聞こえる』と。

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