霊の成る木 第9話 家路・後始末
「送ってくれてありがとう」
凛子の家の前に自転車を停める。道中、僕らの会話はほとんどなかった。
凛子はやや元気なく言った。何か気がかりがあるといった様子だが、僕のことを問い詰めたりはしなかった。
「まだみんな帰ってきてないんでしょ? 気をつけてね」
「うん、ありがとう。たぶんすぐ帰ってくると思うから大丈夫だよ」
そう言うと、凛子はようやく少し微笑んだ。
暗がりの中にそびえる凛子の家はまだ外灯もつかずに真っ暗だった。そこに人の気配がないことは外からでも分かった。あんなことがあったあとにひとりにするのはやや気が引けたが、まさか僕の家に招くわけにもいかない。
僕は小さく息を吸い、なるべくいつもの調子を装って言った。
「何かあったらすぐに連絡して」
「あっそれなら篝の連絡先教えてよっ」
「……あ」
凛子が慌てて言う。そういえば中学生の間少し疎遠になっていた僕らはお互いの家の電話番号は知っているが、個人的な連絡先は知らなかった。小学生の頃は突然家に来たり放課後約束してそのままということが多かったから全然気がつかなかった。
「私たち、そんなに連絡とってなかったんだね」
「……そうだね」
僕ら疎遠になっていた中学の頃、凛子が体調を崩すことはほとんどなかった。それとも、疎遠になっていたから僕が知らなかっただけなのか。
「じゃあ、またね」
「うん」
「あのさ、篝」
「何?」
「ーー本当は何が見えたの?」
「別に、何も」
それだけ言うと、僕らはそれぞれの家に帰っていった。
僕は幽霊が見える。
凛子といないときもたまにそういったものが見えることはあったが、大抵は彼女といたときだ。何故ならそういう場所に行くのときは必ずといっていいほど彼女と一緒だったからだ。
凛子は幽霊を見たがっていた。けれど彼女に幽霊が見えたことは一度もなかった。
「……さて」
早々に寝る支度をした僕はベッドに寝転んでスマートフォンを取り出した。慣れた手つきでインターネットブラウザのブックマークから心霊関係の掲示板を読み込む。掲示板のアプリもあるが、わざわざブラウザから見ているのは僕なりの抵抗でもあった。見たくて見ているわけではない、という誰に対してなのか不明な抵抗である。
掲示板の中から「霊の成る木」というスレッドを検索し、開く。次から次へと真偽の怪しいネタが投稿される掲示板の中で浮き沈みしながら生き残ってしまっているそのスレッドを。
このスレッドがたったのは三年前。「友達が行方不明になったみたいなんだけどどうしたらいい?」という書き出しで始まっていた。インターネットの海にはこの程度前の書き込みなんて普通に残っている。ごくたまに書き込みがあり奇跡的にまだ生きていたこのスレッドを誰かが一ヶ月前見つけてにわかにやりとりが盛んになり、それを凛子が見つけたようだ。
僕はため息をついた。
スレッドを立てた本人の話は途中で途切れ、安否を心配する書き込みや、実際に行ってみて見えただの見えなかっただのというやりとりがされている。
僕はもう一度小さくため息をつく。
それから掲示板の書き込み欄に文字を走らせた。
『1だけど。久しぶりに伸びてるみたいだね』
僕にはもうひとつ凛子についた嘘がある。
それは、このスレッドをたてたのが僕だということだ。




