肝試しと花火と噛み合わない僕たち 第6話 多分僕が一番よく知っている
「火野ー火くれー」
「はい」
花火の火花を上田の手持ち花火の導火線に近づける。
「なぁなぁ、明日花ちゃんと何の話したんだよ?」
「うるさいな、さっきから。別にそんな大した話してないって。僕も木下さんもそんなに話すの得意じゃないし」
「なんだよ教えてくれよー!」
「だから教えてるって……」
「でも具合悪くなった明日花ちゃんを助けたんだろ? うわぁ、俺も女子とペアになりたかったー!」
「別になんにもないし木下さんは大変だったんだからそういうこと言うのどうかと思うけど」
「はぁーいいよなぁ、あんな可愛い子に頼られてさぁー」
「……僕の話聞いてた?」
「上田はいつも人の話聞いてない」
花火の補充に行っていた草野が戻ってきた。僕は草野から新しい花火を受け取りつつ燃え尽きた花火を手近なバケツに入れた。
校庭の片隅であちこちに光の花が咲いていた。肝試しの効果なのか夜の集まりにテンションが上がっているのか、普段は見られない組み合わせで集まっているクラスメイトも結構いるようだ。
そんななか僕はいつものメンバーでいつもの特に内容のない会話をしていた。凛子とは校舎から出たときに少しだけ話したきり、話す機会どころか近くで会うこともなかった。凛子は凛子で花火の準備やらなにやらのためにいつも一緒にいるメンバーと集まっていた。
だから僕たちが話す機会なんて無くて当然だった。
スマートフォンを開く。何の連絡も来ていない。それもそうかもしれない。それが自然だ。話す相手がいないわけでもないし、むしろ僕よりもずっと友達は多いし、何より肝試しはもう終わったのだ。凛子が僕に連絡をよこすほどの用事はないのだろう。
ただ、何か引っ掛かる。
おそらく凛子は木下さんの体調不良が何からくるものなのかは勘づいていたはず。もしかしたらその前に僕が聞いたような噂話も何か聞いている可能性もある。凛子がそれらを無視するだろうか。
だが本人も仕方ないと言っていたし、クラスメイトがいる状況だから深入りするつもりもないのかもしれないし、そもそも他に遊ぶ相手はいくらでもいるのにわざわざ僕に構っている暇などないのかもしれない。
けれど、あまりにあっさりしすぎてはいないか。
新しくつけた手持ち花火の火は、すぐに地面に落ちて消えてしまった。
すっと手元が暗くなる。僕はしばらく燃え尽きた花火の先を見つめていた。心の中の靄が暗闇に広がっていく。
とにかくもう一度凛子と話そう。お礼も謝罪も一言だけで終わってしまっている。僕は立ち上がり花火を捨てに行きがてら凛子の姿を探した。凛子は目立つからすぐに見つかるはずーー。
あたりを見回してすぐに異変に気づく。
いない。
どこにもいない。
「ごめん、ちょっと行ってくる」
足早にクラスの輪の中に入っていく。さっきまで朝礼台のまわりにいたはずだ。今も朝礼台には新しい花火が並べられ、実行委員たちはそのまわりに集まっていた。けれど近づいて気づく。僕は凛子の友達の中に仲の良い人がいない。話を聞けそうなのは、そうだ佐山君はーー。
いない。
心臓がひとつ、大きく鼓動を打った。
これは、もしかすると。
そうか。そういうことか。
足を止める。細く息を吐いた。
そうだよな。こういうイベントだったらそういうことも十分ありえるし、彼女は男子とも仲が良いし、そこそこ人気があることも分かってはいた。いくら僕がこういう話題に縁がなくともさすがに予想できる。
もしかしたら実行委員の仕事でいないだけかもしれない。もしかしたらトイレかもしれない。そうであればそれはそれで問題ない。
戻ろう。もはや僕が出る幕ではない。もし何かあったとしても佐山君がいればなんとかしてくれるだろう。
振り返り誰にも声をかけずに歩き出す。
「ジュースもらってない奴は来いよー」
担任の声が聞こえた。そういえばまだもらいに行っていない。急にいなくなった口実ができてよかった。
足を止めてポケットの中にしまったままになってる紙を取り出そうとして、
「うわっ」
ひとりなのに声を出してしまった。まわりを見たがみんな自分のことに夢中で誰も僕に注目している人などいなかった。ほっとしつつ手元に視線を移す。手に変な感触があった。よくみると紙にはスライムが付着している。
これは。
凛子の仕業だ。
暗がりの教室で紙を手に取った人を驚かすための仕掛けだろう。全員分作ったのか、僕の分だけ細工してあったのだろうか。
『絶対に来てよ! 来なかったら許さない』
凛子はこのイベントをとても楽しみにしていた。それは多分僕が一番よく知っている。
凛子はいない。佐山君もいない。おそらくふたりでどこかへ消えた。
けれどもし凛子がひとりで校舎に戻ってしまったのだとしたら。もし校舎に何かいるのだとしたら。もしそれが『あれ』だとしたら。
もし、何かあったら佐山君がなんとかしてくれる?
本当に?
もしふたりを見つけたとして僕が行けば邪魔をしてしまうかもしれない。その可能性は大いにある。だけど何の問題もなさそうならそのまま気づかれないように引き返せば良い。
気がつくと僕の足は再び動き始めていた。




