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雲一つない青空。舞台は中学3年男子100m決勝。
地区予選から緊張とプレッシャーで震える手をスタートラインに並べ、合図を待つ。
…セット
号砲。覚えていたのは、前。
を示す。無駄に力の入った筋肉では、最高の走りは出来ないのだ。
言うが易く行うが難しとはまさにこのこと。勝ちたいと願うのに力を抜くのはできる方がおかしいでしょ。
「本当ですか!?けっこうリラックスしていたつもりだ
緊張で忘れていたなんて知られたら、また笑われる。
「嘘つくな。選手紹介でお前だけ手挙げなかったぞ。目立ちたがりのお前が忘れるなんてありえない。よっぽど緊張していたんだな」
…この教師は生徒の心を折るだけでは満足せず、粉々にすりつぶしてなにかの肥料にするのが趣味のようだ。枯れた木にふりまくと花が咲くとか?それならまあ許さないでもないが。
そんな想像をしている間に会話は進んでいた。いかん。全く聞いていなかった。
「…で4位がお前だ。タイムは可もなく不可もなくってところかな。とにかく、お疲れさんっ」
どうやら結果報告だったようだ。なら聞かなくても自分で確認できるからいいか。
そんな事を考えながら、ダウンをするためサブトラックに向かった。
家に帰ったら、撮ってもらったビデオを見た。うん。ひどい。これは誰が見ても力が入りすぎているのが分かる。
大きく息を吐いてから、脱衣所へ足を運んだ。
もっとこう…かっこよく走っていたつもりだったのになー。
お風呂で目を閉じ、試合の理想を想像した。
腕を大きく振り、手は指先まで伸ばした綺麗なフォームで走る自分は、大会新記録で優勝していた。
あっ、優勝争いをしていて最後に胸をつきだし、僅差で勝つってのもいいなぁー。
パジャマに着替えてもまだ心の中のレースは続いていた。
こんな風にイメトレ(イメージトレーニング)にふけるのは毎日のことだ。なんでかって?自分に酔いたいのさ。
一通りの優勝パターンを想像。いや、妄想し、満足して眠りに落ちるのだった。
翌日。学校では表彰式があった。他人の晴れ舞台など興味はない。時間を有意義に使うべく、イメトレをはじめた。
ゴールしたのは4着。あれ?おかしいな。なんだかうまく想像できない。
頭には、昨日のみっともない走りが染み付いて離れない。これじゃ何にも面白くないな。
仕方がないので他の種目のイメージトレーニングをする事にした。
ぱっと思いついたのが400mだった。この競技はとても過酷で、ラスト100mは誰もが苦しみ、もがいてゴールする。
もちろん俺はラストスパートで強敵たちを抜き去り、ダントツでゴールした。ゴールするイメトレをした。
予想以上に気持ちいい。えっ?この展開かっこよすぎじゃね?
100mにあまり良いイメージが無くなっていた今、この妄想はとても輝いてみえた。
…一回やってみようかな。何事も挑戦だ!
走ってみるとすごいタイムがでるかも、と。
淡い期待をこめて決意した。