四獣神薬 (ショートショート60)
若者はある女性に恋をしていた。
だが内気な性格なゆえに、ずっと告白できないでいた。
そんなある夜。
若者の前に白いヒゲの老人が現れた。
老人が言う。
「ワシは天界に住まう恋愛の神だ」
「ほんとに?」
「ああ、恋に悩める者を救っておる。今、オマエは恋に悩んでおるであろう」
「はい。ある人が好きで好きで……。でも、告白する勇気がないんです」
「みんな、知っておるぞ。天界からオマエのことを見ておったからな」
「では、ボクの恋を叶えてくれるんですね」
若者は目を輝かせた。
「だからこうして、オマエのもとに現れたのだ」
「でも、どうやって?」
「なに、簡単なことだ。この薬を飲むだけでいい」
神様は袋から、赤白青緑の四種類の丸薬を取り出して見せた。
「これは四獣神薬といって、赤は朱雀、白は白虎、青は青龍、緑は玄武と、四獣神からできておる」
「なんだか珍しそうな薬ですね。恋が叶いそうな気がしてきました」
「だがな、注意することがひとつある。これには飲む順番があって、それをまちがうと効果がないどころか、相手にふられてしまうのだ」
「順番、忘れるといけないんでメモします」
若者はノートとペンを用意した。
「では言うぞ。赤、白、青、緑の順だ」
「赤、白、青、緑ですね」
「そのとおりじゃな」
神様は薬を若者に渡すと姿を消した。
一週間後。
神様が再び若者のもとを訪れると、ひどく落ちこんでいるように見えた。恋はいまだに成就していないようである。
「まだ告白しておらぬのか?」
「いいえ、薬を飲んで告白しました。ですが、彼女にふられてしまったのです」
「薬は順番とおり飲んだのであろうな」
「はい。まちがいなくメモどおりに」
「なら、どうして?」
神様はメモを見て首をかしげた。
メモにある薬の順番がちがう。本当は赤青白緑の順でなければならないのだ。
――また、やっちまったか……。
どうも順番を誤って教えていたようだ。近ごろ、ちょくちょく順番をまちがえている。
――ボケにきく薬がないものかな。
神様はため息をついて、若者のもとからこっそり姿を消したのだった。