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終末戦線継続中  作者: マルチーズ
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2話

 今、エメラダが長い青髪をたなびかせ歩いているのは、ユーグナリア暫定首都エルグランドを円を描くように囲う城壁アレスの外周、その一部に出入り口として作られた地面と接する二重構造部分の、つまり内壁と外壁の間、人間が支配する最も外の領域である。鼻をつんざくような腐敗臭と鉄の匂いが漂うこの場所は、好むものなど当然おらず、拒まぬものも少ない。この外壁の扉を守る門番の役は死ぬよりつらいと評判である。

 その幸運な、あるいは不幸な門番の若い男はこちらに気づくいなや、パシッっと音のなりそうな速さでエメラダに敬礼。その形を崩さぬまま


「これはこれは!エメラダ准将様。今回もいつもと・・・?」


 笑顔で問いかける男にエメラダは笑顔を返し、


「准将なんてやめてよ、アステオ。いつもどうりエメでいいわ。それになに?その言葉遣い。ふふふ」


 そう優しく答える。

 アステオと呼ばれた若い門番は


「いやーでも今じゃ飛ぶ鳥を落とす勢いの出世頭、エメラダ准将様としがない門番だからなぁ。中々呼びずれーよ。」


 そう言うとからかうように笑う。それにエメラダは


「そういうことならもっと敬ってほしいわね。アステオ伍長。」


 と、応酬。アステオがまた何か言おうと口を開いたとき、遠くからガシャガシャと金属のこすれる音と地をける靴の音。そして、楽しそうな話し声が聞こえてくる。


「来たみたいだぜ?あいつら。」


「はぁ・・今回も無事みたいね。良かった。」


「激戦区抜けて帰路に就くまでのナビゲートはお前がしたんだろ?激戦区でもないならあいつらが負けるわけねーよ。」


「・・・それもそうね。杞憂だったかしら。」


 そうこうしている内に集団が帰ってくる。エメラダは見慣れたその顔触れに若干の申し訳なさを目に浮かべながら手を振り、声をかける。


「お帰りなさい、みんな。」


 それに第18部隊の面々はにこりと笑ってみせるのだった。



「やっぱりおばちゃんの飯はうめーなぁ!」


「シンタローもっとゆっくり食べなさいよ?喉詰まって死んでも知らないからね」


「エメラダさん言ってもしょうがないですよ。こいつバカですから」


「な、バカってなんだよメアリ!そういうほうがバカなんだぞ!!バーカ!」


「なっ!?」


「ねえ、ハンス、口、付いてる。拭いて、あげる」


「あ、ありがとう。アリス」


「きれいに、なった」


 第18部隊の面々は今、がやがやと一つのテーブルを囲み食事をとっている。

 この血なまぐさい戦線で食事という行為は他人との会話に並ぶ数少ない娯楽だ。

 そのため、面々のいる食堂は常に楽しげで、その雰囲気目当てで食事が終わっても居座り談笑を続ける者たちもいるほど。

 実際、第18部隊の面々もその者たち(・・・・・・)に該当していた。



 騒がしくも楽しい談笑を続けていると、テーブルの空き席にアステオが食事を持ってくる。

 アステオは少し悲しそうな顔をして


「みんな、聞いてくれ。部隊昇進だ。今回の戦闘で第13部隊が全滅。規則通りこれから君たちは第17部隊になる」


 それを聞いた面々はみな悲し気に顔を伏せた。そんな中エメラダは瞳に悲しみをたたえながら


「彼らほどの実力者がなぜ・・・?」


 と問う。それにアステオは残念そうに


「それすらわかってないんだ・・・どうも巨大な落とし穴に落とされたとか・・・おそらく悪魔側の罠だろう。おかげで死体も見つからない・・・」


「そう・・・部隊昇進なんて久しぶりね・・・半年ぶりくらいかしら」


「上位層じゃそうそうないことだ、たぶんそれぐらいだろうな・・・」


 部隊昇進。


 軍に所属する軍人は必ず第〇〇部隊と部隊番号の付く名前の部隊に配属される。

 その部隊番号は基本的には変わらないが、あることが起きた場合にのみそれは変動する。

 それは、自部隊より小さい番号を冠する部隊の全滅(・・・・・)。通常、人員が減った場合は補充が行われるが、全滅した場合はその部隊は消え、その部隊番号を一つ後ろの部隊が継ぎ、そのまた一つ後ろの部隊が・・・という形になるのだ。


 これを軍では部隊昇進と呼んでいる。理由は簡単。番号が小さければ小さいほど多くの戦場を駆け、周りの死をもろともせず無事生還したということであり、それを称賛する意味を込めて部隊昇進と、そう呼んでいるのだ。

 エメラダ率いる第18部隊も結成当初第78部隊だったのだが、戦場を超える度部隊番号は減っていき今や第18、いや、17部隊になってしまった。


 エメラダは悲しみと少しの失望を感じていた。20をきる部隊番号を持つ部隊はいわゆる古参と呼ばれており、死なない超人の集まりと揶揄される通り、異常な生命力と戦闘力を持ち、文字どうり対悪魔の主戦力だったのだ。その主戦力の一つが消えた(・・・)。それはより戦況が厳しくなるということ。つまり――また死者が増える。そのことが、エメラダの心に刺さっていた。


 第17部隊の面々とアステオはみな一様に暗い雰囲気を漂わせ。


「なんか、私たちだけ暗くて浮いちゃうわね」


 エメラダが気丈に場を和ませようとがんばるが、その返答は黙殺と失笑。

 この暗い雰囲気をどうしたものか・・・エメラダが頭を悩ませる。

 そんなときどたどたと走る音と


「おお!わが愛しき妹エメラダよ!寂しい思いをさせてすまなかったなぁ!」


 バカでかい陽気な声が食堂に響く。

 面倒なことになった・・・エメラダは一人ため息をつくのだった。




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