かさぶた
「あ、見て。昨日の傷、カサブタになってる」
「ほんとうだ」
「どれ、剥がしてやろう」
「ちょっと待て」
昨日ぶらんこから落ちた時にできた膝の傷にカサブタが出来てた。
それを剥がそうとしたところ、竹ちゃんが僕を制止する。
僕は言われるままに手を止めた。
「どうして止めるの、竹ちゃん」
「カサブタは”しぜんだつらく”を待つ方がいいよ」
「”しぜんだつらく”……って何?」
「時間が経って勝手に取れるのを待った方がいいってことさ」
竹ちゃんは偶に僕が分からないような賢い言葉を使う。
「取れるのを待った方がいいのは何となく分かるけどさ」
「うん」
「これを”べりべり”って剥がすのが、僕は大好きなんだ」
「傷が残る可能性があるよ」
竹ちゃんは真剣だ。
「傷が残るのか……でも剥がしたいな」
「乾燥して、傷の治りが遅くなる」
「剥がした後に水をかけまくったら大丈夫なんじゃない?」
「うーん、それなら保湿クリームを塗るのが良いだろうね」
竹ちゃんは、またよく分からないことを言う。
「保湿クリームってなんなのさ」
「多分伸ちゃんのお母さんがきっと持ってるはずさ」
「それがあれば、剥がしてもいいってこと?」
「まあオススメはしないけど、カサブタ替わりにはなるだろうね」
僕はカサブタに爪をかけた。
「じゃあ、剥がします」
「せめて家に帰ってからにしなよ」
「いや、うずうずが止まらない」
「そしたら、僕はもう止めないよ」
竹ちゃんの許可が得られたところで、僕はカサブタを引っ掻いて、ささくれを作った。
よし、3……2……1……
えいっ
「めちゃくちゃ痛い。スースーする」
「だろうね。まだ傷は完治していないだろうから」
「血も出てる」
「すぐに温水で洗って清潔にしないと」
竹ちゃんは家に帰ることを僕に促す。
「やだよ。まだ遊んでないじゃないか」
「伸ちゃんの家で遊べばいいよ」
「その手があったか」
「そうと決まれば、さっさと行こう」
竹ちゃんと僕は僕の家へ向かった。
ー終ー