天の声さんと初戦闘
結局、小鹿のように足をガクガクとさせる状態から、いっちょ前に
歩けるようになったのは、練習を始めて10分ほど経ってからだった。
夢なのに妙にリアルだな、とは思ったが気にしないでおいた。
ある程度は歩けるようになったところで、気を取り直して
周りを探索してみることにした。
まずは一番気になる石塊から。石塊は、想像していたよりも遥かに
高くそびえていた。横から見上げても先が見えない。高い。
恐らくバカでかい石柱なのだろう。周りの長さも、僕の胴体(飯盒)を
使って測ると、僕二十体分くらいだった。かなり大きいし、迷っても
目印になるだろう。まあ夢の中だし、迷っても別に困りはしないのだが。
それから、辺りを少し歩き回ってみた。どうやら僕は、本当に森の中に
ポン、と放り出されてしまったような状態らしい。しかし、自分の
夢ながら本当にリアルでしっかりとしているな、と感じた。
まさか本当に異世界なんじゃ・・・と考えそうになったが流石に
ないだろう。
次は、もう少し遠くの方へ歩いてみることにした。目印はデカ石柱が
あるし、大丈夫だろう。大分歩くのにもなれ、走ったりできるようにも
なった。5分ほど森の中をゆったり歩いていると、少し開けて広場のように
なっている場所が見えてきた。8本の足を動かす速度を速くする。
すると、唐突に頭の中に声が響きーー
『周囲に、急速接近する生体反応確認!!数、3体!最も接近している
反応は8時の方角!11Mです!』
「えっ!?誰!?」
急に脳内に響いた若い女性の声に驚き、思わず叫び返してしまう。
『今はそんなこといいですから!!明らかにこちらに接近してきています!
クッ!もうちょっと速くセットアップが終わっていたら!』
「なになに、どうすればいいの!?」
『急いで目の前の開けたところに走ってください!この木に囲まれたところ
よりは対等に戦えるはずです!』
パニクった僕は、頭の声に従い、広場へ向けて走った。すると後方から、
「ぐるるぁあぁっぁぁああ!!ぐるるっあぁああ!」
という潰れた喉で無理やり叫んだようなガサガサで耳障りな叫びが聞こえた。
僕は10M四方くらいの大きさの広場に駆け込むと、そのまま真ん中まで
突っ走った。
『真ん中で迎え撃ちましょう!』
「は、はい!」
勢いで答えたが、僕は喧嘩なんて一度もやったことがない。さらに、
この体には手となる部分がついていない。なにかを拾って投げつけることも
できないこの体でどう戦えと言うのだろう。
『大丈夫です!戦闘用特別プログラムを起動してください!』
「どうやって!?」
『あーもう面倒くさい!叫んでください!戦闘用特別プログラム起動!』
「せ、戦闘用特別プログラム起動!」
すると、僕の胴体の両側に小さな四角形の穴が空き、両方の穴の中から、
近未来的なデザインをした銃がひとつずつマニピュレータのような感じで
生えてきた。同時に、視界に変化が生じる。フィルターが掛かったように
なり、こちらに向かって近づいてくる赤と黄色の塊が出現した。
「あれが生体反応ってやつですか?」
『そうです!あともう少し遅かったら森の中で包囲されてましたよ!
もう少し危機感を持ってください!」
「す、すみません。」
ついに生体反応は森を抜け、その姿が顕になる。その姿は、まんまRPGでいう
ゴブリンのようだった。筋肉質な肉体に藁の腰巻きを履き、右手には棍棒を
握っている。皮膚は、汚いビリジアンのような色で、黒い斑点が湿疹の様に
全身に広がっている。
「ぐるるぁぁああぁあああ!!!」
そのゴブリンは叫び、そして、何故かその場で、力強く棍棒を振り下ろした。
僕は思わず面食らった。確かにゴブリンは頭の悪いイメージだが、まさか
なにもないところを殴ったりするほどバカだったとは。
全く、あれほどビビっていたのが恥ずかしくなってくr
『なっ!?前方に巨大な熱源反応!回避してください!』
回避?と僕が思った瞬間、前方1Mに、巨大な火球が出現した。
そして、回避行動を1mmも行えないまま、火球が直撃した。