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野生のスケルトン  作者: noon
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野生のネクロマンサー

 その夜は、深い霧に包まれていた。

 獣の気配すらせず、木々が揺れる音だけが

 ただ寂しく響いていた。


 やがて、霧の中から、一つの人影がその姿を見せた。

 全身を覆う厚手の鎧を着ているためか、その足取りは重い。

 だが、下を向き、僅かに肩を震わせながら歩くその様子はどこか異様で、

 鎧の重量よりも、その身体自体が彼の重りとなっているようだった。


 ふと、風が強く吹き、霧が僅かに揺らぐと、月の光が彼の顔を夜闇に映し出した。


 その顔は、人間の頭蓋骨そのもので、かつて眼が在ったと思われる空洞には、

 風が吹きぬけている。彼は、スケルトンと呼ばれる、人間の骸骨に魂が宿った存在だ。

 彼には生前の記憶は無く、目的も無いまま、ただ虚ろに徘徊していた。

 そして、それを見守る者も無く、彼はしばらくただ歩き続けていたが、

 ふと、何かに気付いた彼は立ち止まった。


 彼が頭を上げ、前を見ると、一人の少女が立っていた。

 その身に纏った黒いローブは闇に溶け込んでいるが、

 長い金色の髪と、藍色の瞳は暗闇の中、ほのかに光輝いているように見えた。


 彼女はまるで、待っていた、と言わんばかりに目の前に立ちふさがっている

 暗闇より僅かに明るい藍色の瞳が、スケルトンの姿を、

 まるで見定めるかのように真っ直ぐ見つめていた。

 スケルトンが困惑していると、少女は口を開いた。


「よし、貴方、私の従者になりなさい!」


 スケルトンはさらに困惑した。彼が首をかしげると、カタ、

 と骨が擦れる音が鳴った。


「あはは、何首傾げてるのよ。可愛いわね。貴方、野生のスケルトンでしょ?

 私と契約すれば、貴方を最強のスケルトンにしてあげるわ!」


 カチャ、と、スケルトンのあごの骨が僅かに音を立てると、彼が初めて言葉を発した。


「いきなり、何を言っているんだ、君は?俺に言っているのか?」


「なによ、ちゃんと喋れるんじゃない。それなら話が早いわ。私はレーナ。

 凄腕のネクロマンサーよ!ネクロマンサーってのは、まぁ簡単に言えば、

 死者を操る魔術師のことね。私、ある目的の為に仲間を探してるの。

 そしたら、貴方を見つけたって訳。歩き方ですぐスケルトンだってわかったわ。

 だから、従者になって。ね?」


 彼女は少し早口ぎみで捲くし立てるように言った。

 良く喋る子だ。と、スケルトンは思った。彼女はおそらく人の話をよく聞かないタイプだろう。

 スケルトンに生前の記憶が無くとも、それくらいはすぐにわかった。

 どうせ記憶もやるべき事も無いので、従者になるのは嫌という訳ではなかったが、

 スケルトンはとりあえず彼女の目的を聞くことにした。

 彼女は、魂と肉体を自在に操る事ができるという、

 タナトスの書と言う魔本を探しているのだと言う。


「そんなものを手に入れてどうする気だ?まさか悪用するんじゃないだろうな」


「そんなんじゃないわよ。貴方、見た目のわりに真面目なのね?」


「好きでこんな姿になったんじゃない…では何のためにそんなものが必要なんだ」


 彼女は悩んでいる様子だったが、スケルトンの瞳の無い目にじっと見つめられると、

 わざとらしく咳払いした後、腕を組んで大きな声で言った。


「決まってるじゃない!私はそれを手に入れて、最強のネクロマンサーになるのよ!」


 レーナは、胸を張ってふふん、と頷く。その顔はとても満足気だ。

 スケルトンは口を半開きにしたまま固まってしまった。

 本当に彼女に付いて行って大丈夫なのだろうか?

 しかし、他に行く当ても無いので、スケルトンは彼女の従者になることにした……

 レーナは大喜びでスケルトンの手をとった。


「じゃあいい?始めるわよ……」


 彼女が小さく言葉を呟くと、重ねた手が僅かに光った。


「できたわ!これでオッケーよ!」


「随分簡単なんだな?」


 スケルトンは手甲を外し、皮も肉も無い手を見た。

 既に光は消えていた。


「契約だけならすぐに済むのよ。スケルトンを自作する方がよっぽど

 大変なのよね。ま、自分で作ったスケルトンだったら、

 最初から作成者の従者だから、今のは必要ないんだけどね。

 とにかく、貴方を見つけて、ラッキーだったわ」


「ところで、そのタナトスの書だが、探す当てはあるのか?」


「勿論よ!私を誰だと思ってるの?天才ネクロマンサー、レーナ様よ!

 よろしくて?私の情報源は幽霊。彼らはどこにでもいて、

 普通の人間は触られたり、話しかけられても気付かないってだけで、

 魔術師なら見えるし、話すことも触ることもできるのよ。まぁ、そうなると今度は、

 パッと見では幽霊なのか、生きている人間なのかわからなくなっちゃうけどね」


 レーナは得意げに続ける。


「で、私は幽霊たちから情報収集したの。幽霊たちは色んなものを見ているからね。

 色々聞いて回った結果、タナトスの書は

 闇の魔術師ギルドに所属する魔術師が持っているという噂を聞いたわ」


 闇の魔術師ギルドとは、禁呪と呼ばれる、研究や使用が禁じられた、

 闇の魔術を信奉する魔術師たちによる組織である。

 世の表舞台から姿を隠し、その活動はおろか、存在すらも、

 市井の人々や一般の魔術師には明らかになっていないが、

 その存在を知る者達の間では、

 犯罪を犯した魔術師達の隠れ蓑となっているという噂もある。


「待て、そんな危険な場所に往くつもりなのか?」


「当然。場所もわかってるわ。幽霊たちの情報から、

 そのギルドの所属と思われる男を見つけたわ。そいつを監視して、魔力の痕跡を調べたら、

 最後は岩壁の前で痕跡が消えていたのよ。多分そこに隠された入り口があるわ」


「そこに入り口が無かったら?その男がそこで殺されたのかも知れんぞ?

 そもそもどうやって入るのかわからんのではないのか?

 と言うか、まさか我々二人だけで行く気なのか?」


「当たり前じゃない!戦わず、こっそり忍び込んで盗めばいいのよ。

 人数は少ないほうがいいわ。貴方はもしもの時の為の護衛役ね。

 なんかあったらちゃんと守ってよね。というか、

 あんたこそ、行く前からそんなこと考えてどうすんのよ!そんなの、行ってから考えれば

 いいのよ!さっさと行くわよ!」


 スケルトンは呆れたが、もう従者になってしまった以上、仕方が無い。

 渋々だが、付いて行くことにした。


 歩き始めてからしばらくして、レーナは思い出したようにスケルトンに問いかけた。


「ところで貴方、名前はなんていうの?」


 彼は生前の記憶が無く、名前も覚えていないと言った。

 レーナは頷いてこう答えた。


「わかったわ。じゃあ、貴方はこれからガイって呼ぶわ」


「おい、まさかとは思うが、骸骨だからか?」


「よくわかったわね。いいでしょ?」


 彼は呆れ果てたが、代案も無いので、

 野生のスケルトンだった彼は、これからはガイと名乗ることにした。


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