反対派も推進派も、多くは原子力技術に無知過ぎじゃね?
――反対派はさておき、推進派の多くが軽水炉や高速増殖炉に固執しているのは
どういう事かな?
新しい職場にようやく慣れるまでの約3ヶ月、すっかり筆不精になってしまい、小説はおろかエッセイの1つすら書いていなかったが、ここらで1つ、前々から脳裏で考えていた事を書いてみる。
あの忌まわしい大震災と原発事故から今日(2021年3月11日)で10年。
原発事故から数年の間、いわゆる「再生可能エネルギー」への転換が一気に進むかの様な雰囲気だったと記憶しているが、2010年代を過ぎた現在もなお、再生可能エネルギーだけで全てを賄える状態からは程遠い。
(※あとがき欄の『参考資料1』参照)
日本は石油・石炭・天然ガス等の化石燃料のほとんどを輸入に依存している。
国家の安全保障という観点では、あまりよろしくない状態だ。
ちょっと輸入先の情勢が悪化するだけで経済に悪影響が出るし、他の大国が結託して日本への化石燃料輸入を妨害でもしたら、たちどころにおしまいだ。
(ABCD包囲網による日本への石油全面禁輸措置が、日本を太平洋戦争に踏み切らせる一因になった事を決して忘れてはならない)
たとえ化石燃料の供給に問題が無い状況であっても、化石燃料をバンバン燃やしまくるのは考えものだ。――環境中の二酸化炭素濃度が増大する。
(私は、二酸化炭素の温室効果よりも海洋酸性化の方を危惧している)
(※あとがき欄の『参考資料2』参照)
エネルギー問題と二酸化炭素の問題を両方解決するには、
石油生産藻類の研究を商業的に採算が取れるレベルまで推し進め、大気中の二酸化炭素を燃料として再固定する技術を確立すると共に、
再生可能エネルギーで賄えない分を補うべく、二酸化炭素排出量が少ない別のエネルギー源を確保しなければならない。
そうすると、どうしても原子力技術の見直しを考えざるを得なくなる。
核分裂と核融合の区別も付いてない様な、感情論だけで反原発を訴える様な輩は論外として、
残念ながら、「核融合技術の商用化実現までのつなぎとして、核分裂炉は必要」と主張する推進派の多くも、原子力技術の今後の在り方について何か建設的な意見を言える程度に、原子力技術をよく知っているとは言えない。
(それこそ、「俺は詳しいんだ!」などとほざいて原発事故に対処する現場を混乱させた当時の首相を嗤えないレベルだ)
少なくとも今までの所、原子力反対派・推進派の別を問わず、軽水炉や高速増殖炉以外のタイプの核分裂炉について論じている所をほとんど見た事が無い。
一口に「核分裂炉」と言っても、よくマスコミが取り上げる軽水炉や高速増殖炉だけではないというのに。
核分裂炉の一種に『進行波炉(しんこうはろ;Traveling Wave Reactor:TWR)』というものが有る。
福島第一原発事故以後、ネット検索でも比較的容易に進行波炉の記事を見つける事ができるようになってきたものの、明らかに軽水炉や高速増殖炉よりも将来性が有るタイプの核分裂炉であるにも関わらず、これについて積極的に論じる原子力推進派はいまだに少ない。
それどころか、進行波炉の利点を過小評価・欠点を過大評価して、「やっぱり軽水炉や高速増殖炉しかない」という論調に恣意的に誘導しようとする原子力推進派()をチラホラ見かけるぐらいだ。
特に、進行波炉の中でも特筆に値する『CANDLE炉』と呼ばれるタイプのものについてに言及する論者には、ネット上の議論でもほとんどお目にかかった事が無い。
詳しくはあとがき欄の『参考資料3』を読んでいただくとして、ごくかいつまんで説明すると、
「CANDLE」は“Constant Axial shape of Neutron flux , nuclide densities and power shape During Life of Energy production”(エネルギー産生期間中の、中性子束・核種密度・出力型の定軸形状)の略語であり、
東京工業大学原子炉工学研究所の関本博教授が自らの長年に渡る研究対象に付けた名前である。
CANDLE炉は、通常は核燃料として使えない劣化ウランを燃料とし、「種火」としてごく僅かな濃縮ウランを使って核反応を開始した後は、円柱状に成型した核燃料の一定軸上に沿ってごくゆっくりと核反応が進行していく。
ゆっくり進行する核反応の中身は、劣化ウランの大部分を占めるウラン238が中性子を吸収してプルトニウム239に変わる一方、同じゆっくりとした速度でプルトニウム239が核分裂を起こすというものであり、関本教授の名付け通り、あたかも蝋燭が燃えるかのごとくゆっくりと安定した核反応である。
CANDLE炉はその核反応の特性ゆえに軽水炉や高速増殖炉に比べて格段に暴走の危険性が低く、しかも軽水炉で効率良く燃やせずに「核のゴミ」となってしまう劣化ウランを非常に効率良くエネルギーに変える。
しかも、技術的ハードルは核融合炉よりもずっと低く、軽水炉や高速増殖炉で培った技術の大部分を転用できる。
上手く実用化できれば、かつて地球上に存在した『17億年前の天然原子炉』(参考資料4)のごとく、安定した扱いやすい熱源となるだろう。
(そもそも、地球の地熱の約半分は放射性元素の壊変に由来するものであり、地球自体が『超巨大な原子力電池』と言える)
(※あとがき欄の『参考資料4』参照)
「核のゴミ」問題解決の目途が立たない軽水炉や、あまりにも不安定で制御至難な高速増殖炉に比べ、CANDLE炉の方がよほど将来性が有ると言える。
日本の原子力業界が進めたがっている原子炉ビジネスの観点からも、軽水炉や高速増殖炉に比べてよほど魅力的だと言える。
それなのに、本来CANDLE炉の実用化研究を真面目に推進する動機を持つはずの日本の原子力業界には、既存の核分裂炉からCANDLE炉に方向転換する気配が、全くと言って良いほど無い。
何らかの理由で実現不可能ならそれについての言及がもっと有って然るべきなのに、それすら無い。
かくのごとき有様では、日本の原子力業界が原子力の未来を真剣に考えているかどうかすら、疑わしくなる。
ほんと、軽水炉や高速増殖炉に固執して、より将来性のあるタイプの原子炉に活路を求めようとしない類の原子力推進派って、一体何なんだろ?
▽参考資料1:『日本のエネルギー2018 「エネルギーの今を知る10の質問」』の第7問▽
https://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/energy2018/html/007/
(※グラフで挙げられた9つの先進国のうち、日本の再生可能エネルギー比率は最も低く、約16・0%である)
▽参考資料2:『海洋酸性化の現状と影響 ── 二酸化炭素排出によるもうひとつの地球環境問題』▽
https://www.eic.or.jp/library/pickup/278/
(一般財団法人 環境イノベーション情報機構の記事)
▽参考資料3:『蝋燭に灯を点せ、CANDLE、原子炉の新しい燃焼法』▽
https://www.researchgate.net/publication/305391618_lazhunidengwodianseCANDLEyuanzilunoxinshiiranshaofa
(この他にも、「CANDLE 原子炉の新しい燃焼法」というキーワードでネット検索をかけると、色々出てくる)
▽参考資料4:『オクロの天然原子炉』▽
https://ja.wikipedia.org/wiki/オクロの天然原子炉
(この記事内で、参考文献として『17億年前の原子炉―核宇宙化学の最前線』(著者:黒田和夫;講談社ブルーバックス)が挙げられている)