肝試しと花火と噛み合わない僕たち 第3話 こんな機会そうそうないのに
あたりはようやく日が落ちてきて、薄赤く染まる空に校庭の明かりが灯り始める。部活動をしていた生徒も帰っていき、僕たちのクラスだけが残っていた。人のいない校庭の隅は大いに賑わっていた。
肝試しは順調に進んでいる。コースは一年生の使うA棟を一階から順に進み、三階の教室の自分の席に置いてある紙を持って帰ってくるというもの。ペア決めの数字順でスタートしていき二分後に次の組がスタートする。
『こんな機会そうそうないのに……』
僕のスマートフォンは相変わらず震え続けている。
『そうだね。前に夜に来たいって言ってたもんね。希望が叶って良かったよ。誰が企画したんだろうね』
『去年、先輩達もしたらしいよ?』
それであっさり企画が通ったのか。
『ねぇ、中で合流しようよ!』
『いや、だめでしょ。佐山君はどうしたの? そろそろ返事やめるよ』
『大丈夫! 結構みんな中で合流してるし、そもそも親睦イベントだし!』
『ねー! 返事返事!』
『ちょっとー!』
『教室前で待ってるから!』
『かがりー』
『ねー』
そこまで読んで僕はそっとスマートフォンをしまった。凛子がスタートしてそれなりに時間が経っているが彼女と佐山君ーー凛子のペアになったサッカー部で唯一一年生でレギュラーに入った明るくて僕のようなクラスメイトにも挨拶してくれる良い人だ。凛子が佐山君そっちのけで僕なんかにこんなメッセージを送りまくっていると知ったらファンの女子に僕まで殺されかねないーーはまだ帰ってきていない。一体どこでどうしているというのだ。まさかメッセージ通りにずっと中で待っているつもりではありませんように。
「……東島さん?」
隣にいた木下さんが上目使いに声をかけてくる。小柄な彼女はそれほど背の高くない僕相手でも結構見上げるような形になる。
「えっ? ああ、うん。なんか合流しようって言ってる。早く戻ってくればいいのにね」
苦笑いで答える。彼女の仲の良い友達はすでに中に入ってしまったらしく僕のところに戻ってきていた。半分以上のペアが中に入り残りは僕たちを含む五組だけだ。校舎から戻ってきたクラスメイトは担任からの差し入れのジュースを飲んで談笑している。
「帰れなくなってるの? 大丈夫かな」
そうだ、木下さんには凛子が怖がりだと誤解されているのだった。
「大丈夫大丈夫、佐山君もいるし。僕なんかよりよっぽど頼りになるって」
「でも……東島さん、私と番号交換してほしいって言ってた。あんまり話したことないのに。火野君と仲良いんじゃないの?」
「ただの幼馴染みだよ。小学校から一緒なんだ。だから……色々隠さなくていいから楽だと思ったんじゃないかな」
嘘ではない。木下さんの思っている方向性と少し違うだけだ。
「そうなんだ。二人が話してるところ見たことなかったから、ちょっと意外」
「ははは……だろうね」
きっとクラスの誰も知らないだろう。木下さんが見たことがないのも当たり前だ。僕と凛子は教室内で話をしたことはほとんどない。
中に入っていくクラスメイトと入れ違いに、わいわいと盛り上がりながら出てくる人も多くなった。僕たちの番が目前に迫っていた。
すれ違い様にとある会話が僕の耳に入った。
「なぁ、お前もあの声聞こえたよな!?」
「さっきもそれ言ってたけど変な声なんて聞こえなかったって。普通に誰かの話し声と聞き間違えたんだろ?」
「いや絶対聞こえたって!」
「いいからジュースもらいに行こうぜー」
ーー声。
怖がり過ぎて幻聴が聞こえたのか。実行委員の演出だろうか。だけど実行委員には凛子が入っているはずだ。イベントとして盛り上げたいだけならまだしも、オカルトにそれなりにこだわりのある凛子がそんな安易な演出を許すだろうか。
夏休みに入ったばかりの日を思い出す。まさか……もしそうなのだとしたら大丈夫なのか、凛子は今どこにーー。
「……火野君」
制服のシャツが引っ張られていることに気がついた。見ると木下さんが不思議そうな顔で見上げていた。
「あっごめん。なに?」
「前、もうすぐ時間」
「ありがとう。気づかなかった」
笑ってごまかしたが、木下さんはまだ不思議そうに見つめていた。
「次16番ー! 入っていいよー!」
案内役の実行委員に声をかけられる。
「行こうか」
木下さんが頷き、僕たちは校舎へと入っていった。




