第一話
太祖が地を叩き暗転した為、手探りで僕が再び周りを彷徨う。
床に手を這わせ這い蹲るように探していると向こうの方から明かりが見えてくる、慌ててそちらのほうに歩みを進めると暗転が解けた。
そして暗転が解けた僕は自由が利かずに誰かに引っ張られている、不思議に思い周りを確かめると両脇を兵につかまれ引き摺られている場面であった。
「な・・・・・・・僕が何をした離せ」
「黙れ!暗君が往生際が悪い」
先導するように前を歩いていた兵が振り向き様に殴ってくる、思いっきりお腹を殴られあまりの痛みに言葉が出ずにうめく事しか出来ない。
「ぐ・・・・うぅ」
「歩け、民がお前の死刑を待っている」
無表情でそう言い放つと両脇の兵がさらに無言で僕を引きずる、後ろにいる兵は油断なく武器を構え僕を逃がさないように威嚇している。
「一体・・・・・僕は」
「まだ白を切るか往生際が悪い、大将軍が立ち上がり貴様を捕らえ国民に死に様を見せると先日発表したはずだ」
僕が狼狽し足を止めると冷たい目で周りの兵が勢いよく僕を引っ張り無理やり歩みを進めさせる、勢いに負けて思わずこけた僕に周りの兵が白い目を向け鼻で笑う。
「さあ、広場で国民と大将軍がお待ちだ・・・お前の死を今か今かと待ってる筈だ」
「ぼ・・僕は知らない」
「まだいうか!!」
突然そばにいた兵士が槍の柄で僕を殴りつけた、その兵士は泣きながら僕を殴りつけ続ける。その後周りの兵士に止められ血を吐くような勢いで僕に言葉を投げつけてきた。
「貴様が国を顧みず、自分の思い付きで国政を行い重税を掛けたせいで国はもうボロボロだ、無駄な戦争を行い皆死んでしまった・・・お前さえいなければ!!」
「俺のお袋は重税のせいで薬が買えずに死んじまった」
「俺は兄弟が徴兵され戦争で帰ってこなかった」
「俺は・・・」
次々と周りの兵が僕に詰め寄り殴りながら自分の思いをぶつけてくる、いったい何が起きているのか僕には正直いまだに理解ができない。
ただ解っていることは、僕がもう成人しており皇帝になって居ると言う事。それと僕が散々無駄な政策を行い彼らを苦しめていたという事であろう。
「さあ、もうすぐだ」
先頭を歩く兵士が吐き捨てるように足早に広場に続く廊下を歩くと両脇の兵士が僕を引っ張る速度を速める。同時に周り居る兵士の顔色がゆっくりと満足げなものに変わっていく。
廊下の先から割れんばかりの声が聞こえ始める、もうすぐ広場につくのであろう。
「おっと、忘れていた、どうぞ皇帝陛下」
突然周りの兵がぼろぼろのマントや錫杖を僕に持たせる、どう見ても故意でぼろぼろにしたような作りのものであった。
「お似合いですよマリンブロッサム15世陛下」
先頭を歩く兵士が僕をあざ笑いながらとうとう廊下の突き当りにある扉に手をかける。それを見る周りの兵士もとても明るい表情をして、僕をさらに引っ張っていく。
「皇帝陛下のおなり~」
扉が開かれ嘲笑うかのような声が響き僕は広場に引きずり出された。
広場には民衆が所狭しと集まっており僕が引きずり出されると一斉に恨みの声を上げ物を投げ始める、ただ石などはないけど腐った卵や変な塊がぼろぼろの僕に投げつけられる。
「・・・・・こっちだ」
ぼろぼろの僕をとてもうれしそうに見ると兵士たちが広場の真ん中に鎮座している断頭台に僕を引き摺っていく。
あまりの恐怖に足が竦み動けなくなるがそれすらもお構いなしに周りの兵士たちは僕を引き摺って行く。
「い・・・・嫌だ」
僕の呟いた声を聴いた兵士が喜色満面の顔で僕を殴りつけると両脇の兵士に何かを命じる。
両脇の兵士もまたとてもうれしそうな顔で僕を断頭台に引っ張り上げると首枷をはめ楽しそうに僕を断頭台に固定した。
恐怖で歯の根が合わない僕を侮蔑の目で見ている視線に気付き其方に目を向けるとそこには僕の味方の将軍が立っていた。
「しょ・・・・将軍、僕を助けて」
助かるかもしれないという安堵を覚え将軍に慌てて声をかける。
「陛下・・・・・・・」
将軍はこちらを見ると、何時もみたいにとてもやさしい顔をして近付いてくる、ああ、僕は助かったんだ、安堵したと同時に目から涙があふれてくる。
「往生際が悪いですぞ?」
突然衝撃を受けて目のチカチカする、何が起きたか解らずに暫く呆然とするも痛みで僕は思いっきり将軍に蹴られたんだと認識した。
なんで?将軍は僕の味方じゃないの?忠臣だよね?目を白黒させていると将軍が口を開く。
「今まで私は陛下を何とかして名君にしようと努力してきた、だがその努力は毎回空しく裏切られてきた」
周りの民主に向け僕を蹴りながら将軍が演説をする、その光景をとても楽しそうに見ながら民衆が歓声で後押しをする。
「ゆえに私は立ち上がったのだ、諸君らの平和のため、そしてこの暴君を取り除くために!!」
民衆が大歓声を上げる。口々に僕を殺せと叫んでいる、なぜこんな事になってしまったんだろう。
目から涙を流しながら周りを見ると、傍に何時も僕に対して反対意見しか言わなかった宰相が寂しそうに佇んでいた。
「陛下・・・・・力及ばず申し訳ございません、せめても私目が先に向かいご案内いたします」
そういうと彼は周りが止めるのも聞かずに短刀で自分の喉を突きゆっくりと崩れ落ちた、最後まで僕を寂しそうに見つめながら。
「ああああああああああああああ」
言葉にならない、叫ぶしかない僕をごみを見るような目で周りの兵士と民衆は見つめ続けている。
「さあ、最後に愚帝にふさわしい王冠を」
将軍がそう叫ぶと兵士が数人がかりで真っ赤な王冠をゆっくりとこちらに向けて持ってくる。
よく見るとその王冠は真っ赤に焼けた王冠で蜃気楼が周りに発生しているぐらいの高温であるのがわかる。
「さあ、王冠です陛下」
「ぎゃああああああああああああああああああ」
その王冠が周りの兵士の手によって僕の頭に載せられる、熱い、熱い、熱いぃぃぃ、もう何も解らない、狂おしいほどに首を振っているとひときわ大きな音が響き断頭の刃が僕に迫る。
「ああ・・・・・・・・・・僕は間違ったんだ、全部」
そうつぶやいた僕に刃が振り下ろされ再び暗転した。