ゲーム 第5話 何より暇だったのだ
ーーそこでふと思い出す。
今この家には僕たち二人だけだ。
こどもの頃の残像に惑わされて全然意識していなかったが。薄暗い部屋。僕たちの距離。よく考えれば健全な青少年としてはまずい状況じゃないだろうかーー?
気づくと同時に光の速さで電気のスイッチを入れ、間髪いれずに振り向き凛子の肩を両手で引き離し距離を取る。
「わっ」
突然ついた明かりと僕の動きに凛子が悲鳴をあげる。
「な、なに?」
「ごめん、その……そうだ、そろそろ片付けしようか!」
顔を捻り無理矢理な角度でテレビ画面の方を見ながら言う。それからまだ凛子を掴んだままだったことを思い出してぱっと手を離して元いた場所にそそくさと戻っていった。
「……ふぅん?」
「……なに?」
見なくても分かる。凛子がにやついている。
「別に? じゃあ今日はもうおしまいにしよっか! ゲームは置いていっていい? どうせまた明日来るから」
「……いいよ」
凛子がもういつも通りに振る舞えているのが悔しい。けれどあまり口を開くと墓穴を掘りそうなので余計なことは言わないことにした。またからかわれるに決まっている。
「ねぇ、篝」
「ん」
凛子が自分のキャリーケースを閉めながら言う。余計なことを言いたくない僕はそっけなく返事をした。
「ありがとう。あのときも、今も」
「……うん」
片付けの手を止める。なんて返せばいいか分からなくて僕はまた素っ気なく返事をするしかなかった。
凛子のこういうあまりに素直なところが、僕は少しだけ苦手だった。だってあの時僕は逃げただけだというのに。見舞いにすら行かず、そのまま目を背けて逃げ出しただけなのに。どうして感謝なんかできる?
「よーし! 準備完了っ! じゃあ篝、約束忘れないでよー?」
「わかったよ、また明日ね」
「うん! ……それと、さっき言った方も!」
僕がぼけっと立っていると、凛子は少しだけ声を荒げた。
「もぉー! 何かあったら必ず駆けつけてくれるんでしょ? 本当に忘れないでよ?」
あっと思ったときには既に遅く、凛子は怒ったような言い方をしてすぐに顔を背けてしまった。
「わ、わかってるよ」
僕は慌てて返事をした。なんだかすごい約束をしてしまったのかもしれない。凛子のことだ。事前にこういう約束をするというのとは、また何か首を突っ込みたいということの裏返しな気がする。
だけど自分でも驚くことに、少しだけそれもいいかな、と思っていた。
この時の僕はあまりに暑くて判断能力が下がっていてーー何より暇だったのだ。




