一
子穂はその報告を聞き、思わず椅子から立ち上がった。そしてまた椅子に崩れ落ち、微動だにしなかった。
「我らが駆けつけた時、既に離宮は焼け落ちておりました。焼死体は一名。ご遺体の御場所と、我が君がお与えになった宝石を身に着けていたことにより、参ノ妾の巫女姫と見うけられます」
━━狭良が死んだ。
「医術師が検死した結果、ご遺体から世にも稀な猛毒が多量に検出されたとのことでした」
━━毒…
子穂は顔を上げた。その時の顔を、誰が忘れられよう。今まで見られた笑顔が消え、顔は蒼白で、眼には冷酷な王のそれが宿っていた。
「今すぐに毒が何処から来たのかを探れ。首謀者を絶対に逃すな。見つけ次第、ひっ連れてこい。私が処する」
「父上」と扉の側から声がした。「狭良様に毒を盛った者の私は知っています」
「…子孝」
皇族の誰にも似ていない非業さを持つ少年。
「母上が毒を盛りました。今回の毒は私もわかりませんが、前々から毒を離宮に送りつけていたことは知っておりました。狭良様には内密にお知らせ申し上げたこともございます」
「狭良様はどう返した?」
「大事ない、と」そこで子孝は言葉を切り、息を整えた。「私が『国を統べる者』でないことは、子珞を初めて見た時からわかっていました。このままだと、子珞は母が雇った霧[殺し屋]に殺される。霧[殺し屋]は雇い主が死ねば、契約破棄になるそうです。父上、━━母上に国母を殺した罪に値する刑を」
子穂は渇いた口腔を潤そうと唾を飲み込もうとした。しかし、口の中は渇ききっていた。
「証拠は…?」
「母上の行動はすべて紙にまとめてあります。狭良様のお返事も一緒に挟んであります。…こちらです」
袂に入れられていた五冊の手帖を手渡される。びっしりと書き連ねられた母の行動。子穂は自分の息子ながら背筋が凍った。
母が言った言葉、不審な行動、侍女らの噂等々。
「父上の許しを得てから、母上と絶縁しようと思います」
彼は眉一つ動かさなかった。だが、その瞳には誰にも侵せない強い光があった。




