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風をよぶ君  作者: 東雲 滉那
宮廷の花びら
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 狭良は息を吐いた。この神殿はなぜこうも寒いのだろうか。温暖な白澪では考えられない。狭良は大和人が言うような『冬』や、天から降り注ぐ冷たい綿も見たことがなかった。寒さにも弱い。この地は夜も涼しい風が吹き抜けるのみで住みやすい…この神殿を除けば。

 先輩巫女には、他では見られないこの凍るような寒さは国神が吐き出した息なのだと教えられた。だから、国神が降臨なさる夜に毎夜お祈りするのだ、とも。


 それは『瑠賜』と呼ばれる。(ぼく)で占われ、その日の夜に祈りを捧げる巫女が決められる。言葉には出さないが、巫女たちは皆、瑠賜が嫌いだった。一夜中起きていなければならず、寝ることもできない。眠れば凍死することがわかっているのだ。


 祭壇の奥には寝具が設けられていると教官が言っていた。天からお越しいただいた国神様を巫女が癒やすためだと聞いた。それも胡散臭い。反逆罪に問われるため、容易には口にできないが、狭良は昔から思っていた。その寝具を使ったのは、太祖の母君で、国神と契ったと伝わる白蘭子だけなのではないか。その証拠に、国神の姿を見た者を聞いたことがないのだ。文献にも残っていない。


 いるかいないかもわからない国神のために祈りを捧げるなど、愚行でしかないと思う。その瑠賜に、狭良はこの一週間連続して当たっていた。運がないとしか言いようがない。


 狭良はため息をついた。


「寒い…」


 そう言うことで、余計に寒く感じてしまったことに、言ってしまってから気がつく。


「国神様なんていらっしゃるわけないじゃないの」

「へぇ…」


 あるはずのない囁きがどこからか響いた。


「国神を祀る神殿の巫女が、そんな不謹慎なことを言っていいのか」


 狭良は目を見開き、辺りを見回した。しかし、誰の姿も見えない。


「…誰なの」


 微かに語尾が震え、狭良は素早く自らの喉に手を押し当てた。このような場所に人がいるはずないのだ。今は壱ノ刻を過ぎたばかりだろう。皆、寝ているはずだ。


 "それ"は暫く返事を返さなかった。まるでなにかを思案しているかのようだった。その間、狭良は上がった動悸を整えた。漸く落ち着きを取り戻したと感じた途端、くつくつといったかみ殺したような笑いが響く。滑らかな白壁に反射して、低い笑い声が狭良を取り巻いた。


「私は…澪蕭神だ」


 一瞬、思考が停止した。


「は…? れい、しょう…しんって国神様の御名前じゃない。…あなた、嘘を吐いているわね。実は盗人なのでしょう?」


 以前にもいたのだ。神の名をかたり、供物を盗もうとした輩が。


「盗人などではないぞ」と不機嫌な声が聞こえた。

「証拠もある」

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