ゲーム 第4話 私にまた何かあったら
夕方を知らせる町内放送のメロディーが聞こえて、僕の意識はようやく現実に帰ってきた。
その間も口と手は動いていたのは確かだが、何をしていたのか、何を話していたのかはおぼろげだ。
日当たりのあまりよくない僕の部屋は真夏だというのにすでに薄暗くなっていた。少し自分の考えに集中しすぎていた。
部屋の中がやけに静かだ。はっとして隣を見る。
「凛子!」
電気も付け忘れた薄明かりの部屋の中、僕の横で凛子が倒れていた。僕はコントローラーを放り投げ慌てて彼女の肩を揺する。
いつからだ、どうして気がつかなかったーー。
「ひゃっ」
高い悲鳴が聞こえた。
僕は慌てて彼女の肩から手を離す。
「ん……あっごめん、終わっちゃった?」
目を擦りながら凛子がゆっくりと上体を起こす。僕は ほっと胸を撫で下ろした。良かった、眠っていただけだ。
照れ隠しのように笑った凛子の表情がすぐに曇る。
「どうしたの?」
「……どうもしてないよ」
「ごめんね、怒ってる? 私が誘ったのに……」
「怒ってなんかないよ。寝てるの気がつかなくて少し驚いただけ」
声色を落ち着かせ、僕は凛子から顔を背けた。表情を取り繕ったつもりだけれど自分がどんな顔をしているのか自信がなかった。
過去の記憶とリンクして焦りすぎた。心臓の鼓動が速くなっている。
ゲームはいつの間にかタイトル画面へ戻っていた。確かどこかでバッドエンドを引いてしまい戻されたはずだ。『神隠しの館』。僕たちがあの日二人でしたゲーム。偶然ではない。凛子は安かったから買っただけだと言っていたが、おそらくわざわざ探し回ったのだろう。疲れて眠ってしまうほどに。あのときのゲームソフトはまだ僕の部屋に置いたままになっていたはずだから。
「ごめん、またエンディング見せられなかったね」
電気を付けないと。立ち上がり足早に部屋の電気のスイッチを押そうとして、手を止めた。
「……怒ってなんかないよ。怒ってるわけがない」
「篝……?」
「……無事で良かった」
普通の声を出したつもりだった。けれど、僕の口から出た声は消え入りそうだった。
笑って振り向くつもりが、うまく顔をつくれなかった。あまりに不器用な表情筋を呪いたくなる。電気をつける勇気も出ない。どんな顔をして振り向けば良い?
結局僕は壁の方を向いたままうなだれるしかなかった。あまりの情けなさに消えたくなる。僕は結局小学生の頃から何一つ成長なんてしていない。何もできなかったあの頃と。
僕にだけは『あれ』が見えていたのに。
拳を握る。もし本当にまた『あれ』が現れたらーー。
ふと、すぐ後ろに凛子の気配を感じる。
「もし、もしさ。私にまた何かあったらさ」
静かな、落ち着いた声だった。
「また篝がすぐに駆けつけてくれる?」
僕は喉から声を絞り出す。
「当たり前だよ」
「じゃあ明日また来ても良い? もう一回、やり直そ。今度は私にプレイさせてよ」
明るい声だった。思い返せばいつもそうだった。助けてもらっていたのは僕の方だ。
「……いいけど、また同じゲームでいいの?」
「いいの! そうじゃないと意味ないの!」
きゅっと背中の服を掴まれる。温かい。
「そうしたらきっと、もう一度あの日からやり直せる気がするんだ」
凛子の手に少しだけ力がこもる。
こんな時なんて声をかければいいのか。咄嗟には何の言葉も出てこない。小さく息を吸って、けれどそのまま何の言葉も吐き出せずにいた。




