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学校の階段 第1話 聞いていない約束

「うちの学校の屋上ってどうして立ち入り禁止か知ってる?」


 凛子が重大な秘密を話すかのようにこそこそとそう言ってきたのは課外授業が終わった後だった。遊びの誘いを断り他の生徒が全員教室を出ていくのを見送った後、きょろきょろとあたりを見まわしてから僕の座っていた席にやってきたのだ。


 家に帰っても特段やることのない僕は、全員がいなくなったら少しこの生ぬるいクーラーの効いた教室を借りて読書をしてから帰ろうと思っていた。


 ーー夏休み。


 高校に入学してからようやく授業から解放されると思ったら夏休みには課外授業があり、結局解放されるのはもう少し先の話なのだった。

 それでも一年生は授業数が少ないからこの高めの温度に設定されたエアコンが効いた部屋で過ごす時間はそう多くはないらしい。


「ねぇ、聞いてる?」


 凛子が僕の席の机に顎を乗せ、上目遣いに返事を催促する。


「……生徒だけで入って落下したら大変だから。教師の目の届かないところでいじめや不良行為が行われたら大変だから」


 淡々と答える。


「もぉー! そういうのじゃなくて!」


 何がそういうのじゃなくて、なのか。


「だって、そうだし」

「違うの! 昔うちの学校の屋上から飛び降り自殺した子がいたからなんだって!」


 後半は声量を絞って秘密を打ち明けるかのように言う。

 しかも大体僕の答えで合ってるじゃないか。


「それで、もしそうだったとしてそれがどうかしたの」

「屋上に行く階段にね、幽霊が出るんだって」


 何の捻りもない話である。七不思議にすらなりようがない。


「へぇ」

「もっと何か言ってよ!」

「……見に行きたいの?」


 こくこくと頷く。


「行けばいいんじゃない? 屋上の扉の前までなら立ち入り禁止なわけでもないし」


 上目遣いのまま睨んでくる。唇を尖らせる。何か言えばいいのに。


 そのまましばらく気まずい空気が流れた。

 凛子はじっと見つめている。


「……えーと……」


 たまらずに口を開く。


「……一緒に、行く?」


 ぱあっと表情が明るくなる。


「うんっ!」


 もう少しマシな話はなかったんだろうか


「もう少しマシな話はなかったんだろうか」


 口から漏れていた。


「ちょっとー! うちの学校そんなに歴史あるわけじゃないから心霊系の噂探すの大変だったんだから!」

「他に何かなかったの? こう、オリジナリティのあるやつ」

「ないっ!」


 立ち上がり自信満々に答える。


「そうですか」


 僕は鞄に本をしまいながら立ち上がる。


「新しいカフェ、本当に行かなくていいの?」


 先程友達に誘われていた内容を一応確認する。凛子がオカルトと同じくらい好きなものが甘いものだ。


「いい! 行きたいけど今日は篝と幽霊探しをするって決めてたんだもん! 行きたいけど! 行きたいけど!」


 僕は聞いていない約束だ。

 だけど、そこまで固く決心しているのなら仕方がない。ひとりで人気のない階段から落ちて死なれては困る。本人が怪談になりかねない。


 僕は小さく息を吐いた。そして凛子の顔を見て言った。


「じゃあ、行こうか」


 止めても聞かないなら、行って諦めてもらう他ない。

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