前哨戦2
「あれ? こんなやり方があるなら、昨日の女装って」
狭いベルの路地を歩いているとき、ふと立ち止まってフィンが質問した。
てっきり今日も女装させられるものだと思っていたから、徹底抗戦の予定だったのだが、一向にその気配はないまま、今に至る。
「フィン、それはね。私が異種の花を愛でることを、初めて知ったからだよ」
ミサは答えながらなんの問題もない、といった様子で速度を変えず歩いていく。
「すぐにわかると思うから、ミサのことは」
アリサもあまり気にしない様子で、ただ少し気の毒そうにフィンの横を通り過ぎた。
ベルの路地は石畳だ。
都市部が発展し、人の数が増えて次第に街が大きくなっていくにつれて、次々と舗装されていった。
建物以外の場所はほとんど舗装がされており、土を見るのは庭先など一部だった。
なだらかに続く石畳の坂道を登っていくと、その先にアーケードのついた段差のついたメリル橋に行き当たる。
メリル橋は中型船が通れる程度の高さを持っており、その下を通って市場に出される海産物が運ばれていた。
三人はメリル橋を越えて街の突き当たりまでいき、市場の入り口で立ち止まった。
「ここからは市場ですので、人が多くなります。二人とも離れないように」
すでに入り口付近から混雑が始まっており、中に進むのも一苦労のようだった。だが、そこかしこに並べられた篝火で、周囲は照らされ歩くのに不便はない。
水の匂いと海産物の匂いが混じって、独特な匂いがする。
並べられた多種の魚を見て、アリサは興奮した。
「わぁ、魚ってこんな姿なんだ。料理されたのしか見たことないから、わくわくしちゃう。うわっ、なにあの魚ちょっと気持ち悪い。あ、こっちのは可愛いのね」
ふらふらと歩くアリサをミサが捕まえて、無理矢理真っ直ぐ歩かせる。フィンは何か探しているようで、しきりに漁師に話しかけていた。
「競りをやってるのはもっと奥みたいです。ついてきてください」
言うとフィンはさらに奥へと歩き出した。
この付近に置かれている魚はすでに競りが終わっていた。ここは一般の客層が、日の上ったころ買いに来るスペースだった。
魚の流通は『漁師が釣る』『漁協が買い取る』『卸が競る』『小売りが買う』『一般層が買う』の順番になっている。
競りに参加するには卸業者として登録が必要で、小売りや一般層は参加できない仕組みだ。
またこの順番は不可侵とされ、漁協や卸が一般層に販売することは禁止されていた。
中心部で潮焼けした小太りの漁師が叫んでいた。
箱に入った大量の魚を手元に置き、その中から一匹を掴み上げ、周囲に見せていた。
その男を半円状に囲み、一癖も二癖もありそうな男達が頻繁に指で合図を送っている。
そして商談がまとまったのか、漁師がそのうちの一人を指差し、周りから拍手がおきると、また別の魚で同じことを始める。
漁師が叫んでいる言葉はアリサにはわからなかった。
「あれ、なに言ってるの?」
首をかしげてアリサはフィンに聞いた。




