5話
遅れてすみませんでした・・・!
「楓さんの話が本当なら・・・やっぱり・・・」
エメラダは依然寝付けず、ベットの上で一人考えていた。
一斉攻撃・・・正直、それで奪われた土地が取り戻せるなら参加したいような気もする。
ただ、参加するということは部隊の仲間にも危険が及ぶ可能性が十分にあるということでもあるのだ・・・
というか、私たちの部隊にほんとに招集なんて来るのだろうか?
第17部隊である私たちは単純に上に16部隊あるということになる。
流石に一度に全戦力を使い切るということはいくら一斉攻撃などと銘打っていてもないだろう。
それならば・・・
そこまで考えてエメラダはかぶりを振る。
出撃命令が下らない可能性はほぼないだろう。
なぜなら、私は・・・広告塔だから。
王家の特権を、名誉を、地位を捨て国のため前線に身を置く誇り高き「救国の聖女」
・・・ふざけた話だ。王家の人間は――正確にはお母様は、私を王族から追い出したことの正当性を求めたのだろうか、私が食い扶持の為に軍に入ったと知るや否やそれをまるで美談のように仕立て上げた。
それを信じた哀れな、いや、純真な国民たちは今も私をまるで英雄とでもいうかのように祭り上げる。
私は、何もなしていないのに。私は――部屋でただ戦場を見ているだけなのに。
ああ、またイライラしてきた。今はそんなこと考えている場合ではないのに・・・
「まあ、どちらにせよ、自分一人で決められることじゃない、か」
そう息をつく。
寝よう。寝てしまおう。そうすればきっと怒りも収まるはずだ。
目を閉じる。
ほどなく、浅く訪れた微睡に身をゆだねると意識はゆっくりと沈下していくのだった。
朝の10時を回ったころ、エメラダの部屋には部隊の全員が集まっていた。
知名度特権であてがわれた――とエメラダは思っている、部屋は、並みの軍人の部屋よりも少し広く、そのため食堂と並んで部隊のみんなのたまり場と化しているのだ。
本日の議題はもちろん、一斉攻撃について。
結論から言ってしまえば、全員が、正確にはエメラダを除く全員が参加を望んだ。
理由はみな同じ。単純明快な一つのみ。
「俺たちは兵士だ。戦って死ぬ。それが本望」
シンタローのその答えに皆は一様にうなずいた。
エメラダはその答えになんとも言えない気持ちを抱く。
やはりここにいるのは同世代の子供ではなく、ただ年が近いだけの兵士なのだ。
認識を、改めなければいけない。
やはりこの戦場に子供などいないのだと。
そして、死の覚悟を持たない私は、どうしようもなく異端なのだと。
「おい、そろそろ出撃の時間だぞ」
シンタローが言う。それに皆は、悲しみも不安も恐れも感じず、ただ淡々と頷く。
それが、エメラダには異常で、そしてうらやましく映るのだった。
灰色の地面、少年少女は20を優に超える悪魔と絶賛衝突中だった。
「ハンス!壁!」
「はい!」
ハンスが手を突き出し現れた壁は間一髪、メアリに当たる直前で破砕する。
その直後、メアリは前に飛び出し、鞭をしならせ上空を漂う悪魔の集団の中、司令塔と思われる悪魔の首を正確に巻き取る。
メアリが力強く鞭を引くと、鞭は速度をつけながら縮小。地面に悪魔をものすごい速さでたたきつける。
ぐちゃりという音の後、動かなくなった悪魔を見て、心なしか悪魔たちの動きが乱れる。
その隙に淡く光る大剣を構えたシンタローが地面をけり飛翔。
いくら鍛え上げられた体を持つ兵士と言えど人間、当然悪魔のいる高度には届かない、と思ったのもつかの間、ハンスが空中に壁を張る。
その壁を蹴る。跳ぶ。その動きに合わせるように、絶技ともいえる連携で壁を張りなおすハンス。
悪魔も危機を察したか、ジェムを飛ばすが、アリスが弓でカバー。シンタローには一撃も届かない。
遂にシンタローが、届く。
跳びながら光を増していった大剣は今や太陽のような輝きを放っていた。
その光が、今解放される。
「転輪する火輪の刃!!!」
シンタローが体をひねり、大剣を一回転に振り切る。
迸るは紅蓮の炎。太陽を思わせるその炎に、地上の人間は思わず目を閉じた。
光の収まりに目を開ける。見上げた空に、もう悪魔は残っていなかった。
「おーーーーーーーいーーーーーーーー!!!!!!!」
シンタローがそれから落ちてくる・・・落ちてくる!?
「あっ!やば・・・!」
「おまえええーーーーーー!!!!」
結局、メアリの鞭によってシンタローが地面とキスする事態は防がれたが、メアリがシンタローにねちねちとなじられたのは言うまでもない。
「そろそろ帰投しましょう」
日の大分傾いたころ、エメラダのその声に皆が頷いたその時、アリスは荒野に倒れる人影を発見する。見るとまだ少し動いているようだ。
「みんな、あれ、みて・・・!」
「おいおい、負傷者か!?」
「助けましょう!」
負傷者のもとに向かう。
そこに倒れている人影は、見ると15,6歳ほどで、茶髪の髪の男の子。上半身にある切り傷からは多量の血を流しており、下半身が――悪魔のソレであった。