前哨戦3
「魚の名前、釣った人間、どの辺で釣れたか、ですね。暗号みたいなもので、勉強しないとわかりません。地域独特の言い回しもありますし。周りの人は指で数と金額を交渉して、一番条件のいい人が競り落とします」
実際の競りを見るのは初めてなのか、フィンも食い入るように見ている。小太りの漁師の口調と、周りの男達の指を真似て感心したように頷く。
ミサとアリサは手持ち無沙汰なこともあって、周りを散策し荷積みを見ながらその量の多さに驚いていた。
しばらくして一際大きな拍手が起こり、小太りの漁師は頭を下げた。額には大粒の汗、顔には満足そうな笑みを浮かべている。会場の奥には小さな天幕があり、端をめくって中に入っていった。
「終わったみたいですね。行きましょう」
フィンが漁師の入った天幕に続いて入ろうとすると、中から今日の取引に感謝する祈りの声が聞こえてきた。お世辞にも上品ではなく、かすれて潰れた声の祈りだったが、感謝の念はひしひしと伝わってくる。アリサたちは足を止めて祈りが終わるまで表で待っていた。
「誰でぇ? 邪魔せんかったんはええが、盗み聞きはええ趣味やないのぉ」
祈りが終わったとたん、一喝が飛んできた。もし天幕に入っていたなら問答無用で叩き出していた、漁師の雰囲気はそう伝えていた。
「フィンと言います」
「あぁ、使い寄越してきた学士様かい。入りや」
フィンに続いてアリサとミサも中に入る。ごちゃごちゃとした天幕は全員が入ると肩が当たるほど狭く、汗の臭いとも魚の匂いともわからないが何か生臭い。思わずフィンは息を止め、アリサは咳き込み、ミサはハンカチで鼻を押さえ呟いた。
「何とも言えんな、この臭いは」
そんな三人を見て漁師は笑い、火種を取りだし桶に放り込む。火花が散りすぐに消えて、かわりに甘い匂いが天幕を包む。
「上品な育ちの人には、耐えられんかな。これならどうや。大陸のアムという香や」
三人の驚いた様子を見て満足そうに頷いた。
「少々値は張るが、まぁ学士様のためなら、ええやろ。そのフード被っとる人が学士様かい。顔ぐらい見せえや」
本人は丁寧に喋っているつもりなのだろうが、言葉は荒く訛りが強い。怪訝そうにフードを被ったアリサを指差す。
「この人は違う」
ミサがアリサの前に出て遮った。
フードをとろうか考えていたアリサはとりあえず手を止める。
「あんたは騎士様かい。女の騎士様とは珍しい。それに美人やな」
褒められたものの、ミサはあまりいい気分ではなかった。称賛したというより値踏みした、といった感じだったからだ。
「ほな、学士様はまだ外かい。入りや」
外に向かって大きな声をかけた。
返事がないのを訝しく感じたらしい。漁師は外を見ようと座を立った。
「あの‥‥‥フィンは僕です」
なんだか申し訳なさそうにフィンが名乗り出る。漁師はまじまじとフィンを見て、
「なんの冗談や?」
と言った。




