自称普通の高校生は過去を知る
「私がプッタ辺境伯領主、ダンカン・プッタだ。娘を助けてくれてありがとう」
壮年の男が俺に向かって頭を下げた。
彼は名乗りの通り、此処プッタの街を治める領主様である。日本で言うところの知事……?普通の高校生は知事に合うことなんて無いから分かんないけど。
「い、いえ、お初にお目にかかります。わ、わたくし日本という国から来ました、や、山田太郎一五歳でございます!」
めっちゃテンパってる俺、ダサい。しかし、ネット小説やラノベの主人公たちはこんな状況でもよく平静を保ってられるな。普通の高校生の俺には無理だ。
前世と今世と共通している事があって、俺は権力に非常に弱いってことだ。
前世なら無礼を働いたら簡単に命を奪われたりするので頭を下げるのは生存戦略にも相当する。
今世で無闇に畏まったりするのは、言いたくないが父親の影響だろうな。
「ふむ、『やまだたろうじゅうごさい』と言うのか、やはり世界が変われば名も変わるのだな」
うんうんと変な納得をしている父親に娘が修正を入れてくれる。
「いえ、お父様、この方は、やまだ たろう様でお歳が十五歳だといっておられるのです」
「おぉ、そうか私の早とちりか!」
「もぅ、お父様ったら」
「「はははっ」」
え?なに?このクソつまんねぇコント。俺、もう帰っていいですか?
「さてと……」
領主ダンカンの一声で謁見の間の空気が変わった。流石に領主。俺も身体を強張らせて次の言葉を待つ。
「娘を助けて貰った礼をしなくてはならない。何か望むことがあるのなら何でも遠慮せずに申してみるが良い」
さて、薄々こんな流れになることは予想はしていたが結局結論が出ないままだったので、どうしようかともう少し思案する。
「お父様、ここはタロウ様の功績を称えるべく私がタロウ様の妻になるのが良いかと!」
うぉい!いきなり何ぶっこんでくれてんの?アイリスちゃん!
いきなりのアイリスちゃんの横やりに固まった俺を無視して話が進み始める。
「うむ。将来有望な転移者を我が領に留める為にも有効だの」
しかも、父親まで否定しないってどういうことよ!
「これは第二のキース様となるかも知れんな」
ん?キース様って誰?
「あ、あのすいません、今、名前の上がったキース様ってのはどなたのことですか?」
小さく挙手しながら訪ねてみる。この時ほど聴かなきゃよかったと未来の俺が後悔するとは毛ほども思わなかった。
この世界、おおよそ千年に一度、魔物の大量発生が起こる。
魔物の大量発生が起こる度に、人々は壊滅的な被害を受ける。
長く続く人々の歴史がなかなか発展しないのは魔物の大量発生が原因だとも言われている。
そんな千年前に起こった魔物の大量発生で大活躍した英雄が居た。
彼は此処プッタ辺境伯領の開拓村出身の人物で天才的な狩りの腕と薬師の知識、魔法の才能にあふれる有望な存在であった。
そんな彼の献身的な活躍で、通常魔物の大量発生で受ける損害を大幅に減らしたらしい。
そんな彼の最後は当時のプッタの領主の命を助け、身代わりとなって死んだそうだ。
あ、あぁ、あの爺さん領主様だったんだ……とか現実逃避してもしょうがない。
なに?それ?英雄とかメッチャ恥ずかしいんですけど?
穴があったら入りたいよ……穴がないなら掘ってやりたいよ……
「私は、この英雄キースは実は転移者だったんでは無いかと思っているんだ」
領主様はドヤ顔でそんな事を言い放った。
うん。それ絶対に違うから。