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ゲーム 第3話 あのとき

 あまりに暑い夏の日。


 外に遊びに行く気力もなかった僕は、買ったばかりだというゲームを持って押しかけてきた凛子を快く自宅に招き入れていた。

 その日は僕の家にも凛子の家にも家族がいなかった。そういう日はよくあった。特に凛子の両親は忙しいらしく遅くまで帰らないことも珍しいことではなかった。

 そういう事情もあって僕と凛子は放課後よく一緒遊んでいた。もちろん夏休みも冬休みも。

 凛子が持ってきたゲームはあまり有名なものではなかった。少なくとも僕は聞いたことがないタイトルで、ゲームを進めるうちになんだか頭がぼうっとしてきていたた。暑さのせいではない。正直にいうとーー凛子の持ってきたゲームに少し退屈してきていたのだ。


「ちょっと麦茶取ってくる」

「はーい」


 僕はそれだけ言うと眠気冷ましもかねて階下のキッチンへと麦茶を取りに行った。凛子は自分の持ってきたお菓子を頬張りながら返事をした。別になんの変哲もない、いつもの様子だった。

 キッチンで麦茶を二杯用意しながら、やっぱりどこかに遊びに行こうかな、とそんなことを考えていた時だった。


「……凛子?」


 ふいに、背後に誰かの気配を感じた。

 手を止めて振り向く。けれどそこに凛子の姿はない。何か用事があって降りてきたのかと思い僕は廊下に出て凛子の姿を探した。

 階段を見て、誰もいなくて、ふと玄関へと続く廊下の先に目を向けた時。

 背中に寒気が走った。


「……っ」


 言葉が出るよりも先に体が動いていた。気がつくと僕は玄関の方へと消えたものを追いかけていた。

 一瞬見えた人影。けれど人のものではない。この世のものではない。だけど僕は『あれ』を知っている。人の形になりきれない、見えているのにはっきりしない、少女の姿の『何か』。

 それほど長くはない廊下を走りきり勢いよく玄関を開ける。

 けれど、そこには何もいなかった。

 暑い。夏の日差しが一気に降り注ぎ、目を細める。息が切れていた。外では何事もなかったかのようにセミがやかましく泣いていた。

 見間違えか。いや、でも今の寒気は間違いない。さっき見えたのは間違いなくーーそこまで考えて僕ははっとした。

 凛子は? 凛子は今どうしている?

 嫌な予感がする。『あれ』がいた。そして今凛子はひとりだ。僕がこれだけどたばたしているというのに上から一言もかけてこない。

 僕は身を翻して階段を駆け上り扉を開く。


「凛子!」


 僕の部屋の真ん中で凛子が倒れていた。





 幸い凛子はすぐに病院に運ばれた。命に別状はなく何か大きな病気ということでもなく、すぐに退院できるとのことだった。


「篝君、本当にありがとう。いつもごめんね」

「いえ……」


 病院には凛子の両親も駆けつけ僕の役目は終わった。こういうことは初めてではない。だからすぐに救急車を呼ぶことができた。そもそももし凛子に何かあった場合はすぐに救急車を呼んでほしいと頼まれていたから僕が 対応に迷うことはなかった。

 そう。初めてではないのだ。


「篝君が一緒にいてくれて助かったわ」


 僕がいるときに倒れた。僕がいたから倒れた?

 凛子が熱を出したりすることはよくあった。けれど運ばれるほどひどい状態になるのはいつも僕が『あれ』を見た後だった。

 僕が『あれ』を追いかけなければ。『あれ』を見なければ。『あれ』が見えなければーー僕がいなければ? いなければ、倒れなかったのか?



 その後どうやって家に帰ったのかはよく覚えていない。

 その日、家に帰った僕は泥のように眠った。とても疲れていたし、ただただ何も考えたくなかった。

 翌日の昼過ぎに目が覚めて、母親から凛子が今日退院することを聞いた。彼女の母親から「もし良かったら顔を見せてあげてほしい」と頼まれたことも聞いた。僕は生返事だけをして部屋に残ったゲームをクローゼットの奥深くへとしまった。僕は見舞いに行かなかった。凛子がそれを取りにくることもなかった。

 それから夏休みの間僕と凛子が会うことはなかった。二学期になってからも、学校で話すことはあったけれど僕たちが遊ぶことは日に日に減ってきて、中学に入学してクラスが分かれるとついに話すことも無くなっていった。



 そしてそのままの距離を保ちながら僕たちは高校へ入学ーー僕と凛子は再び同じクラスになった。

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