学校の階段 第5話 今日はいい天気だ
無収穫で帰った翌日。
僕たちは今日も朝から課外授業で教室に詰めていた。凛子の懇願の末、午前いっぱいの授業を終えた後もう一度だけ校内探検に付き合うことになっていた。他にどこか気になる場所がないか見てまわりたいらしい。
ぼんやりと考え事をしているうちに気持ち半分で聞いていた課外授業は予定通りの時間に終わった。
人が一気に教室の外へと流れ出ていく。窓の外は快晴。空は一際青く澄んで暑すぎるほどの良い天気だ。
みんなどこへ行くのだろう。こんな天気の良い日はきっとみんな暗い廊下をひっそりと歩いてまわるに違いない。
くだらないことを考えながら鞄に荷物を詰めていると、少し離れた後ろの方から女子たちの会話が聞こえてきた。
「ねぇ! 凛子も来てよ!」
「ごめん、今日もちょーっと先約があって……」
「昨日も付き合ってくれなかったじゃーん! ねぇねぇ、今日面白いことやるからちょっと凛子にも来てほしいの! ちょっとの時間でいいの、すぐ終わるから! もう少し人数いてほしいんだよぉ、凛子こういうの得意そうだしさぁ。お願い!」
「こういうの得意って……何するの?」
凛子が訝しげに尋ねる声がする。
もしかしたら僕の今日の出番は無いかもしれないな。
あえて後方へ視線は送らず、何も聞こえないふりをしながら荷物を持って立ち上がる。気にしないでいいよ、という意思表示のつもりだった。
僕がまだいたことに気がついた女子が声を潜めて言う。
「ちょっとさ……屋上前の階段まで一緒に来てほしいの……」
「行く!」
誘ったクラスメイトのひそひそ声を台無しにするような大声が教室内に響いた。
内容聞かなくていいの? と思わずつっこみそうになったが、僕は何も聞かなかった風を装って足早に教室を出た。
スマートフォンを取り出す。凛子に連絡を入れよう。友達と一緒なら変な真似をするようなこともないだろう。小テストを無事にクリアした僕は今日で課外授業も終了だ。お祝いにコンビニでアイスでも買って帰ろう。
廊下を抜け、階段を降りる。
ーーピロン。
マナーモードから解放した途端にスマートフォンから音が鳴った。
嫌な予感がする。気がつかなかったふりをしようか一瞬迷った後、僕は諦めて通知があったアプリを開く。
確認するまでもない。凛子からのチャットだ。
『ついてきて! 見つからないように!』
やっぱり見なかったことにしようか。けれども無慈悲にアプリには「既読」の文字がついていた。僕はそのシステムを苦々しく思いながら返信する。
『冗談』
『冗談じゃない! ちゃんついてくるように!』
嘘だろ。女子の集まりに? 僕に聞き耳を立てろと?
『絶対ついてくるように。必ず』
無理だって。そもそもあの場所だからって友達と別件で行くなら僕が行く必要ないでしょ。みんなに迷惑なだけーーと返事を打っていると、凛子から追撃がきた。
『神様のおまじないをするんだって』
神様のおまじない?
僕の疑問を見透かしたかのように次々に通知音が鳴る。
『こっくりさんだよ』
『必ず来て』
なるほど。そういうことか。凛子が急に予定を変えるわけだ。まぁ目的は変わってないのだけれど。
スマートフォンをちらちら見ながらやってきた下駄箱で僕は逡巡していた。見つかったらどうなるんだろうなぁ。けれど凛子をひとりで暴走させるわけにもいかない。元々今日も付き合うという約束はしていたわけだし。
僕はひとつ息を吐いて、一度手に取った外靴をまた下駄箱に戻した。
スマートフォンに目を落とし、文字を打つ。
『もし見つかったら絶対フォローしてよ』
校舎の入り口からは気持ちの良い風が吹き込んでいた。鼻いっぱいに夏の空気を吸い込む。今日は良い天気だ。




