6話『鬼人化』
「姉さま、本当に大丈夫なんですか? パラス様からのお願いでお金が貰えるって言うのも分かるんだけど……姉さまに何かったら……」
と不安そうに私を見る妹
私は
「大丈夫だよ、きっと何とかなる、そう思って頑張って生きるっていうのが普通だと思うんだよ」
と言って妹を説得した。
妹は
「じゃあさ……せめて私の名前を呼んで……今日帰ってから名前で呼ばれてないよ……」
と不満そうに言った。
そのため私は
「仕方ないな……レルラ、行ってきます」
と言った。
レルラは
「行ってらっしゃいさま」
と言った。
私は
(どうして行ってらっしゃいさま? さっきもおかえりさまって言ってたけど……)
と疑問に思いながらも
「今日ちゃんと帰れるからね!」
と言ってサキュバス退治に向かった。
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私はいつものように標的にしたサキュバスを見つけた。
そのサキュバスが声を掛けやすいように1人で飲んでいた。
すると
「ねえ? 君? 子どものように見えるけど?」
と声を掛けて来た。
私は
「私は子供じゃありませんよ」
と言って強い酒を一気に飲み干した。
そして
「え! そうなの!! 小っちゃいのね!」
と私自身のコンプレックスを突いてくる。
だからこそ
「余計なお世話です!!」
と少しムキになって言い返す。
すると
「ごめんごめん!! じゃあここのお酒の代金驕るわよ! 一緒に飲まない! 私の名前はメルエナよ!」
と言ってサキュバスの方から誘ってきた。
サキュバスを逃さない為には相手が誘うように誘導すればいいのである。
サキュバスにとって男は絶好の獲物である為、ほとんどの確率で誘ってくる。
そして、ほとんどのサキュバスの好み傾向でも私の様な小柄な男の子がタイプらしい。
中にはダンディー系が好みのサキュバスがいたり、悪い系が好みのサキュバスもいるのでその時は自分ではなくその男を気づかれないようにストーキングするのだが今回はラッキーだ
「わっわかりましたよ」
と言ってブスッとした顔をして相手の誘いに乗る。
そして、ほとんどのサキュバスはまず相手を酒に溺れさせる。
その為
「うえいいいいいい」
と酒に強いのだが私は酒に酔ったふりをする。
この縁起が出来るようにパラス様と特訓を頑張った甲斐があった。
それを見てメルエナは
「あらあら、酔っちゃった? お酒飲み過ぎた?」
と言って私を揺する。
私は
「大丈……夫です」
と言って明らかに大丈夫じゃない様に見せる。
メルエナは
「しっかりして、店主さん! 代金ここに置いとくね!」
「あいよ! 毎度あり!」
と言って置いてあったお金をすぐに取って数える店主
そして
「ほら! しっかりして!」
と言いながら私を店から出した。
恐らく自分の家に連れ込んで私を魅了するのであろう。
私は別に家で行っても良いのだが
「あ……そこ曲がってください……私の家に近いんで……」
と苦しそうに言う。
それを言ったらメルエナは
「そっそうなの! 分かったわ!」
と言った。
サキュバスは大抵の事を聞き入れてくれる。
何故ならそれを聞き入れずに自分の家に連れ込もうとすると嵌められると男に勘付かれて逃げられる可能性もあるからだ。
その為、たいていのサキュバスはその人の家まで送ることもある。
もしくはその人の言った方向に言ってそのまま人気のない場所で精気を吸取るかだ。
だが私はそうはしない、フラフラとしながらも歩いてメルエナが油断していると感じた。
(今なら殺れる)
そう思った私はメスをポケットから取り出して
刺そうとした。
「気づいているよ、あなたがジャック・ザ・リッパーってね」
とメルエナは私にナイフを突きつけて来た。
「!!」
私は呆気にとられた。
(まさか!! バレた!!)
と思ってメスでナイフを叩いて
「ぐ!!」
とメルエナが怯んだ瞬間を狙って掴んでいた手を振り払い距離を取った。
「なるほど……どうしてバレたのかは分からないけど……だったら実力行使だね」
と言ってメスのボタンを押して剣に変える。
すると
「私もね……ただただあなたに会うために来たんじゃないの……私たちみたいな無差別に男を喰らうサキュバスならともかくあなたは私の親友のライサルを殺した、その恨みを晴らさせてもらう!!」
と言ってメルエナは私を睨みつける。
ライサル……確か私が殺したサキュバスの中の1人だ……覚えている……パラス様にも確認した事の1つだ。
真剣に恋に落ちた男と上手くいきそうだったサキュバスだ。
確かに私はあのサキュバスの恋を壊して男の記憶からも他の人間の記憶からも消し去った。
まあ他の人の記憶は神が担当しているけど……
だが彼女の親友を殺したのに変わりはない……恨まれるのも不思議ではなかった。
だからこそ
「そうね、貴方には私を殺す権利はある……でもただでは死なないよ! いや! 死ぬつもりはない!! あなたを殺して仕事を終わらせる!!」
と言ってメルエナに集中した。
メルエナは
「行くよ!!」
と言って持っていた剣を使って私に襲い掛かる。
(速い!)
彼女の速さは普段の私以上のようだ。
ボオオオオ!!
「!!」
メルエナは私を見失った。
「いったいどこへ!!」
私は体の興奮状態を押さえようと深呼吸した。
「フー!! フー!!」
と肺が痛い。
「やっぱり鬼人化はキツイ……」
と真っ赤になりながらメルエナから目を離さなかった。