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同じ空の下、僕らは違う世界を歩いていく 第3話 できること


「……どう思う?」


 一通り話し終えてから東海林さんが一度席をはずした。その隙に凛子が僕に小声で話しかけてきた。

 凛子は困惑の色を隠せなかった。それもそうだろう。僕だってそうだ。その上凛子はあの肝試しで何があったのかも知らない。


「どう……って言われても」

「どうにかできそう? この前みたいに」


 僕はなんと答えるか悩んだ。東海林さんはこの間のことがあったから僕を頼ってきてくれたのだろう。しかしあれはどうにかやり過ごそうとした結果想定以上の成果を得られただけで、元々僕にそんな力や知恵があったりしたわけではない。


「どうだろ。どうにかしてあげたいけど……」


 僕が今得られている情報は、肝試しの夜家に帰ったらまた声が聞こえたということ。それから毎日聞こえるということ。声の影響か心因的なものか分からないけれど体調も優れずずっと寝込んでいたということ。

 そして相手があの化物であるのならば、僕の手に負える相手ではないということだ。

 情報を頭の中でもう一巡してから僕は凛子に結論を伝える。


「僕にどうにかできるようなものじゃないと思う。少しハードル高いかもしらないけどちゃんと神社とかでお払いとかしてもらった方がいいよ」

「……やっぱりそうだよね」


 凛子の表情が曇る。


「お払いはまだだけど、神社にお参りには行ったんだ 

。近くの神社に、今朝」

「……それでこの状況っていうことは」


 凛子が頷く。


「だめだったの。何も変わらなかったみたい」


 それならなおさら僕にできることなど何かあるのだろうか。


「ごめんね、また迷惑かけて」

「いや、そんな。迷惑だなんて思ってないよ。でも……」


 僕の表情が曇ったのを見て凛子がふと表情を和らげた。


「大丈夫。なんとかしてほしいなんて言わないから」


 凛子が東海林さんが消えた先にちらりと視線を向けた。


「ただ、佳奈かなり参ってるみたいなの。実は昨日電話した時も泣いてて……会って話しても私じゃ何も分かってあげられなくて」


 握り合わせた両手に力がこもる。


「だから、話だけでも聞いてあげてほしいの。ちゃんと分かってくれる人に聞いてもらえれば少し安心すると思うんだ。もしかしたら、あの時のことで何か不安なことが残ってるだけなのかもしれないし。私には何があったのかはわからないけれど……」

「分かった。確かにちょっと心配な様子ではあるしね」

「ありがとう……私、ちょっと見てくるね」


 凛子が頷く。東海林さんはまだ戻ってこない。凛子の言う通り思い詰めた表情を見るに体そのものというよりも精神的な影響が心配だ。

 僕はまだあの化物を見ていない。取り憑かれたという妄想に取り憑かれているという可能性は捨てきれない。

 しばらくして凛子が東海林さんを支えながら戻ってきた。


「ごめんね。無理言って来てもらったのにこんなんで」


 席に着いた東海林さんが笑って見せるが、無理をしているのは東海林さんの方だということは明らかだった。


「いや、大丈夫だよ。気にしないで。それより東海林さんこそ無理しないでね」

「ありがとう」

「さっき凛子からも少し話は聞いた。それでいくつか聞きたいんだけど肝試しの日、階段で声が聞こえて具合が悪くなったこと以外に何か変わったことはあった?」

「……特に何も」

「ちなみにどんな声が聞こえる? なんて言ってるか分かる?」

「えっ」


 東海林さんがうつ向いていた顔をぱっと上げて目を丸くして僕の方を見た。


「火野君も聞こえてたんじゃないの?」

「いや、僕は何も聞こえてない」


 これは嘘じゃない。事実だ。


「え? それじゃあなんであの時……?」


 ということはあの化物の姿は見ていないということか。だとしたらもし近くにいたとしても静かに立っているだけだったら気がつかない可能性もある。

 あの化物はずっと屋上前の扉の近くにいた。東海林さんはそこに何度か行っているはずだ。その時に気づかず何かをしてしまったのだろうか。

 僕はこれ以上この件に関して突っ込まれる前に話題を 変えた。


「……神社にはもう行ったんだよね。その時は声は聞こえてた?」

「ううん。聞こえなかった」

「神社に着いたときから? 移動中はどうだった?」

「えっと……気持ち悪くてよく覚えてないんだけど、電車に乗ってる時は聞こえてなかった……かも」

「そっか」


 ということは、もしかして。

 僕は東海林さのん話に頷いた。


「東海林さん。少し頼みにくいんだけどひとつお願いがある」

「何?」

「家に行ってもいいかな?」


 もしかしたら、少しは役に立てるかもしれない。

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