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減塩食堂シオタラン

例によってネタを思いついたのですが、長編を1本書いていて余裕がないので短編にしてみました。

正月休みも終わって明日から仕事なので、睡眠時間確保のためにあまり誤記チェックとかも出来ていませんが、温かい目で読んでいただけると助かります。(^^;)


* 2020/01/06

 『量でごまかす』を追加しました。

 他、気になるところを修正。

第一章 ある年の健康診断の再検査にて


「上、158。

 高血圧ですね」


 白衣がまだ真新しい、若い眼鏡の医師からの宣告である。

 医師は続ける。


「お薬出しておきますね。

 あと、今後、食生活は塩分は控えめにして下さい。

 いろいろなところから基準値が出ていますが、とりあえず1日6gを目指しましょう」


 おっさん、ついに減塩生活を送ることになった。



第二章 減塩食堂が目に付いた


 翌日の朝、駅を出て会社までの道を歩いていると、飲み屋街の雑居ビル3Fにある食堂の看板に目が止まる。


 【減塩食堂 シオタラン】


「あぁ。

 これから、こういう店に変えていかないといけないんだな……」


 おっさんの昼食は外食である。

 外食産業は来客数が命である。

 とにかく、リピーターを増やしたい。

 味にインパクトを与えるためなら、塩分だって沢山入れる。

 多くの店では、客の血圧なんて知ったことではないのである。

 なにせ、多くの店主は、自分自身が高血圧と言われたことがないのだから……。



第三章 初めてのシオタラン


 さて、このおっさん。

 早速その日のお昼に、シオタランにやってきた。

 店に入って席に着くと、タブレットが置かれている。

 すぐ近くに店員が見えているのに、(わずら)わしいシステムだと思った。


 おっさんは、本日のおすすめのようなものが出ているだろうと早速タブレットを手に取った。

 が、しかし、そこに書かれていたのは、


  ■酸味でごまかす

  ■香辛料でごまかす

  ■量でごまかす


 というものだった。

 おっさん、思わず、


「ごまかすんかい!」


 突っ込んでしまった。

 店員さん、苦笑である。



第四章 酸味でごまかす


 おっさん、一番上に書いてあるから、おすすめは『酸味でごまかす』だろうと考えた。

 タブレットをタップする。


 すると、サブニューが開いた。


  ■オムライス定食

  ■煮魚定食

  ■焼肉定食


 和洋折衷(わようせっちゅう)である。

 おっさん、さっきと同じく一番上がおすすめだろうと考え、『オムライス定食』をタップした。

 すると、御飯の量が出てきた。


  ■小盛り(615Kcal、塩分1.7g)

  ■並盛り(734Kcal、塩分1.8g)

  ■大盛り(853Kcal、塩分1.9g)


 1日6gだと、1食あたり2gなので、これを守るとこの塩分量になるらしい。


 注文してしばらくすると、店員さんがオムライス定食を運んできた。

 トレイにはオムライスと、サラダ、それとスープが乗っていた。

 フォークとスプーンしかないし、サラダにはジュレが使われていてなんとなくおしゃれな感じがする。


 ──ここ、おっさんには敷居が高いオシャレ系の店なのか?


 一瞬そう思ったが、そういえばメニューに煮魚定食とかもあったので、選択のせいなのだろうと思い直した。



第五章 実食 オムライス定食


 まずは、外見を見る。

 ふわっとしたオムレツに親指大ほどのケチャップが乗っている。

 恐る恐る、スプーンでオムライスを割ってみる。

 すると、一般的なオレンジ色をしたチキンライスが顔を出した。


 ──なにか違うのだろうか?


 おっさんは不思議に思ったが、一口食べると分かった。

 トマトの(さわ)やかな酸味が口を支配する。

 よくある、ケチャップを使ったチキンライスではないようだ。

 鶏ささみ肉と枝豆が入っており、塩分はほとんど感じない。

 だが、なるほど店を出すだけあって、美味しかった。


 次に、サラダに移る。

 サラダの器には、ちぎったレタスと薄く切ったきゅうり、コーンと、そして半透明のプヨプヨしたジュレが乗っている。

 ひとまず、キュウリにジュレを乗せ、プヨプヨさせながら食べてみる。


 ──コンソメジュレというやつか!


 きゅうりのシャキシャキとした食感とコンソメの旨味がよくあう。

 塩分はあまり感じないが、コンソメの旨味とワインビネガーの酸味が美味しかった。


 最後はスープだ。

 薄く切られて透き通った玉ねぎと、鮮やかな緑が綺麗なパセリのみじん切りが浮いている。

 スープの色は薄い琥珀色。

 飲む前から期待が高まる。


 スプーンで(すく)って口に運ぶ。

 少し酸味がするものの、なんだか物足りない。

 というか、味が薄い。 

 確かにこれは、「塩、足らん」だな。



第六章 会計にて


 おっさん、会計の時にあのスープについて、店員さんに聞いてみた。


「今日のスープは味がしなかったのですが、これは仕様でしょうか」


 すると店員さんは、


「あぁ、お客様、このお店は初めてでしたか。

 実はあれ、よく訓練されたお客様には旨味も十分で好評なんですよ。

 でも、この辺りでいつもランチを食べているような、濃い味付けに慣れたお客様には、味が感じられないんですよね」


と言った。どうやら、常連でないと厳しいスープらしい。

 そういうメニューを、一番上に配置しないで欲しいものだ。

 おっさん、次に来るために確認した。


「常連でなくても、大丈夫なメニューはありますか?」


 すると店員さんは、


「初めてのお客様向けは、『量でごまかす』がお勧めですかね。

 味自体は普通ですから」


と説明した。

 おっさん、『味自体は』というところに引っかかりは覚えたが、次に来るときにはそっちから選ぼうと思ったのだった。



第七章 量でごまかす


 おっさん、翌日は牛丼屋に行ったものの、改めて塩分が気になり二度目の来店。

 早速、席に座ってタブレットを手に取った。

 前回、店員さんがおすすめした『量でごまかす』をタップした。


  ■オムライス定食

  ■煮魚定食

  ■焼肉定食


 「同じメニューじゃないか!」


 おっさん、思わずつっこんだ。

 店員さん、前回同様、苦笑である。


 気を取り直して『煮魚定食』をタップした。

 やはりここでも、御飯の量が選択できる。


  ■小盛り(495Kcal、塩分1.8g)

  ■並盛り(614Kcal、塩分1.8g)

  ■大盛り(713Kcal、塩分1.8g)


 塩分には、少し余裕があるようにも見えるが、写真に味噌汁が付いていないか?

 おっさん、ネットで1杯2〜3gと書いてあったのを思い出したので、どういうカラクリがあるのか不思議に思った。


 注文してしばらくすると、店員さんが煮魚定食を持ってきた。

 お盆には、御飯、味噌汁、煮魚、おひたしが乗っている。

 が、味噌汁のお椀が普通ではない。

 というか、お茶碗の半分の高さしか無い。

 おっさん、思わず、


 「盃かい!」


 また、つっこんでしまった。

 店員さん、本日二度目の苦笑いである。



第八章 実食 煮魚定食


 まず、お味噌汁を口にする。

 至って普通の、減塩味噌を使った味噌汁だった。

 里芋、ごぼう、人参、(ねぎ)が入っていて、具だくさんである。

 鰹だし仕立てで、葱の甘みや、ごぼうのしっかりした歯ごたえが美味しい。


 次に、御飯をひとくち食べ、煮魚に移る。

 (かれい)の煮付けだが、どうやらこちらは半分になっているようで、尻尾の側だけだった。

 あと、見た目で気がついたところでは、煮付けなのに汁がないことくらいだろうか。

 実際に食べてみると、最近甘い煮付けが多い中、魚本来の白身の旨味が感じられるひと品で美味しかった。


 最後、おひたしを食べようと思ったのだが、醤油がないことに気がついた。

 おっさん、店員さんに声をかけた。


「すみません。

 お醤油はありませんか?」

 

 店員さんは、一瞬眉間に皺を寄せてから笑顔で、


「お客様、当店でお醤油はサイドメニューとなっております」  


 と返事をした。

 おっさん、「そんなの分かるか!」と言いそうになったが、既に二回やらかしているので我慢した。


 さっそくタブレットを手に取り、サイドメニューのボタンを押す。


  ■減塩醤油 (1cc 塩分0.08g) ボッタクリ価格の100円です!


 おっさん、思わず、


「自分でボッタクリ言うな!」


 三度目のツッコミである。

 店員さん、もちろん苦笑い。

 だが流石におっさんも、この店に来て塩分を増やすのなら、そのくらいの覚悟が必要ということなのだろうと理解はする。


 ちなみに、おひたしにはだし汁がしっかり染み込ませてあったので、醤油なんてかけなくても普通に美味しくいただけましたとさ。



おわり。


 ちなみに、思いついたネタは、

・健康志向で減塩減塩と言われている割には、減塩を主体にしたお店屋さんってほとんど見かけない

・これから70歳まで働かないといけないなら、なおのことランチで減塩メニューも開発したほうが良いのでは

というものでした。


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