七章(一)
第七章
「あの宿舎コンビニまで遠すぎるだろ」
昴は深夜、学園敷地内のコンビニに夜食の買い出しに出掛け、芽衣のドックに併設された自身の宿舎に帰る途中、片道十五分の道程に愚痴を溢していた。
「しかし、静かだな」
辺りに人気はなく、ポツリポツリとある街頭だけが道を照らす。
「ん!」
不意に悪寒が走り、周囲を見回す。
次の瞬間、バッと何者かが物陰から飛び出し、月を背に飛び蹴りを浴びせてきた。
昴は素早く体を躱し、素早く後方に引く。
飛び蹴りは空を切り裂き、足元のアスファルトを砕く。
「成程、流石にいい反応をするねえ」
「何者だ」
昴は攻撃を仕掛けた人物を睨み付ける。
「あたしゃ水上 美里。あんたの噂を聞いてちょっと腕試ししたくなってね」
美里と名乗った美少女はウルフヘアの髪をかき上げ、野性味を帯びた瞳で不敵に笑った。
「そういうのはお断りしてるんだがな」
昴はまたかという顔になって閉口する。
「問答無用さね!」
美里は有無を言わさず、正拳突きを繰り出す。
「速い!」
昴は高速の突きを左腕で回し受けをし、体を入れ替え右腕で美里の側頭部を狙う。
「おっと」
美里は素早くしゃがみ、昴の攻撃を避けると足払いを掛ける。
昴はよろけるが転ばず、そのまま側転して距離を取る。
「やるねえ」
美里は一連の攻防に関心して感嘆の息を溢す。
「満足したなら帰ってくれないか?」
「生憎とまだ食い足らないねえ」
獰猛な笑みを浮かべ、口の端から犬歯のような八重歯を覗かせた。
「付き合いきれないな」
昴は左手のコンビニ袋を突き出すように構え、グルグルと回して見せる。
「ほう、そいつでどうするつもりだい?」
美里は構えながらコンビニ袋に注視する。
「こうするのさ!」
昴は右手に隠し持っていた胡椒瓶を蓋を開けた状態で美里に投げ付ける。
「このっ!」
美里は反射的に瓶を弾くが中身の粉が飛び散り、眼や呼吸器官に入り込む。
「ゴホゴホ、やってくれたね」
咳き込みながら涙目で昴を探す。
「どこから来やがる?」
限定された視界の中、構えを取り昴の攻撃に備える。
「あばよ」
だが昴はすでに駆け出し、十数メールの距離から背後の美里に告げる。
「待ちな!」
遠ざかる昴に手を伸ばすも気配は暗闇に消え去っていく。
「追撃もせずに去るとは舐められたもんだね」
怒りも露わに戦慄き、遠吠えを吠えた。