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同じ空の下、僕らは違う世界を歩いていく 第1話 お願い

 何も変わらないいつもの夏休みの一日になるはずだった。


 自室のベッドの上に転がりスマートフォンでソーシャルゲームをプレイしていた。新しくリリースされたゲームは丁度良い暇潰し、どころか時間食いになっていた。しかしそれでも別に問題はない。相変わらず今日も予定がないからだ。

 夏休み終了まであと二週間。他人から見たら特に充実していない、けれど僕としてはこれはこれで悪くない夏休みを過ごしていた。まあさすがに来年は何かしら予定を立てようとは思うけれど。



 肝試しから三日が経った。凛子からの連絡は無い。

 あの日、校庭に戻ってから凛子と話す機会はなくなんとなくそのままになっていた。結局校舎を探索できなかったことについてはきちんと謝れていない。そもそもそういう約束をしていたわけではないし、後々蒸し返すのもかえって良くない気がするし、それに何よりあの日の校舎での出来事についてどう思っているのかを聞くのが怖くて自分からは連絡できずにいた。


 校舎で僕がとった行動は明らかに不自然だったし言い訳すればするほど墓穴を掘りそうだ。するべき弁解は あの時したしもう僕からは何も言わない方が良さそうだ。

 だけどあれは仕方がなかった。時間もない中であの方法以外あの時は何も浮かばなかったのだから。それになにより東海林さんが無事だったのだからこれで良かったのだ。

 良かったのだ。が。


「絶対変な奴だと思われた……」


 いや、変な奴ならまだ良い。気味の悪い奴だと思われていなければいいけれど。

 凛子だけならともかく東海林さんと佐山君は僕に対してなんの予備知識もない。まさか普段から急にあんなことを言い出したりする奴なのかと思われていないことを祈るしかない。

 あのときのことをにわかに思い出してスマートフォンをベッドに放り出して腕に顔を埋める。二学期初日が既に憂鬱だった。せっかく凛子以外知り合いのいない高校に進学してそういうイメージがゼロの状態でスタートしたというのに。


 僕はため息をついた。

 実際のところはみんな僕のことなど別になんとも思っていないだろうし、話題に名前が出ることもないだろうし、そもそも二学期が始まる頃には僕のことなど記憶から忘れ去られてすらいそうだけれど。

 だから僕はなんでも無かったという風に堂々と登校すればいいだけのはずだ。気にしているのは僕だけなのだから。

 でもその僕が気にしているというのが問題なわけであって。

 僕はもう一度ため息をついた。やっぱり二学期が憂鬱だった。

 ふいにベッドの上に微かな振動を感じた。スマートフォンを手に取る。そこには珍しい名前があった。


「……忘れてた」


 火野日奈子。僕の姉だ。姉弟仲は良い方だと思うが頻繁に連絡を取ることはない。そういえば大学が夏休みに入り帰省すると言っていた。どうやらその予定が前倒しになり、三日後には帰ってくるという。

 姉が帰ってくれば少しは気も紛れて僕もそのうちあのときの出来事を思い出してのたうち回る頻度が少なくなることだろう。


 もう一度スマートフォンが震えた。また姉から何かーー『メッセージを受信しました:凛子』。

 思わず上体を起こす。見たいような見たくないような。思いがけない名前に思わず緊張が走る。一度画面を伏せ、息を吐く。それから誰も見ていないにもかかわらず何気ない風を装ってメッセージ画面を開く。

 その文章を見て僕は思わず手を止めた。


『お願いがあります』


ーーお願い。

 凛子からのメッセージはそれだけだった。一体どのレベルのお願いなんだ。内容については何も書いていない。

 嫌な予感がする。

 なんて返事をするべきか。とりあえず内容がわからない以上なんとも言えない。

 どういうお願い? と打ったところで、送信ボタンを 押すより先にメッセージを受信した。


『私だけじゃ何もできない』


 僕は内容を聞くより先に部屋を飛び出していた。

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